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誇り
私がパートとして介護員をしていた3年目、ご利用者のS様と出会いました。S様は、お身体が不自由で全介助のご状態ですが、昔の話を楽しく話すことが出来るのは何故だろうと不思議に感じていました。
話が一段落すると、
「したいことは行動を起こさないと始まらないから」
といつも口癖のように言われていました。殆どベッド上で過ごす時間が多いS様は、まだまだやりたい事や楽しみたい事がある様子でした。それを考えて一日一日が過ぎて行っているのかと思うと、私は胸が締め付けられる思いでした。
ある時、S様が
「あなたはいつも同じことを話している私の話を、毎回初めて聞くかのように楽しそうに聞いてくれるのが今の私の楽しみなの。こういう事もおむつを交換するのと同じくらい私にとって有難いのよ。他の人にもこういうお世話をしてあげてね。あなたは今からどんなに悪いことをしても天国にいける職業に就いているんだから」
と話されました。パーキンソン症候群で顔の表情をあまり変える事が出来ないS様ですが、私には笑っているように見えました。
私はコミュニケーションの大切さをわかっていないまま介護をしていましたが、S様に出会い、認知症になったご利用者も、身体が不自由になったご利用者も、今だけでなく過去をしっかり生きてきたという事を理解する事ができました。そして、介護の知識をもっと深めていきたいという想いになり、介護をする楽しさを知り、この仕事に誇りを持つ事ができました。
S様が辛い状況で生活している中、私の為にいろいろと話してくださり学ばせていただいたことを忘れず、これからもご利用者としっかりと向かい合い、コミュニケーションをしっかり図る事を念頭においてケアをしていきたいと思います。
特別養護老人ホーム 清華苑
介護支援専門員 前川真弓