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【原発事故】自主避難者にあまりに冷たい内堀知事

山形県知事の〝血の通った対応〟とは大違い

(2021年3月号より)

 震災・原発事故から10年。原発周辺に出されていた避難指示の解除に伴い、各地に避難していた住民は元の住まいに一定程度戻っている。一方、避難指示が出されていない地域から自主的に避難した、いわゆる自主避難者たちは、福島県から見放され、賠償も支援もないまま今も厳しい避難生活を余儀なくされている。

 県発表によると、1月31日現在の避難者数は県外2万8959人、県内7220人、避難先不明13人、計3万6192人だが、この中に自主避難者の数は含まれていない。

 震災直後、自主避難者数は約5万人とされていた。しかし県は、自主避難者にとって唯一の支援だった住宅の無償提供を2017年3月末に打ち切ると、それを境に全体の避難者から自主避難者を除外した。このとき避難指示区域外の福島市では三百数十人、相馬市では二百数十人の避難者がいると発表していたが、同年4月になった途端、それがゼロに変わった。自主避難者が行政から見放された瞬間、である。

 「自主避難者の窮状を訴えたくて県には何度も内堀雅雄知事との面会を求めたが、その度に担当職員から門前払いされました」

 こう話すのは本誌にたびたびご登場いただいている、福島市から山形県米沢市に自主避難している武田徹さんである。「福島原発被災者フォーラム」代表として山形県内の自主避難者を支援したり、「米沢・雇用促進住宅立ち退き訴訟」(詳細は本誌2018年5月号、2020年4月号を参照されたい)の被告として和解を勝ち取った武田さんは、震災・原発事故から10年を迎えた自主避難者の現状を次のように説明する。

 「期限を過ぎても公務員住宅から退去しない自主避難者に家賃の2倍に相当する損害金を請求するなど、県の対応は相変わらず冷酷です。数世帯に対しては、無償提供終了後も県と賃貸契約を結ばずに住み続けたとして、退去と家賃の支払いを求めて提訴しています。自主避難者がなぜ避難したのか、そもそもの原因を突き詰めれば、こんな対応はできないと思うのですが」(同)

 そもそもの原因とは、自主避難者は、原発事故さえなければ避難生活を送らずに済んだということだ。原発事故を起こした東京電力を「加害者」とすれば、自主避難者は「被害者」になる。その被害者が、なぜ家賃負担を迫られ、揚げ句、裁判を起こされなければならないのか。

 県に求められるのは「被害者」の自主避難者を支援し、それにかかった費用は「加害者」の東京電力に請求する、すなわち、避難した県民は誰であろうと全員守る姿勢のはずだ。

 そんな自主避難者が今後住む場所を失った際の支援を、武田さんは強く心配している。

 「すでに自殺者が何人も出ているが、もし今後住む場所を失う人が増えたら、さらなる自殺者が出かねない。そうした中で気になるのは関西と関東における支援の違いです。関西の支援団体は、まずは今ある法律や制度を駆使してでき得る限りの支援を勝ち取り、それからその先の支援を国・行政・東電に迫っていく。これに対し関東の支援団体は『避難する権利を認めろ』と主張するばかりで、具体的な支援に結び付いていない。もし公務員住宅の立ち退き訴訟で敗訴したら、そこに住んでいた自主避難者は途端にホームレスになるのに、権利を求めるだけでは実のある支援とは言えない」(同)

 そういった懸念を見越して、武田さんは被告となった「米沢・雇用促進住宅立ち退き訴訟」で和解を勝ち取ることに腐心したのである。

 「中には『シロ・クロはっきりさせるため判決をもらうべきだ』と言う人もいました。しかし、全国に先駆けて行われたこの裁判で私たちが敗訴したら、同様の立場にある他の自主避難者が住む場所を失いかねない。だったら、和解によって自主避難者の言い分を少しでも受け入れさせれば、実質的な勝訴に違いないと考えたのです」(同)

 和解後、武田さんは雇用促進住宅を退去し、米沢市内のアパートに転居した。同じく被告となった別の自主避難者たちも新たな住まいで避難生活を続けている。原告側との取り決めで和解内容は公にされていないが、少なくとも被告(自主避難者)が不利になる内容ではなかったことが、現在の様子からうかがえる。

 しかし、自主避難者への支援のあり方は、肝心の福島県が考え方を改めないと変わることはない。

 「住宅の無償提供の打ち切りは一斉・一律に行うのではなく『あなたは所得があるのでこれくらい支援します』とか『あなたは失業中なので引き続き無償にします』とか、個別事情に応じて柔軟に対応すべきだったと思います」(同)

 そもそも県は、自主避難者へのアンケート調査すら行っていない。

 「アンケート調査をしたり、生の声を聞く場をつくらないと自主避難者の実態は分からないのに、県は一切やらない。本当に〝血の通っていない行政〟です」(同)

山形県の支援策

 これとは対照的なのが、武田さんが身を寄せる山形県の対応である。

 同県は広域支援対策本部避難者支援班が毎年、同県内の避難者を対象にアンケート調査を実施。昨年9月に発表された集計結果(547世帯に調査票を送り153世帯が回答。回答率28・0%)では、生活資金や心身の健康、仕事や住まい、先行きが見えない不安など、未だに多くの悩みを抱えながら避難生活を続けている実態が明らかになっている。

 「1月24日投開票の山形県知事選では現職の吉村美栄子氏が4選を果たしたが、私が代表を務める『福島原発被災者フォーラム』では吉村氏と落選した元県議の大内理加氏に公開質問を行いました。しかし、その対応は非常に対照的で、無所属の吉村氏はきちんと回答したのに対し、自民・公明が推した大内氏は無回答でした。政権与党の後ろ盾がある内堀知事が不都合な質問に答えないのと同様に、大内氏も無回答なのは合点がいきました」(同)

 中でも注目すべきは、原発避難者への支援について、吉村氏が次のような回答を寄せたことだ。

 《避難元の福島県による支援等が終了しており、また、他県でも独自の家賃補助がなされていないことから、現時点では本県独自の新たな家賃補助等は検討していないところですが、もし本県内に移住・定住された場合、賃貸住宅の家賃の一部(月額1万円、ひとり親家庭は月額2万円)を最大24カ月分補助するほか、米・みそ・醤油1年分(ひとり親家庭は米を5年間)を提供するなど、本県への定住を希望される方を支援いたします》

 さらにアンケート調査で、生活資金や心身の健康に不安を抱いている避難者が多いことを念頭に、相談・情報提供をきめ細かく行うと約束している。県営住宅への優先入居や低所得者への灯油購入費補助なども行っている。

 福島市から山形県内に自主避難している中年男性は、山形県の姿勢をこう評価する。

 「震災後に施行された子ども・被災者支援法は理念法という批判もあるが、山形県は同法を前提に支援を行っていることが非常に伝わってきます。すなわち『被災者が居住・避難・帰還のいずれを選択しても国が支援する』と謳っている同法に沿った対応をしているのです。居住・帰還を選択した人は支援するが、避難を選択した人は支援しない福島県(内堀知事)とは大違いです」

 県民世論調査における内堀知事の支持率は70%台と相変わらず高い。しかし、吉村知事の〝血の通った対応〟を見るにつけ、内堀知事の冷酷さは際立って映る。正直、高支持率の理由が分からない。

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