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トルストイと犬 《詩》

「トルストイと犬」

戦争と平和とか
アンナ•カレーニナとか

随分前に読んだ気がする 

どんな内容だったのかは
もう 覚えてないけど 


歳下の女の子 

18歳くらいの少女が
トルストイを連れて来た

流れ進むのは我々であって
時では無い

ねぇ 声が聴こえるでしょう

合唱隊がふたりに祝福を与える様に
歌声を響かせている

ねぇ 聴こえるでしょう


本当の物語は此処にあるの

私の部屋のリビングルームに

契約書なんて無いわよ 

そう言って微笑んだ

何処か寂しそうな笑顔に見えた

友達とか恋人とか そんなものに
契約は無いよ

僕はそう答えた 


友達…恋人…

小さな声で少女は繰り返した

私の事を書いてよ 

貴方がトルストイじゃ無くても
書けるでしょう

少女は僕にそう言った 

今度は本当に笑っていた

そう言う風に僕には見えた

少女は其の日のうちに 

誰にも気付かれない様に
犬を処分した 

其れが唯一の解決策だった

雑種犬だよ 父親もわからない

ただの雑種犬 


ひとつの嘘が別の嘘で
塗り固められて行く

僕等は中庭に出て

コーラを飲みながら

サンドイッチと
ポテトチップスを食べた

犬なんて何処にも居ないのに

わかっていたよ

小さな瓶に入った沢山の錠剤

少女は今でも其の薬を
持ち歩いているのだろうか


幸福を不可能にするものとは

内面的な考察が入り乱れる

動物的自我に理性は無い

自らの心に神を宿す教えの光と愛

僕等はそれぞれの道を流れ進む

其処に時があるだけだ


しっかり抱いてくれないと 
私、どうにかなっちゃいそうだわ

過去に別れを告げた夜に 

少女はそう言っていた

僕は額に口づけし そして鼻先に 
唇に口づけをした

涙が頬を伝って落ちたのを見た

少女の物語は今でも 

僕の心の中に生き続けている

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