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【要約】「ガバナンスの罠」にハマってはいけない:セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する
「ガンバリズムの罠」はいかにして生まれるか
営業で成果を上げるために「がんばる」ことが強調されるが、その「がんばり方」を間違えると、かえって成果を遠ざける。 営業チームでは、ただ「がんばれ」というかけ声が飛び交うだけで、実際には売上が伸び悩むことが多い。 これは個人だけでなく、組織としても陥りやすい「ガンバリズムの罠」である。
「マジメな営業」がはまる落とし穴
大規模な調査の結果、目標未達のローパフォーマーには、お客様の話に真剣に耳を傾ける「マジメな営業」が多いことが判明。 こうした営業は、「お客様の言葉をそのまま信じる」ために、表面的なセリフに振り回され、時間を浪費してしまう。
「がんばり方を間違える」とはどういうことか?
例として、新規のテレアポで「忙しい」と言われた際に、営業がただその言葉を鵜呑みにして「1ヶ月後にまた連絡します」と繰り返してしまう場合を考える。 この営業は、本当のニーズがあるかを見極めず、ただ電話件数を増やすことに固執している。
正しい対応としては、「忙しい」という返答が本当に多忙なのか、単にはぐらかしているのかを確認するために、「どんな別件に取り組まれているか」を尋ねることが有効である。 具体的に答えが返ってくるなら多忙の可能性が高く、あいまいならただのはぐらかしの可能性が高い。
TORiXでのインサイドセールスのアプローチ
著者の会社では、テレアポの際に「忙しい」と言われた場合、「どんな別件に取り組まれているか」をさりげなく尋ね、ニーズを確認する方法を推奨している。 これにより、お客様から「事情を理解しての連絡ありがとうございます」との感謝の言葉とともに受注に至ることもある。
「ガンバリズムの罠」とは何か
「ガンバリズムの罠」とは、努力を目的とした行動に陥り、結果に結びつかない努力を続けてしまう状態である。 営業現場では、「たくさん電話をかけること」だけが目的化され、お客様のニーズを確認せず空振りを繰り返す。 これが続くと、疲弊し、成果が上がらないどころか営業自体が行き詰まってしまう。
「ガンバリズムの罠」が生まれるきっかけは「超人」にあり
「ガンバリズムの罠」とは、営業が思考停止し、がんばり続けるだけで成果が出ず、的確な提案活動(武器)を増やせない状況を指す。 この現象が起こる背景には、営業トップの「超人」の存在がある。
超人トップがもたらす弊害
「超人」と呼ばれる営業トップは、他社に勝る競争力のない商品でも圧倒的な販売力で売り込み、成果を上げることができる。 このような超人が組織のトップに立つと、現場で苦戦しているメンバーに対して、「営業なんて簡単だ」と思い込んでしまう傾向がある。
超人は平常心で努力を続け、他者には考えられないほどの成果を当たり前のように出すため、営業の難しさを理解せず、「当たり前のことをやれば結果が出る」と考えてしまう。 その結果、メンバーに必要な支援や武器が提供されず、「がんばればなんとかなる」と思わせてしまう。
「超人」による組織文化の形成
超人トップのもとで、マネジャーも「売れないのは努力不足」と見なされるため、「当たり前のことをやれば成果が出る」と指導せざるを得ない。 この結果、営業チームの文化は「行動量を増やし、関係構築をする」といった抽象的な指導が中心となり、具体的な武器を増やす支援が欠ける。
一方、マネジャーも自分の経験に基づいて「こうやって成功した」と語るが、現在の状況と異なるため、そのアドバイスが通用するとは限らない。 状況の違いを無視して「目標達成を意識せよ」「行動量を増やせ」と精神論が強調されることで、メンバーは「とにかくがんばる」ことに陥り、武器を増やすことができなくなる。
「ガンバリズムの罠」における難しさ
ガンバリズムの罠は、「がんばる」というアドバイス自体が間違っていないため、問題に気づきにくい。 真面目なメンバーは指示通りに努力を続けるが、抽象的な指導のみでは「がんばる」以外の武器が増えず、成果が出ないままとなってしまう。
「ガンバリズムの罠」の恐ろしさ:営業プロセスのブラックボックス化
「ガンバリズムの罠」に陥った組織では、営業プロセスがブラックボックス化し、成果が出ない理由が見えづらくなる。 本来なら、SFA(営業支援システム)を活用してプロセスを見える化し、成果が出る方法を共有するべきだが、トップが「営業なんて簡単だ」と考えている組織では、この施策が進まない傾向がある。
ブラックボックス化の本当の理由
SFAが使われない理由を「入力が大変」と説明することが多いが、実際には「自己正当化バイアス」が根底にある。 特に、マネジャーが努力以外の要因(ラッキーな案件、競合の弱さなど)で昇進している場合、自己正当化により「自分の努力が正しかった」と考え、他者にも同じ努力を求めるようになる。
このような組織では、「努力すれば成果が出る」という価値観が浸透し、マネジャーは「自分も努力したから成果が出た」と強調することで指導がしやすくなる。
「見える化」を拒む理由
SFAを使って営業プロセスを見える化すると、努力しているにもかかわらず成果が上がらないメンバーに対してマネジャーが適切な指導をできていないことが明らかになる。 そのため、指導力不足が露呈することを恐れるマネジャーや、楽に成果を上げている営業メンバーは、見える化に消極的になる。
ブラックボックス化の「共同戦線」
マネジャーとラッキーな営業メンバーが「見えると都合が悪い」理由で見える化に反対し、「ガンバリズムの罠」によるブラックボックス化が組織全体に広がる。 この結果、営業チームは正しい努力に基づく改善が難しくなり、組織全体が成長を阻害される構造が出来上がってしまう。
三種の神器:「目標達成プレッシャー」「大量行動」「関係構築」
営業メンバーが目標未達の状態で悩んでいると、マネジャーからのアドバイスは「目標達成プレッシャー」「大量行動」「関係構築」という三つの基本的なアプローチに終始する。 これらは「三種の神器」として、具体的な指導がない場合にマネジャーが依存しがちな抽象的な指導方法である。
三種の神器の問題点
目標達成プレッシャー:目標を達成することへの強いプレッシャーが与えられ、営業メンバーはとにかく目標を意識しすぎてしまう。
大量行動:行動量を増やすことで、戦略商品が合うお客様に出会える可能性が高まると言われ、量を重視した行動が強制される。
関係構築:お客様と良好な関係を築くことが強調されるが、具体的な方法は示されず、「とにかく関係を築け」という抽象的なアドバイスにとどまる。
三種の神器が「ガンバリズムの罠」を助長する仕組み
これら三種の神器は、メンバーに具体的な解決策を与えないまま行動を強いるため、「とにかくがんばればいい」という方向にメンバーを追い込みやすい。 その結果、営業メンバーは考えることを止め、機械的にがんばる道を選ぶようになる。
この状況が続くと、メンバーは追い詰められて視野が狭くなり、思考停止に陥ってしまう。 そのうち「なぜできないのか」という叱咤激励が飛ぶようになり、追い詰められるメンバーが増えていく。 こうして組織全体で「ガンバリズムの罠」に陥り、結果として多くのメンバーが成長を阻まれる状態となる。
「ガンバリズムの罠」から抜け出す勇気
時代の変化により、「ガンバリズム」だけに頼る組織運営は難しくなってきた。 働き方改革やリモートワークの普及により、長時間の労働や「とにかくがんばる」という姿勢は敬遠される傾向が強まり、若手もワークライフバランスを重視している。
「ガンバリズムの罠」の弊害
「ガンバリズム」に過度に依存することがもたらす副作用は多い。
若手の営業離れ
報われない努力のイメージから、営業を避けたい若手が増加。 配属後に異動を希望するか退職してしまうケースが多い。心身の健康への悪影響
努力が行き過ぎた場合、過労やストレスにより心身が損なわれるリスクが高まる。会社のブランド価値低下
社内への「がんばり」アピールが重視されると、顧客に不快な営業が増加し、会社の評判が悪化する可能性がある。将来のマネジャー候補への悪影響
「がんばれば何とかなる」という信念が強すぎると、昇進後に部下に同じ姿勢を求め、思考停止に追い込む恐れがある。
ガンバリズムの罠を脱する方法
「ガンバリズムの罠」を脱するには、「武器」を増やし、営業の本質的な難しさを理解することが必要。 次章では、顧客の本音を引き出す「購買者の仮面を外す」提案活動について説明していく。
第1章まとめ
多くの成果が出ない営業は、「がんばっていない」のではなく、がんばり方を誤っている。 これは個人の問題ではなく、営業チーム全体で発生する集団的な現象である。
ローパフォーマー営業は、「マジメにがんばる」以外の武器を持たないため、お客様の本音をつかめず、表面的な言葉に振り回されてしまう。 こうした組織は「ガンバリズムの罠」に陥り、営業が思考停止したまま的外れな努力を続ける結果、的確な提案活動(=武器)を増やす機会を失っている。
特に「超人」と呼ばれるトップが「営業は簡単だ」と考えると、マネジャーは具体的な指導ができず、「目標達成プレッシャー」「大量行動」「関係構築」に頼った抽象的なアドバイスを行いがちになる。
この「ガンバリズムの罠」は、若手の営業離れ、心身の健康問題、会社のブランド価値低下、そして将来のマネジャー候補への悪影響を引き起こし、時代の変化に伴い一辺倒では対応できなくなっている。
「ガンバリズムの罠」を脱するには、営業活動に必要な「武器」を増やし、営業の本質的な難しさを理解し、乗り越えていくことが不可欠である