宿命の恋 《短編小説》
「宿命の恋」
理不尽なばかりの発熱
世界を熱く愛する心と
全てを鋭く切り裂く心が交差する
僕等の意識は新しい細胞を獲得し
新たな地平線が出現する
実にあっけなく解体された過去
古い衣服を脱ぎ捨て
僕等の肌は新しい色を獲得する
失われてしまった
たった一度の宿命の恋の様に
残された肉体に食い込まれる
鋭利で垂直的な言葉の羅列が
僕の心を引き裂く
ほとんど意味や有効性を
持たない言葉だ
足元深くにある見えない
深淵の中に密やかに存在する芯は
今でも僕の中で生き続けている
明瞭で動く事の無い真実 想い
意識の中にしか宇宙は存在しない
時系列を狂わせてしまう程の
痺れと悪の果実の放つ香り
暗黒への落下を意味する死の具現化
其の濃密な毒が強烈な
歪みを生み僕を捕えて離さない
時間の流砂に呑み込まれ消えたもの
ひとつひとつの喪失の記憶が蘇る
人畜有害な鋭いナイフが
靄を切り裂き
新鮮な空気を送り込む
他の誰にも真似出来ない
狂乱性が魂の奥底から湧き出し
理不尽な自己矛盾と混沌とが
溶け合う事無く
奇妙な同居を続けている
其処にあるのは深い鼓動と
祈りに似た想いだけだ
都会の一角での冷ややかな孤独
不揃いな背丈で立ち上がり
静かに僕の前を横切る
予期せぬ場所で他の誰にも
出来ない様な特別なやり方で
僕の心を打ち続け優しく抱き締める
様に赦してくれる
全てが善であり結論
完結を導くのであれば
満たされざる心の陰の行き場所は
何処にある
白い三日月の様な怜悧な音階
自分の中で何かが変わり
もう二度と元の自分には
戻れないと感じる一瞬
僕等の航跡には文字が漂い
傷ついた魂だけが知る場所へと誘う
色々な孤独の形を
ひたすら集めている君に出逢った
僕等はどこにも無い世界の空気を
今 此処にあるものとして
吸い込み呼吸をしている
夢を見るとは
そう言う事なんだと思う
自由な魂の飛翔を求めた
例え其れが夢であったとしても
そして僕はまた 恋におちていく
最後に簡単に話をまとめよう
ある時代…ある時期…
小説や詩は世界で一番格好良くて
素敵なものだった
直感的で大胆な造形力
骨身にこたえるくらいの揺さぶり
其処に漂う陰影を含んだ内省
全てを突き動かす力を持っていた
そう 宿命の恋の様に
Photo : Seiji Arita