時代劇レヴュー㊿:「赤穂浪士」あれこれ

大佛次郎の代表的長編にして忠臣蔵文学の金字塔と言うべき『赤穂浪士』は、歴代最高視聴率を叩き出した大河ドラマの第二作「赤穂浪士」(1964年)を始め、過去に数え切れないほど映像化されている。

その中で、私自身が実際に見たことのある映画二作品と、テレビドラマ一作品をまとめて紹介したい。

まず映画二作品の方であるが、どちらも東映がオールスターキャストで製作した映画で、1956年に公開された「赤穂浪士 天の巻・地の巻」と、1961年に公開された「赤穂浪士」の二本であり、監督はともに松田定次である(なお、東映はこの間の時期である1959年に片岡千恵蔵主演で「忠臣蔵 桜花の巻・菊花の巻」と言う作品も製作している)。

前者の大石内蔵助は市川右太衛門、後者は片岡千恵蔵が演じており(片岡千恵蔵は前者では立花左近=垣見五郎兵衛役、市川右太衛門は後者では上杉家の家老・千坂兵部役で出演している。なお、後者では千坂は大石とは軍学の同門で旧知の間柄と言う設定になっている)、吉良上野介役はともに月形龍之介である。

どちらの作品も大佛次郎の小説を原作としているため、堀田隼人を始めとして大佛が創作した人物も登場するが、両作品のストーリー展開やクローズアップされる人物には若干の差があり、後者では特に千坂兵部と脇坂淡路守に目立った見せ場がある。

個人的に両作におけるキャスティングの違いが際立ったのが浅野内匠頭で、前者で内匠頭を演じているのが東千代之介、後者は大川橋蔵で、どちらも二枚目スターなのであるが、役者本人のキャラクタのせいか、橋蔵はどうも軽薄さが前面に出てしまって、単に堪え性のない殿様に見えてしまい、うまく感情移入が出来ず、千代之介の方が凛々しい青年藩主の雰囲気が出ていて比べるとこちらの方が好きである(千代之介は後者では堀部安兵衛役を演じている)。

おそらく、橋蔵の印象が悪いのは、松の廊下事件の直前に友人設定の脇坂淡路守と絡むシーンがあり、脇坂がかなり人品の優れたキャラクタに描かれているのでそのせいで損をしている部分もあるだろう。

ちなみに、脇坂役は当時中村錦之助の萬屋錦之介で、錦之介はおよそ三十年後の1994年にTBSで放送された「大忠臣蔵」(「時代劇レヴュー㊾」参照)でも同じ役を演じ、やはり同じようなキャラクタであるため、あるいはオールドファンにはうれしいキャスティングだったのだろうか(私自身はもちろん、1994年版を先に見たのであるが)。


東映は、この1961年の「赤穂浪士」以降、しばらく忠臣蔵を題材にした映画は作らず、次に製作した忠臣蔵映画は1978年の「赤穂城断絶」で、こちらでは萬屋錦之介が大石内蔵助役を演じた。

「柳生一族の陰謀」のヒットを受けて、同じ深作欣二を監督に据えての第二弾的作品として作られたが、こちらはさほどヒットはせず、物語の解釈もどちらかと言えばオーソドックスなものである(強いて言えば、討入りを内蔵助自身が「公儀への反逆」と強調している点や、脱落浪士として橋本平左衛門がクローズアップされていることくらいであろうか)。

西郷輝彦演じる浅野内匠頭が非常に魅力的であるが、この作品は松の廊下事件から物語が始まるため、西郷輝彦は序盤の数シーンにしか登場しないのが惜しい所である。


話がそれたので、「赤穂浪士」に戻すが、おそらく2020年4月現在最も新しい『赤穂浪士』の映像化作品が、テレビ東京が1999年の1月2日に放送した「赤穂浪士」であろう。

この作品は、テレビ東京がかつて正月に放送していた長編時代劇「12時間超ワイドドラマ」の第十九作(オリジナル作品としては十七作目)として放送されたもので、大石内蔵助役の松方弘樹以下、正月に相応しい豪華なキャストが顔を揃えており、従来の『赤穂浪士』の映像化と同様、千坂兵部が内蔵助のライヴァル的存在として重要な役回りを演じている(千坂兵部役は里見浩太朗)。

ただ、このテレ東版「赤穂浪士」は、12時間と言う長い時間を割いている割には、これと行った見どころも目新しい設定もなく、同シリーズの他の「忠臣蔵」作品に比べると見劣りがし、良くも悪くも印象が薄い作品である。

高田宏治の脚本も元の物語や、浪士達のキャラクタや設定を変にいじってしまっていて(例えば、江戸詰であるはずの堀部安兵衛や原惣右衛門が、刃傷事件の際には国元にいる設定になっている)、その辺もどうも印象が悪い。

後、この作品で吉良上野介を演じているのが田村高廣なのであるが、普段善人役をやることの多い田村のイメージや、作中で今ひとつ吉良の存在感がないこともあって、歴代で一番憎たらしくない吉良であった(笑)。


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