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太陽の前に座る猫 《詩》

「太陽の前に座る猫」

ファンタジーと自分の中にある
世界だけで全ては完結していた

社会に対するコミットメント感は
必要とされていない

男性の欲望の化身 

そんな女性に出逢ったのは

初めての事だった

欲情 そんな言葉のアイコン 

僕は新しい声を聴いた


其れは今まで 
いかに傷付いて来たのか 

どれだけ苦しんで来たのか

そんな事柄自体を美徳とした

これまでの賞賛とは
別の場所から聴こえる声だった

彼女の其の声は現社会では正当に
評価される枠を逸脱したものであり

彼女自身の欲望と幻想がだらだらと
露呈し続けている

そんな声を持つ女性だった 

魅力的だった

迷いも無く僕は彼女を欲していた

乾いた都市小説の
主人公を見ている様に思えた

僕等は出逢った日にSEXの話をした 

そう話をしただけだ

其れは締め切りや期限の無い

曖昧な約束に似た感覚と
決して手放してはいけない 

そんな不思議な感情を抱いた

べったりとした執着では無い

心地よい孤独を連れた風の様だった

生温かいリアルな温度と
動物的な臭いを含んでいる

社会不適合者の女神に溺れる


彼女の中に僕が居る 

そして僕の中に彼女が存在している

その夜 僕は
彼女の身体を想像して自慰をした

ゆっくりと時間をかけて

味わう様に前戯を行う

彼女の身体中に指先で唇で触れる

そして僕自身を深く彼女の中に沈めた

脈打つ粘膜と熱 

絡みつく様な湿度が其処にある

君は簡単な事柄をあえて複雑にし
謎を作り出し魅せて行く

其れは君の特性であり 

君が君である証だと言う事を
僕は知っている

彼女もまた僕を想い自慰をしたと 
そう話してくれた

独りぼっちの野良猫が
太陽を見ている

僕は其の猫に触れかけてやめた

手放せなくなる事がわかっていたからだ


精神的な領域で僕は彼女を犯し

何度も彼女の中に射精する

決して触れる事は無く

彼女の快楽に歪んだ
声だけを聴きながら逝き果てる

猫は太陽の前に座っている

街は黄金色に染まって行く

僕は其れを見ていた 

随分と長い間 其の景色を見ていた

猫はまだ其処にいる 

やがて陽は暮れる


僕はベッドの上に横たわり 

息を止め目を閉じ
自分が死んで行くところを想像する

その時 電話のベルが鳴った

太陽と共に猫は去り 

ただ 電話のベルだけが鳴っている

此の不確かで不完全な世界に
官能的でかつ暴力的にベルが鳴る

女の声でベルが鳴る

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