時代劇レヴュー㊴:毛利元就(1997年)
タイトル:毛利元就
放送時期:1997年1月~12月(全五十回)
放送局など:NHK
主演(役名):三代目中村橋之助=現・八代目中村芝翫(毛利元就)
原作:永井路子
脚本:内館牧子
唐突な書き出しであるが、時代劇や大河ドラマに代表されるような歴史ドラマと言うのは一つの独立したジャンルであって、男女の恋愛が主たるテーマであっても、医者が主人公であっても、恋愛ドラマや医療ドラマの一形態ではないと私は常々思っている。
とは言え、視聴者と言うのは様々であるから、一口に時代劇が好きと言っても、単にチャンバラが好きな人もいるだろうし、歴史が好きで見ている人もいるだろうし、ドラマ好きの一環として時代劇を見ている人もいるだろう。
私自身は、歴史好きとチャンバラ好きのハイブリッドなので、基本的に史実に沿った物語の方が好きである。
そのため、このレヴューでは無意味に史実を改変してしまうストーリーの作品には概して辛い傾向にある。
さて、それを踏まえて今回紹介する作品であるが、本作「毛利元就」は私が過去に見た歴史ドラマの中でもかなり評価の難しい作品である。
以下、私が取り上げる点は、このドラマが好きな人にとっては重箱の隅をつつくような些末なことを評ってドラマにいちゃもんをつけているように感じるかも知れないが、一歴史好きの意見として読んでいただければ幸いである。
本作は、NHKの所謂「大河ドラマ」の三十六作目の作品であり、タイトルの通り中国地方の戦国大名・毛利元就の生涯を描いた作品で、題材としてはマイナー路線かも知れないが、概ね好評を博した成功例と言って良いであろう。
本作の特徴としては、原作が永井路子、脚本が内館牧子という女性コンビのせいか、元就を取り巻く女性陣の描き方に力が入っていることが挙げられる。
個人的には、本作品は非常に「わかりやすさ」を重視した作風で、2000年代の大河ドラマで顕著に見られた「戦国ホームドラマ」の嚆矢と言う印象がある。
とは言え、内館牧子が好き勝手に話を作っていたかと言えば決してそうではなく、骨太の戦国ドラマとしての描写もあるし、内館自身も時代劇初挑戦と言うことで、考証家に頻繁に話を聞いてみたり(放送当時のトーク番組での本人談)、結構慎重に臨んでいたと言う。
個人的な「不満」に言及する前に、まずはこの作品の全体的な印象を言うと、ドラマとしては間違いなく面白いと思う。
策謀に長けて「梟雄」の印象もある毛利元就は、非常に筆まめな人物で多くの書状が現存しており、そこからはかなり愚痴っぽくて人間臭い部分がうかがえるのであるが、本作ではそうした元就の知られざるパーソナリティをうまくデフォルメして等身大の元就像を描いているし(こうした元就のキャラクタは、永井路子の原作でも同様である)、元就を演じた中村橋之助もこのキャラクタによくはまっていた。
このように、登場人物達のパーソナルな部分は決して勝手な創作ではないのであるが、ただ私はこの作品に対してある種の「歴史ドラマっぽくない」ものを感じるのである。
こう感じる最たる理由は、おそらくこのドラマの成功の理由の一つである物語としての「わかりやすさ」である。
本作では、マイナーな題材であるために登場人物を多くして視聴者を混乱させまいとする配慮なのか、一人の人物に複数の役割を担わせたり、別の人物のエピソードに置き換えたりする事例が目立った。
それは毛利元就の家臣団にとりわけ多く、例えば「井上元兼」と「井上元盛」や、「坂広秀」と「桂広澄」を混同、と言うか両者を合体させて一人の人物を作る、つまり桂・坂のうち桂だけを登場させて、坂の役割も桂にやらせてしまうような所が多々あった。
また、元就の所謂「家臣団」は小豪族の連合であって、家臣それぞれは親族だったり婚姻で結ばれていたりと、相互に密接に関わっているのであるが、そう言う部分もばっさりカットされていた。
別の人物のエピソードに置き換える事例としては、尼子経久の側近として初期から登場する宇山久兼に尼子久幸の役割も担わせて(作中では久幸は全く登場せず)、郡山城の戦いで宇山を戦死させる(史実では戦死するのは久幸で、宇山久兼は後年まで存命)、架空の村上水軍の武将を登場させ、実際に厳島の戦いに参加した村上武吉や村上通康が登場しない(なお、村上武吉・通康は厳島の戦いには参戦していないとする説もある)などが挙げられる。
繰り返すが、この作品はドラマとしては間違いなく出来が良い。
なので、このあたりはもはや好みの問題なのであるが、とっつきやすさを重視したこう言うある種の「省略」が入ると、やはりどこか「物足りなさ」を感じてしまう。
ほとんどわがままみたいな感想で恐縮であるが、このあたりで今回は終わっておきたい。
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