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「折れない心」を育む3つの視点

前回の記事『「しなやかな心」で変わる世界に適応する』ではレジリエンスで重要な「説明スタイル」を紹介し、そしてウィズ・コロナの世界に適応していくための説明スタイルの活用についてお伝えしました。一方、前回の記事でお伝えした通り説明スタイルは「折れない心」という意味で非常に役に立ちます。そこで今回は「折れない心」をテーマに、皆さんご自身あるいは皆さんの周りの人たちにも見かけるような、身近な事例を引用しつつ説明スタイルをより深く理解して頂こうと思います。

前回の復習となりますが、まずは改めて説明スタイルについて前回の記事の一部を引用しつつ触れたいと思います。
ポジティブ心理学の提唱者であるペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授は次のようにおっしゃっています。

誰が無力になり、誰がレジリエントだったかを決めた重要な要因は、どのような逆境の類だったかではなく、人々がその逆境についてどのように説明をしたか?であった
レジリエンスの教科書:逆境をはね返す世界最強トレーニング』より引用

セリグマン教授の研究結果より、自分に起きた不幸な出来事や挫折といった逆境を「自分・いつも・すべて」というスタイルで説明する人は、無力感やうつ病に陥る傾向にあることが分かっています。例えうつ病までにはならないとしても、心が折れやすい人も同じです。

そして前回の記事では、さらに次のようにお伝えしました。
ベストな説明スタイルはありません。図のように3つの視点それぞれで、右側、左側の両方の角度で考えることが大切です。このように多角的に見ること、それによって客観的に状況を評価できるようになることが、思考を柔軟にして、心をしなやかにします

現実的楽観_3_多角的に状況を見る

さて今回は身近にある話を事例として、3つの視点で思考をしなやかに見ていきたいと思います。

◇自分
私は講師の仕事もしつつパラレルキャリアの形で今でもITエンジニアをしています。そのIT業で私がよく見かける話をご紹介したいと思います。もちろんIT業だけではなく他の仕事でも同じような話があると思います。
ITエンジニアが成長してリーダーとしての役割を任されるようになったところ、心が折れてしまって退職したという話がありました。退職までしなくても同じように心が折れてしまいリーダーから外れるという話はよく聞きます。なぜリーダーになると心が折れてしまう人が出てくるのでしょうか?
エンジニアという仕事は任された業務を責任もってやり遂げることが大切です。リーダーを任されるくらいの人は特にそのような意識を強く持っています。しかし一方で、リーダーになると自分でコントロールできないことが増えます。顧客や自社の上層部、上司、そして部下など、リーダーともなると様々な人たちの間で立ち回る必要があり、すべてをコントロールすることは不可能といっても言い過ぎではないと思います。
メンバーとしてのエンジニアと、リーダーとではここが大きく違ってきます。責任もってやり遂げることは大切ですが、視野をもっと広くもつ必要が出てきます。メンバーだった時のように「自分で何とかしなくては」と考えてコントロールできないことまでコントロールしようとして上手くいかず、「自分はリーダー失格だ」と思ってしまう、そういったケースが良くあります。責任感が強ければ強いほど陥りやすいかもしれません。
そうならないためには、まず「自分ですべてをコントロールすることはできない」と認識することが大事になります。「じゃあ、責任感を持たずに仕事すればよいのか?」というと、もちろんそういう話ではありません。自分の力だけで何とかしようという考えから離れることが大事だと思います。例えば顧客の要望を全て受け容れることはできなくても顧客のコアとなるニーズを営業と協力して聞き出してそれに応えるような対案を提示するとか、上層部を説得するために良いアプローチがないか上司に相談するなど、視野を広げることでアプローチを増やすことができます。責任をもって仕事をすることはもちろん大事ですが、図の左側の「自分」という視点だけに固執するのではなく、「他の人」や「状況」といった視点でのアプローチも考えてみると良いでしょう。

◇いつも
これは私自身の経験でもあり他の人にも見かけることですが、経験のない業務でかつ高負荷な状況が続くと心が折れそうになることがあります。私は社会人2年目に初めて本格的なプロジェクトに参画したのですが、その時は週3日はタクシー帰り、早いときでも24時を過ぎてからオフィスを出るという状況が9か月続きました。今なら労働基準法に抵触して注意を受けているところだと思います。
高負荷であったこと、そして2年目にしては重要なポジションを任されたプレッシャーも重荷として心にのしかかっていました。ただしそれだけではなく、説明スタイルを知ってから改めて振り返ると本格的なプロジェクトに初めて参画したことも心が折れそうになった大きな要因でした。経験がないため「先が見えない」状態が続き、それが辛さを増長したのです。その当時「真っ暗なトンネルを全力で走り続けるけど、いつまでたっても出口が見えない」と、同じプロジェクトに参画していた妻に語っていたことを記憶しています。まさに「いつも」の状態に陥っていたのです。
このように経験がないことで高負荷になると「いつも」に陥りやすくなると思います。そういった場合は先輩や上司などに今後どのようにプロジェクトが展開していくのか聞いてみるなど、何かしらの方法で先を具体的にイメージできるようにアプローチすることが、心の負担を軽くする1つの方法だと思います。

◇すべて
あるプロジェクトで一緒だった社会人4年目の若手A君が元気なく座っていたので「元気が無さそうに見えるけど何かあった?」と聞いたところ、少し前に仕事でミスをしたことを引きずっていると話してくれました。その時「自分はこの仕事に向いていないなと思いまして」と語っていたことが印象に残っています。私はその時すでに説明スタイルを知っていたので、これはまさに「すべて」の思考に陥っていると感じました。私はA君に「確かにこの間のミスは残念だったけど、普段はしっかり仕事をしていると思うよ。信頼しているからこそ皆が色々と頼っているのだし」と、私から見えているA君をお伝えしました。
もちろんミスを繰り返さないために反省することは大事ですが、しっかり業務をしている自分を認めることがとても大事です。『「危機回避の習性」を自覚すると行動を変えることができる』の記事でもお伝えしたように、特にネガティブな出来事に目が行きやすい人はそれを自覚して、ポジティブな出来事にもあえて目を向けることが大切です。もし自分で自分を認めることが難しい場合は、例えば客観的にものごとを見るのが得意な同僚や上司から、自分がどのように見えているか聞いてみるのも良いと思います。ただ注意すべきことはその人がネガティブなことばかり言ってくる可能性があるので、客観的ではあるものの、ユーモアのある明るい人をあえて選んだ方が良いかもしれません。

今回は身近な事例をご紹介しました。いかがだったでしょうか? 皆さんにも心当たりがあるかもしれません。このように説明スタイルの3つの視点を持つことは皆さん自身の折れない心を育むことにも役に立ちます。ただしそれだけではなく、例えば部下がいらっしゃる方や子供がいらっしゃる方であれば、説明スタイルの3つの視点でアドバイスやコーチングすることで、部下や子供たちの折れない心を育むサポートもできます
そのためには、まず自身の経験を説明スタイルの視点で振り返って理解を深めると良いでしょう。この記事がその参考になったら幸いです。

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