【要約】「はぐらかしの仮面」を外すには、質問の引き出しを増やすべし:セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する
「関係構築の呪縛」にハマってはいけない
「はぐらかしの仮面」とは何か
商談の中で、営業が「目の前の人物が意思決定者かどうか」を知りたい場合がある。
例えば、「本件はどなたがお決めになるのですか?」と尋ねると、「私のほうで基本的には判断します」と答えられることが多い。
この回答は一見明確だが、実際には曖昧で、意思決定者が誰なのか分からない場合がある。
お客様側に立つと、「正直に答える」か「はぐらかす」かの選択肢が生まれる。
もし上司が意思決定者だと正直に答えた場合、営業が直接上司にアプローチするリスクがある。
さらに、自分が意思決定者でないと見られ、軽視されることを避けるため、「はぐらかす」ことを選ぶことがある。
これが「はぐらかしの仮面」である。
お客様が「はぐらかしの仮面」をつける場面
特に「意思決定に関わるデリケートな情報」を尋ねられるときに、「はぐらかしの仮面」が使われやすい。
このデリケートな情報の代表例が、以下の BANTCH である。
BANTCHの要素
Budget(予算)
お客様の購買に充てる金額。事前に計画される場合もあれば、後から目安が設定されることもある。Authority(決裁者)
購買の意思決定を左右するキーパーソン。この人物の同意がなければ、プロセスが進まない。Needs(ニーズ)
お客様の困りごとや課題。理想と現実のギャップを埋めるために解決したい内容。Timeframe(検討スケジュール)
購買や導入の検討時期、および使用開始までのスケジュール。Competitor(競合)
他社や内製対応が競合となる場合がある。Human Resources(社内の組織体制)
担当者やユーザーを含む体制全体。意思決定プロセスを理解するうえで重要。
「はぐらかしの仮面」を理解する重要性
営業がBANTCHに関する質問をするとき、これらはお客様の内部事情に深く関わるため、抵抗感を持たれることがある。
その結果、「はぐらかしの仮面」を選び、回答を避けられることがある。
営業は、この背景を理解しつつ、適切なアプローチを模索する必要がある。
「関係構築できていないから聞けない」と考える危険性
関係構築が成果に結びつかない理由
営業の現場では、「お客様と関係ができていないから情報が得られない」とされるケースがある。
しかし、この考え方に従うと、結果として成果が出ない方向に進む。
成果を上げる営業は、「質問することがお客様の利益になる」と捉える。
質問によってお客様を深く理解し、フィットした提案を行うことで、結果的に快い反応を引き出せる。
この成功体験がさらなる積極的な質問を生み、より多くの成果に繋がる。
成果が出ない営業の特徴
一方で、成果が出ない営業は「質問が迷惑になる」と考えがちである。
例えば、ニーズや予算を尋ねた際に、お客様が困惑したりはぐらかしたりすると、「聞くべきではなかった」と解釈してしまう。
この結果、重要な質問を避け、表面的な情報に基づいたズレた提案を行う。
ズレた提案を受けたお客様は「この営業は当社を理解していない」と感じ、冷淡な反応を示す。
問題の因果関係
お客様の冷たい反応の原因は、「質問せずにズレた提案をしたこと」にある。
しかし、営業は「お客様と関係ができていないから冷たくされた」と誤解しやすい。
この誤解が、「関係構築後でないとデリケートな質問は避けるべき」との思い込みを強化する。
負の連鎖が生む恐れ
関係構築を待つあいだに、営業は質問を避け続ける。
結果としてお客様を理解できないまま、さらにズレた提案を繰り返す。
お客様が仮面をつけ続ける中で、営業は関係構築の成功体験を得られず、質問することがますます怖くなる。
この負の連鎖から抜け出せず、成果を上げることが難しくなる。
「はぐらかしの仮面」を外す3つのアプローチ
お客様が仮面をつける理由
お客様が「はぐらかしの仮面」をつけるのは、リスクやデメリットを避けたいからである。
例えば、「売り込まれる」と感じると防御反応が生じ、不適切な金額や不要な商品を購入するのを避けたいと考える。
そのため、営業からの質問に対して仮面をかぶり、いったんかわそうとする。
1. お客様の不安をやわらげる
お客様が質問に答えやすくするには、不安を軽減する口実を提供する。
例えば、予算に関する質問であれば、「費用対効果の高いプランを提案するため」「社内でコミュニケーションしやすくする支援が可能」といった理由を伝える。
お客様が質問に答えるリスクが小さくなれば、十分に仮面を外しやすくなる。
2. 質問に答える負担を軽減する
質問が漠然としていると、お客様は答えることを面倒に感じやすい。
例えば、「お困りのことは何ですか?」と尋ねると、範囲が広すぎて答える負担が増える。
この場合、「お困りごとはAですか?それともBですか?」のように選択肢を示すと、お客様は楽に回答できる。
具体的な選択肢を提示することで、はぐらかしを防ぐことができる。
3. 「売り込みの匂い」を消す
お客様は「売り込み」を感じると、瞬時に防御反応を示す。
無理な売り込みを避け、真摯にお客様のニーズや要望に向き合う姿勢を示すことが重要である。
さらに、「お客様と一緒に課題解決をしたい」と伝えることで、押しつけられる不安が和らぐ。
売り込みの匂いが消えれば、お客様は安心して質問に答えることができる。
質問の引き出しを増やす重要性
仮面をつけたお客様から得られる「あいまいな情報」に頼るだけでは、成果につながらない。
多くの営業は、お客様の機嫌を損ねることを恐れ、質問をちゅうちょする。
しかし、質問せずにズレた提案を続けるのは「間違った努力」である。
正しい努力として、質問の引き出しを増やし、BANTCHに基づいた情報を聞き出す技術を磨くべきである。
「枕詞」を活用し、質問を引き出す力を磨く
「枕詞」がもたらす効果
「はぐらかしの仮面」に対処するために有効なのが、「枕詞」である。
「答えたほうがよい理由」を一言添えるだけで、お客様の反応が変わる。
この工夫は質問の負担を軽減し、情報を引き出すきっかけとなる。
成果が出なかった過去の営業体験
起業当初の筆者は、大手企業の人事に研修サービスを営業していた。
しかし、「課題は何ですか?」「予算はいくらですか?」という漠然とした質問を繰り返し、具体的な回答を得られなかった。
たとえば、以下のようなやりとりが多発した。
質問:「御社の課題は何ですか?」
回答:「課題ですか……いろいろありますので、得意な領域でご提案ください。」
質問:「ご予算はいくらですか?」
回答:「特に決まっていませんので、気にせずベストな提案をください。」
このような曖昧な回答を受け、筆者は勝手に「これ以上質問しては失礼」と考え、踏み込むのを止めてしまった。
その結果、BANTCH情報が不足した提案を行い、お客様に響くことなく終わるケースが続いた。
転機となった「枕詞」の活用
ある商談で、曖昧な回答を受け流さず、次のように「枕詞」を添えて質問した。
質問:「あくまでも個人的なご意見で構いませんので、特に重要度の高い課題を教えていただけませんか?」
回答:「そうですね、個人的な意見で言えば……」と具体的な課題を提示。
さらに続けて、
質問:「ありがとうございます。的外れにならないよう、ご予算の上限を教えていただけませんか?」
回答:「●●万円ぐらいの金額感で、このキーワードを含めた提案をいただけると話を通しやすいです。」
この体験を通じて、「一言添えるだけでお客様の答えが変わる」ことを実感した。
「はぐらかしの仮面」をかぶる理由
筆者の体験に基づき、「はぐらかしの仮面」の登場理由を整理すると、以下の要素が挙げられる。
リスク回避:不適切な提案や押し売りを避けたい。
手間の回避:曖昧な質問に答えるのが負担。
情報管理:社内調整が難しくなる情報を隠したい。
調査データが示す「はぐらかし」の実態
1万人調査によると、「予算や検討状況を質問された際にはぐらかした経験がある」と回答した割合は42.4%。
「頻繁にある」が6.7%、「たまにある」が35.7%を占める。
営業が持つべき姿勢
多くの営業が「関係構築ができていないから聞けない」と考えがちだが、それは誤りである。
必要な情報は、関係構築の進捗に関係なく、適切に質問するべきである。
「枕詞」の活用によって、質問への抵抗感を減らし、適切な情報を引き出す努力が求められる。
お客様が「はぐらかしの仮面」をつける理由とその対策
「はぐらかしの仮面」の主な理由
お客様1万人調査によると、「はぐらかしの仮面」をつける理由の上位は以下の通り。
質問に答えることによるデメリットやリスクを心配している(30.8%)
特に深い理由はないが、なんとなく警戒している(20.6%)
あたりさわりのない答えを即座に返したところ、それ以上つっこんでこなかった(13.8%)
これらの理由は、営業との関係構築不足が直接の原因ではなく、「なんとなく不安」や「表面的な対応」によるものが大半である。
一方で、以下の回答も一定数存在する。
営業担当者に発注する可能性がゼロに近いので(13.4%)
営業担当者に信頼を抱けなかったから(12.8%)
営業が一方的に売り込んでくるだけだと感じたから(11.2%)
これらは「営業に対するネガティブな印象」が原因であり、営業との関係構築が影響している可能性がある。
「はぐらかしの仮面」の裏側にある実態
調査から分かるのは、大半の「はぐらかし」の理由は大したものではないということ。
「予算や検討状況を知らなかったから話せなかった」という回答は、たった6.4%にすぎない。
つまり、多くのお客様は「関係構築ができていないから答えない」のではなく、「ちょっとした不安」や「リスクを感じた」ために答えを避けている。
「枕詞」でお客様の心を開く
「枕詞」を活用することで、お客様の発言へのハードルを下げられる。
例えば、「個人的なご意見で構いませんので」「より適切な提案をしたいので」といった一言を添えると、お客様は答える「口実」を得られる。
枕詞の効果を裏付けるエピソード
以下は、筆者の体験に基づく具体例。
質問(改良前):「御社の課題は何ですか?」
回答:「課題ですか……まあ、いろいろありますので。」
質問(枕詞付き):「あくまでも個人的なご意見で構いませんので、特に重要度の高いものを教えていただけませんか?」
回答:「そうですね、個人的な意見で言えば……」と具体的な課題を提示。
枕詞をつけた質問により、お客様は「意見を言っても良い」という安心感を得て、より具体的な回答をしてくれるようになった。
口実を作る心理と日常例
人は「認知的不協和」を解消するために、無意識に「口実」を作る。
以下のような日常例が、その心理を示す。
例1:「最近がんばった自分へのご褒美に、(ダイエット中だけど)スイーツを食べよう。」
例2:「将来の自分への投資だから、(少し高いけど)良い仕事道具を買おう。」
これと同じように、営業の質問にも「小さな言い訳」を作る枕詞を添えることで、お客様の不安が解消される。
結論
「枕詞」を活用することで、「なんとなく不安」や「答える口実がない」状況を解消し、お客様からBANTCH情報を引き出す可能性を大きく高められる。
これにより、「はぐらかしの仮面」を外し、より良い提案を行うための道が開ける。
5種類の「枕詞」を活用する方法
1. お客様に「メリット」を作る枕詞
質問に答えることで得られるメリットを示し、口実を作る方法。メリットの保証までは不要で、「答えると得になる」というニュアンスを伝える。
例文
「御社のビジョン実現のためにお伺いするのですが、今回の導入によってどのような変化を期待されていますか?」
「フィット感のある見積もりを作るためにお伺いしたいのですが、ご予算はどの程度をお考えですか?」
「当社ならではの提案でお役に立ちたいのでお聞きしますが、他にはどちらの会社様を検討されていますか?」
2. お客様に「コストやリスク」を発生させない枕詞
お客様がコストやリスクを懸念する場合、それを避けるための質問だと示す枕詞を使う。
例文
「いただいたお時間を無駄にしないようお聞きしたいのですが、今回のプロジェクトで最も優先度の高い課題は何ですか?」
「間違いがあってはいけないのでお聞きしますが、御社の組織体制や担当の役割分担について教えていただけますか?」
「後で手戻りが起こらないようにあえて伺うのですが、導入に当たってのご懸念事項は何ですか?」
3. お客様の「コスト」を小さくする枕詞
お客様が忙しそうだったり、商談に乗り気でなかったりする場合に使う。簡単に答えられると感じてもらうことで、質問のハードルを下げる。
例文
「最初に一つだけよろしいですか? このプロジェクトの導入スケジュールとして、どのぐらいお急ぎかを教えていただけるとありがたいのですが」
「お忙しいと思いますので一つだけよろしいですか? 現在ご検討中のソリューションについて、何か特別な要件がございましたら教えてください」
「最後に一つだけ、今回、意思決定の判断基準として最も優先順位が高いものを教えていただけませんか?」
4. お客様の「リスク」を小さくする枕詞
お客様がリスクを嫌って本音を隠している場合に有効。「個人的なご意見で構いません」など、答えやすい雰囲気を作る。
例文
「個人的なご意見で構いませんので、他社様との比較で弊社の製品についてどうお感じか教えていただけますか?」
「可能な範囲で構いませんので、意思決定者の取締役が特に重視される条件や要素を教えていただけますか?」
「あくまでも暫定で構いませんので、導入スケジュールについて教えていただけますか?」
5. そもそもの前提を変える枕詞
仮定を設けることで、お客様の不安や固定観念を取り払い、気軽に答えられる状況を作る。
例文
「もし仮に、予算の枠という問題がクリアされたら、いつ頃のご導入になりそうですか?」
「もし仮に、わがままを自由に言えるとしたら、当社の提案に対してどんな要素を付け加えてほしいですか?」
「もし仮に、他社様のサービスを今ご利用中でなかったら、どのような点で当社のサービスが魅力的だと感じますか?」
まとめ:枕詞をマスターする意義
「はぐらかしの仮面」を外すには、質問の前に適切な枕詞を添えるだけで良い。
これにより、お客様が答える口実を得るだけでなく、営業が質問することへの不安も解消される。
質問をちゅうちょせず、BANTCH情報を引き出すための「正しい努力」をするために、枕詞を活用しよう。
お客様には「ギリギリまで深く」聞くべし
お客様の3分の1以上がニーズを「はぐらかして伝える」
お客様の「はぐらかし」の現状
お客様1万人調査の結果、「営業担当者に対して真のニーズや課題をはぐらかして伝える」と答えた割合は36.4%にのぼる。
真のニーズや課題をわかっているが、多少はぐらかして伝える:33.8%
真のニーズや課題がわからず、多少はぐらかして伝える:2.6%
この結果から、「ニーズや課題をわかったうえではぐらかす」ケースが圧倒的に多いことがわかる。
「はぐらかし」がもたらす影響
お客様が「はぐらかしの仮面」をつけたままだと、営業は表面的な情報に基づいて提案を作ることになる。
結果として、以下のような状況が発生する。
ニーズとのズレが生じる提案
お客様が本当に求める解決策から外れた提案になる。信頼関係の希薄化
「営業は自分たちのことを理解していない」との印象を与える。
「枕詞」を活用した次のチャレンジ
枕詞を添えて質問することで、お客様の答えやすさは向上する。
しかし、枕詞をつけても「あたりさわりのない答え」を返される場合が多い。
これは、お客様が防御反応として「無難な答え」を返す傾向があるためである。
真のニーズを引き出すためのアプローチ
お客様の発言の中に「気になるポイント」が出てきた際、そのまま流さず深掘りすることが重要である。
深掘りの具体例
お客様の発言:「まあ、いろいろな課題がありますね。」
営業の深掘り質問:「いろいろある中でも、特に解決したい課題を一つだけ教えていただけませんか?」
お客様の発言:「予算は特に決まっていません。」
営業の深掘り質問:「仮に目安として、この範囲なら現実的だと思える金額感を教えていただけますか?」
深掘りの重要性
お客様との会話の中で、曖昧な答えや回避的な発言が出た際、それを見逃さず深掘りすることで「真意」を引き出すことができる。
このプロセスを省略せず、丁寧に行うことが、的確な提案を作成するための鍵となる。
購買の鍵は、ポロッとこぼした言葉の「裏側」に隠れている
購買の鍵は「ポロッとこぼした言葉」の裏側にある
深掘り質問の重要性
お客様が発する曖昧な言葉や防御的な態度の裏側には、重要な課題やニーズが隠れている。
「深掘り質問」を活用することで、モヤモヤした状況を明確にし、購買の意思決定を左右する情報を引き出すことができる。
深掘り質問の4つの種類と役割
1. 「と、おっしゃいますと?」
発言内容を明確にするための質問。
会話例
お客様:「最近、業務効率が下がっているように感じるんです。」
営業:「『業務効率が下がっている』と、おっしゃいますと?」
お客様:「リモートワークの情報共有が遅れがちで、業務管理ツールも現場で使われていません。」
2. 「具体的には?」
発言内容の詳細を引き出す質問。
会話例
お客様:「社員のモチベーションが下がっていて、組織の問題が増えているんです。」
営業:「なるほど。具体的にはどういうことでしょうか?」
お客様:「評価制度や働く環境への不満が増えています。」
3. 「なぜでしょうか?」
発言内容の背景や原因を探る質問。
会話例
お客様:「最近、新規顧客の獲得が難しいと感じています。」
営業:「難しいと感じられるようになったのはなぜでしょうか?」
お客様:「競合他社の進んだ技術や、マーケティングの不足が原因かもしれません。」
4. 「他にはありますか?」
課題を網羅的に確認し、全体像を把握する質問。
会話例
お客様:「社員が新しいことを考える力が弱っています。」
営業:「なるほど。他にはありますか?」
お客様:「社員同士のコラボレーション機会が不足しています。」
深掘り質問の応用例
ケース:経営者に新しいソフトウェア導入を提案する場合
営業:「『効率が上がらない』と、おっしゃいますと?」
お客様:「報告書作成やデータ入力に時間がかかっています。」
営業:「具体的にはどんな報告書やデータですか?」
お客様:「幹部会議用の数字をまとめる作業が大変です。」
営業:「なぜ、その作業が効率化されないのでしょうか?」
お客様:「使っているシステムが古くて手間がかかります。」
営業:「業務効率以外の課題もございますか?」
お客様:「情報共有がうまくいかず、新人の成長が遅いです。」
深掘り質問が生んだ成功例
あるお客様は、防御的な態度を示し「困っていませんよ」と装っていたが、深掘り質問を繰り返すことで真実が判明。
背景:過去の提案が社長に突っ込まれ、ネガティブな指摘を受けた経験から、防御的になっていた。
結果:深掘りにより悩みを共有し、入念な提案を作成。結果として発注につながった。
深掘り質問の効果
「深掘り質問」は、曖昧な発言の裏側に隠れた本音や事情を明確にする力がある。
特にお客様が「はぐらかしの仮面」をつけている場合、これを外すきっかけとなり、購買に向けた意思決定を後押しできる。
重要なのは、気になる発言をその場で深掘りし、「キーワード」に基づいて真意を探ることである。
はぐらかされた場合の「特定質問」の活用
なぜ「特定質問」が必要か
枕詞や深掘り質問を使っても、お客様からあいまいな答えが返ってくる場合がある。
特に「予算」などデリケートな情報は、営業が聞き出すのに苦労する代表的な項目である。
営業1万人調査でも、ローパフォーマーは「予算額を聞けない」と答えた割合が19.3%と、ハイパフォーマー(11.4%)に比べて約2倍近いスコアを示している。
このギャップを埋めるために、「特定質問」を活用することが求められる。
特定質問とは?
特定質問は、複数の具体的な選択肢や条件を提示し、お客様に答えやすくする質問方法である。
質問の範囲を絞り込むことで、お客様が答えやすくなり、あいまいな返答を減らすことができる。
特定質問のポイント
選択肢を提示する
お客様が「どの程度答えればよいか分からない」状態を防ぐ。例:「予算の目安として、300万円、500万円、700万円のどれが現実的ですか?」
仮定を示す
仮定条件を置いて質問することで、具体的なイメージを持ってもらう。例:「もし仮に、500万円以内でご提案するとしたら、どんな内容がご希望に近いですか?」
範囲を設定する
質問に幅を持たせることで、答えるハードルを下げる。例:「ざっくりで結構ですが、100万円から500万円の間か、それ以上のご予算をお考えですか?」
特定質問の応用例
ケース1:予算を聞き出す場合
お客様:「予算はまだ決まっていません。」
特定質問:「現時点ではっきりした金額でなくても結構です。例えば、100万円台、300万円台、それ以上のどれに近いでしょうか?」
お客様:「たぶん300万円台ぐらいです。」
ケース2:導入スケジュールを聞く場合
お客様:「まだスケジュールは決めていません。」
特定質問:「仮に、導入を3か月以内、6か月以内、それ以上で進めるとしたら、どのタイミングが理想的ですか?」
お客様:「6か月以内がいいと思います。」
ケース3:意思決定者を特定する場合
お客様:「誰が決めるかはまだ分かりません。」
特定質問:「例えば、現場の課長、部長、それとも役員のどなたかが最終的に判断されるのでしょうか?」
お客様:「部長が最終的に判断することになると思います。」
特定質問の効果
お客様が具体的な選択肢を持てるため、答えるハードルが下がる。
質問の範囲が明確になることで、あいまいな返答を避けられる。
必要な情報を引き出すことで、提案の精度を高めることができる。
「特定質問」の活用でBANTCH情報を聞き出す
特定質問で他のBANTCH情報を聞く方法
1. ニーズ(Needs)
お客様の課題やニーズを聞く際、単純に「どんな課題がありますか?」と聞くだけでは、曖昧な回答やはぐらかしが返ってくることが多い。
特定質問の例
条件付きオープンクエスチョン
「現在、御社で特に課題と感じられているのは、現場の業務効率ですか?それとも営業部門の成果でしょうか?」選択肢付きクローズドクエスチョン
「お困りごとは、生産性、コスト削減、売上向上のうち、どれが最優先でしょうか?」
2. 決裁者・組織構造(Authority/Human Resources)
意思決定者や組織体制を聞き出すとき、直接「最終的に誰が決めますか?」と尋ねると、はぐらかされることがある。
特定質問の例
条件付きオープンクエスチョン
「今回の案件について、決裁者の方にお話しする前に、まずはどなたのご意見を伺うのが適切でしょうか?」選択肢付きクローズドクエスチョン
「最終決裁は部長様ですか?それとも役員の方でしょうか?」
3. スケジュール(Timeframe)
導入時期や検討スケジュールを聞く際、単に「いつまでに決められますか?」と聞くだけでは具体的な答えを得にくい。
特定質問の例
条件付きオープンクエスチョン
「導入を年内に行う場合、何月頃が理想的ですか?」選択肢付きクローズドクエスチョン
「導入タイミングとして、6か月以内、9か月以内、1年以内のどれが最適ですか?」
4. 競合(Competitor)
競合状況を確認する際、「他社を検討されていますか?」だけでは抽象的な返答になりがち。
特定質問の例
条件付きオープンクエスチョン
「社内で特に話題に上がっている競合サービスはどちらでしょうか?」選択肢付きクローズドクエスチョン
「競合として、A社かB社を意識されていますか?」
5. 予算(Budget)
予算に関する情報は、お客様が特に答えづらいポイントである。
特定質問の例
条件付きオープンクエスチョン
「今回のご検討にあたり、これ以上は厳しいという上限金額はどの程度でしょうか?」選択肢付きクローズドクエスチョン
「ご予算は、300万円以内と500万円以内のどちらに近いですか?」
特定質問の効果
質問の対象を具体化
選択肢や条件を提示することで、お客様が答えやすくなる。防御反応を軽減
負担を減らし、あいまいな答えを避けることで正確な情報を引き出せる。提案の精度向上
得られた具体的な情報に基づき、より適切な提案を作成可能になる。
真のニーズを聞き出す「核心質問」の活用
ニーズを聞き出す難しさとローパフォーマーの課題
営業1万人調査の結果、「真のニーズ」を聞き出せないと困っている営業の割合は以下の通り。
ハイパフォーマー:12.8%
ローパフォーマー:24.1%
ローパフォーマーはハイパフォーマーに比べて約2倍も課題を感じている。
この差は、以下のようなお客様の防御的な反応に対して適切に対応できていないことに起因する。
お客様の典型的な防御反応
「そこまで困っているわけではない。」
「今日は情報収集の一環です。」
「必要があればこちらから連絡します。」
真のニーズが聞き出せない理由
お客様は、以下の理由から「本音」を話すことを避ける傾向がある。
売り込まれる懸念
「困っていること」を正直に話すと、不必要な売り込みをされると警戒する。深堀りを避ける防御反応
「まだ困っているわけではない」という曖昧な反応で、突っ込まれるのを防ぐ。場を設けた理由の表面化
実際には課題を抱えているが、それを表明せずに商談を終わらせたいと考える。
真のニーズを引き出す「核心質問」の役割
「核心質問」は、お客様の表面的な回答に対し、さらに深く問いかけることで、隠されたニーズを引き出すための質問技術である。
核心質問のポイント
お客様が答えやすい雰囲気を作る
あくまで「共感」や「協力的な姿勢」を前面に出す。明確な目的を持って質問を絞り込む
広範囲に問いかけるのではなく、具体的なポイントに絞って質問する。仮説を提示し、答えを引き出す
質問の一部に仮説を織り込み、「仮にこうだったら」という形で意見を求める。
核心質問の具体例
ケース1:曖昧なニーズを具体化する
お客様の発言:「そこまで困っているわけではない。」
核心質問:「そうおっしゃる方が多いですが、例えば、何か少しでも改善できたらと思われる点はございますか?」
ケース2:問題点の背景を探る
お客様の発言:「情報共有がうまくいっていないんです。」
核心質問:「仮に、情報共有が改善された場合、どのような変化を期待されますか?」
ケース3:優先事項を特定する
お客様の発言:「いくつかの課題があります。」
核心質問:「いくつかある中でも、特に早急に対応したいと感じる課題はどれですか?」
ケース4:ニーズの網羅感を確認する
お客様の発言:「特に大きな問題はありません。」
核心質問:「ありがとうございます。では、現状の中で少しでも良くしたいと思われる点があれば教えていただけますか?」
核心質問が生む効果
お客様の防御反応を和らげる
表面的な「はぐらかし」に対して、お客様が答えやすい形で切り込める。仮説に基づき具体性を引き出す
あいまいな回答に仮説を組み込むことで、ニーズの明確化を促す。商談を具体的な提案につなげる
真のニーズを把握することで、適切な解決策の提案が可能になる。
お客様の「商談に時間を使っている理由」を引き出す核心質問
核心質問の基本的な考え方
売り込みの懸念を和らげる
「困っていることは何ですか?」というストレートな質問は、お客様の防御反応を引き起こす可能性が高い。逆の角度から切り込む
「むしろ困っていないのでは?」と問いかけることで、お客様が自発的に困りごとや期待を話しやすくなる。時間を割いている理由に着目
お客様が商談の時間を割いている背景には、何らかの課題や期待が必ず存在する。
核心質問で聞き出せる3つのポイント
1. 真の課題
「お客様が本当に困っていること」を引き出す質問。
アプローチ例
「御社はすでにこのテーマに取り組まれているように見えますが、むしろ課題は解消されているのでしょうか?」
→ 「いえ、実はまだ●●について課題が残っています。」
「表面的には特にお困りではないように見えるのですが、実際には何か少しでも気になっている点はありますか?」
→ 「実は、現場では●●が問題になっていまして……。」
2. 真の期待
「同業他社がたくさんある中で、なぜ当社を選んだのか」という背景を探る質問。
アプローチ例
「すでに他社とお取引がある中で、今回、弊社の話を聞いていただける理由は何でしょうか?」
→ 「実は、現在の取引先で対応が少し遅れがちでして……。」
「他社様とのお付き合いが長いと伺いましたが、それでも今回、新たなご提案を検討されているのはなぜでしょうか?」
→ 「他社では対応しきれない部分がありそうなので、他の選択肢も見ておこうと思いました。」
3. 真の壁
「お客様が課題解決に向けて抱えている障壁」を明確にする質問。
アプローチ例
「仮に今の課題を解決する方向で進めるとした場合、社内でどのようなハードルが想定されますか?」
→ 「予算を確保するために役員会の承認が必要です。」
「現在の仕組みを変えるとしたら、どんな壁があるとお考えですか?」
→ 「現場のメンバーが新しいシステムを受け入れてくれるかが不安です。」
実際の商談シナリオでの応用例
シナリオ1: 新規商談で防御反応が強いお客様
営業:「御社はすでに取り組みが進んでいる印象ですが、むしろお困りごとは解消されているのでは?」
お客様:「いえ、実はまだ完全には解決していなくて……。」
営業:「具体的にはどのような点でお困りでしょうか?」
シナリオ2: 他社と取引があるお客様
営業:「長くお付き合いのある他社様がいらっしゃる中で、今回弊社に時間を割いていただけるのは、何かご期待があるのでしょうか?」
お客様:「対応はいいのですが、提案が少し型にはまっていて……。」
営業:「それに対して、どのような点で違いを期待されていますか?」
シナリオ3: 課題解決に壁がありそうなお客様
営業:「仮に今の課題を解決する方向で進める場合、どのような壁が想定されますか?」
お客様:「社内で調整が難しいかもしれません。」
営業:「その調整を進めるにあたって、どのようなサポートがあればスムーズになりますか?」
核心質問の効果
防御反応を和らげる
お客様が「困っていない」と主張しても、逆の角度から切り込むことで、真実を引き出せる。提案の優先度を高める
真の課題や期待が明確になると、それに基づく提案の価値が上がり、商談の成功率が向上する。信頼関係の構築
表面的な質問ではなく、本質的な対話を通じて、お客様との関係が深まる。
「真の壁」を理解し、核心質問で真のニーズを引き出す
「真の壁」とは?
「真の壁」とは、お客様が過去に施策を実施してきても解決できなかった課題の背景や原因を指す。
この壁を探ることで、解決されない理由を深く理解し、より効果的な提案を行うことが可能になる。
「困っていないんじゃないですか質問」の効果
1. 謙遜を引き出す
「すでに十分な対策をされていて、もう困っていないのでは?」と問うことで、
お客様は「いえいえ、そんなことはないですよ」と自然に本音を話しやすくなる。
2. マンネリ化した応答を打破
日々の営業で聞かれる「課題は何ですか?」という質問に対して、
お客様が慣れたテンプレート回答を避け、自発的な返答を引き出せる。
3. 売り込み臭を消す
「困っていますか?」ではなく「困っていないんですか?」という逆説的な質問が、
営業の意図を柔らかく見せ、お客様の防御反応を和らげる。
「真の壁」を引き出す質問の具体例
ケース1: 過去の施策の効果を探る
質問例:「これまでにも課題解決に向けた取り組みをされているかと思いますが、どのような施策を試されましたか?」
深掘り例:「その施策で、どのような結果が得られたのでしょうか?どの部分が難しかったと感じられますか?」
ケース2: 現在の課題が残る理由を探る
質問例:「御社のように優れた取り組みをされている会社で、なぜ課題がまだ残っているのでしょうか?」
深掘り例:「現状を変えるにあたって、何が一番の障壁だとお考えですか?」
ケース3: 問題の根本原因を探る
質問例:「これまで試された中で、根本的な課題だと感じる点はどこにあるのでしょうか?」
深掘り例:「もしその課題が解消された場合、どのような変化が期待できるとお考えですか?」
実例:「困っていないんじゃないですか質問」の活用
背景:
営業先は大手企業の人事部門。お客様は「困っていない」姿勢を見せていた。
質問例:
「御社のように就職人気ランキングが高く、優秀な方が多い会社では、人や組織の問題は少ないのでは?」
結果:
お客様:「いやいや、弊社は問題だらけですよ。」
自ら問題点を話し始め、商談が進展。最終的に発注に至った。
核心質問の効果
お客様の防御反応を和らげる
「困っていない」と見せかけた対応を崩し、真の課題を自発的に話させる。信頼関係を構築する
お客様の課題に共感を示し、同じ立場に立ったコミュニケーションを実現する。提案の成功率を高める
真の壁やニーズを把握することで、的確な提案を行い、商談の優先度を上げる。
お客様がニーズをはぐらかす理由
お客様1万人調査の結果
「ニーズや課題をはぐらかす理由」についての調査では、以下の主な回答が得られた。
「課題解決質問」でお客様の意思を尊重しながら購買意欲を高める
お客様が「はぐらかしの仮面」をつける理由
お客様1万人調査によると、「ニーズや課題をはぐらかす理由」の上位2つは以下の通り。
強引に売り込まれるのを避けたいから(25.9%)
あえてすべてを伝えず、営業担当者のお手並みを拝見したいから(23.5%)
この結果から、「お客様は自分の意思で購買を決めたい」という心理が浮き彫りになっている。
お客様心理の基本
「自分で決めたい」という意思
お客様は、「営業に買わされる」ことを嫌い、自ら購買プロセスの主導権を握ろうとする。「売り込まれる」ことへの警戒心
強引な売り込みに対する抵抗感から、防御反応として「はぐらかし」が発生する。
営業の課題
多くの営業は、「お客様の意思を尊重しすぎると購買意欲を失うのではないか」という不安を抱えている。
その結果、過度に売り込むか、逆に受け身に徹しすぎるケースがある。
「課題解決質問」の4つのフェーズ
「課題解決質問」は、お客様の理想と現状のギャップを明らかにし、そのギャップを埋める提案へつなぐためのフレームワークである。
この手法は「お客様の言葉」をベースに進めるため、防御反応を引き起こさず、自然に問題解決の話を進められる。
フェーズ①:現状を把握する
まず、お客様が置かれている状況や背景を理解するための質問を行う。
この段階では、「理想と現状のギャップ」を明確にするきっかけを探る。
質問例
「現在、御社で最も注力されている顧客層はどのような方々でしょうか?」
「最近のビジネスの動向について、どのような点が順調と感じられますか?」
ポイント
質問は広く浅く、状況を把握することに集中する。
お客様が話しやすい雰囲気を作ることが重要。
フェーズ②:悩みを深掘りする
現状での課題や改善点について詳しく尋ねる。
お客様が自ら「何を解決したいか」を話すことを目指す。
質問例
「先ほど挙げられた点について、特に改善したい部分はどこですか?」
「現在の取り組みで、課題として感じられていることは何でしょうか?」
ポイント
「なぜその課題が発生しているのか」を追求する。
お客様が具体的に悩みを言語化できるように誘導する。
フェーズ③:気づきを促す
お客様自身に、課題の重要性や影響を認識してもらう。
ここでの質問は、課題解決の必要性を引き出し、「放置するとどうなるか」を考えさせる。
質問例
「もし現状の課題を放置すると、どのような影響が出るとお考えですか?」
「仮にその課題が解決した場合、どのような成果が期待できそうですか?」
ポイント
お客様の言葉で課題の優先順位を語らせる。
「やらなければならない理由」をお客様自身に発見させる。
フェーズ④:提案につなげる
お客様が課題の重要性を認識した段階で、具体的な提案を行う。
提案内容は、お客様の言葉をもとに構築するため、自然に受け入れられやすい。
質問例
「その課題を解決するために、どのような取り組みが有効だと思われますか?」
「当社の●●というサービスが、この課題解決にどのように役立つかをご説明してもよろしいでしょうか?」
ポイント
提案は、これまでの会話内容を踏まえて論理的に展開する。
「押し売り」ではなく、「一緒に解決する」という姿勢を示す。
「課題解決質問」の会話例
例:店舗経営者への売上アップ提案
現状を把握する
営業:「最近、特に力を入れているお客様の層はどのような方々ですか?」
お客様:「特に絞ってはいませんが、若年層が多いかもしれません。」悩みを深掘りする
営業:「若年層が多いという点について、具体的に何か課題を感じることはありますか?」
お客様:「最近リピート率が下がっていて、対策を考えないといけないと思っています。」気づきを促す
営業:「リピート率が下がり続けた場合、御社の利益にどのような影響があるとお考えですか?」
お客様:「新規顧客に頼らざるを得なくなるので、広告費が増えてしまいます。」提案につなげる
営業:「例えば、特定の年齢層にターゲットを絞り、リピート率を改善する施策をご提案した場合、どのような効果を期待されますか?」
お客様:「効率的な広告運用ができ、利益率の改善につながると思います。」
営業:「その方向性で、実績のある当社の●●プランについてご紹介させていただきます。」
SPINフレームワークとの関係
「課題解決質問」は、SPINフレームワーク(S=状況質問、P=問題質問、I=示唆質問、N=解決質問)に基づいている。
S(状況質問):現状を把握する。
P(問題質問):課題を深掘りする。
I(示唆質問):課題の影響を認識させる。
N(解決質問):解決策へとつなげる。
「課題解決質問」を効果的に行うための3つのコツ
1. 序盤では「不本意な感情」に注目する
お客様が抱える「理想と現状のギャップ」を探り、そのギャップが生む「不本意な感情」に着目する。
ポイント
不本意な感情を見逃さない
お客様の発言からジレンマやモヤモヤを読み取る。
例: 「本当はもっとターゲットやコンセプトを考えたほうがいいのですが……」深掘りする質問例
「具体的には、どのような点で思うようにいっていないと感じられますか?」
「それが理想の形に近づくとしたら、どのような状態になると思われますか?」
2. 中盤では「放っておいても大丈夫か」を問う
課題が本当に重要かどうかを確認し、お客様にその影響を自覚してもらう。
ポイント
「放置するとどうなるか」を考えさせる
問題の深刻さや課題が解決されない理由を浮き彫りにする。質問例
「この現状が続くと、御社にどのような影響が出てくるでしょうか?」
「その課題は、忙しさで手をつけられなかったのか、それとも他社でも解決できなかったのでしょうか?」
課題の顕在化を促す
問題点を明確化し、行動の必要性を感じてもらう。
3. 終盤では「お客様自身の意思」で選んでもらう
提案の最終段階では、お客様の選択によって進行を決めることで、意思を尊重する。
ポイント
選択肢を提示して自発性を促す
お客様自身に決断させる形式をとることで、自分ごととして捉えやすくなる。質問例
「解決したい優先課題はAとBのどちらに近いですか?」
「この課題について、解決の思いは『そこそこ』か『かなり強い』のどちらに近いですか?」
「動き出すタイミングとしては、今すぐか、それとも他の課題を片付けてからがよいですか?」
「課題解決質問」の流れと実践例
序盤:不本意な感情に注目
営業: 「最近、力を入れている顧客層はありますか?」
お客様: 「特に絞っていませんが、もっとターゲットを明確にしたほうがいいと思っています。」
中盤:放置の影響を確認
営業: 「ターゲットを明確にできていない現状が続くと、どのような影響が考えられるでしょうか?」
お客様: 「リピート率が下がり、新規に頼らざるを得なくなりそうですね。」
終盤:お客様自身の選択
営業: 「優先的に解決すべき課題として、ターゲットの明確化か、新規顧客の増加策のどちらをお考えですか?」
お客様: 「ターゲットを絞り込むことが先ですね。」
「課題解決質問」の効果
防御反応の軽減
お客様の意思を尊重し、売り込み臭を感じさせない。自然な提案の流れ
「不本意な感情」から課題の顕在化、そして解決策の選択へとスムーズにつながる。信頼関係の構築
強引なアプローチを避けることで、お客様からの信頼を得やすい。
お客様のことを「わかったつもり」になる危険性
お客様が求めているのは「もっと聞いてほしい」という姿勢
営業の現場では、「突っ込んで聞きすぎるとお客様に嫌がられるのでは」と過剰に恐れる声が多い。
しかし、**お客様が嫌がるのは「質問されること」ではなく、「適切に聞いてもらえないこと」**である。
質問が少なすぎるリスク
「聞いてくれないこと」への不満調査結果
「会社が求めていることや目指している方向性」が聞かれていない(65.6%)
「会社が困っている課題や悩み」が聞かれていない(52.2%)
解釈
お客様が最も不満を抱いているのは、「会社のビジョンや方向性」と「本当の課題や悩み」を深く掘り下げられていない点である。
一方、発注担当者の個人的な考えや決裁ルールなどについてはよく聞かれているため、不満が少ない。
「わかったつもり」が引き起こす問題
1. ヒアリングの浅さ
営業担当者が「もう十分に聞いた」と判断して質問を止める。
その結果、お客様の本当のビジョンや課題が理解されないまま、ズレた提案が行われる。
2. お客様の不満
お客様は、「自分たちの本当のニーズが伝わっていない」と感じ、信頼を失う。
例: 「この営業は表面的な話しかしてこない」と評価される。
3. 提案の精度低下
深い理解が不足することで、実効性のある提案ができない。
お客様にとって「響かない提案」となる。
質問を深めるための実践的アプローチ
1. 「わかったつもり」を防ぐ姿勢
自分の理解を過信せず、「まだ知らないことがある」と認識する。
お客様の話を最後まで引き出すことを意識する。
具体的な心構え
**「まだ何か聞けることがあるはずだ」**と考える。
表面的な回答に満足せず、「さらに詳しく」を常に心がける。
2. 質問を重ねる技術
不本意な感情を深掘り
「もっと考えたほうがいい」「困っている」などのセリフに注目し、その背景を尋ねる。
質問例:「具体的にはどのような状況を想定されているのでしょうか?」
現状維持の影響を問う
質問例:「この現状を放置した場合、御社にとってどのようなリスクが考えられますか?」
理想と現実のギャップを探る
質問例:「現状の取り組みが十分でないとしたら、どのような形に近づけたいとお考えですか?」
3. お客様の「もっと聞いてほしい」に応える
お客様の話を引き出すために、単純なヒアリングを超えた会話を展開する。
質問はあくまで「お客様のため」であることを示す。
聞くべき内容を見逃さない
会社全体のビジョン:「御社がこの先目指されている方向性についてお伺いできますか?」
本当の課題や悩み:「解決が難しいと感じられるポイントはどの部分でしょうか?」
具体例:質問の流れ
ケース: 店舗経営者への提案
現状把握
営業:「最近、特に注力されているお客様層について教えていただけますか?」
お客様:「特に絞っていませんが、若い方が多いですね。」悩みの深掘り
営業:「若年層の多さについて、具体的な課題があるとしたらどんな点ですか?」
お客様:「リピート率が下がっていて、何か改善が必要だと感じています。」気づきを促す
営業:「リピート率が下がり続けた場合、どのような影響が出るとお考えですか?」
お客様:「新規顧客の獲得コストが増えてしまいますね。」提案につなげる
営業:「リピート率を向上させる施策をご提案するとしたら、どの部分を最優先にされたいですか?」
「無知の知」は営業にも通じる教訓
ソクラテスの「無知の知」
ソクラテスは、自分の無知を認めることが真の賢さであると説いた。
喧伝する賢者たちが本質を捉えられていないことに気づき、自らの「知らない」を自覚する姿勢を示した。
営業への教訓
営業もお客様のことを「わかったつもり」にならず、未知の部分を謙虚に探る姿勢が必要。
「わかったつもり」は危険であり、お客様の背景や事情を理解する努力を怠ると商談の成果が損なわれる。
ケーススタディ:デジタルツールを扱うベンチャー企業
背景
業務効率化ツールを提案していたが、受注率が伸び悩んでいた。
営業担当者は「便利なツールを開発し、現場の悩みを理解しているのに受注につながらない」と悩んでいた。
問題点
お客様の「こだわり」や「現状のやり方に対する価値観」を理解しようとしていなかった。
「非効率だから変えるべき」という一方的な提案に終始していた。
解決策
営業が「なぜ現在の方法にこだわっているのか」を丁寧にヒアリング。
お客様の背景や不安を理解する姿勢を示すことで、「悩みを相談される」関係へ変化。
結果
お客様が安心感を抱き、「もっと詳しく聞かせてほしい」という展開が増加。
受注率が向上し、営業活動の質が向上。
営業の視点を転換する:買う側の目線を持つ
営業が「わかったつもり」になる理由
売る側の視点に偏る
営業担当者は「売る」ことに注力しすぎて、お客様視点を失う。買う側の経験が少ない
営業は仕事上で「買う側」に回る機会が少ないため、顧客心理を深く理解する機会が乏しい。
買う側の視点を磨く方法
プライベートでの消費体験を活用する
電化製品などを購入する際、店員の接客や提案を観察。
「質問を重ねてくれる店員」と「わかったつもりで提案する店員」の違いを感じ取る。
比較して買う経験を意識する
提案の仕方や接客態度から「顧客視点での好感度」を評価。
自分が顧客として「わかったつもり」を感じた場面を振り返り、改善点を見つける。
トになります。
ChatGPT:
ChatGPT
「何をわかっていないか」を5W2Hで探る
5W2Hの枠組みとは
お客様に対する理解を深めるために、「何をわかっていないか」を整理し、質問を具体化するための手法。
**5W(Why, When, Who, What, Where)と2H(How, How many/How much)**の観点から問いを立てることで、お客様の背景やニーズを明確化する。
各要素と具体例
1. Why(なぜ:動機や目的)
目的を理解する問いかけ
「そもそも何のために?」という切り口でお客様の背景や動機を探る。質問例
「当社に資料請求してこられたのはどういう背景があるのでしょうか?」
「現状のやり方を維持されているのは、何か特別な理由がありますか?」
2. When(いつ:過去の事実や未来の計画)
過去の経緯や未来の予定を探る
「これまでに何が起こり、今後何を予定しているのか」を質問する。質問例
「そのやり方をいつ頃から続けていらっしゃるのですか?」
「今後、この件についてどのようなスケジュールをお考えでしょうか?」
3. Who(誰:登場人物や関係者)
関係者や影響を受ける人物を特定する
決裁者やキーパーソンなど、商談に関連する人物について尋ねる。質問例
「本件について、社長はどのようにお考えなのでしょうか?」
「現場の方々は、この導入についてどのような意見をお持ちですか?」
4. What(何:テーマやトピック)
課題や隠れたテーマを発見する
既に話題に出ている内容以外の重要事項を掘り下げる。質問例
「問い合わせ件数以外に、ターゲティングについてはどのようにお考えですか?」
「現状、他に気になる課題はございますか?」
5. Where(どこ:場所やエリア)
場所や組織内の範囲を広げる質問
地域や部署など、まだ話題に上がっていない領域に視点を広げる。質問例
「東日本について伺いましたが、西日本ではいかがですか?」
「御社内で、他の部門ではどのような取り組みをされているのでしょうか?」
6. How(どう:詳細)
具体的なやり方や詳細を掘り下げる
お客様の話をより詳細に理解するための基本的な質問。質問例
「その点について、もう少し具体的に伺えますか?」
「その業務の流れを簡単に教えていただけますか?」
7. How many/How much(どのぐらい:数量や規模)
定量的な情報を明らかにする
数値や規模感を把握することで、具体的なイメージを共有する。質問例
「単価の水準をどのぐらいの金額まで上げたいとお考えですか?」
「このプロジェクトにかかる予算の目安を伺えますか?」
活用のポイント
「知らないこと」を前提にする
自分が把握していない可能性のある領域を、積極的に探る姿勢が大切。質問を具体化する
5W2Hを活用することで、漠然とした問いを具体的かつ効果的な質問に変える。お客様の視点を引き出す
疑問を通して、お客様自身の考えや背景を引き出し、共感や信頼関係を構築する。
質問力の「引き出し」を増やし続ける
傾聴だけで終わらせず、意図を持った質問をする
営業において「お客様の話を聞くこと」が重要であると認識されるようになり、傾聴を重視するスタイルが一般的となった。
しかし、耳を傾けるだけでは十分ではない。重要なのは、お客様の話を受け止めたうえで、意図を持って質問をすること。
営業1万人調査からの示唆
ハイパフォーマー vs ローパフォーマーの違い
ハイパフォーマーは「聞き方」を工夫し、意図的に質問を活用している。
一方、ローパフォーマーは「話しすぎないよう注意して傾聴する」ことに重きを置いている割合が高い(ハイパフォーマー19.3%⇔ローパフォーマー24.1%)。
ハイパフォーマーの成功要因
質問を工夫する具体例:
アイスブレイクや雑談に質問を混ぜる
ハイパフォーマー17.4%⇔ローパフォーマー12.0%。
質問の「間」や「タイミング」を工夫する
ハイパフォーマー17.3%⇔ローパフォーマー10.8%。
事前にお客様の近況を調べてから質問する
ハイパフォーマー16.9%⇔ローパフォーマー7.8%。
傾聴と質問のバランス
傾聴は重要だが、それだけでは成果につながらない。
お客様の話を聞くだけで終わらせず、適切な質問を投げかけることで、お客様の課題やニーズを深掘りする。
ハイパフォーマーの特徴:
広い質問の引き出しを持つことで、多様な状況に対応。
質問の仕方やタイミングを工夫し、お客様に新たな気づきを提供。
質問力を向上させる方法
成功事例を分析して応用する
過去の商談で効果的だった質問のパターンを振り返り、それを他の状況でも活用する。
事前準備を徹底する
お客様の近況や業界動向を調べ、適切な質問を準備。
柔軟な会話運びを意識する
質問を硬直的に行うのではなく、雑談やアイスブレイクを交えながら自然に話を進める。
タイミングを見極める
お客様が話しやすいと感じる間や流れを意識して質問を差し込む。
引き出しを増やす
5W2HやSPIN質問など、多様なフレームワークを学び、自分の質問スタイルを広げる
効果的な質問をするための「3つのポイント」
1. 「間」と「タイミング」
お客様との会話に自然に入り込むための「間」をつかむ。
質問を投げかける「タイミング」を見極める。
具体例
ハイパフォーマーの営業は「話が弾む」ように会話を進める。
一方、未熟な営業は「リスト通りの一問一答式」で進行し、会話が単調になりがち。
2. 「どう聞くか」
質問の言い回しを工夫することで、お客様が答えやすくなる。
例:「導入したいと思われますか?」ではなく、
「あくまでも現時点での感触で構いませんので、個人的なご意見としてはいかがですか?」枕詞を加えることで、お客様の心理的負担を軽減。
3. 「どこまで踏み込んで聞くか」
「お客様が怒るまで踏み込む」という方針で、新人が深掘りする感覚を掴むOJTを行う企業の例あり。
営業が躊躇せず深掘りすることで、より正確なニーズを引き出すことが可能。
質問力向上の実践方法
「楽勝商談」と「惨敗商談」で挑戦する
商談を難易度に応じて3つに分ける:
楽勝商談:自社のファンや関係が深い案件。
惨敗商談:競合優位で付け入る余地がない案件。
接戦商談:成果が営業次第で分かれる案件。
目的
「楽勝商談」では、自由に新しい質問法を試すことで、引き出しを増やす。
「惨敗商談」では、踏み込んだ質問や新しいタイミングを試し、自分の限界を知る。
経験を積むことで、「接戦商談」で適切な質問を活用できる準備を整える。
接戦商談で勝負を決めるためのポイント
接戦商談の「競合」「保留」「内製」を攻略する質問の工夫
接戦商談において勝敗を分けるのは、適切な質問を通じてお客様の意思決定プロセスに入り込み、BANTCH情報を引き出せるかどうかにかかっています。それぞれの接戦タイプごとに有効なアプローチを解説します。
1. 競合と比較される接戦
競合他社との比較において、当社の提案がどの位置にあるかを把握することが重要です。
質問例
「現在ご検討中の他社様の提案内容について、特に重視されているポイントはどちらですか?」
「当社の提案と他社様の提案を比較される際に、具体的にどのような基準で選ばれる予定でしょうか?」
「他社様とのご商談はどのようなスケジュール感で進められていますか?」
これらの質問によって、競合他社との違いを明確にし、お客様が当社の提案を選ぶ理由を作ることができます。
2. 保留と比較される接戦
お客様が「今は買わない」という選択肢を検討している場合、その背景にある不安や課題を明らかにする必要があります。
質問例
「今回の提案内容に関して、特にどの点で納得されていないと感じられますか?」
「仮に、今回ご導入いただくことで●●のような成果が得られた場合、今決断されるメリットはございますか?」
「タイミングとして、他の優先事項がある場合、それらが解決するまでにどのぐらいの期間がかかるとお考えですか?」
お客様の「決断の遅れ」の理由を明確にし、今動くことのメリットを提示します。
3. 内製と比較される接戦
お客様が「外注」ではなく「内製化」を検討している場合、内製のコストやリスクを具体的に比較できる質問を投げかけます。
質問例
「仮に、今回の課題を内製化する場合、どのような体制や期間が必要になるとお考えですか?」
「現状、内製化のリソースがどの程度確保できているか、教えていただけますか?」
「内製で進められた場合と、当社がサポートした場合の違いとして、どのような点が不安に感じられますか?」
内製化のデメリットを明確にし、自社提案の優位性を示すための情報を引き出します。
接戦商談を勝ち抜くための準備
接戦商談では、営業担当者が「枕詞」や「特定質問」を駆使してお客様の真のニーズに深く入り込むことが求められます。ただし、このスキルは一朝一夕に習得できるものではありません。
楽勝商談でのトライアル
安全な場で新しい質問法を試し、引き出しを増やす。惨敗商談でのチャレンジ
思い切ったアプローチで、自分の限界を知る。
これらの経験を積み重ねたうえで、接戦商談では「勝負を決める質問」を正しいタイミングで繰り出すことで成果を最大化できます。
第3章まとめ: 「はぐらかしの仮面」を外す鍵は質問力の向上
「はぐらかしの仮面」とは?
お客様が営業の質問に対して、のらりくらりとかわす現象のことを指します。これは本音で「情報を教えたくない」のではなく、「教えることに伴う不安やリスク」を感じているためです。
お客様が安心感を得られると、むしろ営業に情報を伝えたいという意向を持っています。そのためには、営業が適切な質問を使いこなし、不安を解消する必要があります。
質問力を高める重要性
「はぐらかしの仮面」を外すためには、「質問の引き出しを増やす」ことが最も効果的です。ただし、質問力を磨く際には、以下の2つの注意点を忘れてはいけません。
「関係構築の呪縛」に陥らない
「関係が深まらないと教えてもらえない」という考えは危険です。特に新規開拓では、関係構築がなくても必要な情報を引き出す質問力が求められます。
「わかったつもり」にならない
お客様の背景や文脈は多様であり、完全に理解したと思い込むのは禁物です。「まだ何か見落としているのではないか?」という探求心を持ち続けることが大切です。
「はぐらかしの仮面」を外すための武器
BANTCH情報の特定
Budget(予算)
Authority(意思決定者)
Need(ニーズ)
Timing(導入検討時期)
Competition(競合)
Hierarchy(組織体制)
意思決定に必要なこれらの情報を具体的に引き出す質問を準備する。
枕詞
一言添えて質問の負担を軽減し、お客様が答えやすい雰囲気を作る。
深掘り
お客様の発言を基にさらに具体的な情報を引き出す質問。
特定質問
条件や選択肢を提示し、お客様が答えやすくなるよう工夫する。
核心質問
「むしろ困っていないのでは?」という逆の視点から本当の課題を明らかにする。
課題解決質問
売り込み臭を消し、理想と現状のギャップをお客様自身に気づかせる質問。
無知の知
「自分が何を知らないか」を5W2Hで問い直し、真実に迫る。
接戦状況を問う質問
楽勝・接戦・惨敗の案件を見極め、適切に対応する。
営業としての心構え
「お客様にもっと質問したい」と思うことは、お客様理解を深める大きなチャンスです。質問を恐れることなく、意図を持って会話を進めることが、営業の成果を左右します。
この章で紹介した武器を使いこなし、どんな場面でも「はぐらかしの仮面」を外し、お客様との信頼関係を築くスキルを磨いていきましょう。