BLACK SWAN 創業者・罗红氏
どうして最愛の母の人生の最後の貴重な2年半を一緒に過ごせなかったのか、ゼロコロナ政策の北京に缶詰になった意味が私には未だ分かりません。
ただ、母にもらった私の命の時間を私が如何に過ごすのかが、問われているということは確かだとずっと受け止めていました。
母の葬儀の為に一時帰国した際、娘を二つ返事で預かってくれた友人から、以前から誘われていたフレンチレストラン、BLACK SWAN。少し敷居が高かったレストラン。でも、葬儀から無事に北京に戻ってすぐの11月中旬、友人へのお礼を兼ねて2人でランチをしました。
お食事は美しい盛り付けでお味も美味しいのですが、店内のフラワーアレンジメントから洗面所の備え付けソープやハンドクリーム、香水に至るまで、全て私のストライクゾーンで感激しました。お食事の最後にはチョコレートと、オーナーの罗红氏が撮影した写真を収めた美術館の入場券がお土産としてついてきます。ランチした当日は美術館に行く時間はなかったので、そのまま入場券は持ち帰りました。その後、娘の学校の授業がオンラインに切り替わり、母の四十九日法要のために一時帰国したりで、なかなか写真美術館まで足を伸ばすことができませんでした。
母はどんな気持ちで天へ旅立ったのか、そばにいることができなかったことへの罪悪感と、自己正当化の狭間を行ったり来たりしていました。母からもらった命の時間を如何に生きるか。この問いがずっと胸に刺さっていました。
年が明け、春節休暇も明け、2月に入り、やっと罗红氏の写真美術館をひとり訪れることができました。
罗红氏は、中国の好利来・BLACK SWANというパンとケーキのチェーン店の叩き上げ創業者。彼が私財と自らの命を懸けて撮影された写真の数々は、私の期待を遥かに上回り、地球と全ての生命に対する情熱的なパワーに満ち溢れていました。
罗红氏の芸術(もはや芸術の枠にもおさまりきらないスケールの写真と映像)に触れ、母からもらった命の時間をもっともっと命懸けで完全燃焼しなければ申し訳ないと感じました。母がそうであったように、もっともっと自分に正直に全力で生きなくてはと。
罗红氏が17歳で実家から独り立ちした際に、彼のお父様からのもらったという二つのアドバイス。
今后不论做这么事,都要对得起自己的良心
(これから何をするにしても、常に自分の良心に従い行動しなさい)
不论走到哪里,都要给身边的人带去快乐
(どこへ行くにしても、常に自分の側にいる人を幸せにするんだよ)
罗红氏の情熱に圧倒され、自分の存在がちっぽけに思えて、母に申し訳なく思っていましたが、この二つのアドバイスなら、私の生活にもすぐ取り入れられる。
今まで以上に、『良心に従い、身近な人の幸せのために、自分の命の時間をつかう』こと。
罗红氏のおかげで、気持ちを新たに、母亡き後、私の人生後半の軸をしっかりと定めることができました。