大阪の日本シリーズに、山際淳司さんを想う。亡くなって四半世紀。色褪せぬ彼の作品
21、22日と大阪ドームで行われた巨人対ソフトバンクの日本シリーズ。亡くなって25年になる山際淳司さんを思い出していた。
彼の有名な作品である「江夏の21球」。1979年に大阪球場で行われた広島と近鉄が合いまみえた日本シリーズ第7戦のことが描かれている。
「近鉄バファローズの石渡茂選手は、今でもまだそんなはずがないと思っている」という書き出しから物語は始まる。この1行目をどうするか。いろいろな言葉を書いたメモを、入れ替え差し替えしながら決めたそうだ。
広島の守護神、江夏豊が投じた日本一までの1イニングを描いているが、そこに江夏の傷ついたプライドがさらけ出されている。
試合は4-3で九回裏。広島が1点リード。しかし無死満塁のピンチ。そんな場面での出来事だ。
ブルペンでほかの投手が準備しているのだ。
こんな時は守護神にまかせるんじゃないのか。自尊心を傷つけられた江夏。そこに、味方の選手が一人、声をかけた。衣笠幸雄の「オレもお前と同じ気持ちだ。ベンチやブルペンのことなんて気にするな」。
分かってくれている人がいる。それによって、救われる気持ちとなり、試合に再び集中できた。そこからは圧巻の投球術で、無失点に抑え、広島を日本一に導いた。
取材時に、江夏はなかなか、ベンチに対しての心境を語りたがらなかったそうだ。当然だろう。それはブルペンに投手を送った監督批判につながるのだから。
しかし、その状況下で、江夏から、本心を引き出した山際さんの取材力に、心から敬意を表したい。それこそが、スポーツライティングに求められていることなのだから。その取材力があったからこそ、今も「江夏の21球」は色褪せずにいる。
今年もあの時も、大阪の球場は元々のフランチャイズ球場ではなかった。近鉄はホーム球場が日本シリーズの規格に合わなかったため、大阪球場を使用。今年は巨人がコロナ渦による日程変更の影響で、先約が入っていたため東京ドームを使えず、大阪ドームとなった。何か不思議な縁を感じてしまうのだ。
今回、大阪では2戦を終えて、ソフトバンクが連勝した。山際さんだったら、どういう視点でゲームを見ているだろうか。
この試合だけではない。今も昔も、山際さんの幻影を意識しながら、私はスポーツを見ている。
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