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「読書ノート」を活用した学生へのフィードバック:西口智美先生(武庫川女子大学)

武庫川女子大学の西口先生は、「読書ノート」というものを受講生に義務付けています。読書ノートに対するフィードバックを丁寧にすることで、学生は「先生がしっかり見てくれた」という安心感を得ているようです。

 皆さん、こんにちは、西口智美と申します。
 世界で未知のコロナウイルス感染が発覚してから、これまで当たり前だった生活や日常は大きく変化しました。大学の教育現場も、学生達が学ぶ機会を確保できるよう、オンライン教育とデジタル変革への対応に日々模索しながら、教員と学生が一緒になって乗り切ってきました。教え方や学び方が大きく変化した今、デジタル教科書の導入も新しい時代に合った教育革新の一つだと思います。
 私は武庫川女子大学経営学部の1年生を対象に行うオンライン講義でのデジタル教科書の活用事例について、お話したいと思います。

オンライン講義におけるデジタル教科書の位置づけ

 まず、オンライン講義の全体設計から、デジタル教科書の位置づけを考えました。私はデジタル教科書を、オンライン講義を受けるための事前予習、テスト復習とレポート作成のための参照物と定義しました。第1回目の講義ガイダンスでは、オンライン講義における予習の大切さを学生達に説明しました。

 毎回の出席課題として、デジタル教科書の章毎を熟読した読書ノートを講義開始日までにクラスルームに提出することを指示しました。そして、理論や概念への理解度を測定するオンライン小テストも受けるときも、デジタル教科書を見ることを許可しました。さらに、最終レポートの課題もデジタル教科書の事例スタイルを参考に作成するように指導しました。デジタル教科書とオンライン講義を緊密的にリンクしながら、今の時代に相応しい教え方と学び方を模索してきました。

デジタル教科書を活用したオンライン講義の進め方

 次に、オンライン講義とデジタル教科書の関係性について、ご紹介します。私は講義を始める前に、学生達がデジタル教科書の事前予習から要約した読書ノートをチェックし、学生達が興味を示した内容と理解が曖昧な部分をしっかり把握した上、講義時にその部分を重点的に解説するように心掛けました。そして、デジタル教科書の各章の最後の【考えてみよう】の練習問題も事前に学生達に読書ノートで解答してもらい、その解答から、概念への理解度をチェックしました。

優秀読書ノートへのフィードバック

 さらに、90分講義における時間配分も模索しました。60分ほど理論概念や事例などの要点解説に使い、残りの30分を学生達が提出した読書ノートのフィードバックを行いました。フィードバックの時間では、事前にピックアップした優秀読書ノートを履修生全員に見せながら、選ばれた優秀読書ノートのどこが良かったのかを具体的に評価しました。
 一方で、明らかに問題がある読書ノートについて、当該学生の名前を出さずに、問題点だけ取り上げ、なぜそこが問題なのか、どう改善してほしいかもフィードバックしました。驚いたのは、4回以上繰り返し評価すると、書き方や纏め方などに問題があった読書ノートがなくなったことです。オンラインで顔が見えない中、学生達の日々の成長と変化に気づき、嬉しかったです。
 良い例と悪い例を繰り返しながらフィードバックすることによって、全履修生の要点をつかみ、まとめる力が付いてきました。デジタル教科書の【考えてみよう】の練習問題でも、学生自身が関心を持つ企業の商品やサービスの事例から、マーケティングの概念を解釈できるようになりました。この点は教員の私にとって、大変興味深い新発見でした。18歳の今時の女子大生が興味を持つ企業のマーケティング活動をはじめ、未来の消費の主役である彼女達の価値観や好み、広告の受け止め方などを新たに知る機会になり、今後の企業マーケティング活動のあり方について考える上で大きな参考になりました。

「考えてみよう」へのフィードバック

2年間模索した感想


 新型コロナの蔓延によって、一気にオンラインと電子化に切り替えた大学講義について、教員の私にとっても不慣れと不安が大きかったのです。初年度は機材やソフトなどを使えるように猛勉強し、使用途中の音声と通信トラブルに対応することで、いつも緊張しながら講義を進めてきました。オンライン講義の設計とデジタル教科書の応用も学生達の反応を見ながら、従来の講義より多く模索する時間を使いました。しかし、2年目になると、機材やトラブルなどの対応にも慣れ、オンライン講義とデジタル教科書の導入の良さをたくさん見つけました。

 大学の教室で行う対面90分講義をオンライン上では、60分と30分の内容配分に変えることが効果的だと感じました。学生達にとって、電子機器から先生の話を90分聞くのではなく、自分が予習し考えた内容について、同級生達は自宅でどのように予習し、どう考えているかを知る時間になりました。また、先生がしっかり見てくれたという安心感も得ていました。大学に行けず、自宅に閉じこもったオンライン学習の寂しさと不安が緩和され、学ぶ意欲が高まりました。
 紙教科書をデジタル教科書に切り替えることで、学生達は端末一つで複数の科目の教科書をチェックできて、いつでもどこでも隙間の時間を活用しながら勉強でき、デジタル教科書への満足度も高いです。今の若者は私たち教員以上に電子化に慣れた世代で、素早く、効率的にデジタル教科書を使いこなしています。もちろん、慣れない、目が疲れるなどの理由で、紙教科書のほうが良いと感じる学生もいますが、従来の紙教科書とデジタル教科書の2つの選択肢を用意することも大切だと考えます。電子と紙、オンラインと対面の共存が今後の大学教育の新しいあり方だと感じています。その共存の理想スタイルについて、今後も探索し続けたいと思います。





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