時代劇レヴュー㊸:武田信玄(1991年)

タイトル:武田信玄

放送時期:1991年1月1日

放送局など:TBS

主演(役名):武田信玄(役所広司)

脚本:高田宏治


TBSがかつて元日に五時間一挙放送していた新春大型時代劇の第五弾で、タイトルの通り甲斐の戦国大名・武田信玄の生涯を描いた作品である。

信玄の初陣とされる海ノ口城の戦いから始まり、三方ヶ原の戦い後の信玄の死までを描いている(ただし信玄の死を表現する直接的な描写はない)。

このシリーズの作品を取り上げる度に指摘しているが、本作も例外ではなく史実と異なる設定・展開が目立つ。

思いつくままに例を挙げれば、「戸石崩れ」と「上田原の合戦」がまとめられており(戸石崩れで板垣信方が戦死)、村上義清は戸石城で真田幸隆に討たれ、また第四次川中島の戦いの直前に義信事件が起こり、義信はその後で川中島で戦死している(後、しれっと内藤昌秀が川中島で戦死したことになっている)。

他にも、三条夫人が三方ヶ原の戦いの段階で存命であったり、諏訪御前が頼重の娘ではなく妹と言う設定だったり、高坂(香坂)弾正が登場時から「高坂」を称していたり。

後は、信虎追放のくだりも通説とは違う展開になっていて、信玄廃嫡を決めた信虎に対し、信玄は反乱を試みるも、家臣の大半が信虎を見限って信玄側についてしまったために信虎は自発的に駿河に亡命すると言う筋立てになっている。

しかしそれ以上に個人的に気になったのが、この作品の持つ「雑さ」である。

何と言うか、文章ではうまく説明出来ないのであるが、史実と違うとかそう言う次元ではなく、とにかく物語が全体的に雑な印象であった(本作はVHS・DVDともにリリースされているので、このあたりのニュアンスは実際に見ればわかってもらえると思う)。

ただ、配役は意外と良く、役所広司の信玄はカリスマ性あふれるキャラクタで、個人的には中井貴一の信玄よりも好きである。

ライヴァルである上杉謙信は佐藤浩市が演じているが、従来の「義将」のイメージは残しつつも、精悍さと強かさを備えていて、こちらも存在感のある謙信であったように思う。

もっとも、このふたりが川中島で『甲陽軍鑑』の描写を大きく逸脱するだいぶ派手なチャンバラをやってしまうあたりは、いささかやり過ぎな気がするが(笑)。

今一人、と言うかキャラクタとして一番はまっていたのは、山本勘助役の火野正平で、従来の「軍師」と新田次郎の『武田信玄』での設定である今川義元の間者をミックスしたようなキャラクタに描かれていた。

主要キャストの配役は割と良かっただけに、返す返すも雑な作りが惜しまれる。


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