龍樹の手紙、賢治の言葉
あらゆる権力は腐敗する。「大国・ロシアの復活」とか「中華民族の偉大な復興」とか「アメリカを再び偉大に」とか、近年大国の指導者は同じようなことを言ってきた。
それを支持する国民。その言葉に酔う国民。そうした国民感情や心理も分かる。しかし、どちらも過去から変わらないエゴと欲望と偏狭さを利用する常套句だ。
南インドの仏教者・ナーガルジュナ(龍樹菩薩)による著述。南インドのシャータヴァーハナ王朝ガウタミープトラ・シャータカルニ王か、ヤジュナシリー王へ宛てたものにこうある。(宝行王正論・一連の宝珠―王への教訓・瓜生津隆真 訳『大乗仏典』中央公論社文庫)
「災厄、凶作、災害、流行病などで荒廃した国にあっては、世の人びとを救済するのに寛大であってください」(第三章・五二)
「田地を失った人びとに対しては、種子や食物をもって救済し、努めて租税を免じ、または少しでも租税を減じてください」(第三章・五三)
「貪欲の病患からよく守り、税を免じ、または税を減じ、それらについてまつわる煩悩から離れるようにしてください。」(第三章・五四)
龍樹は2世紀の人だから約1900年前の言葉だが、コロナ禍や気候変動による自然災害の多発、不作や凶作、飢饉は昨今の世界と重なる。
その上で、仏教僧が巨大な権力を掌握している王に説いている。
「王がたとえ真理に背くこと(非法)や非道をなすとも、王に仕える人びとは概して称讃します。それゆえに、王にとっては正当か正当でないか、を知ることがむずかしいのです。」(第四章・一)
「たとえほかの人であっても、その人の気に入らないばあい、正当なことを語るのは難しい。まして、あなたは大王であり、その王に修行僧である私が語るときはいうまでもありません。(第四章・二)
「私はあなたに要約して法を説きましたが、その法をあなたはつねに自らの身を愛するように、愛してください。」(第五章・八八)
現代の危機的な世界情勢と重なる。
ロシアだけではなく、中国の掲げる「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」「新時代の新たな征途においてさらに偉大な勝利と栄光をかち取る」というのも前時代的な国家観ではなかろうか。
ナショナリズムは便利だが、多くの問題は一国で解決できない。子どもでも分かる。経済も、地球温暖化も、何もかも、国を超えた枠組みでしか対応できない。
人類全体の価値観のアップデートが早急に為されなければならない。
「われらに要るものは銀河を包む透明な意志、巨きな力と熱である」
宮沢賢治の言葉だ。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである
われらは世界のまことの幸福を索ねよう。
求道すでに道である」
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