【町村長に聞く】楢葉町・松本幸英町長
――4月の町長選において無投票での3選を果たしました。
「2012(平成24)年に就任してからの8年間、これまで誰も経験したことのない未曾有の複合災害への取り組みと、そして何よりもふるさと楢葉の原風景を取り戻すことを最優先に取り組んできた町政運営に対し、町民の皆様から一定のご信任をいただいたものと考えています。
3期目を迎え、あらためてその責任の重さを痛感するとともに、今後の町政運営に対して、なお一層、身の引き締まる思いです」
――2015(平成27)年9月に避難指示が解除され間もなく丸5年になります。復興の進捗状況は。
「避難指示が解除され、復興事業も一気に加速しました。復興計画に掲げた施策も概ね完了し、町もにぎわいを取り戻しつつあります。これは、2017(平成29)年に小・中学校やこども園が町内で再開したことが大きく、子どもの姿やその声を聞くことで、町の復興も進んできたと実感します。
一方で、課題もあるので、引き続き気を引き締めて、先頭に立って町政を担っていきたいと思います」
――町内居住者を年代別に見ると60歳以上が半数弱を占めています。一方で町に住民登録しながら町外に住む町民は3000人弱います。町民への支援・対応などについて。
「町が持続的発展を遂げていくためには生産年齢人口を一定程度、具体的には居住者の60%以上増加させなければなりません。そこで、他地域からの移住者を呼び込みたいと考えています。特に若い世代への居住支援として、結婚新生活支援事業や子育て世代等住宅取得奨励金などを積極的に展開・PRしていき、人口の回復と生産年齢人口の増加につなげていきたいと思います。
子どもの教育に対しても、町の認定こども園『あおぞらこども園』において、いわき市の私立幼稚園と連携して相互交流を進めています。今後もこども園をより良い環境にしていきたいですね。町立中学校では今年で3年目となるキャリア教育を進めます。実績も伸びている取り組みなので今後も継続していきます。
農業面ではコメはもちろん、花卉栽培や酪農・繁殖牛飼育など各分野で順調に再開、新規取り組みが進んでおり、規模も拡大しています。一方、農業の担い手が減少しているので、農地の集積・集約を行いながら、少ない担い手でも対応できるようにしていきたいですね。特にサツマイモ栽培に関しては、年内に完成する貯蔵施設を活用して、食品メーカーと協力し、新ブランド『ふくしまゴールド』を中心に、サツマイモの一大産地化を進めていきます。
帰還されていない方もふるさとへの思いはあるはずです。1人でも多くの方に戻っていただくことが第一ですが、町は全力で『住みたい町』をつくることに力を注ぎ続けながら、それぞれのタイミングで戻っていただくことを願っており、今まで同様に必要な支援を続けていきます」
新たな魅力を創造する
――当初、復興期間は10年とされていましたが、復興庁が存続される方針が決まりました。
「原子力災害被災地域にあっては、復興・創生期間後も中長期的な対応が必要であり、今後も復興・再生に向けた取り組みについては、国が前面に立って、必要な事業を確実に実施するための財源を手当てするものと考えています」
――楢葉町と富岡町にまたがって国が指定廃棄物処分場を稼働しています。周辺住民の声などを含め、この間の安全対策、風評被害対策等の国の運営のあり方についてはどう評価していますか。
「国の指定廃棄物埋め立て処分施設への運搬や処分については、これまで大きな事故もなく運営されており、法令を遵守し、周辺地域の環境保全に努めながら運営に取り組んでいると評価しています。しかし、地元行政区が当初、特定廃棄物等の埋め立て処分に反対を表明した中にあって、双葉郡をはじめとする福島県の復興のため、断腸の思いで協定を締結したことを忘れてほしくはありません。
事業の実施に当たって、国には、このような周辺住民の思いを受け止め、引き続き、周辺環境への配慮や多重の安全管理、迅速な情報公開等に積極的に取り組んでいただけるよう求めていきたいです」
――東京電力は昨年7月、福島第二原発の廃炉を正式決定しました。脱・原発依存が求められます。
「日本のエネルギー施策の転換期になると考え、町としても公共施設に再生可能エネルギーを設置するなどの取り組みを行ってきました。
これまで、本町は福島第二原発の立地町として、雇用や国からの交付金などさまざまな恩恵を受けてきました。廃炉が決定したことにより雇用を確保するためにも新たな産業の創造が必要になります。1町ではできることが限られているので、双葉郡一体となって新たな産業を創造していきます。
廃炉事業に関しては、3月に楢葉町と富岡町を中心とした地元の協力体制を推進していくために『廃炉推進楢葉・富岡協議会』を設立しました。これは廃炉事業に関する情報収集、廃炉事業実施者との調整、地元の関わりに関する調査、地元企業の育成などを目的としており、今後は、協議会が中心となって、地域経済の復興と活性化につなげていきます」
――新型コロナウイルスの感染拡大による町内への影響は。
「相双管内においても、多くの感染症感染者が確認されましたが、幸い当町において感染症の感染例は確認されていません。ただ、町内事業者や公共施設の指定管理者などにおいては、臨時休業や時短営業などによる経済的損失が出ています。
このような状況を踏まえ地方創生臨時交付金を活用し、町内事業者、町内居住者を対象とした助成金や事業の継続、再起などを目的とする経営支援金、借入金に対する利子補給に加え、観光業に対する支援策として、町内で合宿を行った方に対する助成などを行っています」
――今後の抱負を。
「今まで重点的に取り組んできた3本柱である『教育』『農業』『健康増進とスポーツ振興』に加え、新たに町の地域資源を最大限に活用して『ならはの新たな魅力の創造』に取り組んでいきます。
6月には昨年11月から復旧を進めてきた道の駅ならは物産館が約9年ぶりに再開しました。地域の交流の場や観光拠点としての役割を担えるようにしていきます。
町が持続的発展を遂げていくためには、財政基盤の安定を図らなければなりませんので行財政の改革にも取り組んでいきたいですね」
まつもと・ゆきえい 1960年12月生まれ。県立四倉高卒。1997年から楢葉町議4期、その間議長を2期務める。2012年4月の町長選で初当選し、今年4月の町長選で無投票での3選を果たした。