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【原発】【健康被害】を訴える飯舘村民

拭えない〝初期被曝〟の不安

 県内を取材していると、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、大病を患ったり体調を崩したという人にたびたび出くわす。一般的には、チェルノブイリ原発事故より放出された放射性物質量が少なく、住民の被曝量も抑えられたので、健康被害が出ることは考えにくいとされているが、当事者の不安は大きい。ある飯舘村民のケースを紹介する。

 「とにかく疲れやすくなってしまい、避難先と飯舘村の自宅を車で行き来するのも一日がかりです」

 こう嘆くのは飯舘村に住んでいた年配男性Aさんだ。

 原発事故後、親族のつてを頼って、高齢の両親とともに近隣市町村に避難した。4年ほど経ったころ、たまたま福島市の病院で受けた総合健診で、甲状腺炎と診断された。 

 甲状腺は新陳代謝を促進するホルモンを分泌しており、脳や胃腸の活性化、体温の調節などの役割も担う。甲状腺が腫れホルモン分泌量が異常になると、さまざまな形で体に不調が生じる。代表的な病気はバセドー病、橋本病などだが、甲状腺関連の病気は女性がかかることが多いと聞いていたのでAさんは驚いた。

 「自覚症状は全くありませんでしたが、その病院に通院するようになり、甲状腺ホルモンを補う薬を処方されました。ただ、薬の副作用もあってか、その後急激に疲れやすくなり、足腰の力が入りにくくなった。長い距離を歩く際には杖が必要になるほどで、福島市に車で通院するのもしんどいので、避難先の近くの病院に変えてもらいました」(Aさん)

 転院後も症状は改善せず、30分立ち続けているのも厳しくなった。一昨年には自宅で倒れて一時意識不明となり、1週間以上入院した。医師は複合的な症状が重なって倒れるに至ったことを説明するばかりで、根本的な原因はよく分からなかった。疲れやすい状況は続いており、腕には原因不明の湿疹ができ始めた。

 ある医師によると、甲状腺ホルモンは体の状況に合わせて分泌されるものであり、それを薬で補ってもバランスを取るのが難しく、体調不良になることはあり得るという。

 Aさんは原発事故に伴う被曝の影響を疑っている。

 「原発事故直後の高線量下の飯舘村で、特に防護もせず外を出歩いていた。その影響がいまになって表れているのかもしれません」(同)

 飯舘村は福島第一原発から30~40㌔離れているが、事故で放出された放射性物質の通り道となり、深刻な放射能汚染に見舞われた。いいたて活性化センターいちばん館前に設置された可搬型モニタリングポストの数値は44・7マイクロシーベルト毎時まで跳ね上がった。

 だが、当初は原発からの距離が近い順に避難指示が出されたため、同村は後回しにされ、村民は1カ月近く高線量下で日常生活を過ごしていた。特にAさんは行政区で役員を務めていたため、外を出歩くことが多かった。ようやく計画的避難区域に指定され、村民が避難する中でも、高齢者などの災害時要援護者の避難を待って、最後まで残った。その後も「いいたて全村見回り隊」に入隊し、村内パトロールに2年以上従事。農地の草刈りなども行っていた。その影響がいま出ているのではないか、と懸念しているわけ。

 「村で講演した大学教授は『住み続けても健康に害はない』と話していたし、計画的避難区域設定後に福山哲郎官房副長官(当時)が訪れた際も『健康被害は大丈夫だから』と言っていた。しかし、実際に病気になると、放射性物質の影響を疑わざるを得ないし、なぜすぐに避難指示を出さなかったのかという怒りが込み上げてきます。村内の木や牧草、稲わらからは未だに放射性物質が検出されており、そんな場所に村民を帰還させようとしている村にも強い違和感を抱きます」(同)

 チェルノブイリ原発事故後には放射線ヨウ素の内部被曝により小児甲状腺がんが急増したとされている。福島第一原発事故では放射性ヨウ素がそれほど放出されなかったと言われているが、それでも事故当時18歳以下だった県内の約38万人を対象に行われた検査で、がんやその疑いと診断されたのは236人(2月中旬現在)に上っている。甲状腺がんの患者や家族を支援する「3・11甲状腺がん子ども基金」によると、県の検査以外にもがんやその疑いと診断された子どもが複数いたとされている。

 こうした中で、Aさんのように大人でも甲状腺の病気にかかることはあるのだろうか。

 甲状腺エコー検査などを行っているふくしま共同診療所(福島市)の布施幸彦院長は「甲状腺関連の病気はもともと患者数が多く、一概に放射性物質の影響とは言えません。ただ、チェルノブイリ原発事故後の現場レベルでの報告では、事故収束作業に携わる作業員に甲状腺の病気を抱える人が増えたということなので、そういう方がいても不思議ではないと思います。ちなみに、2017年に山本太郎参院議員が国会で質問した際、厚労省は2011~2015年の県内9病院の甲状腺がんの手術数は1082件だったと回答しています。そのうち子どもは約150人だったので、大人の甲状腺がんは多いと率直に感じました」と語る。

 昨年同村を取材した際にも、複数の村民から「甲状腺の病気を患ったり、60歳前後で急死する人が周りに多い」という話が聞かれていた。

医療支援制度を充実せよ

 本誌2019年8月号「全国下位低迷 県民の健康度」という記事では、小高赤坂病院(南相馬市小高区)の運営法人理事長兼院長を務めていた渡辺瑞也さんのケースを紹介した。

 20㌔圏内に避難指示が出た後もしばらく病院に留まり、重病患者への対応に奔走した。その翌年から歯が抜けたり不整脈になるなど体の異変が相次ぎ、ついには結腸がんにかかってしまった。渡辺さんの奥さんも深刻な不整脈を引き起こす「房室ブロック」と診断され、ペースメーカーの埋め込み手術を行った。

 相次ぐ体の異変が単なる偶然や年齢のせいだとは考えられず、「あのとき原発20㌔圏内の病院に留まり被曝したためではないか」と考えるようになった。

 こうした主張に対し、「科学的ではない」と考える人がいるかもしれないが、専門家によると、強いストレスの影響でタンパク質の一種「炎症性サイトカイン」が過剰放出され、さまざまな病気を引き起こしやすくなることが分かっている(本誌2019年8月号参照)。いずれにしても、原発事故を機に体調を崩し不安を抱くようになったのは事実なのだから、国や東電が原発事故の影響を公に認め、責任を持って対応していく必要があろう。

 チェルノブイリ原発事故の被災地では、年間1㍉シーベルト以上の被曝が推定される地域に住む住民の移住を支援する通称「チェルノブイリ法」を定め、健康診断を生涯無料で受けられるようにした。病気が見つかった場合は事故被害者と認定されやすくなり、補償金の上乗せや保養の優遇、高度医療センターでの治療といった措置が受けられる(本誌2017年1月号参照)。チェルノブイリ法に倣い、本県も医療支援策を充実させるべきだし、安易な帰還政策は見直す必要があるのではないか。

 前出・ふくしま共同診療所の布施幸彦院長は「たとえ統計的に有意と認められなくても、原発事故後にどんな症状が出ていて、住民がどんなことを訴えていたか、記録に残していくことは大事」と指摘する。表に出ていない健康被害が多数ある可能性もあり、本誌としては引き続き注視していく考えだ。


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