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1番売れている商品をやめてまで千葉県産にこだわりますか?Vol.37
2年以上のニューヨーク滞在から帰国した3年前。
帰国後、自分は浦島太郎状態。お笑いをみても
35億っていうギャグが何で面白いかがわからなかった。理由なんてないんだろうが 2年のブランクは想像以上だった。コンビニのお弁当を食べてもパンを食べても、食感が3年前とは全然違う。たった2年なのに過去がわからなくなると商品開発1つ、できなくなる。人の感性や行動、常識も何となく微妙に違和感があった。
怖くなった自分は雑誌をよみあさり、市場視察に時間を費やした。そしてこんな商品をつくろうとかこんな企画はどうだろうか?とアイデアがでてきた。ところがそのアイデアはすでに世の中で既出。スーパーにもコンビニにも並んでる普通のアイデアばかりだった。
そして気づいた。ありきたりの市場視察をしていたり、雑誌の評論をみているだけだと普通のアイデアしか出ない。
そしてその時に出てきた当たり前すぎるアイデア。
千葉県産ピーナツでつくるクッキー。
当時、大ヒットしていた「豆絞り」「豆らっか」という名のピーナツクッキー。豆は中国産。これを千葉県産のピーナツでつくるという単純なアイデアだった。
値段が3倍になる。
量が半分になる。
そして千葉県産のピーナツクッキーがでることによって中国産だということが強調され「豆絞り」と「豆らっか」が売れなくなる。
この2つの商品は大ヒットで億越えだった。
1番売れている商品をやめてまで
千葉県産にこだわりますか?
チャレンジする理由があるのか?
ないよ。
まったくない。
そこまでして千葉県産にこだわるなんて
経営としてありえないし、理想論者でしかない。
こだわってまったく売れない店や商品なんて
山ほどみてきた。
千葉県産にこだわった方がカッコいいなんて
誰だってわかる。でも いざ目の前に突きつけられると
そんな判断をできる崇高な人なんてなかなかいない。
正直、やりたくなかったから売らなくて良い理由を探していた。
そうこうしているうちに
千葉県産のピーナツでつくったピーナツクッキーの試作が出来上がってきた。
食べたときのことを鮮明に覚えてる。
「こんなに違うの?」
「加工したら国産も中国産も変わらないんじゃないの?千葉県産ってそんなすごい・・・・」
気づいたら20枚食べていた。
少しずつ覚悟が決まっていく。
豆の大きさがバラバラだから製造ラインにのせるのは難しいと工場長が言った。
でもこの工場長はやると言ったらやる人だ。
10年前のことだ。
ピーナツはアレルギー食品だから工場でピーナツを扱うと、全ての商品の裏面に「ピーナツを扱っている」ことを明記しなければいけない。ピーナツを使っていない商品全てに記載だ。扱うだけでも難しいピーナツを10年前にこころよく受け入れ、工場のラインの組み替えを行い、設備をつくりかえてまでピーナツの商品を工場でつくることを決断してくれた工場長だ。だから、工場長は全ての課題をクリアして自分のところに 「いつでもOKだよ」と持ってくると確信していた。
工場長は
「中国産が売れなくなる? でも千葉県産にすればもっと売ってくれるんでしょ? 止めたってやるんでしょ?信じてついていくだけですよ」と言った。
笑いは一切なかった。
そう言われて
最後の覚悟が決まった。
そこからは24時間1440分86400秒、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと
この商品のことを考えることになる。
しまいには毎晩、夢にまで出てきた。
そして夢に出てきたキャラクターを描いた。
そしてそのキャラクターに名前をつけた。
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「ピーナツキング」ラフデザインが固まった
ブランディングを全部、無視して夢に頼った。
そして行き着いた。
白い恋人も
赤福も
東京ばな奈も商品力だけじゃない。
売る人や企画力や店力の総合力だ。
みんなを信じよう。
スタッフの声を一切遮断して
意見を一切受け付けない空気をだして
挑んだ。
そこからは早かった。
製造上の課題を工場が全部クリアし、
あっという間にデザインは描きあげられ、
箱やサイズが決まる。YouTubeでの販促、売場づくり、グランプリへの申し込み、花火大会のスポンサー、ピーナツキングの歌までできる笑、新聞のテレビ欄もジャックしていく。房の駅としての総力戦になった。
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結果は大ヒットだった。
経営者としての わがままを貫いた商品というか
工場を含めた仲間たちに
勇気をもらって
わがままを貫かされた商品だった。
だからまだまだ発展途上の商品だけど
この商品はやますにとって特別な商品になった。
この商品が後に戦略本部をチームにまとめあげていくきっかけになっていくし、やますの商品開発を劇的に変えていく原点であり最川上だ。
まだまだ外国産や中国産に頼らなければいけないものもいっぱいある。千葉県産というこだわりを貫けないときもある。 今日、明日でできる話ではないし理想論だけでは語れないこともいっぱいある。でも10年かかろうが20年かかろうがやると言ったらやるよね。千葉が好きだから。
『諏訪聖二流、商品開発』
Vol.31-Vol.40(全10話)