介護の終わりに(23)
犬の介護をしたことがある人は、たくさんいると思う。
でも、どの人にとってもそれは、唯一のものであって、ほかと同じところがあるかどうか、わからないと思うのではないか。
我が家には、犬がいた。14歳6か月で死んでしまった。
今時あまりないことかもしれないが、我が家では犬は外の家にいた。理由は簡単。番犬だから。
オスだった。賢い犬だった。
どのくらい賢いか、というと。私が、夫との大ゲンカでイライラとしているときに、ふんっ、と強くリードを引っ張ってしまったことがある(やめたほうがいいと思うが)。その時に彼は、ふりむいて私の顔をじいっと見つめた。
日本語をしゃべることができていたら、こう言っただろう。
「いったいぜんたい、どうした?話してみたらいいのに」。
それで私が我に返って、犬に謝った。犬は許してくれた。
そのくらい、賢い犬だった。しかし、年を取った。
「介護が終わったときにあなたの物語を書くべきだ」(酒井穣)。確かにそうだなと素直に書き始めました。とはいえ、3か月以上悩みました。