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政治用語bot更新原文(2024.07.30)

さてさて、またもや5ヶ月ぶりの更新。233語。
今回は主目的らしい主目的がなく、リスト化して書いてなかった言葉をかなりまとめて消化し、あとはつれづれなるままに…といったところ。

最初になにかのニュースで「裁判での真実発見ねぇ…」と思うところがあり、「実体的真実主義/形式的真実主義」から始め、他にリスト化だけしていた「ハラスメント」「いじめ」からその他社会福祉系の言葉。

そこから国際比較の指標に飛んで、そこから国際経済に飛んで、そこから予算に飛んで。数年前に言葉だけ見かけたがイマイチ意味がよくわかってなかった「シーリング方式」「キャップ方式」を片付けた。さらにその関連で議会・行政機構関係もやっとくかとポンポンと追加。

そして最近話題に(?)なりやがってた憲法改正関係を調べてたら、そっちよりも憲法学理論に興味が向いてしまう。

そしてこれも言葉だけためてた経済法(独占禁止法)の関連語を文献読み込んで取りまとめる。ヤクザについても書いてみたかったのでそれも書く。

ほかはまあ思いつきで溜まってたキーワードを消化。ただ、前回更新時に追加すると書いた「団体献金」を「企業献金」として追加した(「献金」はすでに追加済みだった)のと、要望があった「予備自衛官」も追加しておいた。

なお、「ヤクザ」と「暴力団」を両方書いているが、これは「ヤクザ」は近代以前のヤクザ、暴力団は近代ヤクザという形で、力点が違う。

さて、更新していない5ヶ月の間だが、なんかいろいろあったようでいてあんまり大したことは起きてねえなって印象だ。弥助問題の件はなかなかイライラしたが、イライラしただけである。

ところで試しにbotの方に欲しい物リスト載せたけど特に誰も何も買ってくれんね。まあ、そんなもんだろう。



司法制度関連語

「弾劾主義」(「公訴主義」を分割)

各国の刑事司法制度の分類の一つ。広義には、犯罪を捜査し訴追する国家機関と刑罰を科す国家機関が分かれているもののこと。例えば日本のように「検察官が犯罪を捜査して訴追し、裁判所が刑罰を科す」のはこの例。狭義には、刑罰を科すのは国家機関だが、犯罪の捜査や訴追は被害者などの私人自らが行い、加害者と被害者が対等の立場で裁判に臨む仕組みを指し、イギリスにその伝統が残る。対義語は「糾問主義」。なお、広義の弾劾主義は、公訴主義と呼んで区別する場合もある。(また、日本では検察官が起訴すれば殆どの場合有罪となるため、検察官が第一審として機能する事実上の糾問主義とも言いうる)。

「糾問主義」

刑事司法制度の分類の一つ。犯罪を捜査し訴追する国家機関と、刑罰を科す国家機関が分かれていない刑事司法制度のこと。対義語は「弾劾主義」。裁判所の職権によって捜査・訴追・判決の全てが行われる。大陸ヨーロッパで絶対君主制の下で成立した仕組み。近代市民革命以後のヨーロッパ諸国では司法権が君主権力から分離されたことで弾劾主義に移行したが、大陸ヨーロッパの法制度を引き継ぎ、なおかつ権力分立を採用しない社会主義国では糾問主義を維持していた。

「糾問的捜査観」

刑事事件で行われる「捜査」を、捜査機関が被疑者を取り調べることで真実を明らかにする手続きとして理解する考え方。この考え方のもとでは、強制力を伴う捜査も自らの判断のみでなしうる強い権限が捜査機関に与えられ、その濫用を裁判所が抑制するという形がとられる。対義語は「弾劾的捜査観」。刑事司法制度の分類である「糺問主義/弾劾主義」を刑事事件の捜査の類型として転用したもの。

「弾劾的捜査観」

刑事事件で行われる「捜査」を、被疑者に疑いをかけた捜査機関による、公判のための準備の手続きとして理解する考え方。この考え方のもとでは、被疑者と捜査機関の立場は対等であり、それぞれ独自に公判に向けて準備を行うため、裁判所の判断なしに捜査機関が強制力をもって捜査を行うことはできない。対義語は「糺問的捜査観」であり、糺問的捜査観と異なり、真実の発見は裁判所の役割となる。刑事司法制度の分類である「糺問主義/弾劾主義」を刑事事件の捜査の類型として転用したもの。

「予審制」

刑事事件について公訴が提起された後、公判が始まる前に裁判官(予審判事)がその事件を審査する仕組み。その事件を公判にかけるべきかの判断と、強制捜査や被疑者の拘束といった時に強制力を伴う証拠収集を裁判官の権限で行うもの。強制力の行使を警察・検察ではなく、あくまでも司法府の権限とすることでその濫用を防止することを目的する。フランス法で発達した仕組みであり、日本では戦前に採用されたが次第に形骸化して戦後廃止された。

「実体的真実主義/形式的真実主義」

事実や真実、真相といったものの取り扱い方によって訴訟手続を分類したもの。裁判では可能な限り本当の事実を追求しそれに基づいて判決を下すべきとするものを「実体的真実主義」といい、本当の事実ではなくても裁判の当事者が納得できているなら良しとするものを「形式的真実主義」という。現在では民事訴訟は形式的真実で良いとするのが一般的だが、社会主義法では民事訴訟でも実体的真実を追求すべしとする観念が強い。

「違憲立法審査権」(「違憲審査制」と差し替えようと思ったが併存に)

法令と憲法の整合性を審査し、不整合と判断した場合に当該法令を無効とする権限のこと。司法が保持することが多いが、三権から独立した機関が保持することもある。実はこの観念の各国への浸透は近代立憲主義の浸透よりもかなり遅く、米国ではかなり早かったものの、ヨーロッパでは第二次世界大戦後になってから本格的に広まった。また米国においても、「人民立憲主義」のように、司法が違憲立法審査権を握り、憲法を特権的に解釈することに反発する立場がある。

社会福祉関連語①(医療制度・NPO論)

「オバマケア」

2014年から米国で行われた医療制度改革の総称。2010年に成立した「ペイシェントプロテクション・アンド・アフォーダブルケア法」(患者保護並びに医療費負担適正化法。ACA)に基づく。米国の医療制度は伝統的に「自由診療」を前提に、個々人は自発的に民間保険に加入することで医療費を抑えるという仕組みになっていたが、この仕組みでは低所得者が保険料負担を忌避して民間保険に加入せず、その結果いざ病気や事故で医療サービスを受けた際に医療費を負担できなくなるという問題が生じた。そこで民間保険業者による加入者制限の規制、低所得者による保険加入への補助金、保険非加入者への罰金といった措置によって、事実上の国民皆保険を目指したもの。当初は大きな反発を受けていたものの、新型コロナウイルス禍を経て反対の声は退潮している。改革を主導したバラク・オバマ大統領の名が由来。

「自由診療/保険診療」

病院などで提供される医療サービス(診療)のうち、公的な医療保険(例えば国民健康保険)の対象とならず、必要な医療費の全てを患者自らが負担するものを自由診療。公的な医療保険の対象となり、患者は医療費の一部のみを負担するものを保険診療という。なお、そもそも公的な医療保険の存在しない国家ではあらゆる診療が自由診療として扱われ、公的な医療保険の存在する国家では自由診療のことを保険外診療ということもある。

「国民皆保険」

ある国家の国民のほぼ全員がなんらかの医療保険に加入している状態。もっぱら国民健康保険のように国家が全国民を対象として整備した公的医療保険が存在し、実際にほぼ全国民が加入している状態について言うことが多い。国民皆保険の達成は「生存権」保障の手段の一つとして重視される一方、特に加入義務による場合は財産権・契約の自由の制約となる側面もある。日本の他、ヨーロッパ大陸諸国では達成率が高い。

「第一世代/第二世代/第三世代の人権」

様々な「人権」を、それらが登場した時期によって呼び分けたもの。18世紀に登場した「自由権」が第一世代の人権。。20世紀初頭に登場した「社会権」が第二世代の人権。さらに20世紀後半になって登場した、民族自決権や環境権、発展への権利といったものが第三世代の人権と呼ばれる。第一世代と第二・第三世代の間には、国家の積極的活動の意義を認めるかどうか。第一・第二世代と第三世代の間には、人権を保有する主体が個人か集団か、といった性質の違いがある。

「ペストフの三角形」

ペストフの福祉トライアングルとも。NPOの社会的意義・立ち位置・組織原理を説明するための図。公式/非公式、営利/非営利、私的/公的の区分によって国家の領域、市場の領域、共同体の領域を類型化し、それらの間にある領域として第三セクター(社会的セクター、NPOなど)を位置づけるもの。1992年にビクター・ペストフによって作成され、現在にいたるまでNPO論などで度々言及される。

「認証NPO/認定NPO」

日本における「NPO」のうち、都道府県知事もしくは政令指定都市の市長による公益性についての認証を受け、NPO法人としての法人格を得たものを「認証NPO」と言う。またそのうち、都道府県知事・政令指定都市長によって特に高い公益性を認められたものを「認定NPO」という。認証NPOには法人として活動できることによるメリットがあり、さらに認定NPOには税制優遇が与えられるが、代わりに事業報告書の提出などの義務も生じる。

社会福祉関連語②(いじめ、虐待、ハラスメント)

「児童相談所」

児童福祉法に基づいて各都道府県に設置されている、児童福祉の専門機関。18歳未満の子どもに関する様々な問題に対応するための相談援助活動を任務とする。子どもに関する相談の受付・対応や、それに必要な調査・診断・判定、場合によっては家庭への指導や「一時保護」の決定その他様々な手続きを行い、そのための人員として精神科医や「児童福祉司」などの専門職員を擁する。児童虐待の通告先の一つであり、電話番号は189番。

「児童福祉司」

児童相談所の職員の一種で、児童福祉に関する事務を司る専門職。児童相談所に必ず置かれなければならないことが児童福祉法によって定められている。子どもに関する相談への対応と、その解決のために必要な情報の収集・調査・評価、そしてそれらに基づく支援や指導、人間関係の調整を主な業務とする。必ずしも資格は要さないが、専門職であるため任用要件は比較的厳しい。2022年度の時点で5738人の児童福祉司がいる。

「児童心理司」

児童相談所の職員の一種で、心理学の知見が関わる専門的業務を司る専門職。児童福祉法で「心理に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導を司る所員」と呼ばれる職員を指す。子どもと保護者等に対する心理診断と、様々な心理療法やカウンセリング、その他必要な助言・指導を行う。他の福祉施設で心理判定員と呼ばれる職員にあたる。2022年度の時点で2347人の児童心理司がいる。

「特別養子縁組」

日本における養子縁組制度の一つ。実父母による養育が困難な子どもの様々な利益を担保するために行われる養子縁組。養子縁組によって実父母との親子関係が消滅し、養父母が実父母として扱われる。家庭裁判所による審判によって成立するが、養子となる子は原則として15歳未満、養父母となる者はいずれかが25歳以上の夫婦であり、養子となる子を半年間養育していなければならず、特別の場合を除き実父母の合意があること、といった条件がある。

「普通養子縁組」

日本における養子縁組制度の一つ。養子縁組後も実父母との親子関係が存続し、養子が二重の親子関係を持つことになる養子縁組。養父母となる者と養子となる者の契約関係として成立し、養子縁組の解消も容易。年齢制限はないが、未成年者が養子となる場合は、再婚相手の連れ子などを除いて家庭裁判所の許可を要し、また15歳未満の場合には親権者など法定代理人の合意を要する。

「里親制度」

何らかの事情によって実父母による養育が困難な子どもを、実父母に代わって別の夫婦が養育する制度。日本では18歳未満の子どもを対象とし、研修と適格性審査を経て里親候補として認定された者が「児童相談所」からの委託を受けて里親となり、里親には自治体から里親手当てと養育費が支給される。里親候補は夫婦である必要はなく、単身者などでも可能。なお、これ自体は養子縁組ではないが、特別養子縁組の要件である「半年間の監護」を満たすためにも利用される。

「児童虐待」

大人、特に保護者がその子どもに対して身体的・心理的ダメージを与える様々な行為の総称。子どもの正常な発達を阻害し、場合によっては命の危険にまで至る人権侵害として問題視される。日本では「児童虐待防止法」にて定義され、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」に分類される。その原因は様々かつ複雑。児童虐待の発見者には通告義務があり、電話番号は189番。

「ネグレクト」

育児放棄、育児怠慢、監護放棄などと訳。虐待の一種で、ある者(子ども・高齢者・障害者・患者など)を世話(養育・介護)すべき者がそれを怠ることで、結果として世話されるべき者の心身に悪影響が及ぶこと。例えば十分な食事を与えない行為や、危険な状況での放置、危害を加えられている状況を傍観するなど。故意に行われる積極的ネグレクトと、当人の状況・能力的に世話が不可能な消極的ネグレクトに分けられる。

「心理的虐待」

相手に心理的なダメージを負わせるタイプの虐待のこと。相手に対し攻撃的に振る舞ったり、相手を否定するような言動をしたり、相手にショッキングな出来事を見せるといったものがこれにあたる。例えば親による子どもへの罵倒、脅迫、無視、子どもの意思や行動の極端な否定、兄弟間の扱いの不平等、配偶者に対する「DV」を子どもの前で行うことなどはこれにあたる。

「教育虐待」

学校などの成績や大学受験、習い事といった。教育に関する親や教師の過度の期待を背景とする児童虐待のこと。子どもの意思に反した勉強や習い事を過度に強要することや、成績が悪かった場合の過度の叱責がこれにあたる。背景は様々であり、いわゆるエリート家系の子どもに対する期待による場合もあれば、逆に親の学歴コンプレックスを払拭するための子どもへの期待による場合や、親の属性と関係のない、昨今の社会状況に発した将来への危機感が原因である場合もある。

「ドメスティックバイオレンス」

家庭内暴力。DVと略。恋人や配偶者間など、親密な関係にある間柄で振るわれる暴力のこと。かつて恋人であった者、かつて配偶者であった者との関係での暴力も含み、また身体的な暴力のみならず精神的な暴力や性暴力も含む。みだりに他者に公開されない私的な間柄で発生し、また被害者も恋人関係・配偶関係を維持しようとして被害を公にしない場合があるため、把握が難しい。定義上、被害者は性別を問わないが、現在まで把握されているDV被害者の9割近くは女性。なお、親から子どもに対する暴力は「児童虐待」として扱われるため、DVには含まない。ただし、子どもの見ている状況でDVをした場合は児童虐待(心理的虐待)となる。

「いじめ」

他者の心身に苦痛を与える様々な行為の総称。「ハラスメント」と近い概念だが、特に学校の人間関係の中で子どもに対し行われるものをいじめと呼ぶことが多い。子どもの発達に悪影響を与え、不登校や自殺の原因ともなるため問題視される。しかし、いじめとその原因は複雑かつ観察しにくい人間関係の中で生じ、加害者はもちろん被害者もそれを隠すことがある他、加害者の養育環境などの問題等が絡む場合もあるため把握・対応ともに難易度が高い。

「共同親権」

親権すなわち子を養育する権利と義務を、両親が共同で保持・行使すること。婚姻中は当然共同親権となり、問題となるのは共同親権を「離婚後も」維持するかどうか。いわゆる親権争いが発生しなくなり、養育費滞納の動機も弱くなり、子にとっては両方の親と接する権利が保障されるといったメリットがあるとされる一方、両親の関係が悪い場合や片方の親が児童虐待をする傾向を持つ場合には却って悪影響が大きいとの懸念がもたれている。諸外国の多くがこの仕組みをとっており、2024年現在、日本で導入が議論されている。

「ハラスメント」

他者に精神的・身体的な悪影響を与え、尊厳を傷つける行動や言動の総称。直訳すると「嫌がらせ」だが、ハラスメントは必ずしも意図的な行動・言動のみに限定されるものではない点でいわゆる「嫌がらせ」とは異なる。なお、他者に精神的・身体的な悪影響を与える行動・言動という定義は傷害罪や侮辱罪にも当てはまりうるが、ハラスメントという場合はそれら伝統的な犯罪類型には当てはまらないものも広く指す。

「セクシャル・ハラスメント」

セクハラと略。「性的いやがらせ」と訳。性的な行動・言動によって他者に精神的・身体的な悪影響を与えること。セクハラにあたる行動・言動自体は古代からあるものだが、明確に社会問題化されたのは1970年代のアメリカである。日本では80年代末に紹介されてから急速に浸透し、89年には「セクハラ」が流行語大賞ともなった。なお、当初は主に女性の労働問題として扱われていたが、現在では性別を問わず、場所も職場に限らない概念として扱われつつある。また、この概念の浸透によって、より広い「ハラスメント」概念も広く受け入れられることになった。

「対価型セクハラ/環境型セクハラ」

「男女雇用機会均等法」に規定されたセクハラ(セクシャル・ハラスメント)の類型。セクハラ行為を受けた者がそれに抵抗することで何らかの不利益(降格・減給・昇進昇給拒否・不利益な配置転換など)を受けるものを「対価型セクハラ」。セクハラ行為によって就業環境などが不快なものとなり、セクハラを受けた者の労働意欲などに悪影響をもたらしたものを「環境型セクハラ」という。

「パワー・ハラスメント」

パワハラと略。自らの保持する権力を背景とした言動によって、他者の精神・身体に著しい悪影響を与えること。特に労働関係で問題となり、上司の指揮命令権を背景とした部下に対するものが想像されやすく、職務上の権限の濫用とも言える。しかしそれ以外にも、能力の大小を背景とした同僚によるものや、集団としての権力を背景として部下が上司に対して行うものも当てはまる。

「アカデミック・ハラスメント」

アカハラと略。特に大学のような教育・研究機関において、教員と学生の間の権力関係を背景として行われる「ハラスメント」のこと。教員―学生の権力関係を背景としたセクハラやパワハラも含むが、特に教育のための指導の放棄、研究・学習の妨害、成績評価や単位取得に関する不利益な扱い、研究成果の横取りといったアカハラ独特のものを指すことが多い。

「マタニティ・ハラスメント」

マタハラと略。「ハラスメント」のうち、妊娠・出産した労働者や、それに伴って産前産後休業や育児休業といった制度を利用しようとする、もしくは利用した労働者を対象に行われるもののこと。降格や昇進拒否、解雇、労働意欲減退といった労働上の不利益だけでなく、精神的・身体的悪影響によって流産などを引き起こすこともある。男性労働者に対して行われた場合はパタニティ・ハラスメントと呼び区別する場合もある。

「モラル・ハラスメント」

モラハラと略。「ハラスメント」のうち、暴力的な手段ではないものを広く指す言葉。暴言・侮辱・無視、私生活の詮索や監視・介入など、様々な手段があり得る。ハラスメントの手段に着目した類型であるためセクハラ・パワハラ・アカハラ・マタハラなど他のハラスメント類型と複合するが、もっぱらそれらには当てはまらないものを指すために用いることが多い言葉。

反差別関連語

「マイクロアグレッション」

訳すと「微小な攻撃性」。「自覚なき差別」などと意訳。日常的に、無自覚に、非意図的に行われる差別的な態度・取り扱いの総称。その態様は多種多様であり、状況によっても変わるが、わかりやすい例であれば「あなたには女性らしい細やかさがあるね」。無自覚に確立した偏見に由来するため、自分一人で回避することは極めて難しい。

「カバードアグレッション」

訳すと「隠された攻撃性」。日常的に行われる差別的な態度や取り扱いで、それを行う当人はそれが差別的であること、相手を傷つける行為であることを認識しながら、そのことを巧みに隠しているようなものの総称。

「ジェンダー・ギャップ指数」

GGI。「世界経済フォーラム」が2006年以降毎年算出・発表している、各国の男女格差を示す指数。14の変数を経済活動の参加と機会(労働力の男女比、類似する労働における賃金の男女格差、推定勤労所得の男女比、管理職従事者の男女比、専門・技術職の男女比)・教育(識字率男女比、初等教育就学率男女比、中等教育就学率の男女比、高等教育就学率の男女比)・健康と生存(出生者の男女比、平均寿命の男女比)・政治的エンパワーメント(国会議員の男女比、閣僚の男女比、政府トップ在任年数の男女比)の4分野に分けて算出し、最終的にそれらを総合して発表する。最大値は1(男女格差なし)、最小値は0(男女格差最大)。なお、日本は教育・健康と生存については高水準で推移しているが、経済・政治がかなり低くなっている。

「ジェンダー不平等指数」

GII。「国連開発計画」が2010年から毎年算出している、各国の男女格差を示す指数。政治・経済領域における男女格差の指標であった「ジェンダー・エンパワーメント指数」に、健康(妊産婦死亡率・若年者の出産数)と教育(中等教育以上を受けた者の割合)を加え、また経済指標に労働力率を加えたもの。最大値は1(男女格差無し)。最小値は0(男女格差最大)となり、「ジェンダーギャップ指数」とは逆であることに注意。

「ジェンダー開発指数」

GDI。「国連開発計画」が毎年算出する、各国の「人間開発指数」の男女格差を示す指数。寿命、期待就学年数、就学年数、国民総所得から算出される人間開発指数について、その男女差を数値化したもの。基準値1(男女格差なし)より小さければ女性が不利、大きければ男性が不利ということになる。

「ジェンダー・エンパワーメント指数」

GEM。「国連開発計画」が2009年まで算出していた、政治・経済領域における男女格差を示す指数。国会議員の男女比、管理職・専門職・技術職の男女比、推定所得の男女比によって算出され、最大値は1(男女格差無し)。最小値は0(男女格差最大)。2010年からは「ジェンダー不平等指数」に移行している。

グローバル問題関連語

「人間開発指数」

HDI。「国連開発計画」が毎年算出する、各国の「人間開発」の達成度(個人が自らの能力を発揮する機会がどれだけ保障されているか)を示す指数。期待平均寿命、平均就学年数、期待平均就学年数、一人あたり国民総所得(GNI)をもとに算出される。最大値1が最も良く、最小値は0。

「人間開発」

Human Developmentの訳語。個々の人間が自らの能力を十分に発揮し、人生に関する様々な選択と機会を拡大していくことを可能にするための取り組みの総称。シンプルに言い換えれば「人間が人間として幸福に人生を送ることのできる能力・状況の開発」。1980年代に登場した概念であり、以後単なる経済成長に還元されない、広く社会の改善・変革を志向する開発概念を示す言葉として広く用いられる。

「世界経済フォーラム」

WEF。世界中の様々な分野の指導者の連携によってグローバルな問題を解決することを目的に1971年に設立されたNGO、国際機関。本部はスイス。その年次総会は「ダボス会議」と呼ばれて注目されるが、それ以外にも様々な会議の開催や、グローバル問題に関する調査・報告活動を行っている。運営資金は世界経済フォーラムの会員となった企業からの年会費でほとんどを賄っている。

「ダボス会議」

毎年1月末、5日間にわたってスイスのダボスで開催される「世界経済フォーラム」の年次総会。世界経済フォーラム会員企業のトップの他、各国を代表する政治家や、学界・NGO・宗教・労働者など様々な領域の代表者が一堂に会して、グローバルに発生している様々な問題について議論する。このような会合の場としては規模が極めて大きいため、各国の指導者が広く接点を持ちうる場として機能している。

「国際連合貿易開発会議」

UNCTAD。発展途上国に関する貿易・開発投資の促進を目的とする、国際連合の補助機関・会議。「南北問題」への対応の一環として1964年に開催され、途上国と先進国の対立の場となったが、一定の成果が得られたため、そのまま常設化した。総会は4年に一度開かれ、政府間会合の場となっているほか、総会がない期間にも貿易開発理事会の元で調査研究や途上国への技術協力プロジェクトを実施している。

国際経済関連語

「国際収支統計」

国際収支。ある国とその居住者が他国との間で行った経済的な取引による、物・サービス・資金の収支を記録した統計。現在は「経常収支」「資本移転等収支」「金融収支」の三つから構成され、それらは「経常収支+資本移転等収支+誤差脱漏=金融収支」という関係となる。何をどの要素として記録するかはIMF(国際通貨基金)によって標準化されているため、各国の経済状況の比較する際に有用。

「経常収支」

ある国とその居住者が他国との間で行った、モノ・サービスの取引や所得の受け取り・支払い、資金・モノ・サービスの無償提供(経常移転)に関する収支のこと。この三つをそれぞれ、貿易・サービス収支、第一次所得収支(旧・所得収支)、第二次所得収支(旧・経常移転収支)として計上した上で、足し合わせる。「国際収支統計」を構成する要素の一つ。

「資本移転等収支」

ある国とその居住者が他国との間で行った、対価を伴わない固定資産の提供や債務免除(資本移転)と、非生産資産・非金融資産の取得・処分に関する収支のこと。例えばODAでの施設整備支援のための資金援助や、国際的に行われる相続やそれに伴い外国政府に支払う相続税、特許やライセンス、鉱山の利用といった権利の売買といったものがあてはまる。「国際収支統計」を構成する要素の一つ。

「金融収支」

ある国とその居住者が他国との間で行った、金融資産の売買や投資に関する収支のこと。直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資そして外貨準備からなる資産(債権)と負債を計上したもの。「国際収支統計」を構成する要素の一つ。

「経常移転」

他者に対してモノやサービス、資金を無償で提供すること(移転)のうち、その原資が資産や貯蓄ではなく、日々の収入によるもののこと。特に国家に関して言うことが多く、社会保障による給付やODAなどによる他国政府への資金提供、政府による政府機関に対する資金の交付、国から自治体への資金交付、個人や法人による税金の支払い、罰金の支払いといったものはその例。

「経常移転収支」

ある国とその居住者が他国との間で行った、モノ・サービスの無償提供(経常移転)に関する収支のこと。ODAによる他国政府・組織への無償資金協力や、国連に支払う「国連分担金」、何らかの理由で外国やその居住者に支払うことになった税金や損害賠償・罰金、外国人労働者による出身国への送金などが
支出として計上され、海外居住者の収入や財産にかかる税金などが収入として計上される。なお、現在の「国際収支統計」では「第二次所得収支」と呼ばれている。

「交換/移転」

経済における「取引」の分類。例えば商品売買など、一般に取引として想像されるような対価を伴う取引のことを「交換」取引と言う。対して、対価を伴わない無償の取引を「移転」取引という。例えば社会保障制度による所得再配分は、国家が国民に資金を移転する取引であり、税金の支払いは国民が国家に対して資金を移転する取引である。

「購買力平価説」

PPP。為替レートは自国通貨と外国通貨の「購買力」(同じモノを買うためにどれだけの通貨が必要か)に関する比率で決定されるとする説。自国通貨と外国通貨の購買力の単純な比率で決定されるとするのが「絶対的購買力平価説」。自国と外国の間の物価の変化率(とそれによるそれぞれの通貨の購買力の上昇下降)の比率で決定されるとするのが「相対的購買力平価説」。両者とも現実では完全には成り立たないものの、妥当性は高いとされている。

予算関連語

「予算」

国や自治体や企業その他組織による、会計年度毎の収入と支出を見積もった計画のこと。あくまでも見積もりであるため、実際の収入・支出とはほとんどの場合一致せず、ある程度余裕を持たせた計画とするのが通常となる。それでも足りない場合には会計年度中に修正を加える。なお、予算計画という言葉は、予算そのものを指したり、予算を立てることを指したりする。また転じて、「予算が足りない」のように「支出できるお金の量」のことを言う場合もある。

「予算編成」

国家や自治体などが予算案を作成すること。日本の場合、国家予算の編成権は内閣が持つ。国家予算の中心たる本予算の編成プロセスは前年度の8月頃から開始され、各省庁からの「概算要求」を財務省が12月中旬までにとりまとめて財務省原案を作成。それを省庁間・大臣間の交渉でさらに調整・修正したものが政府の予算案として国会に提出され、審議にかけられる。

「予算循環」

予算案が策定され、議会の審議を経て議決され、その予算に基づいて実際に政策が行われ、最後に決算し検査するというサイクルのこと。このサイクルは予算が執行される年度の前年度から始まり、また議会での決算や検査は翌年度に行われることから、最短でも三年を要する。ただ、最後の決算・検査に時間がかかることが多く、日本では6年かかったこともある。

「年度」

何らかの目的のために、一般にいうところの年(1月1日-12月31日)とは区別する形で設定された、期間の区切り。有名なものには国や自治体、企業などの会計のための「会計年度」。学校の教育カリキュラムのための「学校年度・学年度」といったものがある。これら年度をどの時点で区切るかは各国社会や組織の置かれた歴史的状況・社会的状況や暦法によって異なる。また、必ずしもその期間が年の長さ(365/364日)と一致するとも限らない。

「会計年度」

国や自治体や企業の会計のために設定された年度のこと。収入と支出を見積もった予算を立て、執行する際に基準となる期間。現在の日本では国・自治体は4-3月区切りだが、世界を見ると1-12月区切りが大半。それ以外だと4-3月区切り、7-6月区切り、10-9月区切りの順で多い。企業の会計年度は企業が自由に決定できることも多い。

「国の本予算編成過程」

日本政府が翌年度の本予算を編成するプロセス。予算編成の事前準備は既に6月頃には開始され、7月に閣議了解されたと「概算要求基準」をふまえて、8月末頃に各省庁が必要な予算額の見積もりである「概算要求」を財務省に提出。その後財務省が各省庁へのヒアリング等をしながら財務省案を12月までに策定して閣議にかけ、閣議決定された政府案が国会に提出されて、通常であれば3月末に予算が成立する。

「予算編成の基本方針」

日本の内閣が11月末-12月頭に閣議決定する、翌年度の予算編成についての方向性をまとめた文書。現在の経済・財政・社会状況について確認し、予算編成に関する内閣の意思をそれに基づいて示すという形式で書かれる。「経済財政諮問会議」への諮問と、そこでの審議・答申によって作成される。

「経済財政諮問会議」

日本の内閣府に設置されている、経済財政政策に関する重要事項についての調査・審議を行う会議体。2001年設置。もっぱら経済・財政政策、予算編成について調査・審議する場として機能し、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や「概算要求基準(概算要求の基本方針)」、「予算編成の基本方針」のための審議・答申を行う。内閣総理大臣が議長を務め、経済財政政策担当大臣、財務大臣を含む関係閣僚5名、4人の民間の有識者、日本銀行総裁の11人を原則とし、案件によっては他の閣僚が臨時議員として参加する場合もある。

「概算要求」

日本の各省庁が、来年度行う予定の事業とそれに必要な費用の見積もりを取りまとめ、財務省に提出すること。最終的な予算案を編成するためのベースとなるものであり、財務省は各省庁が提出した概算要求書を元に、各省庁へのヒアリング・折衝を行って調整することで財務原案を作成する。そして財務原案が閣議にかけられて再調整され、政府の予算案として国会に提出される。

「概算要求基準」

1984年までは「概算要求枠」、1985-2010年は「概算要求基準」、2011-2013年は「概算要求組換え基準」、2014年からは「概算要求に当たっての基本的な方針」と呼ばれ、また一般にシーリングとも呼ばれる。来年度の予算編成に向けて各省庁が予算を財務省に要求する(概算要求)際に留意すべき事柄と、具体的な概算要求の金額上限を示す基準。財務省の案をもとに経済財政諮問会議が作成し、内閣が7月末頃に閣議了解する。予算が際限なく増大することを防ぐために設けられた仕組み。しかし1990年代前後からは概算要求時に金額を示さない「事項要求」などの様々な例外が増加したことや補正予算の常態化、そして2014年度予算からは歳出総額の上限を設定しなくなったことで、歯止めとしての効果が減じられているとされる。

「ゼロシーリング/マイナスシーリング」

日本で内閣が設定する各省庁からの予算要求額の上限(概算要求基準)を、当年度予算額から全く変更しない(伸び率0%)ことを「ゼロシーリング」、減額する(伸び率マイナス%)ことを「マイナスシーリング」と特に呼ぶ。財政赤字問題を受けた緊縮策として1983年度予算でゼロシーリングが導入され、翌年度予算からはマイナスシーリングが導入されたのが最初の事例であり、以降行われるたびに注目される。しかし、1990年代前後からすでに例外的な予算枠が増大しているという実態もある。

「(予算)特別枠」

日本での予算案策定の際、各省庁から要求できる予算額上限である「概算要求基準」の例外として、何かしらの重要政策のために特別に設定された予算枠。1991年度予算から導入され、以後ほぼ毎年設定されている。あくまでも重要政策に優先的に予算を配分するための措置だが、その特別枠の目的とする政策に関する事業であればどの省庁からも予算を要求できるため、概算要求基準の事実上の抜け穴としても機能するため、際限のない歳出増大の原因として危険視もされる。

「事項要求」

日本で予算編成のため、8月末頃に各省庁が必要な予算を財務省に要求する「概算要求」で行われる、具体的な金額を示さずに予算が必要となる事項のみを示して要求する行為のこと。政府・与党の政策の詳細が決まっておらず、具体的な金額が算定できない場合に行われ、実際の金額は12月ごろに決定される。本来、概算要求の金額は「概算要求基準」によって上限が設けられることで増大が抑制されるが、事項要求はその例外であり、概算要求基準の抜け穴として用いられているとして問題視される。

「シーリング方式(予算)」

国家予算の増大を抑制するための仕組みの一つ。予算案編成時に、各省庁毎に要求できる予算総額の上限(概算要求基準・シーリング)を設定し、その枠内で各省庁が予算の要求をまとめるもの。省庁毎の縦割りの概算要求基準設定が予算策定の硬直性を招くことや、概算要求基準の設定者への権力集中を招くことに対し批判がある。日本では1961年度予算から97年度予算まで用いられていた。

「キャップ方式(予算)」

国家予算の増大を抑制するための仕組みの一つ。予算案編成時に、各省庁の要求予算総額に対してではなく、公共事業費や社会保障費用、文教・科学振興費といった各主要経費に対して上限額を設定し、その枠内で各省庁が予算の要求をまとめるもの。日本では省庁ごとの縦割りでの予算編成を改める目的で、1998年度予算からこの方式を採用し、2003年度予算では経費区分を政策分野ではなく、その使い方によるものに変更した上で使われ続けている。

「経済財政運営と改革の基本方針」

経済財政諮問会議で2001年から毎年6月頃に策定し閣議決定される、内閣の重要課題や予算案、政策の基本的方向性を示した方針。政策・予算の決定における主導権を政権が保持すべく設置された経済財政諮問会議における議論を取りまとめたものであり、実際の政策決定や予算案策定に大きな影響力を持つ。2000年に宮沢喜一財務相が、経済財政諮問会議での議論を「骨太」と称したことに由来し、骨太の方針と通称される。

政治学関連語①立法・行政機構

「政治主導」

政府の政策や予算、人事を決定するにあたり、その主導権を政治家が握ること。もっぱら、(選挙で選出されたわけではない)官僚がそれらの主導権を握っているとされる状況下で、その主導権を(選挙で選出された)政治家の手に戻すべき(=より民主的な政治を行うべき)という主張として見られる言葉。日本では1990年代頃から主張され、実施された政治改革のスローガンとして用いられた。しかし、実際に当時弱かったのはあくまでも官邸の主導性であり、与党政治家は官僚と結託することで、従来からかなりの主導性を発揮していた。

「官邸主導」

政府の政策や予算、人事を決定するにあたり、その主導権を官僚や一般の政治家ではなく、官邸(=政権上層部)が握ること。イギリス型の典型的な議院内閣制では官邸主導が制度的もしくは慣行的に担保されているが、他の国家では必ずしもそうとは限らない。なお、日本では1990年代からの政治改革のスローガンとして「政治主導」が主張されていたが、これは実際には官邸主導を意味しており、一般の与党政治家の力を削ぐ目的が強かった。

「通達」

行政機関によって発せられる、指揮命令のための文書のこと。もっぱら行政機関内部や行政機関の間で、上位者から下位者に対して発せられるものを指す。行政機関の指揮命令関係を前提としているため、当然従うことが要求されるものの、これ自体に法的拘束力があるわけではない。なお、行政機関と関係の深い民間団体に対する行政指導にこの名称を用いることもある。

「諮問機関」

行政機関の一つ。行政庁による意思決定の際に、専門的な見地から意見を述べる権限を持つ合議制の機関のこと。「審議会」の一種。地方自治体では「調査会」という名で置かれる場合もある。行政庁による意思決定への専門的な知識の反映の他、国民や利害関係者の意見の反映をもっぱらの目的とする。なお「参与機関」とは異なり、その意見はあくまでも参考意見として扱われる。法制審議会はその例。

「参与機関」

行政機関の一つ。行政庁による意思決定の際に、専門的な見地から案件を審議し、行政庁に対して拘束力のある議決を行う合議制の機関のこと。「審議会」の一種。「諮問機関」と同様に、専門的な知識や国民・利害関係者の意見の反映を目的とするが、その議決が単なる参考意見ではなく、行政庁の意思決定を拘束する点が大きな違い。

「審議会」

行政機関の一つ。行政庁に付属する形で設置され、行政庁が意思決定を行う際に、専門的な見地から意見を述べたり、議決を行う機関のこと。あくまでも参考意見を提示するに留まる「諮問機関」と、その議決が行政庁の意思決定を拘束する「参与機関」の総称。諮問機関型の場合は特に法的な根拠なくとも設置される場合があり、私的諮問機関と呼ばれる。

「執行機関」

様々な意味を持つ言葉。例えば、警察官、自衛官、海上保安官、徴税職員といった、行政庁による意思決定によって発せられた命令の内容を、実力によって執行する権限を持つ行政機関を指す場合もあれば、地方自治体の長(都道府県知事や市町村長)と、委員会(教育委員会・都道府県公安委員会・選挙管理委員会など)を指す場合もある。

「上院」

二院制議会の持つ2つの会議体のうち、何らかの意味で、純粋な民主制の議会としての性質が相対的に弱い方を指す言葉。議会議員の性質を国民の代表ではなく、地域・自治体の代表、特定の階級・集団の代表といった形とするものや、任期をより長いものとするもの、議席数がより少ないものとするものなど様々。民主制議会としての純度が低いため、その権限を下院よりも弱めることが多い。名称は国家により様々だが、参議院や貴族院や元老院が有名。

「下院」

二院制議会の持つ2つの会議体のうち、何らかの意味で、純粋な民主制の議会としての性質が相対的に強い方を指す言葉。議会議員の代表を「国民の代表」として観念するのが通例であり、その名称には「国民」「人民」といった言葉がよく使われる。民主制議会としての純度が高いことから、例えば法律の再可決権限のように、上院にはない強力な権限を持たせることや、その純度をより高めるべく、解散総選挙などの仕組みを設けることが多い。

「通常国会」

法律上は「常会」と呼ばれる。日本国憲法52条に規定されている、毎年一度招集される国会のこと。一月に招集するのが通例で、会期は150日。日本において主となる議会会期であり、首相の施政方針演説や次年度の本予算案の審議はこの会期中に行われる。なお、一度だけ会期を延長できるが、その日数は特に定められていないため、理論上は次の通常国会が召集される一月まで延長できる。

「臨時国会」

法律上は「臨時会」と呼ばれる。毎年一月に招集される「通常国会(常会)」とは別に、臨時で招集される国会のこと。日本国憲法53条に規定されている。臨時会の招集は内閣の権限であり、内閣が独自に招集を決定できる他、衆議院・参議院いずれかの総議員の4分の1による要求があった場合は内閣に招集を決定する義務が生じる。慣例的に毎年少なくとも一回、秋に招集され、補正予算案や通常国会で成立しなかった法案を審議する他、任期満了による衆議院選・参議院選の直後にも招集される。

「特別国会」

法律上は「特別会」と呼ばれる。衆議院の解散によって衆議院議員総選挙が行われた後に招集される国会のこと。総選挙から30日以内に招集され、総選挙で新たに選出された衆議院議員によって内閣総理大臣の指名選挙や議長・副議長の選出が行われる。それ以外の審議はしなくても良いが、事実上の通常国会として予算や法案の審議をする場合もあるため、3日で閉会したこともあれば、280日間開かれていたこともある。日本国憲法54条1項に規定されるが、憲法上は特に名称はない。

「施政方針演説/所信表明演説」

日本の国会の招集日に、衆議院・参議院の本会議で内閣総理大臣が行う、内閣の基本方針を示す演説のこと。どちらも慣例的に行われている。通常国会で行われるのが施政方針演説。臨時国会・特別国会で行われるのが所信表明演説。演説の翌日から各会派の代表によって代表質問が行われ、質疑応答をする。

「政府四演説」

日本の通常国会で慣例的に行われる、首相の「施政方針演説」、外務大臣の「外交演説」、財務大臣の「財政演説」、内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)の「経済演説」の総称。通常国会召集日に衆参両院の本会議で行われる。そして演説の翌日から各会派の代表によって演説に対して代表質問が行われ、質疑応答をする。

「両院協議会」

二院制議会において、二つの議院それぞれによる議決が相違した場合に開かれる、二つの議院の意思を調整するための会議のこと。日本では衆議院・参議院それぞれから10名ずつの協議委員が選出されて協議し、協議委員の3分の2以上の賛成によって得られた両院協議会案を改めて衆議院・参議院で議決することで最終的な意思決定とする。予算の議決、条約締結の承認、内閣総理大臣の指名については必ず開かれるが、法律案などについては任意。またそもそも両院協議会を開くことができない案件もある。両院協議会で新たに成案を得た法律としては「政治改革四法」が有名。

「自然成立/自然承認」

日本の国会において、予算案や条約の承認、内閣総理大臣の指名について衆議院が議決して参議院に送付・回付した後、参議院が一定期間内に議決を行わない場合に発生する、参議院の議決無しにその案が成立する現象を指す言葉。予算案・条約の承認については送付・回付後30日、内閣総理大臣の指名については10日が期限。「衆議院の優越」の一種であり、参議院が「そもそも議決をしない」ことで衆議院に抵抗することを防ぐ仕組み。現在まで予算案では2回、条約の承認では23回発生している。

「審議未了・廃案」

議会における議案の審議が定められた期限内に完了せず、その賛否の採決・議決が行われないままに審議が終了してしまうこと。この場合、当該議案は一度消滅してしまうため、もう一度審議をしたい場合は、改めて所定の手続きを踏み、新たな議案として議会に提出しなければならない。

「閉会中審査・継続審査」

国会の会期内に審議を完了させられず、賛否の採決・議決にいたらなかった議案等を、その会期後、国会の閉会中に、その議案を付託されていた委員会が継続して審議すること。議決は次の国会会期中に行う。「会期独立の原則」「会期不継続の原則」の例外であり、当該委員会および本会議での議決によって審議の継続を決定するが、次の国会会期までの間に選挙を控えている場合は原則として行わない。なお、衆議院では閉会中審査、参議院では継続審査と呼び、次の国会では衆議院が審議自体は引き継がずに改めて委員会に再付託される一方、参議院では審議も引き継いで、前の会期で付託されていた委員会がそのまま審議を継続する。なお、憲法改正原案は自動的に継続審査となる。また、継続審査は法的には例外であるが、実際の国会活動ではむしろ常態化している。

「会期独立の原則/会期不継続の原則」

国会の会期(国会が活動できる期間)はそれぞれ独立しているという原則を「会期独立の原則」と言い、そこから導き出される、ある国会会期の国会の意思はそれ以前の国会会期での意思に拘束されず、議案も審議も引き継がないという原則を「会期不継続の原則」という。これらはどれも会期ごとの国会の自由な活動を担保するための原則であるが、元々は大日本帝国憲法下で、国会の権力を抑制するための仕組みとして形成されたもの。

「一事再不議の原則」

ある会期で一度審議し議決された議案については、同じ会期中にもう一度審議することはできないという、議会での審議に関する原則。日本の国会・地方議会で採用されている。同じ議案の審議を何度もやり直すのは非効率であり、またそれは議会の意思が二転三転しているということになるため、議会の権威が傷ついてしまうというのがその理由。ただし、別の会期であれば「会期独立の原則」が優先され、再度審議できる。刑事裁判の「一事不再理の原則」と似ているため、混同に注意。

「国会の会期延長」

国会が、自らの活動できる期間を延長すること。国会が議案の審議や議決を行える期間は会期として事前に定められており、原則として会期内に議決できなかった議案は審議未了として廃案となってしまうため、それを防ぐための措置。災害などが発生した場合、その対応のために延長する場合もある。衆参両議院による議決によって、通常国会は1回のみ。臨時国会・特別国会は2度まで延長でき、議決には衆議院の優越が適用される。

「党首討論」

各政党の党首同士で行う討論のこと。各政党を率い代表する党首同士が直接意見を対決させる場であることから、事実上党全体の方針や考え方を公に戦わせる場である。また議院内閣制を採る国家では、将来の首相候補としての資質を示す場ともなる。日本では長らく予算委員会で行うことが慣例化していたが、2000年以降は「国家基本政策委員会」が党首討論の場として設置された。ただし、ここでの党首討論は参加政党が制限されており、また実際の開催数がかなり少ないといった課題がある。

「予算先議権」

二院制の議会においてしばしば片方の議院が持つ、予算案をもう一方の議院よりも先に審議する権限のこと。下院が持つ権限とするのが一般的。日本でもその例に漏れず、憲法60条で衆議院が保有することを規定されており、いわゆる「衆議院の優越」の一つ。

憲法改正関連語① 憲法史

「憲法審査会」

衆議院と参議院にそれぞれ設置されている、日本国憲法について調査・検討し、憲法改正案の作成と発議を行う機関。2007年に国会法によって設置され、しばらく実際の開会はなかったものの、11年から開会されるようになった。それ以前の「憲法調査会」の実質的な後継組織だが、純粋な調査機関としての側面が強い憲法調査会とは異なり、実際の憲法改正の実質的な手続きに関わる役割も持つ。

「憲法調査会」

日本国憲法について(その改正に向けて)調査・検討する機関の名称として度々用いられるもの。国家機関としては、1956年に内閣に設置されて「憲法調査会報告書」を提出して65年に活動を終えたものと、2000年に衆参両議院に設置され、それぞれ「衆議院/参議院憲法調査会報告書」を05年に提出して活動を終えたものの二つがある。なお後者については、07年に設置された「憲法審査会」がその後継組織となっている。

「内閣法制局」

日本の内閣に置かれる行政機関の一つ。法律に関する専門的知見をもって内閣を補佐することを任務とし、具体的には内閣提出法案や政令、条約の文言・構成が適切か、憲法その他の既存法令に適合しているかを事前に審査することと、内閣・各大臣に法解釈についての意見を述べることを主な業務とする。その意見は法的拘束力を持つわけではないが、高度な知見を持つ法律専門家集団によるものであるために強い影響力を持ち、実質的に政府の法解釈を決定づけることになる。特に憲法解釈に関してその意見が重く見られることが多く、しばしば「憲法の番人」とも呼称されるが、内閣法制局はあくまでも内閣の政策の実現を目的とする組織であることに注意。なお、人員は全て裁判所や各省庁からの出向者。なお、内閣法制局は長年、内閣法制局・内閣による憲法解釈の一貫性を保ち続けることで、日本国の法秩序の安定に寄与していたという側面があるが、2014年の集団的自衛権行使を合憲とする政府解釈が成立したことで、その役割は崩れた。

「日本國憲按」

明治政府内で作成された最初の憲法草案。「国憲按」とも。自由民権運動への対応として立憲政体の漸進的な樹立を進めるべく設置された立法機関「元老院」により、1876-1880年の間に第三次案まで起草された。様々なヨーロッパ諸国(プロイセン、ベルギー、オランダ、イタリアを中心に、オーストリア、イスパニア、デンマークがこれに続く。大日本帝国憲法と異なり、ドイツ諸邦国憲法の参照はない)の憲法を参考にしている。後の大日本帝国憲法と異なり、権力分立を強く意識し、立法府(議会)にかなり強力な権限を与えているという特徴があった。しかし、自由民権運動の最中、ただでさえ民選議会の設立に及び腰であった明治政府要人がこのような憲法草案を受け入れるのには無理があり、形式上天皇に上奏するが即座に廃案する、という措置がとられた。なお、第一次案では明治政府要人の意向を汲んで民選議会についての規定を置かなかったが、第二次案では「各国の憲法を調査したが、憲法を持ちながらも民選議会を置かないという国家は他に存在しません。また民選議会を置かなければ、権力分立を確立し、権力の濫用を抑制することは不可能です。どうかご理解ください」という旨の文書を付して、民選議会(代議士院)の規定が置かれることになった。

「私擬憲法」

明治政府が成立した1860年代末から89年の「大日本帝国憲法」の発布までの間に、政府ではなく民間の手によって、自発的に起草された憲法草案のこと。「自由民権運動」による国会開設要求・立憲主義実現の要求が高まると共に、政治パンフレットとして、また一種の流行として、全国各地の様々な団体によって起草されたが、87年に禁止された。大日本国憲法にどのような影響を与えたのかは不明。一部は戦後の日本国憲法GHQ草案起草の際に参照された民間憲法草案である「憲法研究会案」が起草される際に参照されたことで、間接的に、現在の日本国憲法の先祖となった。「日本國國憲按」は著名。

「日本國國憲按」

東洋大日本國國憲按とも。1881年に、高知の自由民権運動団体である立志社の植木枝盛が起草した「私擬憲法」。実質的な人民主権と革命権を定めていることで著名だが、他にも州権限の強大な連邦制(州常備軍も規定)、豊富かつ徹底的な自由権条項、強大な議会と厳格な権力分立制といった、当時としてはかなりラディカルな要素を持つ。これは当時私擬憲法を起草するにあたっては欧米諸国の憲法を真似ることが当然であったところ、植木は欧米諸国の憲法もまた封建的な要素を残しており、自由主義・民主主義の憲法として純粋ではなく、単なる模倣では不十分と考えていたことによる。

「ビスマルク憲法」

正式名称は「ドイツ国憲法」。ドイツ帝国憲法とも。普仏戦争後のドイツ帝国成立のすぐ後に、北ドイツ連邦憲法の改正として成立した、ドイツ帝国の憲法。当時の宰相ビスマルクの名からこのように呼ばれる。君主権力・行政権優位の欽定憲法であり、大日本帝国憲法起草の際に大いに参考にされた。

「君権学派/立憲学派」

大日本帝国憲法(明治憲法)体制下の憲法学学派。明治憲法は天皇大権による絶対主義と自由民主主義的な立憲主義の両側面を持つ憲法であったが、ここであくまでも天皇の絶対性・神聖性を軸とする解釈を取ったのが君権学派(神権学派・大権学派)。立憲主義を軸とする解釈をとったのが立憲学派である。大正デモクラシー期前後には立憲学派が主流的地位にあったが、1935年の天皇機関説を初めとする国体明徴運動によって政治・学問の場から排除されることとなった。

「国体明徴運動」

1935年の日本で発生した政局・倒閣運動。当時の政府で支配的だった立憲主義的・自由主義的風潮を非難する在郷軍人・右翼に軍部・野党立憲政友会・非主流派官僚が呼応し、それまで政府内の常識であった立憲主義的な憲法学説である「天皇機関説」への攻撃を通じて、政府エリートたちを糾弾したもの。途中陸軍省軍務局長の斬殺事件も発生した。最終的には政府と陸軍の妥協によって天皇機関説の政府からの排除、立憲主義的な憲法学者の大学からの排除の代わりに衆議院の解散総選挙が成立。政友会は総選挙で惨敗し、結果的に軍部の一人勝ちで終わった。

「憲法草案要綱」

戦後の日本で作成された民間憲法草案の一つ。民間の憲法研究・起草団体である憲法研究会にて、憲法学者鈴木安蔵を中心に起草されたもの。1945年12月27日に公表(26日に政府に提出)。明治期の私擬憲法の他、フランス、アメリカ、ワイマール・ドイツ、ソ連の憲法を参考とし、また大正デモクラシー期の憲政議論を反映している。GHQが当時高く評価した記録があること、憲法草案要項の多くの要素が後のGHQ草案に取り入れられていることから、現代の日本国憲法の土台の一つとされる。

「松本四原則」

1945年12月8日の衆院予算委員会で内閣憲法問題調査委員会の松本委員長が表明した、大日本帝国憲法改正案起草のための原則。日本政府による改正案はこの原則に基づいて起草された。①天皇主権の維持②議会権限の拡大③国務大臣の議会への責任の拡大④権利保障の拡大の4点を内容とするが、これは大日本帝国憲法の基本枠組みを一切変更しないということを意味し、日本の民主化・自由主義化を求めるGHQの意向からかけ離れていた。

「芦田修正」

日本国憲法草案の帝国議会での修正の際に行われた、憲法9条2項冒頭に「前項の目的を達するため」という文言を書き加える修正。修正の目的は不明だが、この修正によって「国際平和の希求もしくは戦争と武力威嚇・武力行使の放棄のために、戦力を保持せず、交戦権を否認する(=戦争や武力威嚇・武力行使のためでなければ戦力を保持し、交戦権を是認できる)」という解釈が成り立ち、後の自衛隊の保有やその平和維持活動への派遣を正当化できるようになったと言われる。草案修正を行っていた憲法改正小委員会委員長の芦田均による修正であることから、このように呼ぶ。
なお、この修正は初期案と最終案(現行憲法)があり、初期案では1項と2項が入れ替わっている。そこでは「前項(前掲)」が受ける文言が「国際平和の希求」もしくは「戦力不保持・交戦権否認」、その達成手段が「戦争と武力威嚇・武力行使の放棄」となっている。対して最終案では「国際平和の希求」もしくは「戦争と武力威嚇・武力行使の放棄」を受け、その達成手段が「戦力不保持・交戦権否認」という形になっている。つまり、「前項の目的を達するため」が挿入された時点の初期案と最終案では、目的と手段が入れ替わっている。(そのため、本当に深い意味はなかった、もしくは当初は意図があったが、その意図通りの修正にはならなかったと考えられるのではないか)。

※第1回修正
第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力を保持せず、国の交戦権を否認することを声明す。
二 前掲の目的を達するため、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する。

※第2回修正

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
二 前項の目的を達するため、陸海空軍その他 の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

「日本国憲法制定時の国会による修正」

日本国憲法が制定される際に、国会によって修正・追加された条文。衆議院では9条が修正され(いわゆる「芦田修正」)、10条(国民の要件)、17条(国家賠償)、25条1項(生存権)、30条(納税の義務)40条(刑事補償の権利)が追加された。また貴族院では15条3項(普通選挙)、66条2項(文民統制)、59条3項(両院協議会)が追加された。なお、保守派および社会主義者の立場から家族保護規定の追加も目指されたが、これは不採用に終わった。

「日本国憲法第98条」

日本国憲法における、日本国憲法の最高法規性と、条約・国際法の遵守を定めた条文。憲法が他の全ての法令に優越するのは憲法に定めるまでもなく当然であることや、法律・命令に並び「詔勅」の文言があることから、この条文は「大日本帝国憲法下で成立した法令であっても、日本国憲法に反しないのであれば有効とする」という経過規定の要素があると解されている。条約・国際法との関係については、この条文によって、条約・国際法に「憲法以外の全ての国内法に優越する地位」が付与されたと解するのが通説。

憲法改正関連語② 公法理論

「根本規範」

国家や人々が「法規範を守らなければならない」ということの究極的な根拠となる法規範のこと。または(そのような究極的な根拠も含む)憲法の基本原則のこと。この存在を認めない学説もあるが、存在を認める場合、根本規範の変更や廃止は、「人間の自由と尊厳という根本的な法原則に反する」もしくは「国家の法体系や憲法秩序全体を転覆させる行為である」ため、法的な正当性を持たないとする。日本では最後の説が多数であり、またそれらは日本国憲法の根本規範は国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の三つだとしている。

「憲法制定権力」

制憲権。「憲法」を制定する権力のこと。憲法とそれに基づく各国家機関の権限や法律全般を最終的に正統化・正当化するものとして仮定される概念であり、「主権」の内容として論じられる。制憲権は憲法を超越し、憲法に縛られることなく発動しうる性質を持つとされるが、より細かい性質については学説対立があり、またそもそもこの概念自体不要とする学説もある。

「憲法改正権」

既存の「憲法」を改正する権限のこと。一見すると単純な権限だが、実際にはこれを「憲法制定権力」と同じ権力(憲法の規定を超越しうる権力であり、究極的には法的根拠を要さない)と見るか、それとも「憲法制定権力によって与えられた権限」(憲法に規定されることで生まれた権限の一つに過ぎない)と見るかによって学説対立があり、またそれに応じて憲法改正権の行使要件や限界(憲法をどのように、どこまで改正できるか)も変わることになる。

「憲法改正規定に基づく憲法改正規定の改正」

憲法で定められた憲法改正手続きによって、その憲法改正手続きを改正すること。この種の改正が可能かどうかには学説対立があり、この種の改正は権限の自己授権という論理的な過りに陥るため不可能とする説。国民投票など改正規定の根本にある要素は改正できないとする説、憲法上禁止されていないならあらゆる改正が可能とする説などがある。日本では憲法第96条について問題となり、二つ目の説が通説。

「例外状態」

国家が憲法上認められた権限によっては対処できない事態が発生した状況を指す言葉。いわゆる国家の非常事態。カール・シュミットがその憲法理論・政治理論で用いた言葉として有名。そこでは、例外状態では憲法が無力化されているため、主権者が憲法を通さずに直接意思決定し、通常であれば憲法上許されない手段を用いてでも事態を収拾し、憲法秩序を早急に回復すべきとされた。

「憲法の変遷」

憲法の条文が変更されないままに、憲法の意味内容が変化する現象のこと。特に、憲法がその内容に反する憲法解釈によって運用され続けた結果、憲法の条文が死文化し、本来それに反しているはずの憲法解釈・運用が事実上の憲法として成立する現象のこと。この現象を認めるかどうかには学説対立があり、実効性を持たない法は法たり得ないとの立場をとりつつも、実効性の消滅の判断が難しいことや憲法の特質に鑑み、変遷を否定する立場が多数説。

「尾高―宮沢論争」

1947-49年に行われた、「日本国憲法成立によるそれまでの天皇主権から国民主権への移行は、日本の「国体」の変革を意味するかどうか」に関する論争の一つ。「主権はノモス(=正しい法の理念)に沿って行使されるべきという規範は不変であるため、国体は維持されている」とする「ノモス主権論」を唱えた法哲学者・尾高朝雄に対し、憲法学者・宮澤俊義が「主権の所在の問題を扱わずに国体の問題に答えることはできない(ノモス主権論を是認したとしても、結局誰が実際に主権を行使するかの問題は残ってしまう)」として反論したもの。

「法主権論」

ある国家の究極的な統治権・意志決定権すなわち主権について、その主体を君主や国民といった自然人、もしくは国家のような法人ではなく、「法そのもの」とする考え方のこと。時の権力者が「無から法を創造する」ことや「人による支配」を拒否し、国家による法制定を既に共同体に存在する法規範を宣言するものとして捉えて「規範による支配」を強調する。「法治国家」の理念を主権論にまで貫徹させることで、国家が法を作り出すとする国家主権論と、国家が法に拘束されるとする法治国家論の矛盾を解消したもの。ただし、この考え方は現実にはあらゆる規範が人為的なものであることを無視しているとの批判がありうる。

「ノモス主権論」

国民主権や君主主権といったときの「主権」すなわち国家の最終的な意思決定権は、その保持者が誰であるかに関わらず、ノモス(=正しい法の理念)に沿った形で行使されなければならないという考え方・法哲学学説のこと。日本国憲法制定によってそれまでの大日本帝国憲法による君主主権から国民主権への移行が発生した状況下での、旧憲法と新憲法の間で「国体」が変革したかを巡る論争(国体論争)の中で、「そもそも天皇主権と国民主権のいずれであっても、主権はノモスに沿った形で行使されなければならないという本質は変革されておらず、その意味で国体は変革されていない(主権の所在はノモスに沿った主権行使のための具体的な建て付けをどうするかという二次的な問題に過ぎず、国民主権と天皇主権/天皇制はいずれであっても両立する)」という主張として、法哲学者・尾高朝雄によって唱えられた。この主張は憲法学者である宮沢俊義との間で論争となり、「尾高―宮沢論争」と呼ばれる。

「憲法律・憲法典」

成文の文書として定められた「憲法」を憲法律、それが体系的に一つの法典としてまとまったものを憲法典という。つまり「成文憲法」のこと。ただしわざわざ憲法律・憲法典という場合には、「それら成文憲法を持つ国家であっても、成文憲法とは区別された国制(constitution)という意味での「不文憲法」を持つ」ことを示すニュアンスがある。

「権利章典」

憲法の諸規定のうち、人権や参政権など、人民の権利について定めた部分を指す言葉。他の憲法的な地位を持つ法令で別途定めているなどの理由により、権利章典を持たない憲法もある。なお、単に権利章典という場合、アメリカ合衆国憲法の権利章典を指したり、イギリスの法律である権利章典を指す場合もある。

「立法事実」

ある法令の目的や内容の必要性・合理性を根拠づける、一般的な事実のこと。当該法令の必要性・合理性を社会一般に認めさせうるものであればどのような形態であってもよい。例えば、人を殺すことは問題であるという人々の感覚は、殺人罪を定める法律の立法事実である。立法事実がない法令はそもそも制定されるべきでなく、制定されたとしても死文化しやすい。また特に違憲審査においては、法令が目的を達成するための手段の合理性を判断する際に重要となり、その際には法令制定当時の立法事実ではなく、違憲審査をする時点での立法事実が問題となる。

「司法事実」

個別具体的な訴訟において、裁判所の法的な判断にとって必要な「訴訟の当事者間で誰が、いつ、何を、どのような意図で、どのような方法で行い、どのような結果となったか」という、個別具体的な事実のこと。原則として当事者による裁判での主張・答弁を通じて明らかにされ、裁判所はその事実性を評価し、法的判断を下す。対義語は「立法事実」。

「憲法保障」

憲法や憲法秩序を守ることや、その手段。憲法の様々な規定のうち、憲法や憲法秩序を守り、維持するために置かれているもの。日本国憲法についていえば、「公務員の憲法尊重擁護義務」と「違憲審査制」がこれにあたる。また日本国憲法にないが他国の憲法には存在したり、明文規定がなくとも存在するとされるものとしては、意図的な違憲行為に対する制裁、「国家緊急権」、「抵抗権」といったものがある。対義語は「私権保障」。

「私権保障」

特に憲法の様々な規定やそれに定められた仕組みのうち、一般の人々の権利を守ることを目的にしているもののことや、それによって一般の人々の権利を守ること。対義語は憲法自身を守る「憲法保障」。様々な人権や市民権の規定と、「違憲審査制」がこれにあたる。ちなみに、「付随的違憲審査制」はその性質上私権保障の側面が強いため私見保障型と言われることがあり、他方「抽象的違憲審査制」は憲法保障の側面が強いことから憲法保障型と呼ばれることがあるが、いずれも私見保障・憲法保障両方の側面を持っていることに注意。

独占禁止法関連語

「経済法」

経済に関する法令の総称。市場での競争が当たり前になった現代においては、適正な市場競争を確保するための法律である「独占禁止法」と、その特別法である「下請法」「景品表示法」などを指す。なお、このような意味での経済法が登場したのは19世紀末-20世紀初頭の米国であり、20世紀後半まで世界には広がらず、むしろそれ以前には市場競争を制限して市場独占を容認・奨励する統制経済法が経済法と呼ばれていた。

「独占禁止法」

独禁法。より一般的な呼称として競争法とも。市場における公正かつ自由な競争を確保することを目的に、それを阻害する様々な行為を禁止・規制する法律。市場での競争が不健全になると、経済的な効率性や消費者の利益、技術革新の可能性といったものが害されることになるため、現代の多くの国家で制定されている。日本では1947年に制定されて以降「公正取引委員会」が運用しており、「経済法」の中核・代表格であるため「経済の憲法」とも呼ばれる。日本の独占禁止法の場合、不当な取引制限等の規制、私的独占の禁止、企業結合の規制、不公正な取引方法の規制の4つを主要要素とする。

「公正取引委員会」

公取委。日本の行政機関の一つ。端的には「独占禁止法」の運用を任務とし、市場における適切な競争を確保して市場を健全な状態に保つべく、事件の調査・審査と、排除措置命令などの措置を行う行政委員会。広義にはその事務局も含む。内閣府の外局ではあるが、内閣の指揮命令には服さず独立したしている。官僚・法曹・学者からなる委員長と4人の委員で構成され、その任命は国会両議院の同意に基づいて内閣総理大臣が任命する。

「排除措置命令/課徴金納付命令」(分割)

日本で公正取引委員会が「独占禁止法」に違反する行為を行っている企業等に対して出すことのできる、2つの命令(行政処分)。当該違反行為をやめさせ、またその再発を防ぐための様々な措置を行わせる命令を「排除措置命令」といい、違反行為によって得た利益を国庫に納入させる命令を「課徴金納付命令」という。どちらも命令に従わなかった場合には刑事罰を課されうる。ただし、違反行為の終了時から5年以上が経過した場合は命令できない。なお、課徴金については、違反行為の調査に企業等を協力させるべく減免制度があり、また違反行為を主導した企業や違反行為を繰り返す企業に対する割増制度もある。

「競争回復措置命令」

公正取引委員会が企業に出しうる命令の一つ。国民経済にとって重要な事業分野が「独占的状態」に至った際に、その事業分野の市場競争を取り戻すべく発せられる。命令の際には当該企業の経営や従業員の生活も考慮されるが、この命令自体は企業分割も含むかなりの強権的な性質を持つ、ただ、今まで一度も発せられたことはないため、「抜かずの宝刀」と呼ばれている。

「市場支配力」

市場において特定の事業者や事業者集団が持つ、商品価格を自由に設定する力のこと。ただし、ここでの「自由に設定する」とは、単に自由に価格を設定できるという意味ではなく、「健全な市場競争の下では行えないような価格釣り上げができること」を指しており、完全に健全な市場競争の下であればあらゆる事業者の市場支配力はゼロとなる。市場支配力が形成・維持・強化される行為は、独占禁止法の規制・禁止対象。

「不当な取引制限」

独占禁止法に違反する行為の一類型。複数の事業者が共同して、互いの事業に何らかの制限をかけることで、公共の利益に反して、ある分野における市場競争を実質的に制限する行為。端的には「カルテル」のこと。同一価格の維持、生産数量の制限、市場シェアの制限、設備数の制限といったものは典型例。なお、「公共の利益に反して」という限定があるものの、通説では市場競争を実質的に制限しようとするならば当然に公共の利益に反していることになるため、よほどのことがなければ例外にはならない。

「縦のカルテル」

複数の事業者が事業活動に関するなんらかの協定を結んで市場での競争を回避する「カルテル」のうち、同業者間による「横のカルテル」ではないもの。例えばメーカーと小売業者のような縦の関係で行われるもののこと。例えばメーカーが小売業者に対して競合メーカーの商品を取り扱わないように命じることで、競合メーカーを市場から排除しようとする行為はこれにあたる。これは従来の判例・実務ではカルテルとはみなされていなかったものだが、1990年代前後から変化があり、1991年以降は公正取引委員会もカルテルに該当しうるとの解釈をとっている。ただし公取委は元々独占禁止法成立当初は縦のカルテルをカルテルとして認定していたが、1953年の新聞販路協定事件高裁判決で覆されたために、以後カルテルとして扱わなくなったという経緯がある。

「ハードコア・カルテル/非ハードコア・カルテル」

複数の事業者が事業活動に関する何らかの協定を結んで市場での競争を回避する「カルテル」のうち、市場での競争を回避する意図が明らかなものを「ハードコア・カルテル」といい、元々そのような意図を持たないにも関わらず結果的に競争を回避する効果が発生してしまったものを「非ハードコア・カルテル」という。例えば、複数の事業者で共同開発した商品の販売や、商品規格の統一などは非ハードコア・カルテルにあたる。この2つの違いは、明らかに独禁法違反のカルテルと、独禁法違反かどうかの判断が難しいカルテルと言い換えても良い。

「事業者団体規制」

日本の「独占禁止法」によって定められている、複数の事業者が結成した事業者団体に関する規制のこと。事業者団体による価格統制や事業者数統制を規制し、また事業者団体の成立・解散を公正取引委員会が把握することについて定めており、規制範囲は通常のカルテルよりも広い。なお、この規制はあくまでも事業者団体そのものに対する規制であり、事業者団体に加盟する個々の事業者への規制とは別であり、違反行為がどちらによるものかの判断はある程度公取委の裁量に委ねられている。なお、事業者団体を対象とする規制は数多くの事業者団体が結成されている日本の産業構造を踏まえたものであり、ちょっと珍しい。

「私的独占」

ある事業者が、他の事業者を排除または支配することによって、ある取引分野における市場競争を実質的に制限すること。市場に有力な競合他社が存在しなくなった事業者は自由に価格の釣り上げや品質の劣化ができるようになるため、独占禁止法で禁止されている。私的独占には他の事業者の市場参入を阻止したり既存事業者を市場から追い出す「排除型」と、株式取得などで他の事業者の経営を支配する「支配型」に分けられる。なお、公正な競争の結果として市場を独占するならば問題とはならず、あくまでも排除や支配という行為によってそれを目指すことが問題になる。

「排除型私的独占」

独占禁止法によって禁止されている「私的独占」のうち、他の事業者を「排除」することで行われるもの。何をもって「排除」とするかにはかなりの議論があるが、事業の「効率性によらない排除」、すなわち、「より良いものをより安く」ではない排除を指すとする学説が有力。例えば原材料買い占めなどによって競合他社が事業に必要な費用を増大させる「ライバル費用引き上げ戦略」や、一時的に商品価格を異常に引き下げて(不当廉売)顧客を奪い、競合他社が撤退してから価格を釣り上げる「略奪戦略」がこれにあたる。

「支配型私的独占」

独占禁止法によって禁止されている「私的独占」のうち、他の事業者を「支配」する、すなわち何らかの手段で他の事業者の自由な意思決定・経営判断を困難にし、自らの意思に従わせることによって行われるもの。例えば株式取得による経営権掌握や、メーカーが小売に対して「カルテル」を指示したり、「再販売価格拘束」をかけることで行われる。ちなみにこの「支配型私的独占」は日本独特の類型であり、他国では他の規制類型で処理するのが通常。

「企業結合」

トラスト、企業合同とも。合併や持株会社の設立によって複数の企業が一体化すること。同業者間で結合する水平型企業結合の場合は単純に事業規模が拡大し、メーカー・卸売・小売が結合する垂直型企業結合の場合は事業の効率性が向上して競争力が高まる。またどちらにも属さない混合型企業結合もある。企業の結合それ自体は一般に合法(トラスト=違法というのは誤解)であるものの、市場競争によらない抜け道的な拡大ではあり、態様によっては適切な市場競争を害しうる。そのため企業結合は「独占禁止法」で規制されており、事前に公正取引委員会への届出を要する他、公取委では届出前の事前相談も行っている。

「M&A」

企業が他の企業と合併したり、他の企業を買収することを広く指す言葉。Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略。他の企業と提携することもM&Aということがある。日本で有名になり始めたのは特に1980-90年代のバブル景気-バブル崩壊の時期からであり、その後2000年代には新興のIT企業によるM&Aが盛んに行われたことで注目を集め、一気に広く知られるようになった。現在では事業拡大だけでなく、経営者が事業を手放すためのM&Aが盛んに行われているものの、トラブルも多い。

「市場集中規制」

独占禁止法による企業結合の規制のうち、その企業結合による事業規模の拡大・競争事業者の減少が、ある取引分野における市場競争を実質的に制限することとなることを理由にするもののこと。言い換えれば、企業結合後に市場の「私的独占」や「カルテル」、寡占化などが発生して市場競争に悪影響を与える可能性が高いと推定された企業結合は禁止される。もう一つの類型である「一般集中規制」と対になる言葉。

「一般集中規制」

独占禁止法による企業結合の規制のうち、その企業結合によって一国の経済全体に及ぼす影響力が一つの企業に集中することを理由にするもののこと。企業一般および金融機関による株式保有を通じた企業結合が対象であり、株主としての議決権を用いた低コストな経済支配・産業支配を予防するもの。戦前の日本で「財閥」が巨大な影響力を保持していたことを問題視して行われた戦後の「財閥解体」を起源とし、当初は持株会社それ自体の禁止・規制であったものを緩和しつつ対象を全ての企業に拡大したもの。株式保有それ自体の規制は日本独自の歴史的背景によるため、他国の独禁法にはあまり見られないとされる。もう一つの類型は「市場集中規制」。

「独占的状態」

一定の大きな規模を持つ事業分野について、その市場の商品供給が1社またはごく少数の企業による独占・寡占状態にあって、なおかつ新規参入が著しく困難であり、さらに商品価格の変動が小さく、独占・寡占企業が長期間にわたり著しく過大な利益を得ている状態のこと。要するに、国民経済において重要な事業分野で、市場競争が成立しておらず、しかもそのままでは改善不可能な状態のこと。独占禁止法は、この状態を打破するために公正取引委員会が既存企業の分割など強権的な手法をも含む競争回復措置をとることを認めているが、今まで発動されたことはないため、伝家の宝刀と呼ばれることがある。通常、独占禁止法による禁止・規制は事業者が公正な市場競争を阻害する行為を禁止・規制するが、この独占的状態については、行為ではなく状態を規制するという特殊性がある。

「不公正な取引方法」

独占禁止法に対する違反行為の一類型。市場における公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)のある様々な行為の総称。「不当な取引制限」や「私的独占」ほどには市場競争を制限しないものの、ある程度減殺しうる効果を持つ行為や、本来あるべき「より良いものをより安く」に基づく競争を不可能にしてしまうような行為のこと。「取引拒絶」「排他条件付取引」「再販売価格拘束」「欺瞞的顧客誘引」「不当廉売」など、独禁法内で直接指定されるものもあれば、その枠内で公正取引委員会が一般指定・特別指定として指定するものもある。

「不当な差別的取り扱い(独禁法)」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為の一類型。特定の事業者を排除することなどを目的に、当該事業者との取引を拒否する「取引拒絶」と、同様の目的で悪条件での取引を強いる「差別対価」「差別的取引条件」を総称したもの。

「取引拒絶」

独占禁止法に対する違反行為の一つ。特定の事業者との取引を拒否したり取引量を制限する行為や、取引先にそれをさせようとする行為のうち、市場における公正な競争を阻害するおそれがあるもののこと。複数の事業者が結束して行う「共同の取引拒絶」(2条9項1号; 一般指定1項)と、単独の事業者が行う「単独の取引拒絶」(一般指定2項)がある。ただし、「共同」についてはそれが市場競争を実質的に制限している場合は「カルテル」の一種となり、「単独」についてはそもそも通常の競争の範囲内での取引先の選別との区別が難しいことに注意。

「差別対価/差別的取引条件」

独占禁止法に対する違反行為の一つ。特定の地域の事業者もしくは特定の事業者との取引を、他の事業者との取引よりも悪い条件で行うこと。対価に関するものを「差別対価」(2条9項2号; 一般指定3項)、その他取引条件に関するものを「差別的取引条件」(一般指定4項)という。市場競争の中で取引先によって扱いに差が生じることは当然のことであるため、違反となるのは、特定の事業者の排除を目的とするなど、それが市場における公正な競争を阻害するおそれがある場合に限定される。

「不当対価取引」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為のうち、市場競争が公正であれば到底設定し得ないような低価格での販売を行う「不当廉売」(ダンピング)と、同様に市場競争が公正であれば到底設定し得ないような高価格での購入を行う「不当高価購入」の総称。どちらもそれによって他の事業者が市場から排除されるおそれがある場合に違反となる。本来求められるべき経済効率追求による市場競争の結果であれば問題はなく、例えば不当廉売については、少なくとも原価割れ販売でなければ不当廉売とならないとするのが一般的。ちなみに、不当高価購入については現在まで事例がない。

「不当顧客誘引(独占禁止法)」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為のうち、優良誤認によって顧客を獲得する「欺瞞的顧客誘引」と、なんらかの不当な利益提供によって顧客を獲得する「不当な利益による顧客誘引」を指す言葉。両者とも、顧客が自らの欲するものを自らの意思で合理的に判断して取引することを妨げることで消費者の利益を侵害し、またゆくゆくは公正な市場競争を阻害しうる行為でもあるため、禁止される。

「欺瞞的顧客誘引」

独占禁止法に違反する行為の一つ。商品の内容をより優れたものであると誤認させる優良誤認と、取引条件をより有利なものであると誤認させる有利誤認を指す。「景品表示法」に規定される優良・有利誤認と似ているが、景品表示法では一般消費者に誤認させるような表示を規制している一方、独占禁止法では事業者など一般消費者以外の者を対象とした優良・有利誤認や、表示というわけではない優良・有利誤認を規制している点で異なる。

「不当な利益による顧客誘引」

独占禁止法に違反する行為の一つ。正常な商慣習に照らして不当な利益を提供することによって、顧客を獲得する行為のこと。どのようなものが不当な利益の提供にあたるかはケースバイケースである。実例としては、証券会社が投資家に損失補填を行った例(投資の自己責任原則違反)や、教科書会社が自社の教科書の採択を目的に教員に金品を渡した例(公正な市場競争の阻害)がある。なお、似た規定が景品表示法にも存在し、一般消費者を対象としている場合は景品表示法が適用される。

「抱き合わせ販売等」

独占禁止法に違反する行為の一つ。「抱き合わせ販売」とは、商品の販売の際、その購入者に当該商品と関係のない別の商品を一緒に購入させることで、公正な市場競争を阻害したり、購入者に不利益を与えることをいう。一緒に購入させる抱き合わせ商品には、自分の販売する商品に限られるわけではなく、他の事業者からの購入を指定した場合も含まれる。なお、「等」の部分は、その他何らかの手段で相手方に取引を強制することで、公正な市場競争を阻害したり、購入者に不利益を与えることを広く指し、つまり抱き合わせ販売はあくまでその一例。

「事業活動の不当拘束」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為のうち、「再販売価格拘束」「排他条件付取引」「拘束条件付取引」を総称したもの。つまり、相手がその事業活動に関する何らかの制限を守ることを条件とした取引で、なおかつそれによって市場の公正な競争が阻害される可能性があるもの全般のこと。なお、ここで重要なのは条件付の取引を行った結果として市場の公正な競争が阻害されうるかどうかであり、取引の条件によって事業活動を制限された取引相手が不利益を被っているかどうかは関係がなく、むしろその取引相手にとっても「有利な」条件であることのほうが多い。

「排他条件付取引」

独占禁止法に対する違反行為の一つ。典型的には「同種の商品を他の売り手から購入しないこと」もしくは「同種の商品を他の買い手に販売しないこと」といった条件を付した商品取引のこと。これ以外にも同様の効果をもたらす条件が付されていれば全て該当する。他の買い手・売り手を市場から排除する効果を持ちうる取引であるため独占禁止法によって問題となりうる取引類型の一つだが、むしろ新たな市場参入の足がかりとして用いられることもあるため、直ちに独占禁止法違反となるわけではない。

「再販売価格拘束」

再販売価格維持行為とも。メーカーと卸売り業者や、卸売り業者と小売りの間での商品取引の際に「商品を小売りや消費者に販売する際の価格を指定し守らせる」行為のこと。価格競争を阻害する行為であるため、公正取引委員会が指定した商品や書籍などの著作物以外については、独占禁止法により禁止されている。なお「希望小売価格」という表現は、この規制を逃れるための方便の一つ。

「拘束条件付取引」

独占禁止法に対する違反行為の一つ。相手がその事業活動に関する何らかの制限を守ることを条件とした取引であり、なおかつそれによって市場の公正な競争が阻害される可能性があるもののうち、「再販売価格拘束」と「排他条件付取引」を除いたもの一般を指す。対象範囲が広いため、具体的な事例は多種多様。例えば、メーカーが卸売業者に対し商品をどの小売業者に卸すべきかを指定する行為や、通信販売の禁止など商品を小売りで販売する方法を指定する行為、卸売業者同士・小売業者同士での商品の取引を禁ずる行為、複数の小売業者の営業エリアが被らないように分けることを指示する行為などが問題となりうる。

「優越的地位の濫用(独占禁止法)」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為の一つ。商品・役務の取引のための交渉で有利な立場にある者が、その立場を利用して、正常な商慣習からすれば不当な不利益を取引相手に与えること。より具体的には、当該取引に関係のない商品や役務を購入させること、何らかの経済的利益を提供させること、取引された商品の受取を拒否したり、返品したり、支払いを遅らせたり、減額すること、そして取引相手企業の役員選任に介入することがこれにあたる。ちなみに、これら行為をより効率的に取り締まるために制定されたのが「下請法」である。

「競争者に対する取引妨害」

独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為の一つ。自らと市場で競合している事業者が行おうとする取引を妨害すること。契約の成立を阻止したり、取引相手をそそのかしたり脅迫して契約不履行を誘う行為の総称。並行輸入品に関する取引妨害はその典型で、例えば輸入代理店がメーカーに対して並行輸入のルートを断つように求めて並行輸入をできなくすることや、並行輸入品は偽物であると喧伝して並行輸入品を販売しにくくするといった行為がある。

「競争会社に対する内部干渉」

単に内部干渉とも。独占禁止法にて「不公正な取引方法」として禁止される行為の一つで、競合他社の株主や役員をそそのかしたり脅したりして、当該競合他社の不利益になる行為をさせることを指す。現在まで該当した事例は存在しない。

「並行輸入品」

海外から正規の輸入代理店を介さずに輸入された商品のこと。例えば海外の小売りから購入して日本に持ち込むなど。非正規品と呼ばれることがあるが、これは輸入経路が非正規という意味であって偽物という意味ではなく、商品そのものは真正である(ただし、並行輸入品と称して実は偽物であることはある)。並行輸入という行為自体は特に違法ではないが、正規の輸入代理店が商標権を持つ場合はその侵害となったり、その他法令に基づく販売許可や流通許可を経ていない場合にも違法となりうる。他方、合法的な並行輸入を正規の代理店が何らかの手段で禁止しようとした場合には、独占禁止法の「競争者に対する取引妨害」に該当してしまい、むしろ正規の代理店の側が違法となることがある。

「競争制限効果」

事業者等による行為が持ちうる、市場における「競争を実質的に制限する」効果のこと。「独占禁止法」が禁ずる「私的独占」と「不公正な取引方法」の効果要件。より具体的には、市場における自らの「市場支配力」(自らの商品の価格を自由に釣り上げる余地)を生み出し、維持し、拡大する効果を指す。独占禁止法が指定する行為のうち違反となるのはそれが競争制限効果を持った場合であり、そうでないものは違反とはならない。なお、市場支配力の判断としては市場シェアは一つの判断要素であるが、それはあくまでも一要素であって、実際にはより様々な要素を考慮して判断する。

「能率競争」

事業者による、その事業者が提供する商品の価格や品質に基づく競争のこと。平たく言えば「より良いものをより安く」に基づく競争。「独占禁止法」で「公正な競争」と言った場合、その競争は能率競争を前提としており、それ以外の手段、例えば能率競争以外の方法で他の事業者を市場から追い出したり(カルテルなど)、また一見すると能率競争に見えても、過剰で合理性を欠くほどの低価格な価格設定をしたり(不当廉売)することによる競争は公正な競争とは認められず、規制される。

「公正競争阻害性」

事業者等による行為が持ちうる「市場での公正な競争を阻害するおそれ」を生じさせる性質。「独占禁止法」が「不公正な取引方法」として禁止している行為の効果要件である。公正競争阻害性が具体的にどのような内容を指すかには議論があるものの、現在の通説では、ある事業分野の市場について「そこに事業者による自由な競争があって新規参入が妨げられていないこと」、「その競争が能率競争によって行われていること」、「その市場での取引の当事者が自由かつ自主的に判断していること」の少なくともいずれかを侵害する可能性があることを、公正競争阻害性としている。

「競争入札」

入札と略。一般に政府が物品の購入や公共事業の委託の際に行う、契約を希望する事業者が希望する契約金額や商品・実際に行う事業内容案を提示し、政府がそこから契約者を選ぶという契約方式のこと。政府側は契約者を選ぶための予定価格や支払える最大価格を事前に設定し、基本的にその枠内で契約者を選ぶ。オークションのようなものだが、各事業者が金額・内容を提示できるのは一回のみ。政府の出費を抑制するとともに透明性を高め、また事業者の競争を促進するための仕組みであるが、政府側が必ずしも事業内容の良し悪しを判断する能力を持っているわけではないため、しばしば「談合」や「官製談合」が発生することで、汚職の温床にもなる。対義語は「随意契約」。

「一般競争入札/指名競争入札」

日本における2種の「競争入札」の仕組み。入札に参加を希望する全ての事業者が参加する競争入札を「一般競争入札」といい、国・自治体が事業者と契約する際は原則としてこれによるとされる。対して、あらかじめ国・自治体が参加できる事業者を指定した上で行う競争入札を「指名競争入札」といい、地方自治法施行令などで定めている場合に行うことができ、例えば他の都道府県の企業を排除するために用いられる。なお、一般競争入札が原則というのはあくまで法制度上の話であり、自治体による契約のうち半数近くは指名競争入札で行われている。

「随意契約」

日本で国・自治体が物品購入や公共事業の委託について事業者と契約する際に、「競争入札」を行わず、国・自治体が選んだ事業者と契約すること。政令で定められているものに限り可能な契約形態であり、そもそも事業者間での競争になじまないもの、政策的に広く情報を公開すべきでないもの、契約額が少額のもの、競争入札にかけたが入札者がいなかったり、落札者が決まらなかったものなどについて行われる。

国旗関連語

「国旗」

国家を象徴する旗のこと。一般に、その国家の存在や、人物や組織などの所属国を示す標章として用いられる。ただし、ある国旗が具体的に何を象徴しているかはその国旗を見る者や文脈によって異なり、国民としてのアイデンティティを呼び覚まして自尊や連帯をもたらすこともあれば、戦争や抑圧の経験を呼び覚まして恐怖や憎悪の対象ともなりうるという、極めて政治的な存在である。なお、国旗の法制化の有無や規定の詳しさ、国旗の取り扱いについての規定や国旗への冒涜への罰則規定は国家により様々。

「国旗国歌法」

正式名称は「国旗及び国歌に関する法律」。日本の国旗が日章旗であり、国歌が君が代であることを定めた法律。この法律自体はあくまでも国旗と国歌を定めた法律であって、国旗国歌に対する起立斉唱を求める内容ではないはずだが、実際には国旗国歌法成立を呼び水として教育機関での起立斉唱強制が強化されることとなった。なお、両者共にそれ以前からある程度の反発はありながらも、慣習的に国旗・国歌として扱われていた。

「バーネット事件」

1942年、第2次世界大戦中の米国で発生した「宗教的理由で国旗への敬礼を拒否した生徒に対する不利益処分」の正当性を争った事件。最終的に、連邦最高裁によって個人の意見・政治的態度に関わる儀式を公権力が個人に対して義務付けることは「信教の自由」に反し認められないとして、処分の正当性は否定された。この判例は後に精神的自由権一般に適用でき、また対象も生徒に限らないとして拡張され、現在まで判例法理として確立している。日本の国旗・国歌問題でよく参照される事件。

教育・学校制度関連語

「Z世代」

1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代のこと。私生活中心主義とも形容しうる個人主義的かつ保守的な傾向を持つとされる。また自らの私生活の安寧を重視するが故に、私生活以外の事柄にかけるコストを最小限に抑えようとする効率主義的な傾向。私生活以外に関心を持たない故の多様性の是認や、その反面としての閉鎖性も指摘される。「デジタルネイティブ」に当てはまる最初の世代でもある。

「ミレニアム世代」

1980年代から1990年代半ばまでに生まれた世代のこと。Y世代とも言う。「Z世代」と同じく個人主義的かつ保守的な傾向を持つとされる一方で、いわゆるデジタル機器やインターネットが普及していく過程と共に成長した世代であるため、IT社会を自明視せず、その利用をあくまでもあり得る選択肢の一つとして相対化している点でZ世代と異なるとされる。2000年代に社会人となる世代であることが由来。

「IEA国際数学・理科教育動向調査」

TIMSSとも。IEA(国際教育到達度評価学会)が4年ごとに実施している、小中学生を対象とした算数・数学・理科に関する国際的な習得度調査のこと。児童・生徒・教員および学校へのアンケート調査も行われる。分野は限定されているものの「PISA」に並び著名な学習到達度調査であり、その歴史はPISAよりもかなり古い。

「形式卒業」

不登校その他の理由によって事実上学校に通わず、学校教育を受けたとはいえない状態であるにも関わらず、法的・形式的に卒業したとして扱われること。日本では小学校・中学校で度々発生するが、これは義務教育は年齢別の教育とする考え方が強く、生徒を留年にする慣習がないため。

「学校年度・学年度」

学校教育のカリキュラムのために設定された年度のこと。学校の教育カリキュラムの区切りとなる期間で、入学や卒業、昇級は普通、この区切り毎に行われる。日本では3-4月区切りで設定されているが、世界を見ると9-10月区切りが多い。また学校年度が会計年度と一致する国は多くない。また、学校の種別によって学校年度がずれている国もある。

「県費負担教職員制度」

市町村立学校に所属する教職員の給与を都道府県が負担し、その任命権や給与額・勤務条件の決定権を都道府県教育委員会が保持する仕組みのこと。ただし政令指定都市立の学校は除く。本来であれば教職員の給与や人事は学校を設置する自治体の教育委員会の所轄である。しかし現実にそれを貫徹しようとすると過剰な財政負担や人材の固定化を招くため、このような仕組みがとられている。

「イギリス型大学」

学寮制大学とも。高等教育機関をその歴史的性格から分類したものの一つ。教師と学生が共に生活しながら学ぶ「学徒の共同体」である学寮(カレッジ)を核とする大学のこと。もっぱら貴族など支配階級に必要な資質・気質を養うジェントルマン教育を目的とし、研究や専門知よりも自由学芸(≒教養教育)を重視する少人数エリート教育組織という性格を持っていた。

「ドイツ型大学」

高等教育機関をその歴史的性格から分類した類型の一つ。17、18世紀ドイツでの大学改革により形成された、国家が設置し人事権などを握る官製大学でありながら、その内部には研究・教育内容の自由や研究室自治を確保された学問共同体が成立している大学のこと。ゼミナールや講座制、研究室制はドイツ型大学で形成された仕組み。スイス、オーストリア、北欧、ロシア、そして戦後日本でも採用された。

「フランス型大学校」

グランゼコール。高等教育機関をその歴史的性格から分類した類型の一つ。国家が設置する専門職エリート養成機関として成立した「大学校」のこと。特に理工系と教育系専門職を養成するための実学学校として形成されたため、教養教育は重視されない。大学とは異なる存在だが、日本の大学の工学部はグランゼコールの影響を受けて設置されている。

安全保障関連語

「接続水域」

通関・財政・出入国管理・衛生に関する違法行為が領海内で行われることを予防するために、沿岸国が船舶等に対して何らかの予防的措置をとることができる、領海の外側の海域のこと。沿岸国は、領海の基線(領海の始まる陸地側の線)から24海里までの範囲で、領海(基線から12海里まで)を除いた部分を、接続水域として指定される。ただし原則として許されるのはあくまでも予防的措置であって、船舶拿捕のような強制措置は原則不可能。沿岸国の権限が及ぶ海域としては領海や内水に次いでかなり古くからあるものであり、特に通関上の予防措置・取り締まりについては国際慣行が積み重なっているが、衛生に関する予防措置・取り締まりについてはそうではなく、沿岸国の権限は未だ曖昧なところがある。

「領水」

国家の主権の及ぶ海域・水域のこと。一般に「領海」と同一視されることも多いが異なる概念であり、領海だけでなくそのさらに内側である「内水」や「群島水域」を合わせたものが「領水」である。つまり、一般に言われる領海は実は領水を指しているとも言える。

「内水」

領水の一種。領海の基線(領海の始まる陸地側の線)よりも沿岸国側の海域・水域のこと。湾や港、河口のように海に接する場所の多くが当てはまる。内水の扱いは通常の領海よりも領土のそれに近く、外国船舶の「無害通行権」は原則認められない。また「旗国主義」も弱められ、外国船舶に対しても沿岸国の法律がかなりの程度および、裁判管轄権もかなりの領域で沿岸国が持つことになる。

「群島水域」

領水の一種。多数の島々からなる群島国家に関して、その最も外側の島々を群島基線で結んだ内側の水域のこと。当該国家の主権が及ぶ海域であり、外国船舶に無害通航権が認められるという点では領海に似るが、また当該国家が群島水域内を貫通するように設定した群島航路帯(設定されない場合は国際通航に通常使用される航路)では、通常の無害通行権よりも強力な群島航路帯通航権が軍用を含む全ての船舶・航空機に認められる点で異なる。なお、群島水域の内側の湾内などは内水とすることができ、群島国家の領海や大陸棚、排他的経済水域は群島基線から開始する。群島国家内の海域が全て領海や内水となると国際通航にかなりの不都合が生じるために設けられた仕組み。

「国際海峡」

領海の定義(幅12海里)に基づけば領海になるはずの海域であるが、その海域が領海となると公海や排他的経済水域を隔ててしまい、国際通航にかなりの不都合が生じるとして、外国船舶に通常の「無害通航権」よりも強力な通過通行権が付与される海域のこと。この海域の通航は軍用船舶・軍用機であったとしても沿岸国が拒否することはできず、通航の安全のために航路帯や分離通航を指定できるにとどまる。

「統合抑止」

国家の安全保障について、従来の「一国家の、軍事的圧力による安全保障」ではなく、「多数の国家による、軍事的・経済的・外交的圧力の総体による安全保障」を求める考え方のこと。軍事同盟以外の国際的な連携を安全保障政策の必須課題とすることに特徴がある。2021年に米国バイデン政権下で提示され、その安全保障政策を方向付けている。

「予備役」

古い言い方で在郷軍人とも。軍隊に所属しているが、普段は軍隊に勤務せずに民間人として生活し、定期的な訓練や有事(戦時)にのみ軍隊で勤務する者のこと。対義語は「現役」。戦時での戦争遂行に必要な人員の全てを平時においても軍隊で勤務させ、人件費を支払うことは無駄である上に財政負担が重いため、ほとんどの軍隊がこの仕組みを導入している。軍隊で勤務していた者が軍務を外れて予備役となることが多いが、最初から予備役として募集される仕組みもある。またこの言葉は平時は使用されず、戦時にのみ使用される兵器を指すこともある。

「予備自衛官」

日本の自衛隊における「予備役」つまり普段は民間人として生活し、有事の際に自衛隊に招集されて自衛官として勤務する者の総称。有事の際に最前線で勤務する即応予備自衛官、後方支援を担当する予備自衛官、予備自衛官になるための訓練段階である予備自衛官補の三種がある。任期は三年で再任用可、ある程度定期的に訓練を受ける。自衛官退官後の任用の他、一般からも募集されている。

「基地交付金/調整交付金」

在日米軍施設や自衛隊施設が所在する市町村に対して国から支払われる給付金を「基地交付金」。米軍の資産が所在する市町村に対して国から支払われる給付金を「調整交付金」という。自衛隊施設は国有地であるため固定資産税の対象とならず、また在日米軍施設・資産も固定資産税を免除されているが、それらが広大な面積を占有することによる財政的影響は看過できないとして、それらを補填する名目で支払われている。

政治思想・法思想関連語

「社会契約論」

国家を「人々による契約の産物」であると仮構することで国家の存在を正統化・正当化し、またそのことから国家のなすべきこと、国家が守るべき規範、人民の権利を導出する政治思想・政治理論の総称。「神」の概念を用いずに国家を説明づけることが最大の特徴。特に17世紀「啓蒙思想」の系譜に属するホッブズ、ロック、ルソーのものが著名であり、以後現代に至るまでの政治思想・政治理論、革命、そして憲法に極めて強い影響を与えている。

「自然状態」

人々に対して上位にある権力や権威の保持者(端的には、国家)が存在しない状態のこと。人々を統制し秩序をもたらす法律が存在せず、人々はただ生命として当然の自然権(権利・義務)のみを持ち、自分のみが自分の支配者である状態。17世紀に登場した「社会契約論」がその理論を組み立てる出発点としたことで著名。ただし、その自然状態が具体的にどのような状態であるかは、無限の闘争から純粋な自由と平和まで論者により大きく異なり、このことがそれぞれの社会契約論に様々な特徴を与えている。

「万人の万人に対する闘争」

17世紀の政治哲学者トマス・ホッブズが、自らの考える「自然状態」の姿を示すために用いた言葉。自然状態では人々を秩序付ける国家が存在しないため、人々は自らの「自然権」(=自己保存、生存の権利)を自らの手で守るほかない。その結果、全ての人々(万人)が自らの生存を賭けて、全ての人々(万人)と争いつづける極限状態に陥るというもの。ホッブズによれば、人々はこの極限状態から逃れるために、やがて自らの自然権を「ある人工物」に全て委ね、その人工物のもたらす秩序に従う「社会契約」を結ぶことになる。この人工物こそが「国家」である。

「愚行権」

他者の権利を侵害しない限りで、他者や社会規範から見て愚かで誤っている行為をする権利のこと。自由主義の「他者危害原理」(人は他者の自由を侵害しない限りにおいて自由に行為できるという原則)から導き出される。喫煙や飲酒、薬物の使用、自殺、売春、ポルノ作品の鑑賞などが例として上げられる。なお、ここでの愚行とはあくまでも他者や社会規範からの見方であり、本人にとっては必ずしも愚行ではない。愚行権を制限しようとする立場には「パターナリズム」や「モラリズム」がある。

「封建社会」

封建制によって秩序づけられている社会のこと。ただし、多くの場合は「身分制によって秩序づけられている社会」を広く指す言葉として用いられ、この場合は実際に封建制をとっているかどうかは問わない。また後者の意味で用いる場合は実際に身分制が存在するかどうかも問わず、「経済的・社会的格差が固定化しているがために、純粋な個人の能力や才覚による立身出世が見込めず、さらに経済的・社会的弱者は人間として尊重すらされない、事実上の身分制があると言っても差し支えない社会」程度の意味であることもかなり多い。

「ハインツのジレンマ」

人間の持つ道徳性の発達段階を測るための思考実験・例題。「ハインツという男がいる。彼の妻は致死性の病に冒されている。治療する薬は高額であり、購入することは不可能。そのため、ハインツはその薬を盗んで妻に飲ませた。ハインツの行動の是非について、理由をつけて答えよ」というもの。解答の仕方によって、解答者が6段階の発達段階のどこに位置するかを判定する。カント主義的な倫理観を前提としており、その点を批判する見解(「ケアの倫理」)もある。

「概念法学」

パンデクテン法学の別称ないし蔑称。19世紀半ば-後半のドイツで隆盛した、極めて体系的で矛盾のない、無欠缺な法を作り上げようとする法学の潮流。ローマ法の再整理・再構成を中心課題とし、時に恣意的となりうる解釈を排した機械的な論理的操作のみによってあらゆる法的紛争を処理できる法体系の構築を目指した。後にはそもそもこの理想自体にかなりの無理があり、そもそも法の欠缺を想定しないがために現実に生じる法の欠缺に対応できないとして批判されたものの、現在までにもたらした影響は大きい。

「純粋法学」

ハンス・ケルゼンの法学理論を呼ぶ言葉。「存在」と「当為」すなわち現実に存在する客観的事実と、それに人々が意味づけする価値判断を厳格に区別し、当為の領域に属する実定法をそれ以外の要素(道徳や政治や事実など)を排して論ずる「純粋な」法学を追求するもの。あらゆる法の妥当性を法のみから導出するための理論的装置として置いた「根本規範」の概念と、それに基づく「法段階論」
が有名。法実証主義の金字塔とされ、日本の法学にも多大な影響を与えた。

「法段階説」

あらゆる実定法体系は、究極的根拠たる「根本規範」に妥当性を与えられた法と、その法によって妥当性を与えられた法と、さらにその法によって妥当性を与えられた法と…という形で、だんだんと具体化されながらピラミッド状に構造化されているとする学説のこと。ハンス・ケルゼンがその「純粋法学」で唱えたことで著名であり、現在も多大な影響力を持つ。

「歴史法学(ドイツ)」

19世紀前半にドイツで隆盛した法学の潮流。法は民族それぞれが自民族の共通の確信によって生みだし、民族と共に発展してきた歴史性を持つ存在であるとして、法の歴史を明らかにしつつ現代に合わせて体系化することを目指した。法が理性により発見される普遍的なものであるという考え方(端的には自然法思想)を排し、また高度な体系化を志向したことから、後のドイツにおける「概念法学」および「法実証主義」の基盤となった。

「分析法学」

19世紀のイギリスで隆盛した法学の潮流の一つ。法学の対象を実定法のみに限定し、実定法に現れる諸概念や諸概念相互の関係の分析、そして実定法そのものの性質を探求するもの。イギリスにおける法実証主義を確立し、また以後この潮流は継承され続け、現代もイギリス法理学の主流となっている。実定法そのものの性質をも探求するが故に、実定法の持つ限界にも敏感であったことは一つの特徴。

「法命令説」

主権者命令説とも。法規範が他の社会的なルール・規範と区別された「法規範」であることの根拠を、それが「統治者=主権者による命令であるから」とする考え方のこと。主権者が憲法を制定し、その憲法に基づき法規範が定立されるという発想に基づく。この考え方は実定法が法規範であることをシンプルに説明できるとされ大きな影響力を持ったが、後に実は実際に通用している法規範の多くの態様や性質を説明できていないとして批判された。

「歴史法学(イギリス)」

19世紀にイギリスで隆盛した法学の潮流の一つ。法を真に理解するためには古代から現在にいたるまでの法の発展史を捉えることが必要とする立場。イギリスにおける法制史や比較法学の発展を促した。この歴史法学は、法は古代から段階的に発展することでしか成立しえないする法段階論を唱え、これは日本で明治期の民法典編纂が時期尚早として反対される背景ともなった。

反社会的勢力関連語

「反社会的勢力」

俗に反社と略。もっぱら常習的な非合法活動によって利益を得る組織・集団・人々を広く指す言葉。いわゆる犯罪組織とその構成員。日本では暴力団とその構成員・準構成員、暴力団関係企業、総会屋、半グレ集団といったものを指すことが多い。現在の日本では、企業等が反社会的勢力と契約を結んだり取引をすることは反社会的勢力への利益供与となるとして違法となっており、これに違反することは重大なコンプライアンス違反とされる。

「暴力団」

法的には「その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」として定義される組織で、いわゆるヤクザのこと。もっぱら暴力を手段として利益を得ることを生業とする反社会的勢力の一種。戦後の混乱期に登場し、1960年代に最盛期を迎えて社会問題化。その後ある程度排除されたものの、70年代には暴力団の再編と大規模化が生じ、その後は弱体化した一方で活動は巧妙化した。

「ヤクザ」

日本で発達した、ときの統治者による支配の及ばない領域で、もっぱら非合法な活動によって生計を立てる、強固な親分―子分関係により組織化された集団のこと。現代のものは暴力団とも呼ぶ。その歴史は室町時代後期のかぶき者にまで遡るともされ、その文化が江戸時代の旗本奴・町奴や火消し集団、博徒集団、明治時代には的屋集団に受け継がれ、その後被差別部落出身者や旧植民地人(中国人・朝鮮人)との対立・統合を経ながら時代とともに活動形態を変化させつつ、現在に至る。その役割はときの統治者の力の大小によって変化し、統治者の力が弱い時期にはいわゆる裏社会の治安維持組織として機能するが、ときの統治者の力が強くなると、治安悪化の原因としての側面が強くなる。

「暴力団対策法」

暴対法。「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」の略。暴力団(いわゆるヤクザ)による違法行為・不法行為を予防すべく、暴力団組織・構成員の活動を包括的に制限することを目的とする法律。暴力団の弱体化に大きく役立った一方で、その制限の度が過ぎており、却って暴力団構成員の社会復帰・更正を妨げているとも指摘される。

「指定暴力団」

暴力団のうち、「暴力団対策法」に定める要件「①暴力団がその暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成または事業の遂行のための資金かせぎを行いやすくしている団体であること。②その暴力団の幹部または所属全暴力団員のうちに、麻薬犯罪や傷害罪などの暴力団特有の犯罪の前科を有するものが一定の割合以上居ること。③その暴力団を代表する者またはその運営を支配する地位にある者の統制の下に階層的に構成されている団体であること」を満たし、都道府県公安委員会によって、より反社会性の強い団体として指定されたものを指す言葉。指定期限は3年。指定暴力団に対しては各公安委員会が各種命令によってその活動に介入し制限することが可能となり、またその構成員による犯罪についてはその構成員の属する指定暴力団の代表に対し使用者責任を問うことが可能となる。2024年現在、全国で25団体が指定されている。

「特定危険指定暴力団」

都道府県公安委員会によって特に危険性が高いとして指定された暴力団。構成員が凶器を使用して他者に危害を加える形で強要行為を行い、以後も同様の行為を行う可能性があると認められた「指定暴力団」が対象となる。指定期間は一年。特定危険指定暴力団はともに指定された警戒区域内の自団体事務所への立ち入り、5人以上での集合、他者との面会・電話・つきまとい行為を禁じられ、違反した場合には警告・命令などの措置なしに逮捕が可能となる。

「特定抗争指定暴力団」

指定暴力団のうち、他の指定暴力団との抗争状態にあり、その余波で他の市民に重大な危害を加える可能性があるとして、都道府県公安委員会によって特に指定されたもののこと。指定期間は三ヶ月。特定抗争指定暴力団は、ともに指定された警戒区域内の事務所への立ち入りや新設、対立暴力団との接触の試み、5人以上での集合といった行為が禁止され、違反した場合には即座に逮捕される。

「半グレ」

日本で主に1990年代頃から規模を拡大し、社会問題化した、「暴力団」に類似する非合法活動集団であるが暴力団に属していない集団・人々のこと。1980年代以降の暴力団対策によって暴力団が勢力を縮小する中、半ばそれに成り代わる形で活動範囲と規模を拡大したと言われる。また特に特殊詐欺(オレオレ詐欺等)を行う集団として有名。

「総会屋」

企業の株主としての立場を悪用して利益を得る集団や人々のこと。株主総会の議論を誘導するサクラもしくは脅迫者として企業から利益を得たり、企業乗っ取り・買収への協力によって社外の組織・人物から利益を得たりするもの。株主総会の空洞化を招き、企業経営の健全性を損ねる原因として忌み嫌われる。戦後の財閥解体によって個々の株主の発言力が大きくなるとともに登場し、ヤクザとも結託しながら1970年代まで隆盛したが、1981、97年の商法改正で大きく活動を制限された。

「マネーロンダリング」

資金洗浄。マネロンと略すことも。麻薬取引や粉飾、脱税、詐欺、窃盗その他違法行為で手に入れた金銭について、その出所や真の所有者がわからなくなるように様々な手段を講じ、違法行為の足がつかないようにすること。証券や物品に変えたり、複数の口座に送金してバラバラにしたり、合法的な商取引に混ぜ込んだりといったもの。汚れたお金を洗ってきれいにするという意味。

「コンプライアンス」

企業などの組織が、法令や社会規範を守ること。もしくはそれらを守る義務のこと。悪徳商法を行わない、会計上の不正を行わない、賄賂などを贈らない、顧客の個人情報を同意なく利用しない、労働者に過重な労働を強いない、セクハラやパワハラなどを行わない、反社会的勢力と取引しない、利害関係者への説明をおろそかにしないなど。企業の信用性に大きく関わる一要素。

政治(学)関連語②その他

「ゼロ打ち」

選挙の開票速報において、投票が締め切られて開票が始まると同時に当選確実が出ること。「開票率0%で打たれる当選確実」ということで、ゼロ打ちと呼ぶ。出口調査や投票所に積み上がる候補者別投票用紙の山の大きさなどで、明らかに特定の候補者が勝利すると見られた場合に発生する。

「世界観政党」

政党をその掲げる理念から分類したものの一つ。特定の世界観を前提とした明確かつ一貫性のある理念を掲げる政党のこと。ここでの世界観とは、世界のあらゆる事物に関する因果関係や役割をそれ単独で説明しようとする思想・理論・信念であり、またそこから人々に対して進むべき道を指し示しうるものを指し、政治的イデオロギーや宗教的理念、そして陰謀論が世界観としての機能を果たしうる。基本的には小規模なままにとどまるが、一度その世界観が社会に受け入れられれば、非常に広汎な支持者を獲得しうる。これまでの歴史の中では、社会主義政党やファシズム政党が有名。

「利益政党」

政党をその掲げる理念から分類したものの一つ。何かしらの特定の世界観や信念を持たず、ただ変化する現実の中でどうやって自らの支持者・支持団体に利益を分配するかに注力する政党のこと。良く言えば臨機応変、悪く言えば一貫性がなく場当たり的な行動・政策を掲げる傾向にあり、またしばしば特定の人々に対する利益誘導も行う。

「公共政策」

公共的な問題に関する政策のこと。すなわち社会で生じる、人々一般に悪影響を与え、なおかつ民間(個人や企業など)の自助努力や市場原理では解決できない問題を解決すべく行われる、公共部門(政府や国際機関)による諸施策のこと。交通や水道などインフラ整備、環境問題の対策、人口問題や食料問題の対策など。public policyの訳語だが、public policyという言葉は単に政策を指すのみならず、公共的に共有されるべき理念(=社会正義)という意味をも含みこんだ規範的な概念であることに注意。

「民主主義の赤字」

民主主義国家の政治について、その政治が民主主義を採用しているにも関わらず、実際には人民の意思が政治に反映されていないように見える状態のこと。政策の決定機関のメンバーが選挙を経ずに任命されている、選挙権のない国民がいるといった政治制度上明らかな場合もあれば、政治家が世論を無視しているという比較的曖昧なものまで含まれる。1980年代前後から欧州共同体・欧州連合(EU)の組織体制を批判する際に盛んに用いられた言葉。

「全権限性」

ある人物や機関の持つ権限について、その権限が「その人物や機関が明白に『持たない』とされる権限以外のあらゆることができる権限」であることを指す言葉。特に地方自治論で度々登場する概念であり、地方自治体の権限の性質としてヨーロッパ地方自治憲章に規定されていることで有名。

政教関係論関連語

「ガリカニスム」

国家教会主義とも。国際的な組織を持つ宗教に関して、その宗教が自国内で活動する際には組織を国外から分離し、当該国家の支配下に入らなければならないという宗教政策。またその延長として、宗教を完全に国家の支配下に置くために、国家が公認した宗教のみに活動を認めるという形態の政教教分離・政教関係を指すこともあり、一般に社会主義国はこの形態をとる。

「コンコルダート」

政教条約とも。国家と宗教団体の間で結ばれる条約・協定のこと。ある領域を統治する世俗権力と宗教権力の間の関係や役割分担について定めたもので、カトリック教会と西欧諸国が結んだものが有名。また「政教分離」の形式として用いられることもあり、コンコルダート型と呼ばれる。ドイツはその例。

基本用語とその他

「全体論」

ホーリズム。複雑な事物や事象について理解しようとする際の考え方の一つ。それら事物・事象の要素要素を理解して、それらを足し合わせるという手法では事物や事象全体を理解することにはならず、要素の組み合わさり方や関係の仕方によって全体の性質は異なったものになり、また個々の要素の性質もその組み合わさり方や関係の仕方によって異なったものとなるとする考え方のこと。対義語は「還元論」。

「還元論」

還元主義。リダクショニズム。複雑な事物や事象について理解しようとする際の考え方の一つ。それら事物・事象を要素要素に分解した上で、「個々の要素について個別に理解できれば、全体はその足し合わせによって理解できる」とする考え方や、「一部の要素への理解が達成されれば、それによって全体をも理解できる」とする考え方のこと。その考え方を「過度な単純化」として批判するニュアンスで用いることも多い。対義語は「全体論」。

「労働」

働くこと。人間の行為のうち、それが何らかの商品やサービス、または価値や利益を新たに生み出すことで、社会の維持発展に役立つと見なされたものの総称。これまで様々な分野で様々な理論家によって概念化され、意味づけられてきた概念であるため、一概にその性質を言い表すことは難しい。

「ステークホルダー」

利害関係者のこと。ただし、ステークホルダーといった場合には、一般に「利害関係者」という言葉でイメージされるような金銭的利益についての利害関係者や、直接的な取引関係にあるという意味での利害関係者のみならず、ある人物や企業の活動によって何かしらの影響を受けうる全ての人々を指すかなり広い意味を持つ。

「ゴドウィンの法則」

詭弁・誤謬の一種ではない。議論が一定程度長引くと、誰かがヒトラーやナチスを引き合いに出し始めるという法則。インターネットミームの一つ、もしくは皮肉・ジョークの一つであり、特に実証的に証明されている法則というわけではない。ウィキメディア財団(Wikipediaの運営組織)の法律顧問であるマイク・ゴドウィンが提唱したもの。

「コモンウェルス」

公共善を追求するための政治的共同体で、いわゆる共和国とほぼ同義で使われる。しかし現在、コモンウェルスとカタカナで書く場合、旧イギリス植民地国からなる連合体(イギリス連邦)を指すことが多く、例えばコモンウェルス諸国と言った場合は、イギリス連邦加盟国のことを言う。

「イギリス連邦」

英連邦、コモンウェルス。イギリスと、旧イギリス植民地国からなる緩やかな連合体。その歴史は1926年に遡る。現在の枠組みは、1949年に、植民地の独立を認めつつイギリスの影響力を確保する目的で形成されたもの。加盟国は互いに特に法的義務を負うわけではなく、民主主義・人権・法の支配といった価値観を共有しつつ連携するための枠組みとなっている。現在、旧イギリス植民地国の大半である55カ国が加盟。

「選挙君主制」

君主制ではあるものの、その君主の地位が世襲によって継承されるのではなく、選挙による選出によって与えられるものを指す言葉。選挙権を持つものは貴族であったり、国民であったりと様々。名目上は選挙を行っているものの事実上は世襲されている場合や、君主とされていないが事実上は君主に近いものなど、この言葉の使われ方は曖昧。

「マイナンバー」

日本の「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に規定され、日本在住者全員に付与された「個人番号」の通称。2016年に運用開始。社会保障・納税・災害対策に要する個人情報の管理と利用を効率化すべく、これまで様々な番号に紐付けられていた個人情報を一つの番号に一本化するもの。個人情報漏洩や、政府による個人情報把握の易化が懸念されている。

「ボルダルール」

ボルダ得点式とも。投票によって意思決定を行う際の集計方法の一つ。投票者各自が複数(n人)の候補に優先順位を付けて投票し、集計の際には優先順位一位にn点。二位はn-1点、三位はn-2点・・・という形で点数を付け、合計点数の最も高い候補を勝者とするもの。投票者全体にとって最も受け入れやすい、言い換えれば最も嫌われていない候補が勝利しやすいという特徴を持つ。

「白豪主義」

オーストラリアを白人国家として形成しようとする考え方・政策の総称。広義には、オーストラリアにおける白人優位政策・人種差別全般を指す言葉であり、狭義には、1901-73年のオーストラリアで行われたアジア系移民排除政策を指す。植民地主義と労働問題解決策の複合体として成立したもの。現在のオーストラリアは公的には白豪主義を放棄し、多文化主義を国是としている。

「ヴィーガン」

人間が動物を利用(搾取)することを否定し、それを最小限に抑えるべきとする人々の総称。この考え方をヴィーガニズムという。また動物性の食品を摂取することを忌避する人々のことを広く指すことも多い。前者は主に動物の権利や功利主義といった倫理的な理由によるが、後者の場合は環境問題や資源問題、貧困問題、健康など多種多様な理由を持つ。

「レファレンダム」

法律や政策などに関する意思決定を、通常その権限を持つ執政府や議会ではなく、国民や住民による投票に委ねる仕組みのこと。直接民主制の一つ。国民投票と住民投票を指す言葉であるが、その投票結果があくまで参考として扱われ、実際の意思決定を行うのが国民や住民ではないものは通常含まない。

「プレビシット」

元々は「レファレンダム」(国民投票・住民投票)と同義。ただし現在のこの言葉にはかなりのネガティヴなニュアンスがあり、一方的な領土併合やクーデターといった本来であれば正統化されないはずの行為を正当化するべく、国民・住民の支持を受けているいう根拠付けのために用いる半ば脱法的なレファレンダムを指すことが多い。

「限定列挙/例示列挙」

法律や契約書などで、なんらかの規定の適用対象として具体的な事柄や事物名が列挙されているとき、その列挙されている事柄のみが対象となるものを「限定列挙」。列挙されている事柄はあくまで例に過ぎず、列挙されているもの以外も対象となるものを「例示列挙」という。例えば「犯罪行為を禁止する。例えば殺人・窃盗…」は例示列挙。

「行為要件/効果要件」

法令が何かしらの行為について定める際に行う、当該行為の二種類の定義付け。ある行為を行うことそのものを定義とするのが「行為要件」。その行為の結果として生じる効果によって定義するのが「効果要件」。両方を用いて定義することもある。例えば「銃殺」をこの両方を用いて定義づけるならば、「銃で人を撃つこと」が行為要件。「その結果撃たれた人が死ぬこと」が効果要件となり、両方を満たさなければ「銃殺」にはあてはまらない。

「宣戦布告」

条約上は「開戦宣言」。ある国家が、他の国家に対して戦争を行う意思を表明すること。1907年の「開戦に関する条約」にて、国家間戦争を行う際には事前に理由付きの宣戦布告を行うか、相手国が要求を飲まなければ宣戦布告するという旨の最後通帳を行わなければならないと規定されている。しかし、現代ではそもそも他国に対して戦争をしかけること自体が禁止されているために、明らかに国家間戦争であっても戦争ではないという建前をとっていたり、そもそも対テロ戦争のように相手が国家ではない戦争が常態化していることから、宣戦布告をしてから戦争をすることはほぼありえなくなっている。

「企業献金」

団体献金とも。個人ではなく、何らかの企業や団体が政治家・政治団体に対して行う「政治献金」のこと。現在の日本では、政治家個人に対する企業献金は、直接か政治家個人の資金管理団体を解するかを問わず禁止されており、許されるのは政党や政党が指定する政治資金団体に年間750-1億円までに限られる。ただし、政党の支部に企業献金を行うことは可能であり、また政党から政治家個人の資金管理団体に資金を移動することも可能であるため、事実上の政治家個人に対する企業献金は可能であるともいえる。

「刑罰の逆機能性」

元々は犯罪の予防・抑制を目的とする重罰化や重い刑罰の執行が、かえって犯罪を増加させてしまう現象やその懸念のこと。死刑の執行や重罰化が、人々の残虐性を刺激することによる規範意識の減退や、特に若年者における仕返しを是とする意識の強化に繋がる懸念や、また因果関係としては遠くなるが、重罰化によって司法の経費や刑務所経費が増大して社会保障費や教育予算を圧迫し、その結果として治安が悪化することへの懸念などの総称。

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