
仕事とプライベートの境界
あるプロジェクトに誘われた。
簡単にいうと職場の知識レベルを引き上げるために資料を作成し、講義をするものだとか。
直接面と向かってするものではなく、オンラインで行うもので、私がすることは資料を音声付きで作成して渡すだけらしい。
私の属している職種は専門的で、かつ、習得するべき知識が多岐にわたるため、各方面で専門的な知識を持つ人間が担当を受け持ち行うらしい。
この件を依頼された時、依頼されたことの嬉しさよりも不安が大きかった。
まず、資料の量は膨大で、長期間継続して行われるものらしい。
正直なところ、私は仕事<プライベートという考えだ。
仕事はプライベートを充実させるためにする。
お気に入りのアールグレイティーを嗜み本を読んだり、雑貨屋でよく分からないけれど惹かれる置き物を買ってみたり、ハンドメイド専門のマーケットに行って作者と作品を眺めてみたり。
そんな私のような人間には向いていない所謂「教育」なんてジャンルのものが飛んできた。
その上、私は依頼された分野の知識がそこまである方ではない。
中の上といったところか。
自分の身の丈に合っていない仕事とは思いつつもこの仕事が終わった時に成長している自分に期待をしていたりする。
少しずつ仕事とプライベートの境界が曖昧になって、好きな紅茶を飲みながらパソコンで資料をつくり、モニターの横には変な置物がある。
次第に「好きな紅茶」と「変な置物」は魅力を失い卓上から消え、効率よく資料を作るためのデバイスへと変わっていく。
読む本も徐々に変わっていって、本と出会う経緯や思い出が画一化されて色を失う。
そんな最悪の未来を想像しながら、そうさせない事を誓い、仕事の依頼を承諾した。
最も恐れることは、境界が曖昧若しくは壊れた時に自覚することは難しいということ。
毎日触れているこのアプリに記録を残して自分の立ち位置を再確認しようと思う。