「私は○○である」を緩めると生きやすくなる
今回の記事からしばらくは、自身のものの見方や考え方、そして心にフォーカスしてお話したいと思います。キーワードは「心のしなやかさ」。自分自身を知り「心のしなやかさ」を身につけることはレジリエンスを高め、よりよい人生を送ることにつながります。
※レジリエンスという言葉を知らなくてもこの記事は読んで頂けるように書いていますが、「レジリエンスとは何か」に興味ある方は、私が登壇したスクー授業のログミーさんによる書き起こし記事で簡潔に説明していますのでこちらをご覧ください(https://logmi.jp/business/articles/321756)。
さて記事の内容に入っていきたいと思います。
皆さんは、つい感情的になって行動してしまい、あとで後悔したことは無いでしょうか? 例えば、
・自分のミスを指摘されたときそれを認めることをせずに、つい「そもそも△△さんがXXXXXX」と言ってしまった。
・ダイエットを始めて最初は順調だったけど途中少し気を抜いてリバウンドしたらうんざりして、「別にダイエットなんて私には必要ない!」とやめてしまった。
・人から質問されたけど明確に回答ができず、専門用語をまくしたててその場を誤魔化してしまった。
3つ目は私のような講師が一番やってはいけないことですね。
例のような行動を防衛反応と言います。防衛反応とは、本人にとって受け入れがたい状況や心理的に危険な状況にさらされた時に、不快で嫌な否定的な感情を隠すために無意識に行われる自己防衛反応のことを言います。具体例を改めて引用してどのような心理が無意識に働いているか説明します。
・自分のミスを指摘されたときそれを認めることをせずに、つい「そもそも△△さんがXXXXXX」と言ってしまった。⇒「こんなミスをするような私」を認めたくない。相手を攻撃することで自己防衛をしている。
・ダイエットを始めて最初は順調だったけど途中少し気を抜いてリバウンドしたらうんざりして、「別にダイエットなんて私には必要ない!」とやめてしまった。⇒「できない私」を認めたくない。「もともとダイエットなんて必要と思っていなかった」と自分に言い聞かせることで自己防衛をしている。
・人から質問されたけど明確に回答ができず、専門用語をまくしたててその場を誤魔化してしまった。⇒「能力の低い私」を認めたくない、あるいは人に知られたくない。専門用語をまくしたてて相手を質問できなくすることで自己防衛をしている。
例えばこのようになります。防衛反応の怖いところは、本人は気がついていないのですが、周りの人はその人が防衛していることに何となく気づいていることが多いことです。皆さんの周りにも防衛反応の強い人がいないでしょうか?
防衛反応にも色々とありますが、現実をそのまま受け止めて生産的な行動をするのではなく、具体例のように多くは無意識に現実を歪めて非生産的な行動をしてしまうケースです。このような防衛反応を頻繁にしていると信頼を損なうとか、自身を成長させる機会を失うことにつながります。
自分は思い当たることがないという方は、防衛反応がほとんどない人なのかもしれません。ただし防衛反応は無意識に出てしまうことが多いので、気づいていない可能性もあります。無意識に出てしまうところが防衛反応のもう一つ怖いところです。
そのような無意識に行ってしまう非生産的な防衛反応を無くす、あるいは減らすにはどうすれば良いか? 全てを無くすことは難しいですが、「私は○○である」を緩めることが防衛反応を減らす1つの方法になります。
こちらはカウンセリングで有名なアメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズの自己理論の図になります。自己概念(「私は○○である」とイメージしている自分)と実際に体験する自分が同じ、つまり図の重なり合っている部分であればその体験を容易に受け容れることができます。一方で自己概念から外れた体験をすると受け容れることができずに防衛反応が出てしまうことがあります。例えば「私はこの場の誰よりも優秀である」という自己概念を持っている人がいたとしましょう。そのような自己概念を持った人はその人が得意な仕事は積極的にやろうとしますが、「他の人より劣るかも」と思える仕事を目の前にした時に「やらないことを正当化して逃避する」という防衛反応をしてしまう人がいます。これでは成長の機会を失いますね。またその人が参加している会議で他の人が会議の進行をしている時に、「存在感を発揮できていない私」を受け容れることができずに話に割り込んで主導権を取ろうとしてしまう人もいます。それでは「面倒な人だな」と周りから煙たがれて信頼を損ないます。
もちろん自己概念を持つこと自体が悪いわけではありません。例えば「私は責任をもってしっかり仕事をする人間である」と思って一生懸命仕事に取り組むことはとても良いことです。ただこの人の場合、仕事が順調に進まなかったときに現実を受け容れて生産的な行動をするのか、あるいは人を攻撃したり諦めたりと非生産的な防衛反応をするのか。「上手くできない私も私である」と「私は○○である」を緩めて、受け容れること、「心のしなやかさ」が生産的な行動を取るためには大事になります。
最近読んだある自己啓発書では、目標を達成するためには「心の強さ」が必要として等身大以上に自信を持つことが良いと書かれていました。それで成功している人もいるかもしれませんが、私は勧めません。ここまでの話の通り「心の強い私」という自己概念に固執し過ぎると、上手くいかなかった時に反動で自己否定に陥る危険性があります。自信とはチャレンジして、努力して、経験や結果を積み重ねることで得られる副産物みたいなものです。等身大以上に自信を持つことより「心のしなやかさ」を身につけることが大事です。
ここまで書いてきた通り「私は○○である」が強すぎると防衛反応が出やすくなります。誰でも「受け容れたくない自分」を経験します。それを認めて否定せず受け容れること。受け容れることが難しいときは保留して反応せずまずは深呼吸をしてみる、そうすることで防衛反応を弱めることができます。
「私は〇〇である」「私は〇〇でありたい」「私は〇〇でなければならない」など、皆さんはどのような自己概念を持っているでしょうか? もし「自分はよく防衛反応しているかも」と思われる方は、その自己概念を緩めてみてはいかがでしょうか?