時代劇レヴュー②:大忠臣蔵(1989年)

タイトル:大忠臣蔵

放送時期:1989年1月2日

放送局など:テレビ東京

主演(役名):九代目松本幸四郎=現・二代目松本白鸚(大石内蔵助)

原作:森村誠一

脚本:保利吉紀、吉田剛、田上雄


現在は打ち切りになってしまったが、かつて正月の風物詩と言うべき「12時間超ワイドドラマ」と言う長時間時代劇を、テレビ東京は毎年正月の二日に放送していた。

半日間ぶっ通しで時代劇を流す、規模としてはワンクールのドラマを一気に一日で放送するくらいの長さであるから、始まった当初は各局の度肝を抜く企画だったとか。

後に時代劇の斜陽にともない、十二時間が十時間になり、タイトルも「新春ワイド時代劇」となり、それもまた七時間になり、五時間になり、とうとう三時間にまで縮小した末に三年くらい前に姿を消した。

今回紹介する「大忠臣蔵」は、シリーズオリジナル作品としては第九作目にあたり、まだまだ同シリーズが元気だった頃と言うか、ちょうど絶頂期を迎えた頃に作られた印象がある。

テレ東としても(たぶん)自社で初めて作るオリジナルの忠臣蔵なので、力もだいぶ入っていて、そう言うのも見ていて伝わってくる作品である。

そう言う気合が入ったせいか、同シリーズで初めて作った忠臣蔵にしては、どちらかと言えばオーソドックスな路線からはずれて独自色が強い(ちなみに、同シリーズでは都合五回「忠臣蔵」ものを製作しているが、オーソドックスな忠臣蔵と言うのは意外にも最後まで作られなかった。強いて言えば、2003年の「忠臣蔵・決断の時」がオーソドックスであるが、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の要素を色濃く反映させていると言う点ではある意味独自色が強い作品である)。

もっとも、一頃流行ったような変化球的な、謀略やら陰謀やら、そう言う「ケレン味」のある作品ではなく、あくまでベースは一般的な忠臣蔵物語であって、そこに長時間ならではのエッセンスを加味してあり、作り方としては非情にうまく、また全編にわたって見る側を飽きさせない、よく練られた作品と言う印象が強い。

最大の特徴としては、これは森村誠一の原作(どうでも良いかも知れないが、推理小説で有名な森村誠一が最初に手がけた時代小説がこのドラマの原作である『忠臣蔵』であった)に見られる特徴でもあるのだが、吉良側・上杉側の視点も多く盛り込まれており、単純に吉良を悪玉と描くのではなく、吉良家や上杉家の「忠義」もしっかりと描いている点が挙げられる。

この点が、物語の人間描写に厚みを持たせており、上杉家の家臣でありながら内蔵助の人柄に魅せられる山吉新八郎や、内蔵助の前に立ちはだかる強敵として存在感を放つ上杉家の江戸家老・色部又四郎など、「敵方」に魅力的な人物も多い。

芦田伸介演じる吉良上野介が最後まで高家の矜持を保っていて、見苦しく振る舞うことなく四十七士の前で自刃すると言う描写も、忠臣蔵の作品の中ではかなり珍しい(と言うか、管見の限りこの作品くらいか)。

それと、これまた森村誠一の原作がそうなのであるが、志半ばで脱落していった浪士達のドラマが物語の中でかなり重要な部分をしめており、時として過剰なほどにリリカルに描かれている(史実に反して脱盟した浪士は皆非業の死を遂げる)のも本作の大きな特徴である。

萱野三平から始まって高田郡兵衛、毛利小平太、特にこの三人にはある意味主役級の見せ場が与えられており、これだけ脱盟浪士の物語に力が入っている忠臣蔵もこれまた珍しい。

もう一つ、討入り後の切腹までのエピソードに時間をかけている点も特徴として挙げられる。

多くの忠臣蔵のドラマは、討入りが事実上のラストシーンで、その後は簡単に浪士達の処分を語ると言う展開になるが、浪士達の処分に至るまでの過程を重視した点も、あまり他に例を見ない(これは、物語の中で赤穂浪士の討入りを単なる仇討ではなく、不公平な裁きをした幕府への挑戦と言うように描いているせいもあるが、これについてはこの「大忠臣蔵」が元祖というわけではなく、例えば「時代劇レヴュー①」で紹介した日テレ「忠臣蔵」もこの解釈である)。

実はこの「大忠臣蔵」をよく出来た作品と思うのは、こうしたオリジナリティの部分をうまいこと既存の物語の中に落とし込んでいる所である。

先ほども書いたように、基本的に大筋はオーソドックスな忠臣蔵物語であり、例えば増上寺の畳張替えや、垣見五郎兵衛との鉢合わせなど、定番ではあるが史実ではないエピソードも一通り描かれている。

単発のドラマとしての忠臣蔵は、四、五時間、長くても六時間くらいの作品が平均的であるが、本作はそれよりも倍ほどの十二時間である。

この通常の忠臣蔵よりも長くなっている時間をどう使うか、と言うのがミソであって、普通なら六時間で済むエピソードを単にそのまま引き伸ばしただけでは、見る側はどうして飽きが来てしまう。

この作品では、その「余った時間」に普段の忠臣蔵では見られない、吉良側の視点とか脱落浪士の話とかをうまく足すことで、長時間でありながら中だるみのないクオリティの高さを最後まで維持することに成功していると言えよう。

この点が私が「うまい」と感じる所である。

以下、キャストについて。

主演の松本幸四郎(現・二代目松本白鸚)は流石の存在感で、赤穂の田舎家老にしては若干都会的な雰囲気が強過ぎる感じもするが、最後まで立派な内蔵助を好演していた。

この作品は松竹が全面的に絡んでおり(確かテレ東開局二十五周年と同時に、松竹何周年か記念企画でもあったような)、歌舞伎俳優の出演がやたら多い。

大石主税は市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)で、実の親子で親子役と言うのも面白い。

他にも、上杉綱憲が中村橋之助(現・八代目中村芝翫)、垣見五郎兵衛が片岡孝夫(現・十五代目片岡仁左衛門)、萱野三平が坂東八十助(先年物故した十代目坂東三津五郎)、土屋主税が中村智太郎(現・四代目中村鴈治郎)、そして松平綱豊(後の六代将軍家宣)が幸四郎の実弟である中村吉右衛門などなど。

配役の特徴としては、(これはどこかのサイトでも指摘されていたが)他の忠臣蔵作品に比べるとどこかちぐはぐな感じがある。

決して悪くはないのだけれど、重要なキャストを当てているのは概して吉良側や上杉側の人物、あるいは脱落した浪士であって、四十七士役は大半が(言葉は悪いが)テレビではさほど知名度のない役者ばかりである。

この点、四十七士にはオールスターキャストを当てる忠臣蔵を見慣れていると、何となく不思議な感じがしなくもない。

先に「ちぐはぐ」と書いたが、それでも忠臣蔵らしい配役の豪華さで、後にこのシリーズでは配役クレジットで「トメ」の常連となる村上弘明(山吉新八郎役)や宅麻伸(小林平八郎役)が中トメですらない位置にいるのは、そのことを如実に物語っていると言えよう(宅麻伸はともかく、村上弘明はこの翌年に同シリーズで放送された「宮本武蔵」ではトメ扱い)。

本作品の配役の中では、個人的には色部又四郎役の高橋悦史が特に好きで、また城達也のナレーションも聞き取りやすくて非情に良い。

後、別にミスキャストと言うほどではないのだが、浅野内匠頭が近藤正臣と言うのは、ちょっと薹が立っている感がある(近藤正臣は実年齢では松本幸四郎と同年)。

と、あれこれ書いて来たが、数あるテレビドラマの忠臣蔵の中でも秀作の一つであることは間違いないだろう。

なお、この作品は2019年現在ソフト化はVHSのみであり、比較的気軽な視聴が難しい作品であるが、時々BSやスカパー、あるいはテレ東から権利を買った地方局などで再放送されることもある。

ただし、その場合の多くはオリジナルサイズではなく、一回あたりが一時間の枠で収まるように十三分割編集されたものでカットされた部分もあり、オリジナルを見るならばやはりVHS版が一番良いと思う。

ちなみに、本作品は昭和六十四年に放送された数少ない時代劇の一つである。


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