賃上げの参考書(1)日本の賃金水準は本当に低いのか
2024年4月1日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利
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<概要>
*日本の賃金水準の低さがクローズアップされているが、一般的によく使われているのがOECDの統計資料によるもので、平均年収で、購買力平価によって換算して比較すると、日本は37か国中25位、「G7諸国+韓国」の8か国の中で最下位になる。
*「G7諸国+韓国」の8か国について、「労働時間あたり人件費」を比較すると、韓国と日本がかなり接近するものの、日本が最下位であることには変わりがない。
*各国の自国通貨建てで労働時間あたり人件費の変化を見てみると、日本だけが極端に伸びていない。とりわけ1990年代後半から2010年代初めにかけては低下傾向にあった。
*日本の人件費水準が低いのは、最近、にわかに生じたことではなく、少なくとも1990年代後半以降は、一貫してG7諸国の中で最低であった。
*それなのに近年にいたるまで、「日本の賃金水準は世界最高」などという思い込みが生じていた要因としては、
①購買力平価ではなく、市場の為替相場で比較していた
②時間あたりではなく、年収で比較していた
③法定内外の福利厚生費を含まない、現金給与で比較していた
④労働時間あたり賃金で比較する場合でも、欧州の「支払い対象時間あたり賃金」とわが国の「実労働時間あたり賃金」とを並べた粗雑な国際比較が行われていた
などといったことが考えられる。
*日本企業の競争相手は先進国よりも新興国・途上国の企業であり、先進国との賃金比較は意味がない、という指摘があったが、そうした発想こそ、まさにグローバル経済の下で、日本企業が自ら、新興国・途上国の企業との低賃金・低価格競争の渦中に飛び込んできた証拠である。
*日本企業だけでなく、欧米の企業も、韓国の企業も、みな熾烈な国際競争を繰り広げている。そうした中で、欧米の企業は時間あたり50ドルの人件費でやっていけるのに、なぜ日本企業が30ドルに止まっているのか、よく考える必要がある。
*「G7+韓国」の8か国の中では、日本の付加価値生産性は低いけれども、それ以上に人件費が低いために、労働分配率が最低となっている。
*企業には「支払い能力はない」という思い込みが見られるが、製造業における売上高人件費比率は、欧州諸国で15~20%となっているのに対し、日本は11%に止まっている。売上高人件費比率や労働分配率の低さからすれば、本当に日本企業に支払い能力がないのかどうか、改めて企業経営を精査していく必要がある。
*人件費引き上げのためには生産性の向上が必要、適正な価格設定が必要、というのは、基本的にはそのとおりだが、生産性に比べて人件費が低く、その結果、労働分配率が低いのであれば、まずは人件費を引き上げることにより「高賃金・高生産性・高利益」をめざしていくべきである。
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