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どんぐりは宝物
「大切なものは目に見えない」
この印象深いフレーズに触れると、王子様の世界に没入する自分がいることに気付く。
墜落した砂漠で出会った王子様は、純粋な視点から一風変わった「おとなたち」をみた経験を語ることで、読者へ疑問を投げかける。彼は、誰だったのだろうか。「ぼく」と別れた「王子様」は、何処へ帰っていったのだろうか。
滑稽に描かれる其々の星の「おとなたち」も、振り返ると身近に存在することに気付く。或いは自分自身が、彼らのうちの誰かであるのかもしれない。大切なものを見失ったのは、いつからだろう。2歳になる息子と散歩をしていると、たとえば道端の石をひどく大切そうに拾って喜んでいるのだ。彼にとってどんぐりは宝物で、枯れた木の皮はマンモスの牙に成る。息子はそれを大事に大事に抱えて家に帰り、妻に「どうぞ」とプレゼントする。金銭的価値とは全く次元の違う価値が、そこに生まれていることに気付く。幸せは、存外身近にあるものらしい。
金銭的価値といったが、本書にも「大人は数字が好きだ」というフレーズがある。
『新しい友だちができたよ言っても、大人は大事なことは何も聞かない。「どんな声の子?」とか「どんな遊びが好き?」とか「チョウチョを収集する子?」などとは聞かない。聞くのは「その子はいくつ?」とか、「兄弟は何人?」とか、「体重は?」とか、「お父さんの収入は?」などということばかりだ。こういう数字を知っただけで、大人はその子のことをすっかり知ったつもりになる。(本文より引用)』
「数字にすると順位が生まれる」とは、私の高校時代の恩師の言葉だが、科学的な分析に必須である数字は、同時に本質を遠ざけて大切な何かを忘れていく危険性を孕んでいるようだ。相対的な評価が重要なのではない。自分が美しいと思ったものは美しく、一番は一番なのだということを忘れてはならない。
読者にとってこの本は、王子様にとってのキツネなのかもしれない。読み進めるうちに「仲良く」なって、「秘密」を教わって読み終わる。
「ぼく」の分身にもみえる「王子様」の星は、私たちの心の中にこそ輝き、笑っているのだろう。
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