【中年の危機を生き延びる】(11)サナギからチョウになるイメージを持つ〜「完全変態」のすすめ〜
うつ症状がひどい時は、体が鉛のように重く感じられ、横たえた体がベッドにどんどん沈み込んでいく感覚がありました。
「このままだと、本当に動けなくなってしまうかもしれない……」
そんな苦しさの中、私の心を救ってくれたもののひとつに、「サナギからチョウになるイメージ」がありました。
ご存知のように、チョウは最初からあの姿ではなく、最初は似ても似つかぬイモムシの姿。そこからサナギを経て、生まれ変わったかのように華麗な大変身を遂げます。
このように、幼虫からサナギを経て成虫になるプロセスを「完全変態」と言うらしく、カブトムシなんかも「完全変態」をする昆虫の一種だそうです。
「完全変態」
ものすごいパワーワードですが、さらに「不完全変態」というのもあります。
「変態を極めようとしたけど、どうしても恥を捨てきれなくて……。全裸は無理だけど、半裸なら!」
こういうヤツがいたら、誰もが「この不完全変態!」と罵声を浴びせたくなるでしょうが、そういうことではありません。
たとえばセミなんかは「不完全変態」です。セミの場合もチョウと同じように、幼虫と成虫でかなり姿が異なりますが、セミの場合はサナギにはならず、脱皮から羽化、というプロセスを経ます。
要するに、サナギになるのが「完全変態」、サナギにならないのが「不完全変態」ということのようです。
さて、そんな「完全変態」のチョウですが、あれだけの変化はちょっと尋常ではありません。ほとんど手品です。あのサナギの中で、一体何が起こっているのでしょうか。ふと気になって調べたことがあるのですが、その実態を知り、私は衝撃を受けました。
何と、サナギの中でイモムシの体が溶けて、一度ドロドロの液体になるというではありませんか。そうして体を大きく作り変えて、成虫であるチョウになるというのです。ヤバくないですか?
実際には全てが完全に液体になるわけではなく、もともと体内に存在する「成虫になる細胞のかたまり」は残り、他のドロドロの溶液を養分として、チョウの体を形成していくそうです。
「一度液体になる」というアクロバティックな変態ぶりに、私はすっかり魅了されてしまいました。そしてそのイメージが、「ベッドで身動きがとれなくなっている自分」と重なったのです。
「この苦しみは、自分の中身が一度ドロドロに溶けているからかもしれない。それはやがて自分自身を大きく作り変えて、新しい自分として生まれ変わることができるんじゃないか……」
そう考えると、この動けないほどの苦しみにも意味があるように感じられます。それによって元気になれる、というわけではないのですが、ずっとネガティブなことだけ考え続けるよりは100倍マシです。
サナギからチョウへの大変身は、成虫になるための不可欠な変化であると同時に、敵に無防備な姿をさらす最大の危機でもあります。その意味でも、「中年の危機」と「完全変態」には共通するものがある気がします。
人間の寿命が50歳くらいだった頃は、こうした「変態」は思春期の1回だけで良かったのかもしれません。しかし「人生100年時代」と言われる今は、さらにもう1回くらい「変態」が必要なのでしょう。
先ほど「ずっとネガティブなことだけ考え続けるよりは100倍マシ」と書きましたが、一方で、ゼロを100倍してもゼロはゼロのままです。せめて「1」さえ残しておけば、つまり生き延びてさえいれば、それこそイモムシからチョウになるくらいの大転換がやってこないとも限りません。
ピンチとチャンスは表裏一体。じゃあこの後どんなチャンスが来るのか、あるいは来ないのか。せめてそれだけでも見届けてやろうではありませんか。
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