【備忘録】『成果を生み出す力』を伸ばす: 実践!チームマネジメント研修② 人を育て、人を活かす 実践シリーズ
(1)人材育成のアプローチを使い分ける
人を育てるというテーマについて
『人を育てる』というテーマは、『成果を生み出す力』を伸ばすことが主な意味合いである。
具体的には、レベル1をレベル2に、レベル2をレベル3にと、段階的に成長させることが目的である。
人を育てる際には、相手のレベルに応じてアプローチを変える必要がある。
多くの人は、「こうすれば必ず人が育つ」といった固定的な方法を求めがちであるが、理論的に考えれば、そんな魔法のような手法は存在しない。
育成のアプローチは、相手の状態やレベルに応じて変わるべき。
育成のアプローチの重要性
人それぞれのレベルに応じて、アプローチを変えることが大切である。
このためには、まず相手の状態を把握することが必要である。
講師は、画一的な育成方法ではなく、個々の状況に合わせたアプローチが有効である。
例えば、ある新入社員が入社したばかりの状態では、基本的な知識やスキルが乏しい。この場合、細かい指導やサポートが必要である。
一方で、ある程度経験を積んだ社員には、より自主的に課題に取り組ませ、自己解決能力を養うアプローチが求められる。
①レベル1からレベル2へ 『Howのティーチング』
レベル1からレベル2への育成
「まずはレベル1からレベル2に引き上げるところから始めましょう」この段階で、特に強調された言葉が『ティーチング』であった。
『ティーチング』とは「教える」という意味であり、最近では人材育成において必ず強調される言葉。
これに対して『コーチング』は、相手に問いかけて自ら考えさせるアプローチであり、日本でもこの十数年で急速に普及してきた考え方である。
『コーチング』自体は非常に有効な手法であるが、一部の人々が「ティーチングは効果的ではなく、コーチングこそが人材育成に有効だ」と誤解していることが目立ってきている。
ティーチングとコーチングの使い分け
ティーチングとコーチングが対義語ではなく、相互に補完し合うものであり、どちらか一方を選ぶ必要はないと強調した。
育成する相手のレベルに応じて使い分けるべきであるという。
当たり前の話だが、コーチングの流行により、この区別が曖昧になりがちであるため、注意が必要である。
たとえば、レベル3以上の相手には『コーチング』のアプローチが有効である。
これは、レベル3で初めて「思考する」というプロセスが必要になるから。
一方、レベル2やレベル2.5の段階では、まだ知識や経験を蓄積する段階にあり、思考によって答えを導くよりも、ティーチングによって覚えることが優先される。
「考えるより、覚えた方がよいレベルである」と説明し、レベルに応じたアプローチの重要性が大事。
ティーチングとテストの区別
「知識が身についたかどうかを確認するために、問いかける形でコーチングが有効なのではないか?」
もともとのコーチングの定義は、「自ら考えて答えを見つけ出すプロセス」であるため、覚えた知識を確認するための問いかけは『テスト』と呼ぶ方が整理しやすい。
具体例として、「鎌倉幕府が成立したのは西暦何年か?」という質問を挙げ、これはコーチングではなくテストであると説明した。
新入社員に仕事を覚えてもらう段階では、ティーチングやテストのアプローチがより有効である。
問いかけることすべてをコーチングと定義してしまうと、テストと混乱し、相手のレベルに応じた適切な育成が困難になる。
コーチングとティーチングの役割
最終的に、コーチングは考えさせるプロセス、ティーチングは暗記させるプロセスと捉えることで、育成方法の区別が明確になる。
相手の成長段階に応じた育成アプローチを使い分ける。
ティーチングのコツ
ティーチングには「コツ」がある。
ただし、そのコツとは単に暗記法などの技術的なものではなく、レベル2に引き上げる際に、後の成長を見据えた工夫である。ティーチングの段階でしっかりと目的や背景を教えることで、レベル2からさらにレベル2.5やレベル3へと成長しやすくなる。
「仕事を教える際には、作業や手続きの方法だけでなく、なぜそれが必要なのか、なぜそういうやり方をするのかという背景を教えなさい」
非常に重要なポイントである。
レベル3への壁
レベル2に到達することは多くの人ができるが、そこからレベル3に進むには大きな差が生まれる。
同じような思考力を持っている人でも、スムーズにレベル3になれる人と、立ち止まってしまう人がいる。その違いは何なのか?
レベル3とは、問題や異常に対して自分で考え、判断し、実行できる人である。
一方で、レベル2の人は、波風が立っても覚えた知識通りの対応しかできず、問題を解決することができない。
波風に気がつけないレベル2の人
「なぜ、波風が立っているのにいつも通りのやり方を押し通してしまうのか?」
「そもそも波風が立っていることに気づいていない」という問題がある。
レベル2の人は、異常や問題が発生していることを認識できない、またはその異常に対応する必要があることに気づけないのである。
市役所での具体例
ある市役所の窓口での業務改善プロジェクトの例を紹介した。
この市役所は、これまで「お役所的」な対応をしていると批判されていたが、市政方針の転換に伴い、サービスの向上が求められた。
講師が窓口を観察していると、17時ギリギリに工務店の担当者が駆け込んできた。
まだ窓口が開いていることに安堵しながら書類を取り出している最中、終業チャイムが鳴り、窓口担当者が「本日の受付は終了しました」と言い席を立った。
この状況を目撃した講師は、窓口担当者に「なぜ受け付けなかったのか?」と尋ねたが、その担当者は「窓口は17時までだから」と答えた。
さらに「目の前にお客様がいたのに、なぜ?」と質問すると、担当者はキョトンとした表情で答えられなかった。
この担当者は、状況を認識していなかったのである。
目には入っていたものの、それが自分の仕事に関係するものだと認識できなかった。
レベル3になれない原因
この事例からわかるように、レベル2の人がレベル3になれないのは、行動の発生過程の最上位である「状況認識」ができないからである。
波風が立っていても、それが自分に関係していると気づけなければ、対応しようという意図も持てない。
レベル3に育てるためには、まずこの「状況を認識する力」を育てる必要がある。
ティーチングのコツとは
ティーチングには単なる知識の伝達だけでなく、状況や意図、思考を説明することが重要である。
なぜそれが必要かというと、マニュアルや知識の前提となる状況を理解することで、状況が変化した際に気づきやすくなり、対応できるようになるからである。
例えば、17時に窓口を締める理由を理解していないと、状況の変化に気づけず、ただルールを守るだけの対応に終始してしまう。
講師は、このような背景を伝えることがレベル3への成長を促すために重要だと強調している。
具体例:市役所での改善事例
講師は市役所の窓口業務改善プロジェクトの例を紹介する。
以前は、17時に窓口を締めるというルールが厳格に守られていた。
その背景には、人口が増え続け、効率よく手続きを処理する必要があったという状況があったため、ルールに従うことが合理的だった。
しかし、現在は人口減少に直面し、市民の不満を減らすためのサービス向上が求められているという状況に変わっている。
この状況変化を理解していないと、以前のルール通りに機械的に対応し、サービスの向上が妨げられてしまう。
窓口担当者に対し、この背景を説明したところ、担当者は「そういう取り組みだったのですか」と納得し、状況に応じた柔軟な対応が必要であることを理解した。
これにより、担当者はレベル3に近づき、自分で考える力を身につける入り口に立った。
マニュアルの問題点とその改善
一般的なマニュアルが「どうしてそのような指示があるのか」という背景や意図を説明していないことが問題である。
例えば、プログラミングの際に「一行空けろ」「右側を開けろ」という指示は、後から他の担当者がプログラムを読みやすくするためのものだが、その理由が明記されていないと、単なる形式的なルールとしか受け取られない。
状況や意図をきちんと説明すれば、より柔軟で工夫のある対応が可能になると述べ、マニュアルに意図を含めることの重要性を訴えた。
ティーチングの意図説明の重要性
ティーチングの際に、ただ方法や手順を教えるだけではなく、「なぜそのように行うのか」をきちんと伝えることで、状況が変わった際に自分で考える力を育むことができる。
こうした背景説明によって、レベル2からレベル3へと成長しやすくなるため、意図や状況の説明は育成において欠かせない要素である。
②レベル2からレベル3へ 『Howのコーチング』
レベル2.0からレベル3.0へ進むためのステップ
講師は、レベル2.0に到達したら次に目指すべきはレベル3.0であると述べる。
この段階で重要なのは、**「飛ばすなよ」**ということだが、ここで説明されるのは、レベル2.5への育成は基本的には必要ないという点である。
レベル2.5という段階は存在するが、特別にその段階に育成する必要がないという理由を理解した上で、レベル3.0の育成に進むことが重要。
レベル2.5での問題解決
レベル2.5とは「経験を適用して問題解決ができるレベル」であり、経験を積むことで自然に到達する段階だと説明する。
経験が使える状況では、経験をもとに迅速に解決策を見つけ出せるため、経験が早道である。
では、レベル2.5で問題解決ができるようになるためには、何が必要か?講師は、「経験を積ませること、つまり仕事を与えること」が唯一の方法であると強調する。これにより、様々な波風を経験し、その中で成長していく。
初めての問題に直面したときの必要な力
しかし、経験のない人が初めて出会う波風や問題を解決するためには、自分で考えて解決策を見つけ出す力が必要であると講師は説明する。この力こそがレベル3.0で求められるものである。レベル2.5は、単に経験を積んでそれを適用する力を指し、レベル3.0とは異なる。
講師は、レベル2.5を目指して育てるものではなく、経験を積む過程で自然に到達する段階だと述べ、初めて直面する未知の問題に対応できるようになるために、レベル3.0を目指す育成が必要だと強調する。
レベル2.0からレベル3.0へのストーリー
レベル2.5とは、レベル2.0に「経験という知識」が積み上がった状態に過ぎず、あくまで中間点である。講師は、レベル2.0に到達したら次に目指すべきはレベル3.0であり、その育成を行うべきだと述べている。経験だけでは解決できない未知の問題に直面した時、自ら考え、解決策を導き出す能力を養うことがレベル3.0への育成の本質である。
このように、レベル2.5は自然に経験を積む過程で到達し、目指すべきは常にレベル3.0であるという育成のストーリーが描かれている。
レベル3.0を育てるアプローチ
講師は、レベル3.0の育成にはティーチングではなくコーチングのアプローチが必要だと説明する。レベル3.0の人材は、問題や異常に自ら対応し、考え、判断し、成果を出せる力を持つ。ティーチングで知識を覚える段階を超え、自ら思考して方法論を考え出すプロセスを育てる必要があるため、この段階ではコーチングが有効である。
レベル3.0の育成では、単に知識を教えて覚えさせるのではなく、状況に合わせて思考させることが求められる。思考とは、意図を実現するための方法論を考えるプロセスであり、**「Howのコーチング」**というアプローチが求められる。
コーチングとティーチングの使い分け
受講者からの質問「仕事の指示を与える際、細かい指示を与えるのがティーチング、意図やゴールを示してやり方を任せるのがコーチングと言えるか?」という問いに対して、講師はこれを肯定した。
ティーチングは具体的なやり方を教えることであり、相手がレベル2.0に達していない場合には、細かく指示を与えることが必要である。一方、相手がレベル2.0や2.5に達している場合、細かいやり方を教えるのではなく、意図やゴールを示し、相手に考えさせることが重要であると述べた。
相手のレベルに応じた指示の出し方
講師は、細かい指示を与えることが必ずしも悪いわけではなく、逆に相手のレベルに応じて指示の方法を変えることが重要だと強調する。相手がレベル2.0に達していない場合には、具体的にやり方を教えることが必要である。しかし、相手がレベル2.0や2.5に達している場合には、細かく指示するよりも、自分で考えてやらせる方が良い結果を生む。
日常の仕事での育成
人材育成は、日常の仕事の中で行うことが最も合理的であると講師は説明する。仕事を与える際に、相手のレベルに応じた指示を与えることで、部下の成長を促すことができる。このように、日常の仕事のシーンでコーチングを取り入れることで、レベル3.0の育成が効果的に行われる。
講師は、「仕事を与えるシーンは、上司にとって部下育成の腕の見せ所」と締めくくり、適切なコーチングの実践が重要であると説いた。
レベル3.0の育成におけるコーチングの留意点
講師は、向坂さんからの質問がレベル3.0を育てるコーチング、すなわち「Howのコーチング」のコツを説明する上で非常に有益だと述べる。ここでの大切なポイントは、仕事を指示する際に必ず伝えるべき内容、すなわち「状況」と「意図」を明確に示すことだ。
レベル3.0を目指す段階では、自ら異常に気づき、周囲の期待や意図を想定し、方法論を考えられることが重要である。行動発生過程を自己完結的に進められる人材が目標だが、この力をいきなり身につけるのは難しいため、段階的なアプローチが求められる。
Howのコーチングの段階的アプローチ
1. 状況と意図を示す
まずは、状況と意図をこちらから示すことが重要だ。今の状況が普通とは違う、問題や異常があるという点を相手に理解させ、その上で「この状況をどう変えたいか」を示す。この段階で、方法論は相手に考えさせる。具体的には、「この状況を変えるためにどんな方法があるか」を問いかける形で、考えさせることでコーチングを行う。
このように、状況と意図を明示した上で、方法論を考えさせることが最初のステップである。
2. 意図から問いかける
次に進むステップとして、相手が状況を理解し、方法論を考える力がついてきたら、次は「状況だけを示し、意図の部分から問いかける」段階に進む。例えば、「今はこういう状況だけど、これをどういう状況に持っていけばいいと思う?」と問いかけ、相手に意図を考えさせる。
相手がその問いに答えたら、さらに「その意図をどう実現するか」という方法論に関してコーチングを行う。このように段階を踏んで、状況から意図、そして方法論へと繋げる形で相手の思考力を鍛える。
3. 見守りの段階
最終段階では、問いかけることをやめて見守る。状況を示すが、それに対して自発的に適切な意図と思考が働くかどうかを観察する。ここでは、「相手が自分で気づくかどうか」をチェックすることがポイントだ。
例として、17時ギリギリに駆け込んできたお客様の対応を挙げ、マニュアル通りに対応してはいけない状況に気づけるかどうかが重要だと説明する。この段階では、問いかけてしまうとヒントを与えてしまうため、そっと見守り、相手が気づけるかどうかを確認する。
コーチングの繰り返し
もし相手が状況に気づけなかった場合は、再度コーチングを行い、状況と意図を伝え続ける。これを繰り返すことで、相手は「こういう状況には対応しなければならないんだな」ということを自分で気づけるようになる。講師は、最終的に相手が自発的に問題に対応できるようになるまで、フォローを継続することが必要だと述べた。
③レベル3からレベル4へ 『意図を高める』
レベル3.5と4.0へのステップアップ
講師は、レベル3.5から4.0へのステップアップについて、育成アプローチに大きな違いはないと述べ、これらのレベルを一緒に扱う形で説明を進めた。これまでのレベル1.0から3.0にかけては、行動発生過程のロジックに基づいて、それぞれの段階に応じた育成アプローチが紹介されてきたが、次のステップでは、これまで培った思考力や状況認識をさらに発展させることが目的である。
レベル3.0からレベル3.5、4.0へのアプローチ
講師は、レベル3.0に達した時点で、異常や問題に対応できる力を持つようになったことを前提としている。この次の段階であるレベル3.5、4.0へのステップアップを考える上では、これまでのコーチングアプローチに加えて、より高度な思考や自発的な行動を促すことが求められる。
そこで、講師は受講者に対し、どんなアプローチが有効かを話し合うように提案した。
レベル3.5・4.0のステップアップにおける意図の高め方
講師は、レベル3.5と4.0へのステップアップを目指す際に重要となるのは、相手の意図を高めるアプローチだと述べる。ここでの意図とは、単なる目標設定や行動計画を超えた、内的な動機づけを指しており、従来のテクニカルなスキルや知識の育成とは異なる側面が強調される。
意図=動機づけ
レベル3までの育成は、知識や経験、思考力といったテクニカルな要素が主であり、それに応じた学習やトレーニングが中心であった。しかし、レベル3.5以上になると、単に学習やトレーニングでは到達できない領域に入る。ここでは、相手が**高い意図(動機)**を持てるかどうかが鍵となる。
例えば、年収1,000万円の人に対して「さらに上を目指すならいくらを目指すか?」と問いかけても、答えが出てきたとしてもその目標に対して全力で考え、行動するには動機づけが必要だと講師は説明する。動機づけがないと「そうなればいいな」と思うだけで行動に移せないことが多く、結果的に普通の人として終わってしまう。
動機づけを高めるアプローチの必要性
単に目標や意図を考えさせるだけでは、行動発生過程を動かすには不十分であるため、動機づけを高めるアプローチが必要だと講師は強調する。これは個人ごとに異なり、また状況によっても異なるため、誰にでも当てはまる普遍的な方法はないが、講師が現場で効果を確認した動機づけを高めるためのアプローチが存在する。
動機づけの源泉の分析
動機づけは人それぞれであり、その時の状況によっても変化する。ある時には非常にモチベーションが高まり、成果を目指そうと意欲が湧くのに、他の時にはそうならないことがある。このように、動機づけには場面ごとの特異性があり、状況との相性が重要な要素となる。
講師が紹介する「動機づけの源泉の分析」は、その人が動機づけられる条件を見つけ出すアプローチである。これにより、その人にとってどのような状況で動機づけが高まりやすいのかを明らかにし、より高い意図を持たせることが可能になる。
モチベーション・カーブの活用
講師は、モチベーション・カーブが新入社員研修や若手の研修に取り入れられている大企業の例を挙げ、この手法がいかに役立つかを説明する。この手法の目的は、気持ちや動機づけのような言語化しにくいものを言語化しやすくするためであり、抽象的な概念を具体的に考えやすくするためのツールとして活用されている。
モチベーション・カーブを取り入れることで、個人が自分の動機づけや意欲の変化を可視化できるようになり、その結果、自分自身や周囲の人々がその状況を理解しやすくなる。
抽象的なものを言語化するための二つの方法
講師は、抽象的なものを言語化するために使われる方法として、よく活用されている二つのアプローチを紹介しようとしている。この部分は、具体的にどのようなツールや手法が使われているかを説明する前段階であり、受講者に向けて今後の説明をさらに深めるための導入となる。
このアプローチは、動機づけや感情のような目に見えない要素を可視化し、明確にするために活用され、研修やコーチングにおいて効果的に利用されている。
『映像化』『数値化』
イメージを映像化・数値化して言語化する方法
講師は、モチベーション・カーブを例に、抽象的な感覚や動機づけを具体化し、言語化するための方法を説明する。ここで示されたアプローチは、まずイメージを映像化または数値化することで、考えを具体化し、言語化を促進するものである。
例えば、「今、何%くらい幸せか」という問いかけによって数値化すると、漠然としていた感覚が具体化される。そして、その数値を見ながら「マイナスの要素は何か?」と考えることで、最初のイメージが修正されることもある。こうしたアプローチを使うと、ぼんやりした感覚が具体的に整理され、より正確な自己認識が可能になる。
モチベーション・カーブの活用
さらに、ある瞬間の状態を振り返るだけでなく、一定期間の動機づけの変化を視覚化する方法として「モチベーション・カーブ」が紹介された。これは、時間軸を横軸、モチベーションの高さを縦軸にとり、過去のモチベーションの変動を時系列で視覚化するツールである。
横軸は時間の経過(例:入社から現在まで)。
縦軸はモチベーションの高さ(ポジティブな時期は上、ネガティブな時期は下)。
参加者は、入社時のモチベーションを思い出し、その後のモチベーションの変動を曲線で描いていく。この作業によって、自分のモチベーションがどのように変化してきたか、具体的に振り返り、可視化することができる。
動機づけの源泉を見つける
モチベーション・カーブを使った作業の後、講師は重要なポイントを強調する。動機づけの源泉は人によって異なり、自分自身のことですら、振り返ってみないと本当の動機づけの要素は気づけないことが多いという点である。
このワークを通じて、参加者は自分がどのような状況でモチベーションが高まるのかを具体的に振り返り、言語化してまとめることができる。言語化することで、無意識だった動機づけの要因を自覚し、次のステップでの行動につなげることが可能になる。
衛生要因と動機づけ要因の識別
講師は、動機づけの源泉には二通りの要因があると説明し、それを衛生要因と動機づけ要因に分類した。これを正しく理解することが、自己分析や部下の育成において非常に重要なポイントである。
衛生要因
衛生要因とは、動機づけを下げないための要因を指す。これらは不満を防ぎ、不快感を抑えるために必要なものであるが、充足してもポジティブなモチベーションを生むことはない。
例: 給与、労働条件、仕事の安定
満たされないと不満が生まれるが、満たされたからといって積極的な動機づけにはならない。
例えば、休憩なしに長時間働かされると不満が募り、モチベーションが下がる。しかし、休憩が取れたからといって、それ自体がモチベーションの大幅な向上につながるわけではない。
動機づけ要因
動機づけ要因は、その名の通り、満たされることでモチベーションが上がる要因を指す。これがあると、個人が意欲的に行動し、成果を目指す動機となる。
例: 認められること、成長感、新しい挑戦
満たされると動機づけが上がるため、目標達成に向けて積極的な行動を引き出す。
お金に関する動機づけの誤解
講師は、特にお金に対する動機づけについて誤解が多いことを指摘した。多くの人が「高い報酬をもらえればモチベーションが上がる」と考えるが、実際にはお金は主に衛生要因として働き、その効果は限定的である。
たとえば、成果に対してボーナスを上乗せすると一時的には盛り上がるが、その後、実際に行動に結びつくかというとそうでもないケースが多い。しかし、もしそのボーナスが支払われないと、不満や怒りが生まれ、モチベーションは大きく低下する。
レベル4.0の動機づけとストーリー
さらに進んだレベル、特にレベル4.0の領域における動機づけは、単なる外的報酬ではなく、内的な欲求に基づくものが重要となる。お金を目的とせず、お金をスコアのように捉える人々や、世の中に認められたい、価値のあるサービスを提供したいというような、本質的な動機づけ要因が背後にある人は、より高い成果を目指す。
ここでのポイントは、自分の動機づけの源泉を正しく理解し、それを仕事のストーリーにつなげることだ。たとえば、従来の限界を超える成果を出すためには、自分自身が「これを実現したい!」という強い思いが必要であり、その思いが行動を支える根源となる。
動機づけの源泉を引き出す対話
講師は、動機づけの源泉を見つけるためには対話が重要であると説明し、ペアを組んでお互いにモチベーションカーブの上下動の原因について紹介し合うよう指示した。聞き手は、「なぜ?」と問いかけて、相手の心の奥底にある動機づけの源泉を引き出す手助けをする。
このプロセスで、個人が無意識に抱いている動機づけ要因が表面化し、自分でも気づいていなかった本質的な動機づけに気づくことができる。
意図の志向性と場面特異性
講師は、意図の志向性が動機づけに大きく関与していると述べる。例えば、動機づけ要因が「誰かに喜んでもらう」「感謝されたい」といったものなら、それに合った場面では意図が高まりやすい。一方、「達成感」が動機づけ要因であれば、達成感が得られる場面で高い意図を持ちやすい。
ただし、動機づけ要因だけでレベル4を目指すことは難しく、周囲の環境も重要な影響を与える。ここで、3つの重要な環境要因として自己効力感、自己決定感、社会的受容感が挙げられた。
3つの環境要因
1. 自己効力感
自己効力感とは、「自分ならできる」という感覚を指し、チャレンジに対する期待感を持つことが高い意図を引き出すポイントとなる。自己効力感があると、まだ試したことがなくても「できるかもしれない」という期待が行動の原動力になる。
2. 自己決定感
これは、自分で選び、決める感覚であり、自分自身が行動や目標に対してコントロールを持っている感覚が重要である。自己決定感が強いと、自分の意志で進めることに対するやる気が高まる。
3. 社会的受容感
社会的受容感とは、自分が周囲から認められ、受け入れられているという感覚であり、これは個人のモチベーションに大きく影響を与える。周囲に評価されているという感覚があると、さらに高い意図を持ちやすい。
自己効力感を高めるためのステップ
講師は、自己効力感を高めるための方法として、「千里の道も一歩から」というアプローチを紹介した。これは、いきなり高い目標を目指すのではなく、まずは身近なゴールを達成し、その成功体験を積み重ねていくことで、少しずつ自己効力感を高めていく方法である。
身近な目標を設定し、達成する
達成できたら、次は「もう一歩」を目指す
小さな成功体験を積み重ねることで、自己効力感が高まり、「もっとできるのではないか?」という期待が生まれる
これにより、徐々に目指すレベルが引き上がり、結果的にレベル4に到達することが可能となる。
PDCAの重要性
講師は、成果を生み出す行動原理であるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を繰り返し行うことが、自己効力感を高めるためにも有効だと述べる。PDCAによって徐々に成果を高めていくことが、最終的に高い意図を持ち、より大きな成果を目指す原動力となる。
自己効力感を高めるための子供へのアプローチ
講師は、子供のやる気を高める際に、自己効力感を意識したアプローチが有効であると説明した。特に、受験などの高い目標を初めから持てる子供は少なく、いきなり大きな夢や高いゴールを目指すことは難しいとされている。そのため、まずは小さな目標を設定し、その達成を通じて自己効力感を育てることが大切である。
小さなゴールを設定する
具体的には、子供にとって達成できそうな目先のゴールを提案する。例えば、「次の漢字テストで80点を取ろう」というように、比較的身近で現実的な目標を設定する。この目標に向かって取り組む過程を通じて、自分の努力が成果につながるという感覚を確認させることがポイントである。
成果と努力を結びつける
大切なのは、ゴールを達成できなくても、努力した結果が少しでも反映されたことを実感させることだ。例えば、今まで40点しか取れなかった子供が、50点に上がったなら、それが努力の成果であることをしっかりと確認させる。そして、「この方法でやれば、もっと点数が上がるかもしれない」と、次のステップに向けて前向きな期待を持たせることが重要である。
叱らないことの重要性
よくある注意点として、講師は「叱らないこと」が非常に重要だと強調する。たとえ目標の80点に達しなかったとしても、そこで叱ってしまうと、子供の自己効力感を損なう可能性が高い。子供が自分の努力と成果のつながりを感じられるよう、ポジティブなフィードバックを与え続けることが、やる気を持続させ、自己効力感を高めるための鍵である。
自己決定感を高めるアプローチ
講師は、自己決定感とは「自分で決めて取り組んでいる」という認識であり、これが高い意図や動機づけにおいて重要な要因となると説明する。自己決定感を高めるためには、以下の二つのアプローチが有効である。
1. 自分で決める機会を与える
これは、直接的に自己決定感を高める方法であり、個人に選択肢や決定権を与えることで、自分で納得して取り組む感覚を育てる。
2. 必要性や取り組む価値を、納得できるように説明する
講師は、単に説明するだけではなく、実際に経験させることが効果的だと強調する。つまり、言葉で理解を得るよりも、実体験を通じて気づきを与えることで、自己決定感を自然に高めることができる。
失敗や成功を体験させるアプローチ
講師は、説明を通じて納得させようとするよりも、あえて失敗や成功を体験させることが有効だと述べる。以下のようなアプローチが挙げられる。
1. 失敗や問題を経験させる
相手が「この方法でうまくいく」と考えている場合、その意見を尊重して実際にやらせてみる。もし失敗すれば、相手自身がその方法ではうまくいかないと体感し、納得して次のステップに進むことができる。
2. 実験的に成功を体験させる
小さなスケールで実施して、成功体験を与える。成功すれば、その経験をもとに自己効力感が高まり、さらに欲が出て次のステップに進む意欲が生まれる。
PDCAサイクルと自己決定感の関係
講師は、自己決定感を高めるには、実験的に取り組ませ、成功や失敗を体験させることが重要だと述べる。これにより、自然とPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)が回り始める。小さな成功体験を積み重ねることで、次第に大きな成果を目指すようになり、やがてレベル4のような高いパフォーマンスを発揮するようになる。
千里の道も一歩から
このプロセスは、「千里の道も一歩から」という考え方に基づいており、最初は小さなステップから始めて徐々にスケールを大きくし、成功を積み重ねることで、最終的に従来の限界を超えるようなレベルに達する。
講師は、自己決定感や自己効力感を高めるために、小さな挑戦を繰り返し、少しずつ大きな目標へと進めることの重要性を強調している。
社会的受容感とその意義
「社会的受容感とは、単純に言えば、自分という存在や自分のやっている取り組みが周囲から受け入れられているという感覚です」と講師が説明した。社会的受容感は、他者から信頼され、取り組みが支持されているという確信を持つことを指す。
この感覚が本人に伝わっていない場合、どれだけ周囲が受け入れていたとしても意味がないと講師は強調する。「どんなに周りが信頼し受け入れていたとしても、その気持ちが本人に届かなければ意味がありません」という言葉に、本人の感じ方が大きな影響を持つことが示されている。
質問に対して、「たとえば周りが受け入れていなくても、本人が勘違いして高い意図を持って取り組むことがあるのか」という問いが出された。これに対し、講師は「そうですね。実際、そういう人は存在します」と答えた。事例として、周りが早く仕事を終わらせたいと考えている中で、本人は自分の行動が良いことだと勘違いし、高いレベルを目指して全力で取り組んでいる様子を挙げた。
しかし、こうした誤った認識は周囲に迷惑をかけることもあるため、注意が必要であると説明された。
レベル4の定義とその要件
次に、レベル4の定義について整理が行われた。レベル4とは「目の前の状況に対して、その制約条件や環境に妥協せず、より高い差別化された意図を持つ」ことであり、そのためには制約や環境を克服する必要がある。より高い思考力や行動力が求められ、従来よりも高い成果を出す環境を作り上げることが必要となる。
また、ホワイトボードに書かれた「自己効力感、自己決定感、社会的受容感」の三要素が意図を高めるために必要であることが強調された。これらは内的アプローチであり、訓練や覚え込みによって高められるものではないという点がポイントである。
意図の開発とレベル4の関係
意図の開発はレベル4には不可欠であるが、それだけでレベル4と評価されるわけではない。例えば、組織のニーズが売上を上げることである場合、いくら「世界平和のために愛を目指そう」という高い意図を持って努力しても、会社ではレベル4とは評価されない。
さらに、「どんなに正しい方向性で意図が高まったとしても、その人が十分な思考力や問題解決力を持たなければ、レベル4にはなりません」と講師は強調する。意図が高まっても、それを実現するための方法を提示できない場合、評価は低くなる。自分は正しいと信じていても、周囲がその意図を受け入れていなければ、周囲からの協力も得られない可能性がある。
三つの要素の役割
最後に、自己効力感、自己決定感、社会的受容感は動機付けを高めるために有益な要素であるが、これらが満たされたからといってレベル4に到達するわけではないと注意が促された。「これらはレベル4を発揮するための原動力であり、意図の開発に寄与する要素である」というのが講師の結論である。
④レベル4からレベル5へ 「わかりません。」
レベル5の育成に関する限界
講師は、レベル5の育成方法についての議論を始めたが、「これと言ってお伝えできる開発方法がありません」と率直に述べた。その背景には、レベル5を育成するためには「状況想定力を高める必要がある」という理屈がある。世の中がどう変化し、どのような技術やニーズが生まれるかを事前に想定し、マーケットや状況のイニシアティブを取ることが求められる。しかし、単に将来の予測を立てれば良いという単純な話ではないと強調された。
世の中に認められるかどうかの重要性
講師は、将来の予測を立てたとしても、それが世の中に認められなければ意味がないと述べた。予測が的中しても、誰にも支持されなければ「ただの独りよがり」になってしまう。そのため、「世の中に受け入れられつつも、現時点では誰も思いつかない状況を想定する」という高度な想定力が必要とされる。
このような力が開発可能かという問いについては、「少なくとも論理的思考力やマーケティングといった一般的な方法論は通用しない」との結論が示された。なぜなら、そうした方法で導き出される答えは多くの場合、誰もが到達するものであり、それではレベル5には達しないからである。
レベル5の実例
レベル5の実例として、講師は飛行機や携帯電話、古くは『海底二万哩』に描かれた深海探査艇などを挙げた。これらは、既に誰かが想定していたが、実現不可能と思われていたものである。しかし、ある人物がそれを現実に可能と信じ、実現に向けて行動した結果、市場のイニシアティブを取り、高い先行者利益を得たという事例である。
このような例から、レベル5に必要な要素は、誰もが「無理だ」と思うことを実現するための胆力や能力だと講師は説明した。
レベル5の開発方法についての見解
講師の結論として、レベル5は「開発するものではなく、発生するもの」だと考えている。レベル5が定義されることによって、才能を持った人がその指向性をより確かにしてチャレンジするきっかけになると述べた。
自身がレベル5を発揮できたことはないものの、「時々、これに真剣にチャレンジできたらレベル5になれるのではないか」と感じる瞬間があるという。しかし、状況を想定しても、それに踏み出すための「気力、能力、胆力」が必要であり、それを開発することがいかに難しいかが語られた。
最終的に、講師は自分自身がレベル5に達していないため、その開発方法を語る資格がないと締めくくった。