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【要約】聖堂守:ビジネスを育てる 新版 いつの時代も変わらない起業と経営の本質


本書の執筆背景と意図

著者は読者が事例をそのまま模倣することを避けるため、事例を短くし、要点をつかんで自分のビジネスに応用してもらうことを意図した。 唯一の「お手本」として示したいのは、全体的な経営の視点である。 個人、会社、取引先、顧客、そして地域コミュニティを統合して考える重要性を強調している。

アルバート・エドワード・フォアマンの物語

物語の主人公、アルバート・エドワード・フォアマンは、ロンドンの教会で16年間聖堂守として働いていた。

聖堂守の転機

新任の司教代理から、アルバートが読み書きできないことを理由に、3か月の猶予が与えられたが、彼は学ぶことを断り、結果的に解雇された。 アルバートにとって、聖堂守は生涯守られるはずの役職であり、失業は予想外の出来事だった。

ビジネスの始まり

失業したアルバートは家路につく途中、煙草屋が一軒もない通りを歩いたことで商機を見出し、翌日には煙草屋を開業した。 アルバートは元聖堂守としての貯金を元手に商売を始め、妻の不満をよそに、時代の変化を受け入れ店を繁盛させた。

成長と成功の道

煙草屋の経営が順調だったアルバートは、他の煙草屋がない長い通りを見つけるたびに新しい店を出店し、10年後には10店舗を展開するに至った。

銀行とのやりとり

銀行のマネジャーから投資を勧められた際、アルバートは自分が読み書きができないことを告げた。 驚いたマネジャーが「もし読み書きができたらどうなっていたか」と尋ねると、アルバートは「聖ピーターズ教会で聖堂守をしていたでしょう」と答えた。

物語の教訓

アルバートの成功は正直さと純真さから生まれ、忍耐強い観察が成長の源であった。 彼のビジネスは欲望や妥協ではなく、プロセス自体に対する満足によって成り立っていた。 物語は、成功が必ずしも一般的な教育や知識に依存しないことを示している。

訳者あとがき

訳者は、25年間小さな会社を経営し、「美しい理論も現実と合わなければ誤り」という指針を守り続けてきた。 物理学者リチャード・P・ファインマンの「知識は実験によってテストされる」という言葉に共感し、自身の信念を再確認した。

本書は1987年に原著が発刊され、2005年に初めて日本語訳が行われたが、その内容は現代でも色褪せず、ビジネスの基本的な原則が変わっていないことを証明している。

時代を超えるビジネスの教訓

著者ポール・ホーケンの言葉は、40年の時の試練を経て、以下の教訓が真理であることを示している。

  • 始めなければ始まらない

  • ビジネスは人柄の試金石になる

  • ビジネスは遊びである

  • 実行あるのみ

  • お金がありすぎることは、足りないより悪い

  • 「伝説」に惑わされるべきではない

  • ビジネスは常に問題を抱えている

  • 規模はもはや優位性にはならない

  • 「ありふれ」に違う光を当てて育てる

  • 「する」ことではなく、「である」こと

  • 楽しむこと

  • 現場から学ぶ

  • 数字に強くなる

  • 顧客の視点から学ぶ

環境の激変と普遍の真理

インターネット、SNS、DXといったビジネス環境の激変の中で、普遍の真理が浮き彫りになった。 訳者は、2023年にコロナや生成AI、DXの議論が本質を見失わせていると感じ、「変わらぬ真理」を再確認するために読書会を実施。 本書はその読書会の成果を加え、再度翻訳し直したものである。

復刊への感謝

絶版状態から復刊するにあたり尽力したディスカヴァー・トゥエンティワン編集部と、解説を寄せた株式会社クラシコムの青木耕平氏に感謝を表している。

ポール・ホーケンのメッセージ

「ビジネスの成功はあなた自身にかかっている。ビジネスをするということはお金儲けを指すのではなく、あなたが唯一無二の存在として自分を確立する道である。」

『ビジネスを育てる』復刊に寄せて

『ビジネスを育てる』が再び復刊されることに、青木耕平氏は深い喜びを感じている。1980年代に米国で出版され、2005年に日本で紹介された本書は、長らく絶版となっていたが、現在のビジネス環境においてこそその価値が輝く。

変化する環境と本書の重要性

現代では、ビジネス環境の変化がますます加速し、不確実性が高まる中で、事業を生み出し育てる必要がある。そのような状況下で、「アジャイル」「エフェクチュエーション」「リーン」「プランドハプンスタンス」などの考え方が注目を集めている。本書では、著者の実務経験を通して、これらのアプローチに通じる効能が語られている。

青木耕平氏の自己紹介

青木耕平氏は、株式会社クラシコムを経営し、「北欧、暮らしの道具店」を運営している。2006年、34歳の時に妹と二人で創業し、ECサイトとしてスタート。北欧ヴィンテージ食器の販売から始まり、次第に雑貨やアパレル、コスメなど多様な商品カテゴリを展開するようになった。

事業の成長と現在の姿

顧客の喜びを追求する中で、商品カテゴリは拡大し、オリジナル商品の売上は全体の半分以上を占めるようになった。また、SNSやアプリ、YouTube、ポッドキャストといった多様なチャネルでコンテンツを提供し、今ではECサイトを超えたプラットフォームに成長している。

創業から18年経った現在、クラシコムは社員数が100名に迫り、2022年8月には東証グロース市場に上場を果たした。

本書の影響

青木氏にとって『ビジネスを育てる』は、創業からの成長過程で大切な指針を与えてくれた書籍である。現代の困難なビジネス環境においても、本書が多くの人にとって価値ある道しるべとなることを願っている。

私たちが強く影響を受けた4つのポイント

『ビジネスを育てる』には多くの示唆や金言が詰まっているが、その中でも特に強い影響を受け、創業から20年弱の間、一貫して自らの指針とした4つのポイントについて説明する。

ビジネスは個性や思想を表現するアートになり得る

本書は、ビジネスとは単に売上や利益を追求するためのものではなく、作家が小説を書くように、自分の思想や美意識、課題を表現するアートにもなり得ると述べている。 青木氏が本書に触れたのは30代半ば、自身の仕事や職場にフィットできずに悩んでいた時期だった。 この一節に出会い、自らの内面から大きなモチベーションが湧き出てきたという。

「ビジネスが自己表現の手段であり、それが成功の要諦である」との考えは、青木氏にとって大きなパラダイムシフトをもたらした。 以降、青木氏はステークホルダーや社会に対して「気づき」「希望」「美しさ」「面白さ」を提供するビジネスを目指して経営に取り組んできた。

小さく、乏しく、拙く始めてもスケールすることは可能である

事業をゼロから始めるとき、リソースが限られていることは当然である。 青木氏も銀行口座に数十万円しかなく、兄妹二人で創業したという不安定な状況から出発した。 本書の著者ポール・ホーケンも、専門家ではないところから小さな規模で始め、最終的に大きなビジネスに成長させた事例が紹介されている。

ホーケンの実例は「小さく、乏しく、拙く」始めても「ビジネスを育てる」ことができるという希望を青木氏に与えた。 「育てる」という言葉は、「周囲の世界に関心を持つ」「人から学ぶ」「自分を変える」の3つの意味を含んでいる。

本書ではアップル、パタゴニア、ベン&ジェリーなど、小さなスタートから始まり大きな成功を収めた企業の事例が掲載されており、大いに勇気づけられたという。

私たちが強く影響を受けた4つのポイント(続き)

ビジネスは身体知であり、実務に身を浸しながら学び、思考するべきである

本書は、ビジネスに必要な能力は身体的なものであり、頭だけでなく手を使って実務を通じて学ぶべきであると説いている。 青木氏は「北欧、暮らしの道具店」を創業した初期の数年間、商品管理や顧客対応、会計業務など地道な作業に追われる日々を過ごした。 「もっと経営戦略を考えるべきではないか」という不安を抱きながらも、地道なプロセスが重要であるという本書の教えに支えられ、実務を通じて成長していった。

未来が見えないときは「大きく息を吸って。吐いて。じっくり取り組もう」という言葉をマントラのように唱え、実行しながら学び続けることで不安を乗り越えた。

企業を健全に成長させるためのヒントは生物や植物の成長にある

ビジネスの成長は植物の成長と同じく、速すぎても遅すぎても問題がある。 健全な成長を目指すには、その事業に適したペースと規模を見極めることが大切であり、無理に市場を押し込むようなことは避けるべきだと本書は説く。

青木氏は、会社の成長について尋ねられると「ビジネスにはそれぞれに合った成長速度とサイズがある」と答える。 リンゴやスイカのように、それぞれの植物にちょうどよい大きさがあるように、ビジネスも適切な規模に成長することで成熟し、さらに卓越したものになるチャンスが生まれる。

創業以来18年間、他社との比較ではなく自分たちのビジネスの健全性に注意を払ってきた結果、毎年利益を創出しながら着実に成長を続けることができた。

本書がもたらすビジネス観

本書は、ビジネスを単なるお金儲けや名誉のための手段としてではなく、困難を伴いながらも喜びを見いだせる人間らしい活動として捉えることを推奨している。 問題が絶えないということは、その会社が学びの段階にある証拠であり、それを創造の一部と捉えることで長く喜びを持ってビジネスを続けていくことができる。

青木氏はこれからも本書を読み返しながら、自分の仕事に喜びを見出しつつ、地道にビジネスを育て続ける決意を持っている。




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