ネガティブな感情はあなたの「敵」か?
ネガティブな感情、例えば怒り、悲しみ、不安などが湧いてくる時、皆さんはどのように感じるでしょうか?多くの人にとって嬉しい状況では無いと思います。また怒りによって人と喧嘩してしまう、不安によって夜寝られないなど、それらの感情によってネガティブな結果が引き起こされることもあると思います。
このように考えるとネガティブな感情って人間にとって不要なものでは無いだろうか?私たちにとって「敵」ではないのか?と思うかもしれません。しかしそんなことはありません。ポジティブな感情だけではなくネガティブな感情も私たちにとって大切なものです。
ポジティブな感情についてはまた別の機会にお話しするとして、この記事ではネガティブな感情についてお伝えします。まずは2つの事例を考えてみたいと思います。
[事例1]
部下のフォローをしてあげないといけないのに、自分が忙し過ぎてフォローができず罪悪感をおぼえる。
この人にとって確かにこの状況は好ましいことではありませんね。その「好ましい状況ではない」ことに気づかせてくれているのが「罪悪感」という感情です。本人にとって嫌なことかもしれませんが、罪悪感をおぼえるからこそ部下をフォローできるように工夫しよう、例えば自身のタイムマネジメントを改善しようといった意欲につながります。
[事例2]
仕事で普段しないようなミスをして上司に怒られた。恥ずかしい。
この人にとってこの経験はとても嫌なものだと思います。しかし「恥ずかしい」という感情を持つからこそ同じようなミスをしないように今後は準備を入念に行うなど、自身の仕事の仕方を改善しようという意欲が湧いてきます。このようにネガティブな感情もそれ自体は決して悪いものでは無く、私たちにとって大切なことを気づかせてくれるものです。
ハーバード大学の心理学者スーザン・デイビッド氏は著書『EA ハーバード流こころのマネジメント ~予測不能の人生を思い通りに生きる方法~』で、ネガティブな感情を封じ込めようとすることは悪い扱い方であると言っています。ネガティブな感情を封じ込めようとすればするほど、かえってそれを増幅させてしまうことになります。また、くよくよと思い悩むことも悪い扱い方と言っています。くよくよと思い悩むだけでは何の解決にもならず、周りの人を巻き添えにしてしまうこともあります。その結果、友達が離れていってしまうこともあるでしょう。ネガティブな感情を無理して避けようとするのではなく、ただしネガティブな感情に振り回されるのでもなく、少し距離を置いて向き合うことが大切です。
スーザン・デイビッド氏の著書より、ネガティブな感情と少し距離を置いて向き合う方法の一例を紹介します。
① ネガティブな感情にラベルをつける
② その感情を作り出した自身の内側の原因を探してみる
自分自身に好奇心を持って、評価を加えず、①②を書く。
「評価を加えず」とは、そのような感情が湧いてくる自分に対して良し悪しの評価をせずに、ありのままの自分を観察することと理解してください。
①のラベルをつけるとは、今湧いている感情はどのような感情なのか?例えば怒りなのか、悲しみなのか、不安なのかなど、適切な感情表現を見つけることを指します。感情を言葉で表現することで、自分の感情に気づいて理解することにつながります。
②の通り、感情が湧いてくることには原因があります。前回の記事『「笑わない男」はなぜ笑わないのか?』に書いた通り、感情は決して全世界共通ではありません。ただし社会的関わりの中で感情が作られていくので多くの人で共通していることも事実です。そこで次の表に主にネガティブと考えられる代表的な感情について、その要因となることをまとめました。なお、この記事では分かりやすく「ネガティブ感情」と表現していますが、あくまで一般的にネガティブと考えられるという話であり、その感情を「ネガティブ」と捉えるかどうかはあくまで本人の主観となります。
罪悪感と羞恥心は最初に事例を紹介したので割愛します。怒り、悲しみ、不安について少し踏み込んで説明します。なお、一つ一つの感情についてとても詳しく書かれている書籍もありますので、ご興味ある方はそのような書籍を読まれると良いでしょう。
怒り
怒りの感情は他人に権利を侵害された時に湧いてきます。例えば皆さんが大切にしている物を傷つけられるとか、仕事の邪魔をされるなどが当てはまります。つまり、私たちが大切にしているものやこと、価値観を守りたいと湧いてくるのが怒りの感情です。言い方を変えると、怒りは自分が大切にしていることを気づかせてくれます。怒りの感情をそのまま相手にぶつけてしまうと喧嘩になり相手との関係を壊してしまうので、先ほど書いた通り少し距離を置いて向き合うことが大切です。自分は何を守りたいと感じているのかに気づく、それは本当に守るべきことなのか考える、その上で守るべきことであれば感情に振り回された行動ではなく守るための建設的な行動を考えて実行していく、このようなアプローチがとれると怒りの感情はとても役に立つと思います。
悲しみ
悲しみの感情は大切なものを失った時に湧いてきます。失恋などは典型的な例ですが、今では新型コロナウイルスの影響で楽しみにしていたイベントや飲み会が中止になる、外出自粛で遊びに行くことができないなど、多くの人が悲しみに近い感情を経験していると思います。悲しみも怒りと同じく私たちが大切にしているものやこと、価値観を気づかせてくれます。そして失ったものを取り戻すとか、あるいは新たに大切なものを育んでいくなど今後の行動を変えるきっかけを与えてくれます。例えばあるプロジェクトチームでの仕事がすごく充実していたにも関わらずチームが解散して悲しみを感じるのであれば、次のプロジェクトでそれ以上に素晴らしいチームを創ろうという意欲につなげることができると思います。
不安
不安は未来への脅威を感じた時に湧いてきます。仕事が上手くいくか分からないとか、今では新型コロナウイルスによって仕事の先行きに不安を感じている人も多いかと思います。このように将来どうなるか分からないことによって引き起こされます。図に掲載した5つの感情の中で私自身は特に不安の感情がよく湧くのですが、不安の感情はとても大切だと感じています。例えば仕事が上手くいくか不安を感じるからこそ念入りに準備して成功に導こうという意欲につなげています。ただし漠然と不安を感じて前向きな行動ができないと悪い結果となる可能性が高くなります。「仕事が上手くいくか不安」の例で言えば、そのような時はその仕事の要素を分解して書き出してみることをおススメします。分解してみると自信のあることやすでに目途がたっていることも見えてきて、意外と不安の要素が少ないことに気づけることがよくあります。それによって不安の感情も落ち着き、また仕事を成功へ導くために力を入れるべきところが見えてきます。
「ネガティブな感情をコントロールしたい」「ネガティブな感情を無くしたい」と思ってもなかなか上手くは行かないと思います。上記の通りその感情が湧いてくる要因を知るだけでも冷静になれると思います。冷静になれれば、以前こちらの図で紹介した通り、行動を変えることも出来るようになります。
なお、以前書いた記事『「心のしなやかさ」を手に入れるトレーニング法』でABC日記シートを紹介しました。今回の記事で紹介した「感情とその要因」を理解した上でABC日記に取り組むと、より自己理解が深まると思います。
スーザン・デイビッド氏はTEDに登壇した時に、ネガティブな感情を持ちたくないという人に対して「それは死人がもつゴールだ」と言っています。ネガティブな感情は私たちがよりよい人生を送るために避けて通れないものです。「敵」として封じ込めようとするのではなく、ネガティブな感情を大切な「仲間」として向かい入れて共に歩んでいく、そのような関係を構築してみてはいかがでしょうか。