評価の星の数に踊らされる人々
「この前話してた映画観てきたよ」
「え? あの日本中のおじさんがスーツの代わりにセーラー服を着ることが義務付けられる世界線の話の映画?」
「そうそう」
「どうだった? 面白かった?」
「いやー、面白かった。久々の当たり。おじさんがパンチラ気にして恥ずかしそうにしてるところとか、めちゃくちゃ笑ったもん。何ならもう一回みたいくらい」
「へぇ……。あ、でもいまネットで調べたら評価星2.7だって。コメントも辛口だなぁ。『意味がわからない』、『気持ち悪い』、『展開が無理矢理』だって」
「まじで? 俺はめちゃくちゃ面白かったけどなぁ。あのキモ可愛い感じがいいんじゃんか」
「ちなみに、いま一番評価が高い映画は男の子がセミを捕まえるやつ。星4.6だってさ」
「は? あれが評価高いの? 俺観たけど、まじで男の子がセミを捕まえるだけの映画だったぞ」
「コメントはこんな感じ。『これぞ日本の夏』、『新しい夏定番映画の誕生』、『この映画を観れて幸せ、生きててよかった』」
「嘘だろ……。狂ってやがる……」
「俺、どっちも観てないんだよなぁ。あ! そうだ! 明日映画付き合ってくれよ!」
「いいけど、どっち観るの?」
「え? そうだなぁ……。うーん、やっぱセミ男かなぁ」
「いやいやいやいや。悪いこと言わないからセーラー服おじさんにしとけって。めちゃくちゃ面白いから」
「でも、セミ男、星4.6だからさ。コメントでも、生きててよかったって書いてあるし」
「えー、評価とか関係ないじゃん」
「そうだ! ついでに晩飯も食べて帰ろうぜ」
「いいけどさ……。あ、じゃあ映画館の近くのラーメン屋いこうぜ」
「ちょっと待ってよ……。えっと、あぁ、あのラーメン屋、星3.1だ。こっちにしようよ、イタリアン、星4.7」
「あそこのラーメン美味いじゃんか。イタリアンってあのテラス席があるところだろ? あそこ一皿の量が少なすぎんだよ。1000円の料理が一口だよ? 一口?」
「あ、そうだついでに光熱費も払わないとだ」
「光熱費?」
「うん。えーっと、映画館近くのコンビニは……と。うわぁ近くのセブン、星2.5だって。『店員がレジを打っている時に踊り出します』だってさ」
「めちゃくちゃ面白そうじゃねえか。むしろ評価高くてもいいだろ」
「ちょっと歩くけど、こっちのファミマにしよう。星3.8のファミマ」
「コンビニの評価まで気にすんのかよ……」
「大事だろ? 評価って。それに星が高いと安心だし、失敗がないだろ?」
「確かに、大きな失敗はないかもしれないけど。お前、自分の好みはどうなるんだよ?」
「自分の好みって言われてもなぁ……」
「駅前の二人でよく行く中華の店あるだろ? 夫婦でやってる」
「ああ、うん。明日の晩飯、あそこでもいいよ」
「あそこの店、美味いよな?」
「え? うん、あそこは美味いな」
「ちょっとネットで調べてみ」
「え? うん、えーっと。え? まじか。あの中華の店、星1.7だって……」
「な? 他人がつけた評価と自分の好みが必ずしも一緒じゃないんだよ。だから自分が好きなら好きで、それでいいんだよ」
「えっと、あ。コメントもついてる。『この店で食べたあと、必ずお腹を壊します』だってさ……」
「ああ」
「そういえば……」
「うん」
「あそこで食べた次の日、絶対お腹壊すよな……」
「確かに。まぁでも、味が美味しいから、いいだろ」
「え? うん。うん? いや、ダメだろ」
「ダメか」