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鎮魂夏 琥珀の波 《詩》
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「鎮魂夏 琥珀の波」
君の好きだった曲を
オルゴールが奏でている
目の前には
くっきりとした水平線が見える
街のあちこちにはペラペラの
プラスチック板に描かれた幻想がある
其れは一過性の借り物であり
都市の虚構性として
意識に刷り込まれる
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僕は今までに望まなく手にした
負のカードを並べる
其れらを見せる事により
世界に対しての
戦意が無い事を示して
自分の世界だけは平穏に保とうとしていた
其の哀れな術策により
なんとか心の均等を維持し続けている
其れでも其処から
逃げ切れなくなった僕は
宿命的に詩を書き残す
何処までが海で何処までが空なのか
見極める為には
海に行き水平線を
見続けなくてはならない
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何処かで拾って来たドンガラに
中身を入れ替えただけの確信犯が
賞賛されている
美質と文徳
合い対する唐突な断絶感
説明文を意図的に排除した文脈に
見えない水平線が隠されている
俗世の汚れに染まらぬ強固な城が
孤立と絶望を呼ぶ
はっきりと意識の中に
水平線が見えた時
僕は君のオルゴールを
深い海に沈めた
そして あの年の夏は終わった
鎮魂夏
琥珀の波
君が居た海
脱いだサンダル
裸足で砂浜を歩いた夏
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