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2024年春闘をとりまく経済情勢・・・随時更新

2023年12月12日
一般社団法人成果配分調査会代表理事 浅井茂利

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物価上昇の下で弱含みの内需と好調な企業業績との乖離が拡大

 2024年春闘をとりまく経済情勢についてまとめると、
3%程度の物価上昇の下で、実質賃金が低下を続けているため、個人消費など内需が弱含みで推移している。
*国際情勢は緊迫の度合いを高めているが、不安定な国際情勢は長期にわたるものと想定され、内需を基盤とした国内経済活動を強化していかなければならない状況にある。
*一方、企業業績は好調で、経済情勢と企業業績との乖離が拡大している。
ということが言えるのではないかと思います。
 なお、物価の動向については、次号で整理しますので、今号では取り上げておりません。

2023年度は内需が成長に寄与しない状況となっている

 GDP統計については、マスコミ報道では主に「前期比年率」というデータが使用されますが、景気動向の基調を判断するためには、「前年同期比」の成長率を中心に、これに季節調整を行った金額や、前期比の(年率にしていない)成長率を加味して判断していくのが適切だと思います。その理由については、調査会レポート「労使のための経済の見方」の「(4)GDP統計をどう見るか」をご覧ください。
 なお、ここでは前年同期比を「前年比」と表記しています。

 2023年7~9月期の実質GDP成長率は、前年比で1.5%となり、4~6月期の2.2%に比べ鈍化し、2022年度通期の成長率(1.5%)並みとなっています。ただし、輸入が減少(▲4.7%)しており、1.5%の実質GDP成長率に対する輸入の寄与度(内訳)がプラス1.2%となっていますので、もし輸入の減少がなければ、実質GDP成長率は「1.5%マイナス1.2%」で0.3%に止まったということになります。GDP=内需+輸出-輸入なので、内需が同じであれば、輸入がマイナスになるとGDP全体に対してプラスに作用するのです。

 内需は、▲0.1%のマイナス成長となっています。その主因は民間在庫の減少ではありますが、個人消費が▲0.0%、設備投資も▲1.0%と、いずれも前年割れになっていることについては、注意が必要です。

 実質GDPの金額を見ると、2023年7~9月期には、季節調整値(年額換算)で558.2兆円となり、2018年度通期の554.5兆円を上回り、コロナ禍前水準を回復したと言えます。しかしながら、個人消費は297.8兆円に止まっており、いまだ2018年度(通期302.4兆円)、2019年度(同299.6兆円)の水準まで回復していません。

 2023年度通期の実質GDP成長率の予測は、日銀が2.0%(10月時点)、民間調査機関平均(11月時点)が1.8%となっていますが、これらはいずれも、7~9月期の成長率が公表される前の予測であるため、7~9月期のGDP統計公表後に発表され、かつ経済予測では民間調査機関の中で最も優秀とみなされている第一生命経済研究所の予測では、1.5%(12月時点)となっています。とくに内需の下方修正が著しく、内需の寄与度が0.2%に止まっており、外需の寄与度、すなわち輸出の増加と輸入の減少で1.2%という歪みの大きい成長率となることが予測されています。
 2023年度の賃上げでは、総じて物価上昇をカバーするベースアップとなっておらず、実質賃金の低下が続いている以上、内需の不振はやむをえない事態であると考えざるを得ません。

景気ウォッチャー調査は2か月連続で50割れ

 内閣府の「景気ウォッチャー調査」は、「地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々」に対し、景気の現状や先行きをどう判断しているかを尋ねるアンケート調査で、50が好不況の判断基準となっています。
 「景気ウォッチャー調査」の「景気の現状判断・方向性DI」では、 2023年3月、4月に55台に達していたのが、そのあと低下傾向をたどり、10月には49.9と9カ月振りに50を下回り、11月も49.8となっています。中でも「家計動向関連」では、飲食関連、サービス関連では好調が続いているものの、「小売関連」で家電量販店などの落ち込みが大きく、9月以降3カ月連続で50を下回っています。また、11月には「雇用関連」が22か月ぶりに50を下回ったことにも注意する必要があります。

消費は非耐久財を中心に弱含みで推移している 

 消費の動向を示すデータとしては、本来、総務省統計局「家計調査」が基本的な統計ですが、サンプル数が少ないことなどから、月々の振れが大きく、他の関連指標と異なった動きをする場合が少なくないといった問題点が指摘されてきました。
 たとえば、2022年の集計世帯数は、「二人以上の世帯」が7,341世帯で、このうち最も注目されている「勤労者世帯」は3,986世帯、また「単身世帯」は658世帯に過ぎません。「二人以上の世帯」のうち「勤労者世帯」における実収入は、2023年4~6月期に名目で前年比▲1.2%、7~9月期▲3.0%となっていますから、厚生労働省「毎月勤労統計」における現金給与総額の名目増加率(4~6月期2.0%、7~9月期0.9%)とかけ離れており、春闘の結果とも整合性がありません。毎月勤労統計にも批判がありますが、それでもその調査対象は約33,000事業所ですから、家計調査とは比較にならないと言えます。

 こうしたことから、日本銀行では、経済産業省の「商業動態統計」など商品やサービスの販売側・供給側の政府統計、業界団体の統計を統合して「消費活動指数」を作成し、消費の実態を示すデータとして提供しています。  
 「消費活動指数(旅行収支調整済)」によれば、「名目」では大幅な増加が続いていますが、「実質」では2023年9月、10月と2か月連続で前年割れとなっています。耐久財、非耐久財、サービスごとの実質消費活動指数を見ると、非耐久財の落ち込みが続いていますが、非耐久財は耐久財やサービスに比べ消費者物価上昇率が比較的高くなっており、そうした日用品に実質賃金低下の影響がより大きく出ているものと思われます。なお、耐久財の消費は拡大傾向となっていますが、その理由としては、
*旅行収支調整が行われておらず、インバウンド消費を含んでいること。
*自動車の受注残の納車による登録台数の増加。
とともに、価格の先高観による需要増なども、可能性としては考えられます。

 こうした消費の状況を反映して、鉱工業出荷においても、非耐久財の伸び悩みが目立つ状況となっています。

失業率、有効求人倍率は横ばいだが、人手不足は顕著となっている

 雇用指標を見ると、このところ完全失業率は2.6%前後、有効求人倍率は1.30倍程度で横ばいとなっています。しかしながら、雇用者、なかでも「正規の職員・従業員」の数は、前年に比べ50万人近い拡大傾向が続いています。また、2024年3月高校新卒者の求人倍率は3.79倍に達しており、引き続き人手不足が顕著となっています。

不安定な国際情勢が長期化することを前提とする必要がある

 中国経済の行き詰まり、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、パレスチナにおけるハマスとイスラエルの衝突と、国際情勢は緊迫の度合いをますます高めています。
 中国については、2018年10月のペンス副大統領(当時)演説によって米中新冷戦の幕が切って落とされて以来、すでに5年以上が経過しています。米中新冷戦が単なる貿易摩擦や覇権争いではなく、中国に改革・開放を求め、米国など民主主義・自由主義陣営に対する中国からの抑圧・干渉、知的財産や技術の略奪をやめさせることを目的としている以上、その解決には長期間を要するものと想定されます。米国連邦議会の諮問機関である米中経済・安全保障調査委員会の2023年年次報告書(2023年11月14日)でも、「新たな平常は、継続的で長期的な戦略的・体制的競争である」と指摘しています。
 中国で体制変革が行われるまでの間については、
*中国市場での販売
*中国での生産
*中国からの資源・素材・部品の調達
*中国での研究開発、中国企業との共同研究・共同開発
は、企業にとってもはやリスクでしかないことを認識し、企業は必要な対応を進めていく必要があります。
 いずれにしても、不安定な国際情勢は長期にわたるものと考えられることから、これを理由として人件費の抑制を図ることなく、むしろ国際情勢が不安定だからこそ、内需を基盤とした国内経済活動を強化していかなければなりません。加えて、グローバル・バリューチェーンの再構築、再生可能エネルギーの活用拡大による脱化石燃料を急速に進め、経済安全保障を確立していくことが不可欠となっています。

(参考)
米中経済・安全保障調査委員会2023年年次報告書(2023年11月14日)抜粋

 2023年の大半を通じて、米国では中国に関する一般的な議論は、両国関係の短期的な浮き沈みに集中していた。両国間の緊張は高まったり和らいだり、温まったり冷え込んだりすると言われ、たいていは高官級の訪問(あるいはその欠如)の結果であった。
 根底にある現実はこのような浮き沈みの中で、米中間の対立は激化していた。トップレベルの接触は、少なくとも米国が北京との関係を改善し、平穏な空気を作り出したいという一般的な願望を反映したものであったが、新たな平常は、継続的で長期的な戦略的・体制的競争である。
資料出所:米中経済・安全保障調査委員会ホームページ。和訳はDeepL翻訳による。

好調な企業業績

 日本経済新聞が集計した東証プライム上場企業の業績動向を見ると、2024年3月期の決算予想は上方修正が続いており、全体として増収増益が見込まれています。4~9月期の決算発表後の集計(11月)では、製造業は売上高が4.9%の増収、経常利益が10.3%の増益、非製造業では1.3%の増収、14.6%の増益の予想となっています。また、同紙の報道によれば、株価は「東証プライム全上場企業の16%にあたる約260社は2023年に入って上場来高値」をつけているとのことであり、弱含みの経済と好調な企業業績との乖離が拡大しています。
 なお、円安修正の動きが企業業績に与える影響が懸念されるところですが、2023年9月調査の日銀短観によれば、輸出企業の想定為替レートは、2023年度下期で135.46円とされており、現状の水準では大きな影響はないものと思われます。

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