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ポジティブな感情って実はすごい!

前回の記事『ネガティブな感情はあなたの「敵」か?』ではネガティブな感情の大切さについてお話しました。今回はポジティブな感情についてお伝えしたいと思います。
皆さん、ポジティブな感情はどのような時に感じるでしょうか?例えば目標を達成したときの充実感、人から感謝されたときの嬉しさ、気のおけない仲間たちとお酒を飲んだときの楽しさなどがあると思います。このようにポジティブな感情が湧いている時はそれだけで幸せな状況であり、気持ちもリフレッシュされてストレスも少ない状態であると思います。それはそれでとても大切なことですが、ポジティブ感情はそれだけではなく、よりよい人生を創ることにも役に立つのです

ポジティブ心理学の研究では「ポジティブは良いもの、ネガティブは悪いもの」とは言っていません。前回の記事にも書いた通りネガティブな感情はとても大切なものです。それを理解した上でポジティブ感情について知って頂くと、それぞれに違った大切さがあることが分かると思います。「ポジティブ心理学」という名前が誤解されやすいことと、それに加えてポジティブにだけ目を奪われてポジティブ心理学を伝えている人がたまにいることもあり「ポジティブ心理学は胡散臭いもの」と思われてしまうことも残念ながらあるのですが、私自身ポジティブ心理学を伝える身として、これからも丁寧にお伝えしていこうと思います。

さて話が少し脱線しましたがここからが本題です。今回の記事ではポジティブ感情研究の第一人者である、ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソン教授の著書『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』より、ポジティブ感情について代表的な研究を2つご紹介したいと思います。
1つ目は「拡張-形成理論」です。バーバラ・フレドリクソン教授の著書にある説明を要約しつつ引用すると次のようになります。

ネガティブな感情は「何ができるのか?」と、考える思考の範囲を狭くします。つまり危機が迫った時にそれに意識を集中させて戦ったり逃げたりと、危機を乗り越えるための行動を選択させます。
一方でポジティブな感情は思考を広げる働きをします。様々な考え方や行動に目を開かせるのです。例えば喜びの感情は遊び心や創造性を刺激し、好奇心は探検や学習の行動を促します。

具体例もお伝えしつつ、さらに説明をしたいと思います。例えば目標を達成して充実感を持ったときは今まで以上に自信が持てるようになり、さらなる目標を見つけてそれへ向かって行動したいという想いが湧いてくることがあります。人から感謝されたときは人の役に立てた嬉しさより、一層仲間や社会へ貢献したいという想いが湧いてくることがあります。このように思考が「拡張」されて行動力が増し、行動することで新たに知識を得たり新たな人間関係を構築したりするなど、リソースが「形成」されます。ここでリソースという言葉はあまりなじみがないと思いますが、「生きていく上で役に立つ、自身に備わっている性質や能力、社会的関わり」と、ここでは理解してください。

もちろん気のおけない仲間たちとお酒を飲んで楽しい気持ちになることも「拡張」と「形成」に結びつくことがあります。仲間たちとさらに関係が良くなることはもちろんですが、例えば普段あまり興味ないことでも楽しい気持ちの時に仲間から勧められたら「自分もやってみようかな」と思うことはないでしょうか。これも思考が「拡張」される例ですし、実際に行動に移せばリソースが「形成」されます。

例えば受験や就活などに対する不安などある程度長い期間で関わるものもありますが、ネガティブ感情は「この状況をどう乗り越えるか?」など比較的短い期間で役に立つことが多いです。一方で上記の通りポジティブ感情は私たちの未来で、よりよい人生を創ることに役に立つのです

さて、続いて2つ目の研究をご紹介したいと思います。バーバラ・フレドリクソン教授の著書のタイトルにもなっている「3:1の法則」です。書籍では「感情の黄金比」と表現されていますが、「ポジティビティはネガティビティの3倍を超えたとき初めて、人が繁栄するのに十分な量となる」とされています。「チーム行動の数学的モデリング」を研究していたマルシャル・ロサダ博士は、ビジネス界の様々なチームにおける会議での発言を全て文字に起こしてポジティブな発言量とネガティブな発言量の比率を調査しました。その結果、ポジティブな発言量がネガティブな発言量の3倍を超えるチームでは困難な出来事にぶつかってもつぶれず、それを乗り越え高いパフォーマンスを達成することができると結論付けました。さらにバーバラ・フレドリクソン教授は個人が日々感じている感情についても調査を行い、精神的な健康状態がとても良い個人にも3:1があてはまると結論付けました。

先ほど説明した拡張-形成理論を改めて振り返って頂ければと思いますが、例えばチーム内でポジティブな会話が多ければ、思考が拡張されて行動力が増し、チームとしても個人としても形成されるリソースが増えることは想像できると思います。

実はその後、黄金比については3:1以上ではなく1:1以上に訂正されたそうです。ただし、研究者であれば数値の厳密さが当然大事になりますが、私たちが人生の中で活用することを考えると「以上」なので「3倍」をイメージしておく方が良いと思います。

なお、ここでいうポジティブは、とにかく明るく振舞うとか、非現実的なポジティブシンキングをするとか、馬鹿みたいに騒ぐという意味ではなく、相手の話を丁寧に聴くとか、お互い感謝の言葉を贈るとか、人の発言を頭ごなしに批判するのではなくお互い建設的な議論をするとか、そういったポジティブをイメージしてください。ポジティブという言葉は誤解されやすいので補足しておきます。

さらにプラスαな情報として、夫婦間での感情の黄金比についてお伝えしたいと思います。夫婦間の感情力学を研究しているワシントン大学のジョン・ゴッドマン名誉教授の研究によると「繁栄する結婚」についての黄金比は5:1以上と言われています。身近な人だからと「相手は分かってくれている」などと自分勝手に思うのではなく、身近な人だからこそ相手への気遣いが大切であることを数値が物語っています。ちなみに私は今年で結婚して18年になりますが、18年間未だに1度も夫婦喧嘩をしたことがありません。そんな私たちでも、相手への気遣いや思いやりを普段から意識しています。さらに情報をプラスすると、離婚の危機にある夫婦は8:1以上が必要とも言われています。8:1ともなると大変なので、そうなる前によい夫婦関係を作って維持することをお勧めします。

いかがだったでしょうか?以前書いた記事『「危機回避の習性」を自覚すると行動を変えることができる』にも書いた通り、人は危機回避のスペシャリストです。心理学に「ネガティビティ・バイアス」という言葉もありますが、人はネガティブな感情の方がポジティブな感情よりも強く感じる傾向があります。そのためネガティブ感情と比べるとポジティブ感情は影の薄い存在と感じられるかもしれませんが、この記事で紹介したようにポジティブ感情はよりよい人生を創ることに役に立つすごく大切なものです。ぜひ自分自身に対して、仕事の同僚や友人との間で、そして夫婦の間でも、これまで以上にポジティブ感情を意識して大切にしてください。

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