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無色の遺書 《詩》

「無色の遺書」

僕等の街には
太陽の光が惜しげも無く降り注ぎ

緑の丘の斜面には朝霧がたなびく

透けて見える様な薄い雲が

空には幾つか浮かんでいた


人生の指導者と呼ばれる人が

よくとおる声でしっかりとした
語尾で何かを話している

僕はぼんやりと芝生に降る

紫外線の筋を見ていた

人々は自分をすり減らす術を集団で

探求し指導者の言葉に相槌を打つ


彼等は皆 無口だった 

きっと自分の言葉を持っていないんだろう

無駄の無い一種の不動のパターンが
反復されている

視線は一点に集中しひとつの軌道を
正確に機械的に描き続ける

迷いから生まれた誤差は迅速に修正され

動きの乱れは最小限に止められる


悪くない朝だ ろくでもない朝だ 
どうでも良い朝だ

僕は昨夜脱ぎ捨てた鎧を纏い

街に出かける 

場違いな資質は必要とされていない

そして僕は無色の姿かたちに変貌する

おはようございます 

そう話しかけた僕に

返事をしてくれる人は誰もいなかった

やはり 其の人達も無色だった

長い夢を見続ける力が
長い苦悩を連れて来る

その日の日記に

そう一行だけ書き残した

駅前のスピーカーから誰かの声が
聞こえる

めでたし めでたし…と

その声もまた無色だった

僕は同じ景色に何度も何度も蹴躓く

警笛を鳴らして
急行電車が走り抜ける

たかが 人の形をした程度の分際が 

自分の言葉すら持たないお前等が

偉そうに俺の言葉でいったい何を
語る ふざけるな

僕の本当の言葉は電車の音に掻き消され

後には線路と車輪の鉄を擦り付ける
音だけがいつまでも響き残っていた

そして僕は宇宙から外れて行った

恋人からの手紙は無限の愛に溢れている

そう恋文だ 
僕は恋人の書いた愛の言葉を指先でなどる

其の手紙の最後には無色のインクで

遺書と書かれていた

愛している そう言って消えた 

あの娘の事を思い出した

そして恋人も宇宙から外れて行った

僕と恋人は無色の世界に
僕等だけの色を探している

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