指宿(いぶすき)菜の花マラソンを走り切って
なぜランナーは走っているのだろうか?28㎞地点を超えたときにふと頭に疑問が浮かんだ。
天気は快晴、照り付ける日光が皮膚に突き刺さり、毛穴という毛穴からぽつぽつと汗が噴き出ていた。両足はただ次の一歩を踏むために前へ進み、途方もない42.195kmという距離を詰めていく。
自分を狙う何かから逃げているわけでもない、追いかけるわけでもない、極度なマゾヒストでもないとすると、ランナーはなぜ走っているのだろうか。
28㎞を超えると体の節々から痛みを感じ、コース外には倒れているランナーや辛そうに屈伸運動をするランナーもいた。
「よし、あと1㎞であきらめよう」なんどもその声が脳裏で発せられる。そんな甘い誘惑とは裏腹に、脚はいう事を聞かずただ1㎞、1㎞と前へ進むことを選んでしまったようだ。
周りからは声援が聞こえてくる、
「ファイト!ファイト!」
一体私はなにとファイトさせられているのだろうか。
「ガンバレ!あと少し!」
残り13㎞強を「少し」っていっていいのだろうか。
「お菓子ありますよ!食べてください」
いまは食欲が。。いやありがたく受け取らせていただきます。
両ポケットをお菓子でパンパンにして、ただ走っていく、ただ走っていく。
誰もランナーたちを止めない。身体はとっくに限界を迎えているというのに。周りの人も応援をやめてランナーが走るのを止めるべきだ、その方がきっとみんな助かると思う。ランナーも一致団結をしてマラソンを集団ボイコットする選択肢をとればいい、誰もが走らずに暮らせる優しい世界をきっと築けられるはずだ。
辛いのに、苦しいのにただ足をひたすら前へ伸ばす作業に没頭してしまう自分がいた。
次第に口角が上がり、滴る汗に生への実感がわき出てくる。
「そうだ、走り切ったらこんなことを考えてたんだったって友達に帰って伝えよう、だからとりあえず今は走り切ろう」
そう思ったとき、いつの間にかゴールがこちらに向かって走ってくるかのように距離がグッと縮まっていく。まるでゴールへのカタオモイが実る様な気持ちだった。
午後14時30分頃両手を掲げ、全身を駆け巡るドーパミンを味わいながら、テーマカラーの黄色と白に彩られたゴールラインを跨いだ。
かかった時間は約5時間20分。結果としては楽しかったしいい経験が出来たと思う。ぜひみんなにも味わってほしい。
次の日ポケットに手を突っ込むとグチャグチャになった大量のお菓子が発見されたが、味は変わらず美味しかった。
そんな僕の初マラソンだった。
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