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江戸時代の本、その大きさや形について考えてみましょう-書誌学入門-

江戸時代の本の大きさは二種の紙から派生

江戸時代の本は、手で写されたもの(写本)と、印刷されたもの(版本)に大別され、本の大きさはその両方に通じるもので、使う紙の規格にも美濃紙と半紙の二種類がありました。
美濃紙というのはもと美濃の国で漉かれていた楮紙(ちょし・こうぞを漉いた紙)で、およそ縦九寸三分(28.2㎝)横一尺三分五寸(40.9㎝)。半紙は全紙(書画用の画仙紙)の縦半分の幅をもった紙で、縦八寸(24.3㎝)横一尺一寸(33.3㎝)ほど。
これらを半分に折って袋綴じにしたものが、各々美濃本(大本)、半紙本と呼ばれ、もっとも平均的な江戸の本の大きさとなります。
江戸の本の大きさはこの二種の紙から派生していきました。ちょうどいまのJIS規格のA判とB判のようなものですね。
もっとも、版本は製本時に本のタテヨコをきれいに切り揃えますから、もとの紙の大きさの写本よりも一回り小さくなります。

現代の本の大きさは江戸の本に通じている

版本にはさらに、美濃紙を半分にして袋綴じした中本(ちゅうぼん)、半紙を半分に切って袋綴じした小本(こほん)とがあり、前者は今の新書判の少し横広の、後者はほぼ今の文庫本のサイズにあたります。
美濃本がおよそB5判の大きさ、半紙本もA5判のやや大きいもの(今の菊判とほぼ同サイズ)といった事実からすれば、なにげなく我々が触れている今の本の大きさも、多くは江戸の本に通じているのです。

ジャンルによって異なる本の大きさ

では内容はといえば、江戸期には堂々たる思想、宗教、漢詩文などのお堅い学問筋の本は大本。さらにそれらがやや大衆化した庶民教訓書や読本(よみほん)と言われるようなシリアスな小説に半紙本が多くあります。
中本はさらにくだけた絵入りの草双紙や滑稽本・人情本などに使われ(今のコミックに多く使われるB6判や新書判がこれに近い)、小本は遊廓での手練手管を描いた洒落本など、社会の表舞台に出すのが憚られるような戯作が主流でした。

外見が中身を表す江戸時代

また上記のサイズそれぞれに横綴じした本も作られていて、それらはほとんど実用的なもの。金銭貸借用の大福帳や判取帳などがその代表格です。また枡形本(ますがたぼん)と呼ばれる正方形に近い変形判もあり、これらは日本の古典(古今集や源氏物語)を意識した風雅な内容のものが多い。
すなわち、政治も哲学も小説もエッセイもみな文庫や新書で出る現代とは違い、武家や商人やお百姓が姿かたちですぐ判別できたように、本もまた外見で中身を表すのが、江戸時代だったといえましょう。

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この記事を担当したのは・・・
文芸学部 国文学科 宮﨑 修多 教授

【教員からのメッセージ】
成城の国文学科のカリキュラムは、「素読」や「会読」や「実習」が象徴しているように、わが国の文学や言語を、頭でっかちにではなく身体で学ぶ、体得するということを主眼としております。それが社会に出た時の最大の武器にもなると考えているからです。

※本記事は成城大学入試情報サイト「成城ブリッジ」より転載しています。

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