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発足12年目―これからも傍聴し続ける原子力規制委員会|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中55

 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)核災害で、核技術のリスクの大きさが明瞭になって13年以上が経過しました。この国が、核技術を発電に用いる政策を未だに続けているのは嘆かわしい事です。

 とは言え、原子力発電の利活用の体制は、フクイチ核災害前と同じではありません。「縦割り行政の弊害」「一つの組織が推進と規制を担うことの問題」等を解消する新たな原子力規制行政機関として、2012年9月19日に原子力規制委員会(以下「規制委」)が発足しています。原子力規制委員会設置法(注1)の制定過程の概略は「まとめ1」の通りです。


 規制委(事務局は原子力規制庁)の発足により、旧・原子力安全保安院や旧・原子力安全委員会などの規制組織は規制委に一本化されました。

 規制委の委員長・委員4人の任期は発足時を除いて5年と定められており(注2)、内閣総理大臣が国会の同意を得て任命します(注3)。

 委員長・委員の交代は9月に集中します。発足から12年を迎えた本年9月にも、石渡明・田中知の両氏が退任し、代わって山岡耕春・長崎晋也の両氏が着任しました(委員長・委員の任免に関する規定は「まとめ1」を、歴代の委員長・委員の一覧は「まとめ2」を参照)。


 組織を設置する根拠は設置法ですが、規制委の定める基準規則類の根拠は「原子炉等規制法」(通称「炉規法」/注4)など、別の法令です。本稿では、紙幅の関係から、炉規法にのみ簡単に触れます。所謂「(原発の)新規制基準」も、炉規法に基づいて策定されています(注5)。

 フクイチに関しても同様です。フクイチは炉規法第六十四条に定められる、「特定原子力施設」に指定されています(注6)。東電は、フクイチでの工事や保安の措置に関して「実施計画」にまとめて規制委に申請し、認可を得なければいけません。

 炉規法は2017年の通常国会で大幅改定され、改定内容は2020年度に全面施行されました。これにより、原子力事業者の一義的責任が明確化され、規制庁の検査官は原子力施設への24時間フリーアクセスが可能になりました(これ以前は、抜き打ち検査ができませんでした)。

 私は、規制委が実施する会議の内、原子力規制委員会(原則として毎週水曜日午前開催。5人の委員全員が合議・決定する場)と、特にリスクの高いと思われる原子力施設(フクイチ・東海再処理施設・もんじゅ)に関する会合に絞って、2013年秋から傍聴を続けています(個人の時間・労力の関係で、それ以上に幅を広げるのは困難です)。

 私が規制委の会議を傍聴しているのは、フクイチ核災害の数多くの教訓を踏まえてのことです。紙幅の関係で二点だけ取り上げます。

 教訓の一つ目は「原子力規制行政を主権者が監視していなかった」ことでしょう。

 規制委は、設置法第二十五条に定められた「情報の公開」を今のところは守っており、核セキュリティや人事に関することでなければ会議は公開です。ネットで生中継され、動画も残り、事前登録で傍聴も可能です(「会議ではない」とされる打ち合わせやヒアリングは議事要旨や資料の開示にとどまっています。本当の意味で「全ての公開か」を問うと長くなるので立ち入りません)。

 フクイチ核災害の教訓の二つ目は「原子力施設のリスク要因に社会全体が鈍感だった」ことでしょう(フクイチを例にするなら「海抜35㍍の台地を10㍍まで掘り下げた」「配電盤を地下に設置」「建屋を水密化していない」等の情報が社会的に共有されていませんでした)。

 原子力事業者はリスク情報を自ら大々的にリリースしませんから、施設の現状やリスクを知るには、規制委・規制庁の会議やヒアリングに提出される事業者の資料を確認するのが、現状では最も確実な方法です。

 規制委を傍聴することで「原子力施設の現状」「事業者の責任」「公の場での説明や質疑がどうあるべきか」など、多くの学びや気付きも有ります。一方で、目前で原発再稼働に繋がる書類が決定されるなど、悔しく歯痒いこともあります。ですが、規制委の設置目的は「原子力利用における安全の確保を図ること」(設置法・第三条)であり、規制委の任命権者は内閣総理大臣です。原発利活用という国策に反対するなら、その矛先は国権の最高機関(=国会)であるべきでしょう。

 私は今後も、原発利活用の国策に反対すると同時に、監視と情報収集を目的に規制委の傍聴を続けます。

 最後に、見出しから外れることをご容赦下さい。

 フクイチの「処理水」希釈放出(投棄)は、本年8月25日に累計8回目が終了しました。昨年8月以降に放出された水量・放射能量は別掲の通りです。今回から、化学物質の放出量も加えました。


 注1/原子力規制委員会設置法

 注2/設置法附則第二条により、発足時のみ、委員の任期が異なる(2人が2年、2人が3年)。

 注3/発足時は国会の同意を得る見通しが立たず、野田佳彦内閣総理大臣(当時)は、委員長・委員を国会同意なしに緊急任命した。

 注4/正式名称は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」

 

 注5/原子力規制委員会は「新規制基準」への適合性を判断している。基準適合性が認められた後の、「原発の再稼働」は事業者(電力会社)の判断。

 注6/2012年11月に指定

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