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思考に目を向けて「心のしなやかさ」を手に入れる

同じような出来事があっても、人によって湧いてくる感情が違います。そして選ぶ行動も違います。
例えばこのような出来事

出来事
「今度のお客様へのプレゼンを君に任せたいと上司から言われた」

XさんとYさんの反応
Xさん:「これはチャンス!」と感じて、一生懸命準備をしてプレゼンに挑もうとする
Yさん:強い不安を感じて、「自分には無理です! 先輩お願いします」と自分でプレゼンすることを避けて先輩へお願いしてしまう

このように同じ出来事でも人によって反応が違うのはなぜでしょうか?

アルバート・エリスという有名なアメリカの臨床心理学者がABCモデルというものを提唱されました。人は何か出来事があった時にある感情が湧いて、ある行動をとります。でも実際は、その出来事と感情・行動の間には「思考」があります。この思考によって感情や行動が変わってきます。

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同じ出来事にも関わらず感情や行動に違いが出るのは、その出来事をどのように解釈するか、その「思考」の違いから生まれます。先ほどの例でXさんとYさんの頭に浮かんだ思考を想像すると、このようなことを考えていたかもしれません。

Xさん:プレゼンでうまく行けば実績にもなるし、今後さらに大きなチャンスをもらえるかもしれない。うまく行かなくてもそれはそれで良い経験になるだろう。
Yさん:プレゼンがうまく行かなかったら上司や会社、さらにはお客様に迷惑をかけてしまうかもしれない。

このように頭に浮かぶ思考が違うため、湧いてくる感情や選択する行動に違いが出てきます。なお、この頭に浮かぶ思考は本人が意識していることもありますし、無意識に頭に浮かんでいることもあります。自動的に頭に浮かんでくるので、「自分はいま何を考えているだろうか? どう感じているだろうか?」と、あえて自分の思考や感情に目を向けなければ、気づかないことが多いでしょう。

さらにABCモデルを詳しくみるとこのようになります。この図は日本ポジティブ心理学協会の代表理事である宇野カオリ氏の著書『レジリエンス・トレーニング入門』より引用しています。

2-2_ABCの詳細

頭の中に浮かんだ思考は表層思考とも呼ばれます。先ほどの例はこの表層思考になります。またその人が持っている核となる思考は根底思考とも呼ばれます。価値観や信念をイメージして頂くと分かりやすいでしょう。特に強い価値観や信念は氷山思考と表現することもあります。氷山思考についてはまた改めて取り上げたいと思います。

表層思考は普段の思考パターンから浮かんでくることもありますし、根底思考から影響を受けて浮かんでくることもあります。そもそも普段の思考パターン自体が根底思考から影響を受けています。根底思考が表層思考に影響を与え、表層思考が感情を湧かせ、行動を選択する要因となります。なおバイアスという言葉もよく聞かれますが、バイアスにも色々とあり、普段の思考パターンに当てはまるものもあれば、根底思考に当てはまる価値観や信念に近いものもあります。

では先ほどの具体例から、XさんとYさんの根底思考を想像してみたいと思います。

Xさん:チャレンジすることが自分を大きく成長させる
Yさん:人様に迷惑をかけることをしてはいけない

Xさんは第1回の記事で紹介したしなやかマインドセットが強い人なのでしょう。Yさんはもしかしたら厳格な家庭で育ったことにより、このような信念が強く根底思考として育まれたのかもしれません。

皆さんはXさんとYさんの根底思考を見て、どのように感じたでしょうか? Xさんの根底思考「チャレンジすることが自分を大きく成長させる」も、Yさんの根底思考「人様に迷惑をかけることをしてはいけない」も、どちらが良いか悪いかという話では無いですよね。このように根底思考の違いに良い悪いとか勝ち負けはありません。

大事なことは、人生は一つ一つ選んだ行動の積み重ねで創られるという事実です。根底思考や表層思考が感情と行動に影響を与えて、結果として人生に大きな影響を与えています。皆さんが実現したい未来、手に入れたい未来へ近づくための行動を選べているかが大事です。そのために身につけておきたいのが「心のしなやかさ」になります。

自分の頭に浮かんだ思考が常に正しいとは思わず、特に大事な時には感情に振り回されずにいったん判断を保留して頭に浮かんだ思考を吟味してみる、このプロセスが「心のしなやかさ」を育むこととなり、欲しい未来へ近づくための行動が選択できるようになります。例えばYさんの場合、Yさんが仮にプレゼンを上手くできなかったとしてどのくらい迷惑をかけることになるのだろうか? そもそも上司はどのような想いでYさんにプレゼンを任せようとしたのか? 強い不安を感じつつもその感情に振り回されずいったん判断を保留して、このように客観的に考えてみる、上司に相談してみる、このように判断を保留して吟味してから行動を選ぶことがYさんにとってよりよい人生を創ることにつながると思います。

なお、Xさんの場合は一生懸命に準備しているので大丈夫だと思いますが、例えば自分の能力を過信して準備を怠る、あるいはアドバイスを求めず1人で準備することに固執し過ぎると失敗する恐れがあるでしょう。「心のしなやかさ」とは何でもポジティブに考えることではありません。楽観的に考えすぎることが問題を引き起こすこともありますので、その点はご注意ください。

今回の記事ではABCモデルを基に、自分の思考に目を向けることが「心のしなやかさ」を手に入れることにつながることを紹介しました。ただ恐らく「理論は分かるけど実践できる気がしない」と感じる方も多いと思います。思考に目を向ける、無意識に近い思考を意識化するための実践法がありますので、それは改めて(予定では次回に)紹介したいと思います。

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