山本五十六の教えとドーパミンによる成長促進
山本五十六の教育法
山本五十六(いそろく)は、大日本帝国海軍の第26、27代連合艦隊司令長官で、太平洋戦争当時、日本海軍の最高の指揮官と言われた人物でした。彼の部下育成に関する名言は、多くのビジネスの場で参考にされています。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」
「やってみせ」は、まずは自分自身がやって見せるということですね。言葉で多くを語ってもなかなか伝わらない、頭で理解できても再現できないということはあるあるなので、まずはお手本を見せるということです。
「言って聞かせて」は、お手本をもとに解説するということです。背中を見て学べといった徒弟制度的マネージメントは今の時代受け入れられません。しっかりとポイントを言葉にし、相手に伝えることが重要です。
「させてみせ」は、お手本〜解説をもとに実践してもらいます。人によって再現できる部分とできない部分は異なるので、相手に合わせてフォローしていくことで学びを促進します。
「誉めてやらねば」は、まさにポジティブフィードバックです。一回目からすべてを再現できる人は稀でしょう。再現できている部分、取り組む姿勢、部分的にでも前進している箇所を誉めて、ポジティブなフィードバックを行うことで、人は再現するモチベーションが高まり、学習が促進されます。この「誉めてやらねば、人は動かじ」という部分が、最も重要なエッセンスだと言えます。
後続の文章にも傾聴や承認、感謝や信頼といったポジティブフィードバックの要素が詰まっており、とても効果的な教育法を簡潔に表していると思います。
ティーチングとコーチング
人は褒められると、脳内でドーパミンが分泌され、自分の行動が認められて価値があると実感します。そして、自己肯定感が高まっていきます。ドーパミンの分泌は、喜びや達成感に繋がり、快の感情をもたらします。そして、それは更なる行動への動機づけとなっていきます。このようにしてポジティブフィードバックを受けた行動は、脳の中で強化され、再現性を高めていきます。これを報酬回路と言います。
報酬回路を強化していくには、コーチングコミュニケーションが有効です。質問や傾聴によって、相手の存在を承認することで自己重要感を高め、行動に対してポジティブなフィードバックを行うことによってドーパミン分泌によるポジティブな行動の再現モチベーションをもたらします。みずから目標を設定し、自分ごと化することで、主体的な行動を引き出すことができます。
一方で、教育という観点では、ティーチングもあります。これは知識を持つ人が持たない人へ教えていくものです。人は学習効果を高めるためにノルアドレナリンを分泌し、注意力や適応力を向上させます。
しかし、ティーチングによる育成には注意すべき点があるように考えます。それは、上司や先輩といった知識を持つ人が持たない人へ物事を教え、それを実践させる際の動機づけです。教えられたからやらなければならない、教えられた内容が正論だからやらなければならないといったMUST駆動型のコミュニケーションだと、主体性に欠く指示待ち人材の育成になりかねないからです。更には、「しなければならない」プレッシャーが高まると、ノルアドレナリンの過剰な分泌が、コルチゾールという脳内物質の分泌を引き起こし、思考停止状態を招いたり、その状態が長期に及ぶと鬱症状に繋がっていったりします。上司からの過剰なプレッシャーがメンバーの鬱を引き起こすようなケースはまさに、こうして起こっているわけです。
こうした状況を回避するためにも一方的なMUST駆動だけではなく、適切にポジティブフィードバックを行うことで、主体的なWILL駆動の要素を織り交ぜていくことが重要になります。
そういう観点でも、前述の山本五十六の名言の有効性が再確認できます。「やってみせ、言って聞かせて」とはティーチング的コミュニケーションで、まさに情報のインプットを行なっています。そして、「させてみせ、誉めてやらねば、人は動かじ」という部分が、コーチングであり、ポジティブフィードバックによってドーパミンを分泌し、主体的な行動、更には再現性に繋がる報酬回路の強化を行なっていると言えます。
マネージメントの現場において、育成は大きな割合を占めるテーマです。育成の内容は、業務によってそれぞれではありますが、育成方法に関しては、コーチングとティーチングのバランスが重要であり、それによって主体性ある人材育成に繋げていくことができます。