anarchism -クラクション - 《小説》
「anarchism」 - クラクション -
夕暮れの気配が漂う
僕は道路脇の
鉄のフェンスにもたれかかっていた
ポケットから
煙草を取り出して火を付けた
KOOL
玲子さんの吸っていた銘柄の煙草だ
この場所から彼女の家が見える
明かりは付いていない
当然だ
もう玲子さんは此処には居ない
僕は眼を瞑り
彼女の部屋の中を想像した
窓辺に飾ってあった小さな花
淡いブルーのカーテンの色
ベッドの傍の棚には
何冊かの村上春樹の小説
空の写真集とファッション雑誌
道路をクラクションを
鳴らして走り去る車を見た
その車は何処かで
見た事のある軽自動車だった
ミラだミラターボXXだった
僕は煙草を投げ捨て
夢中でその車の後を
追いかけていた
息を切らし走った
ミラは道の左側にある
コンビニの駐車場に停まった
とにかく
ミラに乗っている人に会い
話をしたかった
もちろん玲子さんの事だ
運転していたのは
玲子さんと同じ歳くらいの
女性だったその人は
コンビニで買い物をしていた
僕は車にその女性が
戻って来るのを待っていた