蠢

ねえもう春だよ。
春なんて、春なんて、って言いながら赤い季節に駆けてった君の瞳がグロく大きくひらく時期。空にはまるで図工で描いたお手本みたいなでかい雲、彫刻刀で背中に育てた小さな金魚は、君のジャージに透けたスポブラを隣のクラスの伊藤が撫でた、あの瞬間に逃げ出した。4年2組の教室覗けばぴかぴか光る窓際に、給食委員が忘れていったジャガイモだって芽吹いちゃうから、幸せの毒性にすら名前をつけてあげましょう、ソラニンそらいろ、こんな日だって春はやっぱり麗らかうららかラララララ、放課後居残り音楽室で、ピーピー泣いてる私の声をBGMに踊ってほしい。桜のダンスは春江戸線、君のダンスにこの顔上げてそのまま抱いて抱き締められて、だいっきらいって言葉をあの時ぶつけられたら今も縛っていれたでしょうか。

大きくなった私の胸にはあのころ夢見た愛のひとつも詰まってなくて、閉塞感の掃き溜めの部屋、ブラとショーツは今日もばらばら。無いもの数えて冬を越したら亡き者にされて飾られた、嘘でもなんでも君の言葉の結句になれたら、私はほんとにそれでよかった。整形級って言葉で掴んだCLIOのピンクのパレットは、私の奥目を加速させても私を花にはしませんでした。涙黒子がほろ、ほろ、ほろ、って崩れていく度、掬えなかったあの子の腿の液を思うよ。意味など無いけど、君も居ないけど、生活重ねてただ生きている。すっからかんな脳みそ剥き出し白黒フリルでデコレーションして、私の人生一回だって姫になれてはいなかったけど、あなたひとりのドールでいいからLOVE , LOVE , LOVEで腐らせて。
その目がなぞった不揃い前歯を打製石器のように使って小指を砕けば、リアス海岸赤く染まった爪の形が似てる気がして愛おしかった。山戸結希の映画に焦がれて鏡の中を泳いでみても、神はそこにはいなかった、絵にもならない身体を抱えて、わたしは蕾と言いきかせてた。アラサー過ぎても追えるくらいのでっかい夢をもってる女がほんとはとっても羨ましくて、羨ましいからババアと呼んで、指先ひとつに花一輪、小さな刺傷そこに残ればいいなと願うよ。自撮りくらいで人生変わらん、今もあの部屋覚えているから銀の花瓶に胡蝶蘭、穴の空いてる日々の痛みと箱に入った耳の左を、大丈夫って舐めていた。人を殴れる力もなければ魔法を解ける気概もなくて、諦めないって良いことみたいに言われているけど、ずっと惨めなだけだった。一番獲れると思わないけどそんなの今だけ忘れさせてよ、ホックに掛けた指を溶かして指紋の波がわんわんわんって響いたら、絶えないようにくちづけていて。蠢く額をそのまま混ぜたら舌が空まで突き抜けてって、あの日の合唱、天上に咲く、あーあーあーあー、春、春、春って乱れれば、ねぇもう春が落ちていったよ。