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賃上げの参考書(6)市場経済原理の下での適切な賃金・労働諸条件決定に向けて①

2024年5月20日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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<概要>

*「労働は、商品ではない」というけれど、現実には、労働が「商品(commodity)」とは違うという特性が、かえって労働者にとって、マイナスの方向に作用してしまっている場合がある。労働者をせめて商品並みに大切に扱うこと、そうした認識に立って、市場経済原理の下における適切な賃金・労働諸条件決定のあり方について、労使で共通認識を持つことが必要である。

*一般的に、資本主義体制においては労働市場に対し金融市場が、株式会社においては従業員に対し株主が優位である、という思い込みがあり、労働組合は、市場経済や資本主義体制に対抗して労働者を守る存在、ととらえられている場合が少なくない。しかしながら、労働組合は市場経済と対抗するものではなく、市場経済を有効に機能させるために不可欠な、市場経済の構成要素である。

*市場経済においてもっとも重要なことは、市場参加者、すなわち、売り手と買い手、売り手同士、買い手同士の対等性の確保である。もし、市場参加者の対等性が確保されなければ、売り手と買い手の双方がWin-winで自分の利益を得ることのできる合理的な決定を下すことが不可能となり、経済の発展と公正を損ねる。

*市場経済原理と言えば、あらゆる規制を撤廃して「自由放任」に委ねるというイメージがあるが、自由放任はあくまでも市場参加者の対等性が確保された上でのことである。市場経済を有効に機能させるためには、市場参加者の対等性を確保するためのルールの強化と、既得権益を保護して対等性を損なっている規制の撤廃が不可欠である。

*労働市場における労働力の売り手である労働者と、買い手である会社側との対等性確保は、商品・サービス市場や金融市場における売り手と買い手の対等性確保に比べ、著しく困難である。それは、労働力の売り手である労働者と買い手である会社側との間で、①立場の非対称性、②情報の非対称性、③リスクの非対称性が顕著だということがある。

*企業における業務遂行においては、労働者(従業員)は当然のことながら会社側の指揮命令に従っており、人事権も会社側にある。従って、「ここからは労使交渉です。さあ対等で」などと簡単に切り替えることができない。 労使対等での交渉を実現するためには、労働者が個人個人ではなく、労働組合を組織し、団体として、団結力と争議権を背景に交渉する以外に方法はない。

*当然、経営情報は会社側がすべて握っている。労働者が会社側と交渉するにしても、交渉の基礎となる正確な情報が会社側から得られなければ、対等な交渉など不可能だが、労働組合のほうが、労働者個人個人よりも会社側から情報を引き出しやすいということがある。また、労働組合は日頃の職場活動、相談活動を通じて、会社が把握できない現場情報を握っており、労使協議において会社側の経営情報と労働組合の現場情報をともに共有化することは、企業の健全な発展にとってきわめて重要である。

*一般的に、株主や経営者に比べ、従業員の経済的基盤は脆弱である。会社が苦境に陥って人員整理などが検討される場合、会社側に対し、人員整理がぎりぎりまで回避されるように、退職する従業員に適切な補償が行われるように交渉することは、労働組合にしかできない仕事である。 

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