天国の門 9. 林檎の葉 《小説》
9 . 林檎の葉
胸から大量の血を流し倒れている
美紀をジョーは強く抱きしめて
美紀!美紀!…そう叫んだ
政はジョーと美紀の前に立ち
美紀? この子は美紀って言うのか?
そう言って美紀に触れようとした
薄汚い手で触るな!
そう叫んんでジョーは政の
胸ぐらを掴み
顔を殴った
倒れ込んだ政の胸元に馬乗りになり
何度も何度も政の顔を殴った
政の口の中は切れ赤い血液が流れ出した
しかし政は無抵抗のままジョーに
殴られ続けていた
政はジョーの腕を掴み
その子の顔を見せてくれ 頼む
その子の顔を…
ジョーはその様子を不思議に思い
殴るのをやめた
政はゆっくりと美紀を抱き寄せ顔を見た
そして右手の甲にある小さなハート形の
アザを愛おしそうに親指で撫でた後
美紀…そう小さく囁いて涙を流した
ジョーは
政 お前美紀の事を知ってるのか?
政は静かに
美紀は俺の娘だ そう答えた
政は愛する娘を疫病で亡くした
ずっとそう思っていた
しかし娘の美紀は生きていた
亡骸も確認出来ない殆ど沢山の人々が
疫病で命を落とした
美紀は誤って診断され
感染者として一旦は病院に隔離されたが
誤審であるとわかり
病院を放り出された
帰る道もわからない
美紀は街を彷徨いベース近くで
ポールに出会った
そして美紀はジョー達
Heaven’s gate の仲間になった
政は毎晩独りで夢を見ていた
家族の写真を見ながら
愛する妻と娘の事を想い
もう一度戻りたい
皆んな一緒だったあの時へ
あの時間へ あの生活へ
そう想い涙に暮れていた
美紀…美紀…
政は 殺してくれ
俺を殺してくれ
俺は愛する娘を殺してしまった
俺を殺してくれ
もう 沢山だ
もう 誰も殺したくなんか無いんだ
お願いだ 俺を殺してくれ
そうジョーに告げた
茫然と立ち尽くすジョーを見て
政はこめかみに自分で銃を当てた
ジョーは政の銃を奪い取り奴の両足の
太ももを撃ち抜いた
ジョーは政を殺す事が出来なかった
俺は…俺達はいったい何の為に
殺し合ってるんだ
殺し合いの先にあるものは何なんだ
教えてくれ
ジョーも政も望む未来は一緒なんじゃないか
そんな思いが頭を身体中を巡り
政を殺せなかった
BLOODY HELLの悪魔の様なリーダー政が
ジョーに無抵抗で平伏す様を見た
政の仲間達は銃を置きぐったりと
地面にしゃがみ込んだ
それはリーダー政の暴力、武力、恐怖
による統制組織が消えた事を意味していた
政は美紀を抱きしめて
泣いていた
ずっと ずっと泣き続けていた
強い風が吹き付け
美紀の植えた林檎の木の葉が揺れていた
Photo : Free Pic
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