雄蝶雌蝶 ~神聖な酒器と雌雄を持つ装飾~
ひやおろしや秋あがりなど、日本酒が美味しい季節になりました。今の時期は結婚式など祝い事の多いシーズンでもあります。
皆さまは、婚礼の三々九度で用いられる酒器と、それらを装飾する蝶飾の由来をご存知でしょうか?
よろしければ、酒の器にまつわる話を肴に、晩酌などお楽しみください。
婚礼の三々九度
身を清める神酒を男女共にいただき、九重に盃を重ねることで、永遠の契りを交わす三々九度。儀式では、神前に酒を捧げた瓶子(へいし・御神酒徳利)から加え提子(かえひさげ:くわえひさげ)へ神酒を移し替え、さらに長柄銚子(ながえちょうし)へ注ぎます。
この際、酒器を飾るのが、紙と水引で蝶を模った「雄蝶雌蝶(おちょうめちょう)」です。ここで言う蝶とは、蝶々ではなく蚕(かいこ)。中央を山折りにして雄の蚕を表現した雄蝶は酒を注ぐ側の提子に、谷折りで雌の蚕を表した雌蝶は酒を受ける側の銚子に取り付けます。
非対称な装飾物が対になっている上に、雌と雄の別があるというのは、非常に興味深いこと。古くから養蚕が盛んだった日本では、蚕と生活が密接に関わり、紡がれる繭は縁起が良いとされてきました。また雌雄をモチーフとしたデザインには、子孫繁栄の願いが込められています。
日本古来の文化を手繰る
好きが高じて酒や酒の器を研究してきた私は、日本古来の文化を手繰るほどに、「酒や蚕と縁がある文化伝承をもっと多くの方に知っていただきたい」、「古典的な酒器の魅力や、その言われを後世へ伝えていきたい」と強く思うようになりました。
その一環として清課堂の店頭には、錫製の瓶子、そして雄蝶雌蝶を取り付けた銅製の堤子と銚子を展示しています。より身近に感じていただければと、私の代から現代風にアレンジした錫製の提子も手掛けております。
例えばお正月に清酒を注いだ酒器で乾杯し、ご家族の健勝を祈るなど、堤子や銚子で暮らしを彩っていただけますと幸いです。
(銚子や提子の口飾りについては、結納店でお買い求めください。)
手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。