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「人」を表現するのに歌が必要なんだ!スパイク・リー監督のBLM/書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』vol.5

お知らせ12/9(水)「J-WAVE TOKYO MORNING RADIO」朝8:35-8:50「Morning Insight」に『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』著者の藤田正さんがゲスト出演します!

――『歌と映像で読み解く……』では、スパイク・リー監督の作品が全体を通して、数多く登場しますね。

藤田 アメリカの黒人文化を語る上でリー監督の業績はもの凄く大きい。現代黒人女性のメンタリティが刺激的な『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1986年)で注目されてから、彼は次々に作品を世に出しているけど、黒人史観から外れたものは作っていないでしょ。簡単に言えば「雇われ」じゃないってこと。資本や配給といったビジネスのカナメを理解しつつ、「黒人が映画を作る」ことを推進する筆頭です。彼の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)や『マルコムX』(1992年)はBLM運動に直接かかわる作品だから本書でもポイントの一つになっている。ちゃんと売れる作品に仕立てながら、社会にインパクトを与えていることが大事。若くして亡くなったジョン・シングルトンをはじめ、ジョーダン・ピール、エヴァ・デュヴァネイ、そのほか現代の優れたブラック・フィルムメイカーは多いけど、この人たちはリー監督の活動なくしてあり得なかったと思います。いわゆるハリウッド映画を多く見てきた人たちに、本書に登場する黒人映像作家の作品をぜひ感じて欲しいですね。

――優れた映像作家は概して音楽センスも抜群ですよね。例えば、私の好きな作家ではエミール・クストリッツァ、アキ・カウリスマキとかなんですが、スパイク・リー監督の作品も音楽とは切り離せません。

藤田 間違いないよね。効果音としてヨーロッパ系クラシック音楽を使えば何とかなる、という時代なんてとっくに終わっています。特に「人間」を描く場合、その人がどんな文化の中で生きている(生きてきたか)をバイブレーションとして体感するには、例えば、リズムなり音色なりの選択がすごく問われるんだよね。テーマとなった時代のヒット曲を使えばいいということじゃなくて、歩き方、息遣い……すべてに「その人」が表現されるべきで、現代のブラック・フィルムはそこもすごく意識的です。『ドゥ・ザ・ライト・シング』に象徴的に出てくる「ゲットー・ブラスター」なんてのもその一つでしょ。

――26ページの写真。あのでっかいラジカセですね(笑)。

藤田 そーなんです。

――本書でも取りあげた、リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)には、黒人史、ブラック・カルチャーに関する事柄が、歌から小道具にいたるまで散りばめられています。特に第2章の1960年代の公民権運動を中心に記述した箇所と、第5章を読んでから映画を観ると違った感慨が得られるのではないでしょうか。

藤田 特に、ぼくら日本に住んでいる人にとってはね。『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、ベトナム戦争から命からがら帰還した元黒人兵士たちの物語だけど、彼らに張り付いた歴史性をセリフで説明するのではなく、あえて音楽の響きで示そうとしている。その行為が成功している名作でもあるんですね。中心となる元兵士たちの名前にも仕掛けがある。リー監督の作品としては大ヒットの『マルコムX』以上に音楽的でありブラック的だと言ってもいいかも知れない。

――『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、ベトナム戦争が最終局面を迎えていた時期に発売された大問題作「ホワッツ・ゴーイング・オン」(マーヴィン・ゲイ/1971年)が最も重要なポイントのように思っていましたが、違っていました……。

藤田 「ホワッツ・ゴーイング・オン」は、あの時代もそして今も重要な1曲です。詳しくここでは触れませんが、黒人問題だけじゃなく学生運動への猛烈な弾圧などもうたい込んでいる。でも同名のアルバムは、収録曲全体で一つという構成がなされていて、中でも「ホワッツ…」に並ぶもう一つの重要曲が「イナー・シティ・ブルース」なんです。後者は、現在の黒人問題の基礎となる黒人街(イナー・シティ)がテーマ。リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、米国のイナー・シティとアジアのベトナムとがどう結びつくのかをこの名曲に象徴させているのです。

マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイング・オン」


――あと「ゴッド・イズ・ラヴ」ですね。 

藤田 そう、答えとしての「ゴッド・イズ・ラヴ」です。


vol.6へ続きます!



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