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『世界時々フィクション(No.12)』バイデン大統領が北大西洋の開発中止命令!?

「ツナサンドはカリカリに焼いてください」

その日はツナサンドが食べたかった。脂っこいものではなく、アッサリしたものが食べたかった。午前中に来週のことを片付けて、午後には再来週のことを片付けるつもりだった。

ランチでニューヨークタイムズを読むと、バイデン大統領のアラスカの野生生物保護区の石油開発計画のリース権を差し止める命令について記事になっていた。なるほど、アラスカで石油掘削プロジェクトが走っていたんだね。そんなこと、私はそもそも知らなかったよ。

そもそもアラスカという州がどんな州なのかも詳しく知らない。なんでもアラスカはアメリカが1867年にロシア帝国から買収したらしい。そうだ、地図を見ると、アラスカはカナダと繋がっているのに、アメリカなのだ。よく考えれば、これは不思議と言えば不思議だ。

午後の仕事は会議の準備だった。採用活動の進捗確認だ。各地のリクルーターと連携して、全国での活動を成功させる仕事だ。私は東京エリア担当であり、会議のファシリテーターだった。

「ドライブに格納しておいてください。会議当日までにアップしておいてください」

「協力会社からの報告について、サマリーまとめておいてくれる?」

わかりましたという、アッサリした返事を受け取ってから、私は仕事に戻った。しかし、いつも思うが、どうせ、誰も会議の資料なんか読んでないさ。読んでいたとしても、そこから仮説を導き出して、チームを作って、企画して、仲間を引き連れて、会社に良いインパクトを与える奴なんかいない。そもそもいたら、そいつは社長業をやってるはずだ。かく言う私の実力だって、もちろん大したことはない。

石油や天然ガスの採掘をストップするということは、アラスカのツンドラ地帯の自然や野生動物を守ることになるのだ。アメリカの大統領は国民や同盟国だけじゃない、動物を守ることにかけても世界一の努力をするらしい。魂胆が本当に野生動物の保護なのか、他に狙いがあるのかはわからないが。

夕方、長く一緒にいる同僚と最近の労基署の動向について世間話に興じた。

「労基署の担当だって、じきに飽きるさ」

そんなことを言っていた。確かに、我々だけじゃない、相手だってやってられないのだ。働きすぎる連中を止めることも、働かない連中を励ますことも、一体全体何の為にやっているのだろうか。目的がわからずに、人事部を去る者も多い。そうだ、すべての労働は徒労みたいなものだ。いつしか、誰の何の為にやっているかがわからなくなる。

私は会議資料を一通り作成し終えてから、オフィスを出て、軽く散歩することにした。

アメリカの国民は、政府が国外でやっている開発事業に興味があるということだ。果たして日本はどうだろうか。国外の開発は一体どんなことが行われているのだろうか。それは諸外国を富ませているのだろうか、迷惑をかけているのだろうか。あるいは、何もしていないのか。しているとして何をしているのだろうか。確かに、普段の食卓の会話には登ってこないし、テレビでも日本政府が海外で何をしているのかは伝わってこない。要は、興味がないと思っているか、知る必要がないと思っているのか、ここのところはわからないが、私は親の世代が国外での日本の活動について話題にしているのを、ただの一回も聞いたことがない。

environmental credentials

こんな、英単語を見つけた。環境への貢献とでも訳すのだろうか。科学者達は言う。このままでは、取り返しのつかない状態に地球がなってしまう。

その日、最後の会議もいつものことだった。数字が上がったり、下がったり、根拠を言ったり言わなかったり、仕事が出来たり、出来なかったり、やる気があったり、なかったり。そんな感じだ。

「今月の数字は落ち込んでいますが、競合のプラン発表の影響が大きいですね」

「そんなのマニュアル読めばすぐじゃないの?ちゃんと下の教育はしてるの?」

なんだかイライラするような会話が繰り広げられた会議だった。会議が終わってから、すぐに議事録をまとめてスラックで共有した。その日は、早めに帰ることにした。電車の中で、記事の続きを読んだ。

バイデン大統領の命令に対して、開発サイドの神経も太い。ホワイトハウスが政権交代すれば、また同じことだ。共和党が政権を取れば、また開発のチャンスは巡ってくる。そんな風に受け止めているらしい。政府の方針なんてコロコロ変わることを、現場は理解しているのだ。それはアメリカでも日本でも同じことだ。

アラスカ、アメリカにとってアラスカとはどんな位置付けなのだろうか。日本にとっての北海道みたいなものなのだろうか。アラスカに住んでいる人間にしてみれば、石油や天然ガスは街を支える大切な産業でもある。法律に則り、責任を持って自然開発をしているのに、バイデン政権の方針にはがっかりだという声がある。地球を保護することで、人間の生活が廃れていく。確かに、それも本末転倒な話だ。地球の未来と今の生活、さてこれはどちらが大切なのだろうか。

今日もアメリカは揺れている。日本も同じだ、いや、会社も同じだ。あちらを立てれば、こちらが立たない。一方を優遇すれば、もう一方が冷遇される。価値の天秤の間でゆらゆらしていかなければならない。そうやって我々の人生は、取ったポジションに縛られながら、ゆっくりと過ぎていく。

戸田から電話が入る。

「あれからどうだ?進展はあるのか?」

「なんとなく話は見えてきましたよ」

「どういうことだ?」

「上田が北川のことを好きになっちゃったんでしょうね」

「なるほど」

「だけど、北川には本命がいた。それで上田がショックを受けた。男としてのプライドが傷ついたから、何か相手に打撃を与えたかった」

「シンプルだな」

戸田は呆れたような声だ。

「恋愛はシンプルですよ」

私はそう答えた。

(続く)

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『世界時々フィクション(No.11)』バイデン大統領が北大西洋の開発中止命令!?

参考記事:By Coral Davenport, Henry Fountain and Lisa Friedman, "Biden Suspends Drilling Leases in Arctic National Wildlife Refuge", “The New York Times”, June 1, 2021

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