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奇跡の羽 《詩》

「奇跡の羽」

僕は意識の中にある
無明の深みに降りていく

其処には檻の中に閉じ込められ

其処から抜け出ようとしている
自由な魂の羽ばたきが聴こえる

鋭い革新性や力強い文体も無い

親密で独特な語り口で
其の羽ばたく音が聴こえる

まるで文章の余白にある
語られざる語りの様に


いつでも無い時代の
何処でも無い場所へと僕を誘う

其れは若き日の僕が
恋人と抱き合って 
美しい宵の時を過ごしていた

そんな暖かくて懐かしさを
感じさせる場所だ

ねぇ 
人生の長さに耐えられない様に
導かれている人っていると思う?

君は僕にそう訊いたね

僕は何も答える事が出来なかった

彼女の直ぐ後ろに死は迫っていて

首筋に冷たい息を吹きかけている
事を知っていたからだ

君の持つ生身の刃物の様な
ギリギリの感覚と

其の裏側にある架空の楽園の情景

奇跡の羽を持った天使である事を
望んだ

そして僕はひたすら奇跡を
願い続けた


四季は今でも此処にある

彼女には感じ取れなくなって
しまっただけだ

其処にはひとつの短い物語があった

記憶とは ある特別な場合には
空気の様な意識の中に
静かな揺れとなり残り続ける

確かに僕等は人生の何処かで
巡り合った


耳を澄ませると聴こえて来る
君の羽ばたこうとする音が

今でも ずっと

僕の心の中でいつまでも
色褪せる事なく

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