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【要約】営業における急所は「購買者の仮面」の裏にある素顔:セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する


営業の難しさと「ガンバリズムの罠」

営業が成果を出すために努力が必要であるといえど、方向性を誤ると「ガンバリズムの罠」に陥る。

営業の難しさは「すぐに成果が出ない」ことにあり、目標達成や行動量の増加といったアドバイスだけでは機能しない。 特に「お客様と関係構築する」という壁を乗り越えられなければ、行動量を増やす努力も空振りに終わり、結果が出にくい。

お客様との関係構築の壁

多くの営業は関係構築の段階でつまずき、そこでのコミュニケーションは途絶えがちになる。 その状態で行動量を増やしても、空振りが多くなり、成果が遠のく。

また、マネジャーの「行動の量を増やせ」というアドバイスだけでは、関係構築の仕組みが解明されず、営業メンバーは「とにかくお客様の言うことに従う」という行動に頼ることが多い。

「購買者の仮面」が営業を惑わせる

営業の現場では、お客様から「社内で検討しますのでお待ちください」という言葉をよく受け取るが、これを鵜呑みにして待つだけでは受注率が上がらない。

売れる営業は、こうした返答にも追加のアクションを取る。 たとえば、「いったんお待ちしますが、必要な情報があればお送りいたします」とし、後日お役立ち情報をメールで送ることで接点を保つ。 その結果、再度提案の機会が得られる場合も多い。

調査結果

当社の調査によれば、「検討しますのでお待ちください」と返答するお客様のうち、86.3%は実際には追加で話を聞く意思がある。

「購買者の仮面」とは

営業現場で多く見られる「検討しますのでお待ちください」などの返答は、表面的なセリフであり、お客様の本音を隠す「購買者の仮面」である。

実際には、調査結果からも86.3%のお客様が特定の条件が満たされれば話を聞いてもよいと考えているが、それを営業に明確には伝えない。

防御反応としての「とりあえず」のセリフ

お客様は防御反応として以下のような「とりあえず」のセリフを口にすることが多い。

  • 「とりあえず、予算は決まっていなくて」

  • 「とりあえず、今は忙しいです」

  • 「とりあえず、すぐに見積もりをくれませんか」

  • 「とりあえず、もっと安くなりませんか」

  • 「とりあえず、社内で検討しますのでお待ちください」

これらの返答は、その場しのぎの仮面であり、営業がこの表面的なセリフをそのまま受け取って待っているだけでは成果にはつながらない。


「購買者の仮面」を外すことの重要性

営業が「お客様と関係構築しよう」と努力しても、「購買者の仮面」を外さない限り、その努力は空回りに終わる。

特に「ガンバリズムの罠」に陥った営業は、真面目に「言われた通りにがんばる」という姿勢に徹し、表面的なセリフに反応してしまいがちである。

最初の一歩としての「購買者の仮面」を外す

営業がまずやるべきは、お客様の「購買者の仮面」を外すこと。

これは、お客様と真の関係を築くために不可欠なステップであり、マネジャーが営業メンバーに伝授すべき重要な「武器」である。

「購買者の仮面」を理解する

「購買者の仮面」は、お客様が「心の中で本当に思っていること(=本音)」を隠し、防御反応としての表面的なセリフを口にするものである。

ケース① - 「はぐらかしの仮面」

お客様は、営業からのヒアリングに対して、どこまで情報を出すべきか迷い、「リスクやデメリットを避けたい」という心理が働くことがある。

このとき、お客様は「とりあえず、まだハッキリと決まっていなくて……」と答え、明言を避ける。 これは「はぐらかしの仮面」であり、お客様が本音を隠しつつ情報提供を控えるための防御反応である。

ケース② - 「忙しさの仮面」

お客様は、営業のレベルを見極めたいと考えているが、期待はずれの営業と会う時間を避けたいと感じている。

調査によると、お客様がもう一度会いたいと感じる営業は6人に1人にすぎないため、多くのお客様はまず「ガッカリ営業」を思い浮かべる。

このため、まだよく知らない営業からのアプローチに対して「今は忙しいので、まずは資料メールで送ってください」と返す。 これは「忙しさの仮面」であり、お客様が直接会うことを避けたいときに使う防御反応である。

ケース③ - 「いきなりの仮面」

お客様が社内検討のために、複数の会社から急いで見積もりを取る必要が生じた場合、「いきなりの仮面」を使って営業に接することが多い。

例えば、現場担当者が競合企業からの提案を上司に報告した際、決裁者から「他社からも見積もりを取ったのか?」と指摘されると、急ぎ他の会社(あなた)にも見積もりを依頼する。

この状況では、後から依頼を受ける営業に対して「今週中に提案をください」と急かし、コミュニケーションがぞんざいになる。 お客様は「話が早くて頼りになる会社に依頼したい」と心で考えており、これが「いきなりの仮面」となる。


ケース④ - 「とにかく安くの仮面」

お客様は、ビジネス環境の変化に伴う意思決定の難易度が上がり、発注先選定に確信を持つことが難しい状況に直面している。

本音では「判断基準がわからない」と感じているが、それを営業には伝えず、「価格を安く抑えれば大きな失敗にはならないだろう」という安心感を求める。 そのため「安くしてほしい」と要望を出しがちで、これが「とにかく安くの仮面」である。

ケース⑤ - 「検討しますの仮面」

お客様が営業からのクロージングに対して「イエス」や「ノー」と即答できない場合、「検討しますの仮面」を使って返答を先延ばしにすることが多い。

「ぜひご決断を」と促されたとき、詳細な状況やニュアンスを営業に伝えるのが面倒であり、「とりあえず少し考えたい」という気持ちがあるが、それを正直に伝えることは難しい。 そのため、お客様は「社内で検討しますので、お待ちください」と返答し、一時しのぎの現実逃避を図る。

お客様が「購買者の仮面」をつける理由

お客様が「購買者の仮面」をつけるのは、「楽だから」である。

営業と一定の距離を保つことで、負担やリスクを回避し、瞬間的に解放感を得るためである。

仮面をつける具体例

  1. 予算についてのはぐらかし
    営業から予算を尋ねられた際、お客様は本音で「ざっくりとでも目安を教えられる」状態でも、後々の面倒を避けるため「まだ決まっていません」と答えがちである。
    「正確な金額が変わるかもしれない」「見積もりが盛られる可能性がある」といったリスクを避けたい気持ちから、「御社がいくらでできるか教えてください」と言う方が簡単だからである。

  2. 営業のレベル判断を避けるための対応
    会ったことのない営業からのテレアポに対して、お客様は「優秀な営業なら会いたいが、そうでないなら会いたくない」と考える。
    しかし、営業の実力を見極めることは手間がかかるため、「今は忙しいので、資料だけいただけますか?」と答えることで、リスクを避けている。

仮面で自己正当化する心理

お客様は、そっけない対応をすることで良心が痛む場合もあるが、「購買者だから仕方ない」として仮面を使い、対応を心の中で正当化する。

これは「認知的不協和の解消」という心理現象であり、たとえば「ダイエットは明日から」と同じように、自分にとって都合の良い解釈で心のバランスを保っている。

「購買者の仮面」は、負担やリスクを避けて楽になるための逃げ道として機能しているのである。

「仮面」に対する表面的なアプローチは成果に結びつかない

お客様が「購買者の仮面」をつけている場合、表面的なセリフにそのまま対応しても成果は出にくい。

「購買者の仮面」は、一時的な逃げ道であり、課題解決の本来の目的を達成するものではないため、真のニーズに基づいた対応が必要である。

表面的なセリフへの一般的な対応とそのリスク

  • 「とりあえず、予算は決まっていなくて」
    予算感が不明なまま提案を出すと、金額や内容がずれ、失注のリスクが高まる。

  • 「とりあえず、今は忙しいので資料をください」
    通常の資料を送るだけでは、価値が伝わらず、アポイントに結びつかない。

  • 「とりあえず、すぐに見積もりをくれませんか」
    言われるままに見積もりを出すと、「当て馬」として扱われ、本命候補に昇格できない。

  • 「とりあえず、もっと安くなりませんか」
    値引きに応じるだけでは、「安さ」を求める顧客が増え、リピート率が低下する。

  • 「とりあえず、社内で検討しますのでお待ちください」
    待つだけでは受注につながらず、失注する可能性が高い。

ハイパフォーマーのアプローチ例

当社の営業調査によると、成果を上げる営業(ハイパフォーマー)は、単に言われたことを鵜呑みにせず、「お客様の裏にある目的や背景」を理解しようとする。

お客様の真意を引き出すアプローチ

  • 「予算が決まっていなくて」
    →「この金額を超えるとNGというラインを教えていただけますか?」と予算の感覚を探り、ずれのない提案を行う。

  • 「今は忙しいので資料をください」
    → お客様に合わせた事例を工夫して提示し、アポイントを引き出す。

  • 「すぐに見積もりをくれませんか」
    → 見積もりを迅速に対応しつつ、応答を速めて「話が早い営業」として信頼を勝ち取る。

  • 「もっと安くなりませんか」
    → 判断基準をお客様と議論し、費用対効果が感じられる提案を提供する。

  • 「社内で検討しますのでお待ちください」
    → お役立ち情報を提供し続け、チャンスを探り、反応があれば再度アプローチする。

ハイパフォーマー営業と「購買者の仮面」の裏側

目標が達成できないローパフォーマー営業は、「購買者の仮面」をかぶったお客様の表面的なセリフにそのまま応え、結果として壁にぶつかりやすい。

一方、ハイパフォーマー営業は「仮面の裏にある本音」を想像し、お客様が本当に求めていることに対して行動する。お客様が「購買者の仮面」をつけるのは防御反応に過ぎず、営業に対して冷淡な対応をすることには多少の良心の痛みが伴う。

ハイパフォーマーは、試行錯誤を通じて「購買者の仮面を外す方法」を見つけているため、行動量が成果につながる。

「仮面を外した状態」と関係構築の意義

お客様が「購買者の仮面」を外すことで、営業との検討プロセスが円滑に進むようになり、購買者としての本来の目的を達成しやすくなる。 この「仮面を外した状態」こそが「お客様と関係構築ができた状態」と言える。

OJTで言われる「お客様視点を持て」とは、お客様の表面的なセリフにただ従うことではなく、仮面の裏にある本音を見抜き、素顔のお客様と共に検討活動を進めることである。

正しくない努力の回避

仮面をつけたままのお客様に応え続けることは、営業が疲弊する「正しくない努力」にすぎない。仮面の裏を見抜き、本音で向き合うことで初めて、関係構築が成立し、成果が得られるのである。

「購買者の仮面」を外すことで効率が飛躍的に向上する

確率論的アプローチに頼る営業は、「数打てば当たる」と考えがちだが、仮面を外すことができない営業活動は効率が低下し、途中で挫折しやすい。

確率論的アプローチの落とし穴

確率論的アプローチは、一見合理的に思える。 たとえば、100人にアプローチすれば5%のニーズ顕在顧客に出会え、その中の20%が受注に至ると考える。 しかし、この前提は「1件1件のアプローチの質が一定以上であること」が必要である。

大量アプローチでも、テンプレートに頼った質の低い営業では、お客様にスルーされ、実際の確率はどんどん下がる。 確率論的アプローチで成功するのは、質の高い活動を実現し、「購買者の仮面」を外せる営業だけである。

成功体験とプラスのスパイラル

質の高い行動ができる営業は、100件のアプローチから1件、さらに2件と受注率を上げ、効率の向上によって仕事への意欲が高まる。 成功体験を得た営業は、大量行動がプラスのスパイラルを生み、さらなる成果を目指して次のステージに進む。

確率論に頼るローパフォーマーの悩み

成功体験がない営業は、頭では確率論的アプローチを理解しつつも、無意識に「楽に成果が出る方法」を探しがちである。 しかし、行動の質を上げない限り成果は上がらない。 「購買者の仮面」を外せる技術を磨き、効率を向上させることが不可欠なのである。

成果をあげるフレームワークの盲点

営業活動で成果を出すための便利なフレームワークとして「不信・不要・不適・不急の壁を越える」と「Why you・Why me・Why now」があるが、これらには盲点がある。

フレームワークの壁と対策

  1. 不信の壁
    お客様が営業に対して基本的な信頼を持たない状態。この壁を越えられないと商談が進展しない。 ほとんどの場合、「自分や会社の信頼性を紹介する」程度でしか対応できず、有名企業でない限りは十分な安心感を得てもらうのが難しい。

  2. 不要の壁
    お客様が「今は必要ない」と考えている場合。
    潜在的な課題を浮き彫りにし、「なぜ御社にコンタクトしたのか(Why you)」の理由を明確にすることが重要。

  3. 不適の壁
    お客様にはすでに他社があり、「間に合っている」と感じている場合。
    自社の競争優位性や差別化ポイントを「なぜ当社を選ぶべきか(Why me)」で示す必要がある。

  4. 不急の壁
    商品やサービスが必要と認識されていても、購入のタイミングが今ではないと感じられている場合。
    購買の緊急性・重要性を伝え、「なぜ今なのか(Why now)」の理解を促すことが求められる。

「不信の壁」に潜む課題とその影響

「不要・不適・不急の壁」は明確な対策がフレームワークで示されているが、「不信の壁」は抽象的な対策にとどまりがちである。 信頼を築くために「行動量を増やして関係構築を」といった一般論になりがちで、具体的な突破方法が提示されていない。

特に有名企業でない営業にとって、この壁を越えることは困難であり、ここで「購買者の仮面」を外せる具体的なアプローチがなければ、関係構築のスタートラインにも立てず、営業活動が手詰まりとなる。

「購買者の仮面を外すスキル」は誰でも磨ける

「購買者の仮面を外すスキル」は特別な才能ではなく、訓練次第で誰でも身につけられるものである。

ローパフォーマー営業も、お客様から距離を置かれていることには気づいているが、「がんばる」以外の具体的な行動がわからず、表面的な対応に従ってしまいがちだ。 「ガンバリズムの罠」に陥る組織では、結果が出ない営業メンバーが一生懸命応えても、上司からさらに「もっとがんばれ」と指示される状況が続く。

成果を出す組織と「勝ちパターン」

一方、成果を上げる組織では「購買者の仮面を外す行動」が「勝ちパターン」として明確に認識されており、プロセスが見える化されている。 営業活動の中で仮面が外せているかを確認し、必要に応じて支援や介入が行われる。

営業1万人調査では、「勝ちパターンがある」と回答した目標達成チームは9.2%、目標未達チームは39.6%と大きな差があり、「勝ちパターン」の有無が組織の成果に直結している。

「購買者の仮面を外すスキル」を身につける重要性

「購買者の仮面を外すスキル」は超人だけができるミラクルではなく、適切な方法と支援で磨けるスキルである。

次章からは、4万人以上の営業支援経験をもとに、「ガンバリズムの罠」から脱し、「購買者の仮面を外す」具体的なやり方を解説する。

第2章まとめ

お客様から出てくる「表面的なセリフ」と「裏側にある本音」のギャップを理解しないと、営業の成果は出ない。

お客様は、防御反応として以下のようなセリフを口にする(=「購買者の仮面」)。

  • 「とりあえず、予算は決まっていなくて」(はぐらかしの仮面)

  • 「とりあえず、今は忙しいです」(忙しさの仮面)

  • 「とりあえず、すぐに見積もりをくれませんか」(いきなりの仮面)

  • 「とりあえず、もっと安くなりませんか」(とにかく安くの仮面)

  • 「とりあえず、社内で検討しますのでお待ちください」(検討しますの仮面)

お客様が購買者の仮面をつける理由は、営業と一定の距離を保ち、負担やリスクから一時的に解放されるためである。

営業がまずやるべきなのは「購買者の仮面を外してもらうこと」である。これはお客様と関係構築をする上で重要な一歩であり、営業マネジャーが教えるべき「武器」となる。

営業1万人の調査によると、ハイパフォーマー営業は仮面の裏にある本音を捉え、次のようにアプローチしている。

  • 「とりあえず、予算は決まっていなくて」
    →「提案がズレないよう、『この金額を超えたらNG』のラインを教えていただけますか?」と尋ね、予算感を把握してから提案を行う。

  • 「とりあえず、今は忙しいので資料をください」
    →事例提示をお客様に合わせて工夫した資料を提供し、アポイントに繋げる。

  • 「とりあえず、すぐに見積もりをくれませんか」
    →見積もりを迅速に送るだけでなく、高速なやりとりを続け「話が早い営業」と思わせ、信頼を勝ち取る。

  • 「とりあえず、もっと安くなりませんか」
    →お客様と判断基準を整理し、費用対効果が見える提案を行う。

  • 「とりあえず、社内で検討しますのでお待ちください」
    →役立つ情報提供を続け、チャンスが訪れた時に再アプローチを行う。

「購買者の仮面」を外すことで、営業とお客様は共に検討プロセスを進めることができる。

成果をあげる営業組織では、この「仮面を外す行動」が「勝ちパターン」として認識され、プロセスの見える化により、必要に応じて支援や介入が行われている。




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