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【黒部市美術館開館30周年 サエボーグ Enchanted Animals】をパフォーマンス『Slaughterhouse』を観てカワイイの暴力性について考えた。

【黒部市美術館開館30周年 サエボーグ Enchanted Animals】が始まりました。

さえちゃんとかは気がつけば岡本太郎賞の時からのお付き合い。

そして、先日現美で感動の再会をすることが出来ました。

子連れで現代美術を鑑賞し続けたからこそ味わえるこの感動。よかったよかった。

そして私の中で「次は一体何を仕掛けてくるのだろう?」と楽しみでならない学芸員のお一人、黒部市美術館の尺戸さんのキュレーションでサエボーグ展が行われます、という情報をキャッチ。

こりゃ行くしかないでしょ!ということで黒部へやってきました。
そうですあたしゃ距離感バグっています。

ちなみに、サエボークというアーティストの表現を
長年美術側で追いかけている者として1つ懸念がありました。それは

「富山の人のノリはどうなのだろう」

北の大地の皆々様。高倉健ばりに物静かで誘っても「不器用ですから」になってしまうのではないか。
なんて勝手に想像してたのですが...。

みんなめっちゃノリノリ!!!

びっくりしました。そして楽しそうに踊る皆々様を拝見しながらあたしゃ2つの点を考えていました。


1:自己の解放について
サエボーグ作品においての根源である「変身により嫌悪していた自己から解放」についてです。

このパフォーマンスは自己の心身、管理された環境に甘んじる自分。管理の象徴である家畜とのバトルしてまず管理を崩壊させます。その後のニンゲンの自己の解放としてのストリップ。そして解放へのフィナーレへと続きます。

そのフィナーレを見ながら私はちょっと前に歌舞伎町でのイベントBENTENにて上演された遠藤麻衣さんの《オメガとアルファのリチュアル》を思い出していました。

あの作品は18歳以下は入場と撮影が禁止でした。そして鑑賞には同意書の記入が必要でした。
そして(着ぐるみという違う過程を経てるけど)同じストリップというパフォーマンスをこの黒部では小さな少女を膝に乗せたお母さんが笑いながら見ている。

表現方法は違えど同じストリップ。「解放」へ向けての自己への愛憎を踏まえた破壊行為としての象徴としてストリップが選択されたのかな、という解釈だと定義してみます。でもこの2つのパフォーマンスは明らかに違う捉え方をされている。この差は何だろう?と考えて込んでしまったのですよね。
(正直BENTEN行ってなかったらこの思考の方向にはいかなかった、なのでとても感謝)

自己を変身させるためにはかつての自己を完璧に崩壊させる必要があります。なぜならかつての自分が残っていたら変身にならないから。改めてムンクの第1報 版画集《アルファとオメガ》の概要を見直してみたのだけどそこにはやはり「変身には破壊ありき」「そして自己の破壊には他己の破壊が不可欠」と私は解釈してしまうんですよね。

同じ破壊なのに解釈がここまで違う。これってなんなのだろう?的な疑問で気持ちが満ち溢れていました。謎は深まるばかりでした。


2:そしてその謎は「POP」故に成り立つ?

パフォーマンスが続き素敵な曲を聴きながら着ぐるみさんと来館者が踊る様を見ながら私はこの思考ロジックの矛盾の意味を考えていました。そこで思いついたのは

「カワイイの暴力性がここ黒部にはまだ届いていない?」

サエボーグの作品って可愛いんですよね。近くで見ると本当に可愛い。POPです。だからこそ彼女自身がトークでも語っていた「自己心身への嫌悪感から始まった強い変身願望」に自己破壊の暴力性を感じるわけで。(変身の完成度を上げるためには己の崩壊の徹底が必要、そこにはかつての自分に向けての深い暴力が不可欠)でもその暴力性故に生まれる美しさも感じるわけです。

カワイイ、にはそういう暴力性が常にあると私は思うんですよね。

特にサエボーグ作品のカワイイって生身の体に着ぐるみを着る、という「リアル自己破壊」なわけですよ。リアルだから可愛さは増す、同時に「その可愛さを纏わないと生きていられない」という破壊の強さもリアルに感じるわけです。

自己破壊に追い込まれる感覚は自分自身も国内外で経験があるのでこの作品の意味に深さには改めて考えさせられます。同時にもしかしてこの黒部にはその「自己破壊に追い込まれる感覚」を味合わせる体験に出会ってしまうようなことが少ないのかな?とも思ったりしました。

最後のトークもパフォーマンス後なので話す内容はとても面白かったです。同時に話す行為がとても大変そうだった。相撲取りが取り組みの後におっすしか言えないのわかる!って言ってたが面白かった。トークでは管理との訣別的な話題もあったので

「多くの人類が管理された「コロナ」は作品に影響を与えましたか?」

と思わず聞いちゃいました。

本当に面白いパフォーマンス&トークだった。
黒部まで来て本当によかったです。もう付き合い長いよね、立派になったねえと勝手に親戚のおばちゃんモードになっておりました。ほんまに黒部市美術館から目が離せません。
お世話になった皆様ありがとうございました。