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【高野病院】異世界放浪記②

 みなさんこんにちは。4月に政府が発表した、新型コロナウイルスに関係する制度の中には、ここ異世界においても同じようなものがありましたので、今日はそんな「制度」についてお話させていただきます。

 異世界に飛ばされて約1カ月後の4月22日、この地域は「緊急時避難準備区域」と呼ばれるようになりました。単純に文字を見ると「緊急時に避難できるように準備しておきましょう区域」なのですが、政府はこのあとに、魔法文字で「特に子供、妊婦、要介護者、入院患者の方などは、この地域に入らないように」と綴ったのです。つまり福島第一原子力発電所から20~30㌔圏内は、病院も介護施設も人がいたらだめよと言われたのです。

 そして極めつきは、20~30㌔圏内の介護施設には雇用調整助成金の不支給。つまり国は、この地域にはもう介護施設はいらないよぉ~と断言したようなものでした。

 この職種は助成するけれど、こちらはしない……なんていうニュースを聞いていると、異世界に飛ばされた時と、全然変わらないじゃないかと思ってしまいます。さらにそっくりそのまま同じなのが「社会保険料納付の猶予」です。事業所にとって、毎月の社会保険料の納付は、職員を雇用していれば必ず発生するものです。半分の額は事業所が負担するので、職員数に比例して、その納付額も上がっていきます。賞与からも社会保険料が徴収されるようになってからは、さらに事業所の資金繰りを圧迫するようになりました。

 当時20㌔圏内の「警戒区域」の事業所は、この社会保険料納付が「免除」だったのですが、私たちは「猶予」とされました。免除と猶予では全く意味が違いますよね。猶予は猶予であって、どこまで猶予が続いても、いつかは払わなくてはいけないのです。1年間猶予と言われても、その1年後にすべてがもとに戻っているのかどうか、全く予測もつかない状況で、毎月借金を積み立てしていくようなものでしたから。

 政府はこんな異世界で、医療を継続しながら、職員の雇用を守っている事業所があるなんて、思ってもいなかったんだろうな。この世界から電話が通じるかわからなかったけれど、社会保険料納入告知書に同封されていた連絡先に電話をしてみました。つながった先は企業の苦情相談窓口のような、口調は柔らかでも、テキパキとお話をされるお姉さんが対応されている部署でした。私だってわかっていたのですよ。国が一度決めたことに、窓口の人が何かを言えるわけがないってことを。それでも、継続しているからこそ経営状況が厳しい事業所もあるということを、知ってもらわなくてはいけないと思い、猶予ではなく免除を真摯にお願いしたのです。計3回の電話すべて「お客様のご意見として受け賜わりました。ありがとうございました」で終わってしまいました。

 この社会保険料納付猶予は、東京電力法務室とのやり取りで、先方の弁護士さんからネチネチと「社会保険料の納付が猶予になっているのに、なんで払ったのですか?」と責められる材料となったのです。いや払わなかったとしても、あと数カ月持つか持たないかだと思うけど……と、思わず呟いてしまいました。ここから「東電は関係ありません」という攻撃が始まったんだよな。

 一方、国の偉い人には「東電が悪いんだから東電に言ってくれ。病院が倒れそうでも、医療がなくなっても東電のせいだから」と言われたな。今回の制度が、あの頃の制度とは違い、皆様にとってより良いものでありますようにお祈りしておりますね。 


 たかの・みお 1967年生まれ。佛教大学卒。2008年から医療法人社団養高会・高野病院事務長、2012年から社会福祉法人養高会・特別養護老人ホーム花ぶさ苑施設長を兼務。2016年から医療法人社団養高会理事長。必要とされる地域の医療と福祉を死守すべく日々奮闘。家では双子の母親として子供たちに育てられている。2014年3月に「高野病院奮戦記 がんばってるね!じむちょー」(東京新聞出版部)、2018年1月に絵本「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店)を出版。




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